魔族の宣戦布告
仮面の少女が当主である朝比奈海斗に『天使の魔力』である心臓を投げ渡した。だが、その時を待っていたかのように何かが2人の間に割って入ってきた。それは白い縄のようなものでそのまま心臓にぐるっと巻き付きそして縄を放ってであろう人物の元へと向かうのだった。そうして2人の目の前に誰かが現れた。その人物を見て朝比奈海斗は
「お、お前は、一条家の。何故、ここにいる…。だが、まぁいい。それを私に渡すのだ」
だが、その人物は当主の元へ向かおうとはしない。それどころか、
「…………ぷっ、ははははははは!!!!! まさかと思うがこの状況でまだ俺を一条裕也として見ているのか? まったくおめでたい奴だ! やはり人間は思っていたよりも愚かで何とも浅はかだな!」
その誰かである一条裕也は朝比奈海斗を見るや否高笑いするのだった。
「……何を言っている?」
「まだ気付かないのか? お前の知る一条裕也はなぁ……」
そう言うと全身が黒い光に包まれ、そして光が消えて朝比奈海斗の目の前には
「お前たちの敵である魔族なんだよぉ!」
肌の色は褐色の色、頭部からは魔族の象徴である角が、爪は鋭く伸びており、口からは鋭い牙のようなものが生えていた。その姿はまさしく人類の天敵であるエネミーと同等の脅威である魔族がいたのだった。
「まぁ、そういうわけだからこの『天使の魔力』は俺たち魔族がもらっていくぜ」
そうして魔族である裕也は背後に黒い渦のようなものを展開し、その中へ入ろうとしていた。
「ッ!! 彰人! 奴を殺してでも止めろ!!」
「はい、お父様」
本来なら自身があの魔族を止めなければならない。だが、持っている魔武器は破損しており魔武器の持つ本来の力を出すことが出来ない。いうなればただの鉄を振り回すのと同じである。これでは魔族どころか下級のエネミーでも相手にできない。ならばと破損していない魔武器を持つ息子の彰人にとっさに命じることしか出来なかった。そうして彰人はすぐさま魔武器を抜き取りそのまま和也めがけて一直線にかけてそのまま振り下ろした。それも殺すつもりで頭部めがけて真っ二つにするつもりだったのだろう。だが、
「どうやらこの状況では俺の方が上のようだな」
振り下ろされた魔武器は裕也は容易く片手で受け止めるのだった。
「舐めるな、人に扮した魔族め。この俺が父上に代わって貴様を始末する」
受け止められてもなお力を、残っている魔力を魔武器に注ぎ続ける。それでも
「そんな状態で俺に傷1つ付けられるわけ、ねぇよ!!」
受け止めている片手から無詠唱による炎が放たれた。その炎は彰人の目の前で放たれたため気付いて回避するまでは当然間に合わなかった。そのまま彰人は吹き飛ばされ全身が重症の火傷に犯され動くこともしゃべることすらも出来なかった。
「あ、彰人ぉ!!!」
海斗は倒れている息子の方へと急いで駆け寄るのだった。駆け寄っていく海斗を見ながら「学生最強って言われてたみたいだけど大したことないな」と呟くのだった。そこへ更に
「シン、例のものは手に入ったかい?」
「ミザリー様。はい。こちらが例のものである『天使の魔力』です」
どこからともなく蛇族であるミザリーが現れたのだった。そして信徒呼ばれた和也は持っていた『天使の魔力』である心臓を渡したのだった。
「あぁ、この溢れるような力はまさしく我ら魔族が求めていた『天使の魔力』で間違いない! これで我らの悲願は達せられる!!」
そしてミザリーはそのまま裕也が展開していた黒い渦の中へ入っていくのだった。そうして和也も入ろうとしたところで僅かに顔を動かし誰かを見るような動きをしミザリーに続いて黒い渦の中へと入っていくのだった……。
そうして競技場に静寂が訪れるのだった……。
