仮面の少女 襲撃
その少女は背丈的には15あるいは16歳だろうか。だが、その少女はどこかこの国に住んでいるとは思えないほどの姿だった。髪の長さは背中まで伸びており、色は白だがその髪は汚れがないほどに美しかった。服装は黒と白をモチーフとしたどこかファンタジー世界を思わすほどの恰好でその姿はまるで異国の騎士のようだった。そして何よりその少女は顔に白と黒の仮面をつけており、その少女が一体誰なのか分からなかった。だが、分かることが一つだけあった。その少女は施錠していたはずの扉から現れた、つまり何かしらの方法を使って扉を壊したということになる。この会場内には何人ものの術者がおり、実力もそれなりにはある者ばかりだ。だが、そんな術者相手に対して少女は傷1つなくこの場に現れたのだろうか。そう思っていると、
『と、当主様…申し訳、ありません。現れた少女を対処しようとした矢先、いきなり消えたと思ったら、気付いた時には…』
通信機より報告をする男性はその後意識を失ったのかそれから言葉を発することはなかった。一体何をされたのか、そう思っていると壊された扉の中から数人の術者が少女を追うように現れ、そして詠唱を行い一斉に術攻撃を行うのだった。対して少女は彼らに気付いていないのか後ろを振り向くことはなかった。そうして攻撃術が少女に着弾する…そう誰もが思っていた。
「【六花乱れ雨】」
突如、上空から無数の短剣が降ってきては攻撃術を全て消滅させた。そしてその無数の短剣は術を消滅させるだけでなく術を放った術者も巻き込むように降りそそいでは短剣の脅威が襲い掛かるのだった。すぐさま防御結界を展開するもまるで紙切れのようにいとも容易く破壊されそのまま術者に突き刺さるのだった。あまりの痛みのためか苦痛の悶絶をしたのちそのまま次々と意識を失うのだった。そうして無数の短剣を繰り出した人物が少女の傍に降りるのだった。その人物は青のショートパンツに黄色の半袖にインナーを合わせた服装をしている女性だった。
後ろの光景に興味を示さないのか少女は当主と朝比奈莉羅のいるステージへと足を進める。だがそれを阻止するかのように
「各員、あの少女と後ろの者を取り押さえ、何としてもここで食い止めろ!」
そう当主である朝比奈海斗は会場内にいるすべての術者に連絡を行うと、すぐさま残りの術者、総勢50人ほどの術者がこの競技場内に集うのだった。そして「放て!」と海斗が指示を出すと50ものの術攻撃が詠唱を終えると同時に一斉に放たれた。放たれた中には【魔力融合】で合わせた攻撃術が混ざっており、B級エネミー相手ならば一撃で撃破できるような一撃必殺もあり、人に向ければ大怪我で済まないような必殺の一撃だった。相手を脅威とすぐさま判断し、自らの判断で【魔力融合】で合わせた術を放つことは戦闘の経験が豊富といっても過言ではない。だが、相手はその上の、更に上にいるような相手だった。
再び上空から何かが降ってきたと思った時には少女を軸として場所から巨大な竜巻が発生したのだった。その竜巻は50ものの術を、【魔力融合】をした攻撃術すらも飲み込み完全に消し去ったのだった。そうして竜巻が収まり消滅した後に彼らが見たのは赤髪の軍服のようなものを着ている女性だった。その女性は立ち上がりこう叫ぶのだった。
「貴様ら! 我が君に向けて攻撃をするなど無礼極まりないぞ!」
その声はこの会場にいる者たちに威圧感を与えるほどだった。そのためか一部の術者は後退をしながら様子を見始めるのだった。
「怯えるな! まもなくこの場に天使ヴァレンティア様が顕現される! そうすればどんな相手だろうと負けるはずはない!」
朝比奈海斗は見ている人々を安心させるため、術攻撃を全て消滅させられた術者たちの指揮を上げるために声を掛けるのだった。そうして1人、また1人と術者たちは気を取り戻し、それを見ていた人々は術者たちに大きな声でエールを送るのだった。映像でも『頑張れ!』『負けるな!』といったコメントが映し出されたりと見ている人たちもエールを送るのだった。そのエールに答えるためにと再び術者たちは再び詠唱を始めるのだった。
そんな様子を見たのか仮面をつけた少女は、
「ティナ、グレン、遊んでやれ」
「「仰せのままに」」
そう告げるとティナとグレンはそれぞれ行動を起こすのだった。それを確認した少女は2人のいる場所へと向かうが、歩みを始めた瞬間、何かが少女の頬を掠めた。それは少女の目の前、ステージに上がる途中の階段の方からだった。
「これは警告だ。それ以上近づくようなら容赦はしない」
ステージの階段にはいつの間にか朝比奈彰人がいたのだった。彼は先ほど略式詠唱で雷の矢を高速で飛ばし、そのまま少女の頬を掠めるように調整をしたのだった。この調整はプロでも難易度は高く、小さいな的を百発百中すると同じくらい難しいのである。それを彰人は易々とこなすものだからプロから見れば素晴らしいコントロールといえるだろう。彼の言葉が届いたのか少女は階段を上る1歩手前で止まるのだった。彰人は魔術を放った手の反対の腰に魔武器を携えていた。その魔武器は刀の様でもしもの時に備えてすぐに抜けるように片手は魔術をすぐに放つため、もう片方の手で魔武器を抜けるようにしていた。
「父上はそこで見ておいてください。朝比奈家の者としてここを
「邪魔」
朝比奈彰人は少女を見据えていた。だが、瞬きをした瞬間、その少女は目の前におらず、声は後ろの方、ステージにすでに上がっていた。そして、
ドサッ!!
