術と変異生物
遥か昔より、この世界の人々の7割は体内に魔力が流れ、その魔力を【術】という力に変換して使用出来る者がいる。その者たちは【術者】と呼ばれ、彼らは炎、水、風、雷‥‥等といった現象を手のひらから放出することが可能である。これを世間では【魔術】と呼ぶ。
他にも、【剣術】【拳闘術】【召喚術】【幻陽術】【占星術】【奏音術】の7つ確認されている。これらの術はこれまで世界中で数十、数百年にわたって人々の生活に貢献しており、それは日本も例外ではない。そしてそれらの術をまとめる管理している機関が【世界国議術者機関連合】と呼ばれている。
その機関の元、日々人々の生活をよくするために努めているのが【術者国防隊】と呼ばれる術者たちだけで構成された組織はこれまで様々な災害や事故、事件に関して自身の術を用いて救助活動や事件解決を行い続けてきた。現在術者の数は日本ですでに数万は超えており、世界中も合わせれば数千万以上も術者たちは術者国防隊として活動をしている。
一方、術者と同時に現れた黒い生物は【変異生物】通称エネミーと言われており、数百年前に突如現れた正体不明の生物である。エネミーには通常の化学兵器を受けても全く傷をつけることが出来ない。だが、術攻撃は有効なダメージを与えることが出来ると判明しており、そのおかげで今の世界は突如現れるエネミーを何度も撃退することが出来たのだ。だが、数百年経ってもこのエネミーはどこからやってきて、何のためにこの世界に現れるのかが不明である。
エネミーの種類には様々な種類がある。本能のままに生物に襲い掛かり殺戮を行うもの、小型のエネミーを操り指揮するもの、知能を用いて連携を行うもの…等々この数百年の間に今述べた以外のエネミーが確認されている。そして、そのエネミーの危険度を表したのが【級】である。一番低いのがD級そして一番高いのがS級である。S級エネミーは1歩動くだけで周囲に大きな被害を出し、一度の攻撃で1つの小さな町を容易く壊滅させ、そして他のエネミーとは違い各術に対して耐性が桁違いである。倒すためには犠牲が最大でも半分前後は覚悟しなければいけない。だが、術者たちはそのような悲劇を1つでも減らせるように日々鍛錬をし力をつけているのである。
……さて、話がずれたが、星乃零が今いる少し離れた工事中の建物が突如爆発を起こしたのは、そこにエネミーが現われ何かしらの攻撃により爆発を起こしたのであった。そして爆破が収まった後には「エ、エネミーだ!」「いやぁぁぁ、殺されるぅぅぅ!!」「早く逃げろぉぉぉ!」等の人々の阿鼻叫喚があちこちから聞こえたのだった。
そのエネミーは狼のような四足歩行の姿や、腕を鎌のように振り回すカマキリのような姿、他にもまだまだいるだろうが目に見えるだけでその数は約十前後と確認できた。そして、エネミーたちは逃げ惑う人々を見るや否すぐに行動を開始し偶然にも近くにいた幼い子供に向かって襲い掛かったのだった。その子供はどうやら驚いた衝撃で足が動けなくなっていた。このままではその子供はエネミーに襲われそのまま殺されてしまうだろう。誰もがそう思った時、どこからか声が聞こえたのだった。
「風よ、敵を吹き飛ばせ、【エア・バレット】!」
動けなくなった子供の真上を通り過ぎてそのまま狼の姿をしたエネミーに直撃し吹き飛ばしたのだった。そして子供の前にとある男性がフワッと降りてきたのだった。人々はその男性の着ている制服を見ると
「! 術者だ! 術者警備隊たちが来たぞ!」
「俺たちの希望が駆けつけてきたぞ!」
と先ほどまでの不安が一気になくなり、多くの人々がその警備隊に向けて歓声を上げたのだった。
「こちら井手。司令部応答お願いします。」
『こちら司令部。井手、指示通りに動けといつも言っているだろ』
「だが、そうしたら今助けた子供がエネミーに殺されていたかもしれないぞ」
『それでもだ。こちらの指示を聞かなければもっと効率的な方法で助けることが出来たかもしれない ぞ』
「チッ、効率の事ばかり考えやがって…」
井手という青年がそう舌打ちすると通信機の電源を切るのだった。
「いいのか。勝手に電源を切ったらまた始末書だぞ」
「もう慣れた。上からの命令通りに動くなんて真っ平だからな」
「…そうか」
隣に並んだ貫禄のある男性が煙草を吸いながらそう呟くのだった。
「よし、各員行動開始だ」
「各員、市民とエネミーの距離を離しながら速やかに殲滅を行え。敵はD級だが、数はそれなりに多い。情報の共有を行いながら職務を全うするように」
井手という青年の指示を各員聞きながらエネミーの殲滅を行った。
「【ファイア・バレット】」
「【ウォーター・ランス】」
「【サンダー・アロー】」