2人の魔族がこの場から立ち去って数分後、この競技場の外に多くの救急車が到着し重傷を負った術者たちが運ばれていくのだった。運ばれていく術者の中には片手片足を失った者や、大量の出血を出して応急処置で輸血をつないだ状態で運ばれていったり、そして全身火傷を覆った朝比奈彰人も例外なく運ばれていくのだった……。対して軽傷で済んだ術者たちは先ほどの光景が忘れられないのか未だに恐怖で体を震わせていた。「…もう、終わりだ」「あんな化け物相手に俺たちじゃ勝てるわけがない……」「これからどうすればいいんだ…」とブツブツ呟いていた。
そんな中、競技場の正面入り口から仮面をつけた少女が出てきたのだった。彼女が出てきた理由は誰にも分からない。だが、その少女を見て術者たちは恐れおののいた。何せ誰も敵わないであろう巨大な怪物にたった1人で戦い、そして倒した。これまでこの国は多くの術者たちが守ってきた。だがこれまでS級エネミー、そして先ほどの巨大な怪物相手では術者1人で勝てるわけがない。だというのに少女はたった1人でそれらを撃破するほどの実力がある。それは最早先ほどの怪物と何も変わらない…。
だが、そんな少女に1人の人物が駆け寄りそのまま殴りかかろうとした。対して少女は何事もないように躱すのだった。その人物は躱されてもそのままの勢いで少女の胸ぐらを掴むのだった。
「……何故だ。何故あの時魔族を止めなかった、何故あの時あの魔族を殺さなかった。そうすれば『天使の魔力』は魔族に行き渡ることなどなかったというのに……。……何故だ! 何故貴様はただ見ているだけだった! 何故動こうとしなかった! 貴様が動いていれば彰人はあんなことにならなかったというのに! 答えろ!!」
朝比奈海斗は少女相手に激しく怒りをぶつけるのだった。その怒りの中には様々な感情があるのだろうがそれを含めて自身よりも年下である少女にその思いをぶつける。だが、
「……放せ」
少女は対してそう冷たく放つのだった。
「何故だ!! そんな力があるというのに何故あそこで振るわなかった!! そうすれば多くの市民を救えたというのに!!」
先ほどよりも強く少女の胸ぐらを掴み上げる。そしてその行動が、
「放せと言っているだろ」
少女の怒りに触れた。
「がぁああああああ!!!!」
胸ぐらを掴んでいた両腕が何の前触れもなしにボトッと落ちるのだった。
「お前ら日ノ本の事情なんて私にはこれっぽっちも興味はない。…そもそも私はただの部外者だ。部外者である私はどう動こうが、どう力を振るおうがお前に指図される理由がない」
掴まれた箇所をホコリを落とすかのように払いのけて朝比奈海斗を通り過ぎていくのだった。
「ならば、何故、貴様はあの怪物にその力を振るった、何故、私たちの前に現れた……。」
「……答える義理もなければ理由はない」
そうして少女はその場から立ち去るのだった……。
『天使の魔力』を秘めている心臓が魔族に奪われたその翌日、その知らせは突如として全市民に知らされるのだった。上空に突如として巨大な映像モニターが現れた。それも無数で報告では全世界に何の前触れもなく現れたとのことだった。そのモニターが現れたことにより学校で授業を受けている学生、仕事をしている会社員、家で過ごしている家族たち、畑で耕している農家の人……等々、様々な市民たちは動かしている手を止めて顔を上にあげたり、部屋や仕事場の窓を開けたりと行動をとり、全員がモニターが現れた上空を見上げるのだった。そしてモニターに映し出されたのは……
『初めまして人類の皆様。私は魔族、蛇魔族のミザリーと申します。そしてさようなら人類の皆様。我ら魔族はこれより我らが魔族の王である魔王様の復活の儀式を行い、復活の暁には全勢力を上げて人類皆様へと侵略を行います。せいぜい残り少ない数日を過ごし、そして恐怖で怯えながら我ら魔族の侵略をお待ちください』
そうして無数のモニターは一斉に消失したとのことだった……。