少女の後ろにいた朝比奈彰人はいきなり倒れるのだった。
朝比奈海斗の目の前には1人の少女がいた。だが、その少女はこの国に住んでいる人間の少女とは異なる雰囲気を持っていた。その雰囲気は分からない、だが、息子である彰人を一瞬、それも1秒満たないかというほんの僅かで容易く倒してしまうほどの何かをその少女は持っているようだった。そう思っていると、
「…そこ、邪魔」
そう言いながらこちらへと向かってくるのだった。目的は後ろにいる者だろうか、こちらには眼中にもないような発言だった。だが、そんなことはどうでもいい。この儀式を邪魔するというのならばこの少女は我々日ノ本の敵ということになる。よって、
「日ノ本当主としてここから先は通すつもりはない」
いつも所持している魔武器を抜き取り、刃先を少女へと向けた。本当はまだ幼い少女に剣を向けることは大きな間違いだろう。だが、本能が叫んでいる。あの少女は危険だと。この場で始末しなければこの後取り返しのつかないことになると分かってしまう。だから、
「はぁああああ!!!!」
魔武器を右斜めに振り下ろしながら少女の胴体めがけて、殺すつもりで本気で斬りかかった。魔武器にはA級エネミーを一撃で始末できるほどの莫大な魔力が纏っている。そこから剣術【プロミネンス・バスター】を発動、そしてそのまま胴体を真っ二つにするのだった。
バキィィィィン!!!!
その瞬間、折れた音がした。その音は金属のようなものだった。そして宙を舞ってそのままカーン、カーン…。とステージ外に落ちていくのだった。
「ば、馬鹿な…」
ありえない光景を見た海斗はそう呆然とするしかなかった。この魔武器は特注品で通常の魔武器よりも何倍も強度が高く、刃こぼれは勿論、破損することは滅多なことがない限りはまず起きない。それこそS級エネミーに対して全力で斬りかかっても折れないほどだ。だというのに少女という華奢な体を斬りかかった瞬間、まるでそれが嘘のようにあっけなく真っ二つとなり魔武器が折れてしまった。対する少女は何かしたと思ったが、こちらが斬りかかる瞬間まで防御の構えどころか、一切の行動を起こさずにただ立っているだけだった。魔力を体に纏っている感触もなかった、かといって肉体が鋼のようにもとから固いわけでもないように見えた。では、一体何をしたのか、それは
「だから、邪魔」
立ち尽くしている海斗めがけて少女が一瞬で間合いに入っては裏拳で会場の壁にめり込むほどの一撃で吹き飛ばしたのだった。
ステージ上にはヴェールで顔を隠している朝比奈莉羅、そして仮面の少女だけとなった。それを確認した少女は
「【絶縁領域】」
そう唱えると少女と莉羅を突如小さな黒い球状が現れそのまま2人を包み込むのだった。
「……貴方は、一体何をしたのですか?」
周囲を見渡しながら朝比奈莉羅が尋ねるのだった。そして少女はこう答えた。
「この領域はこの中と外を隔離するための場所であって、ここからの様子は外からは見えないようになっている」
「…そんな場所で、私をどうするのですか?」
この場所について説明した少女に対して莉羅は再び尋ねると、
「だから、こんなことをしても外にいる奴らからは見えないようになっている」
仮面に手を付けそのまま外した。そして仮面を外した影響か先ほどまでの少女の姿からまるで魔法が解けたかのようにその姿は徐々に姿を変えていき、そうして朝比奈莉羅の前に現れたのは
「……ほ、星乃、君」
仮面の少女はやがて星乃零へと姿を変えたのだった。
この章の終盤に入りました。