それぞれの術者による攻撃魔術によってエネミーが燃え、貫かれたりと1体また1体と撃破されていく。そして、最後の1体を撃破したのを確認すると誰もがこれで終わりと思い、ひと段落したその時、部下の1人がこう叫んだ。
「隊長! エネミーがもう1体います。しかも、この反応は……B級です!」
そう告げ終わった瞬間待っていましたと言わんばかりに突如術者たちの足元から地面を揺らすほどの勢いで飛び出してきた。間一髪避けることが出来たが、数名ほど吹き飛ばされ壁に激突したのだった。
そのエネミーは頭に鋭利な刃物のような物が付いており先ほどの攻撃はこの刃物によるものである。その姿はまるでクワガタの様である。出てきてすぐさま術者数名による攻撃を行うも先ほどのエネミーとは違い魔術の耐性が高く例え命中しても決定的なダメージを与えることが出来ないでいた。そこで、
「各員、俺はこれより副隊長と共に【魔力贈与】を使用する。それまで防御に徹しろ」
そう伝えると各員「了解!」と返答があったのだった。
「「【魔力接合】開始」」
そう告げると副隊長の扇と呼ばれた中年男性は井手に向けて手を伸ばした。すると自身の魔力が粒子となりそのまま井手の体内へと入っていくのだった。【魔力贈与】は自身の魔力を相手の体内に送ることで一時的に後者の魔力量が増大尚且つ使用する術の威力が大きく上がる術者同士限定で行う魔力強化術である。しかし、使用中は身動きが取れず、使用後は2人ともしばらく硬直状態になるため扱いが難しく、使いどころを選ぶのが大きな欠点である。その間B級エネミーが2人に攻撃を与えないようにしないといけないため他の者たちにとっては危険な役目である。だが、必ず撃破してくれる。そう信じているためそれまで何とかここで踏ん張らないといけない。そこに、
「頑張れ! 警備隊!」
「あんたたちなら絶対やれるぞ!」
その声は避難させたはずの市民たちである。市民たちの中には戦うことが出来ない【無術者】が多くいる。彼らは今自分たちにしか出来ない声援をすることで精一杯成し遂げようとしていた。無術者は術者とは違い魔力を持たない。だけどだからといって何も出来ないということはない、だから彼らは戦っている術者たちを応援する。それを見た術者たちはこのまま終われない! そう思い二人の準備が終わるまで何が何でも耐えきってみせるとそう思い、B級エネミーの強力な攻撃に対して防御結界を二重に張り確実に受け止め、敵を2人に向けさせないように攻撃を絶え間なく続け、その攻防が三分ほど続き、そして
「準備完了! 全員その場から離脱!」
井手からの準備が完了した合図を聞くと「了解!」と応答すると戦闘を行っていた術者たちはすぐさま離脱し近くにいる多くの市民の所に行くとすぐさま防御結界を何十も展開するのだった。その理由は
「【アイシクル・ランス】!」
【魔力贈与】し放たれた一撃は巨大な氷の槍となってB級エネミーに直撃したのだった。そして、攻撃の余波が徐々に弱まりやがて収まった時には目の前にはB級のエネミーが巨大な氷の槍で貫かれたまま立ち尽くしていたのだった。
「B級エネミー、生命反応消失確認!!」
そう誰かが確認すると術者たち、そして無術者たちはB級エネミーを無事に撃破したことに笑顔で喜んでいた。それは【魔力贈与】を行った2人も同じ気持ちだった……。
だが、こういう言葉がある。『戦場では一瞬でも油断した者から死んでゆく』と。
その言葉通りなのか誰も気付かなかった。市民の誰でも、その場にいた多くの術者、そして向かい合って笑いあっていた二人でもこの時氷の槍で貫かれていたエネミーは一瞬で向かい合い気が緩んだ2人に距離を詰めて鋭利の刃で刺し殺そうとしていたのだった。刺し殺すまで残り三秒未満。ふと、誰かがこの事態に気付き顔面蒼白になり「隊t…!」と言うがもうすでに遅かった。そのままエネミーは残り僅かの命が尽きる前に道連れとして自身に一撃を与えた2人を何が何でも殺そうと本能に従い、やがてその鋭利な刃は2人を刺し殺し‥‥‥
「え…?」
「は…?」
その腑抜けた声はエネミーによって刺し殺される寸前に最後の遺言として発した時に思わず出た声、
ではない。
何故なら2人とも数秒経った今でも無傷のままであるからだ。
では何故か。それはエネミーの鋭利な刃が2人の体に届く僅か3秒よりも速く突如B級エネミーは頭部から足部にかけて一瞬で切断されたのだった。そのまま切断されたエネミーは2人の横を通り過ぎ、やがてボトンと大きな音を立てて今度こそ跡形もなく完全に消滅したのだった。
この出来事に二人は数秒間、時間が止まったような感覚を肌で感じたのだった。
その一瞬の出来事に2人だけでなく、他の術士、その場にいた市民たちにも何が起きたのか分からなかった。だが、1つ分かるのは誰かがエネミーによる攻撃から2人の術者を守ったという事である。