日ノ本直属部隊
「全く、溜め込んでいたアニメを消化していたというのに、雑音のせいで集中できなくなったんだけど? どう責任取ってくれるんだよ」
持っているスマホに目を向けており、今の状況には目もくれず零はポチポチと操作を続けるのだった。零にとってこのような、瑠璃のあられもない恰好、『黒狼』と名乗る者さえどうでもいいと思っているのか一向に2人を見ようとしなかった。そんな零に
「…なるほど、お前が星乃零だな。丁度いい、お前の持つ『大聖女の加護』をこちらに渡してもらおうか。そうすれば痛い目に遭わずに済むぞ」
その発言に零は「…はぁ~~、またか」と溜息をついてお決まりの発言をするのだった。
「何回言ったら分かるのかなぁ。俺はそんなもの持ってないし、そんな空想か何かで作ったような名前に心当たりなんてないんですど」
「しらばっくれても無駄だ。お前が大聖女の加護を持っていることはすでにこちらは把握済みだ。何せ死んだはずの猫族と兎族を1匹欠けずに蘇らせたという証拠の動画はすでに日ノ本全員に知れ渡っているのだからな。それでも拒むというのなら…」
そう言うと同時に建物の影と一体化したかのようにスゥっと消えたのだった。
「お前をこの場で殺してその力をもらうまでだ」
そうしてさっきまでの気配と音が消えたのだった。
「星乃君、気を付けて、『黒狼』は日ノ本当主直属の暗殺部隊。影に溶け込む戦術で瞬く間に対象を音もなく殺すほどの強者よ。いくら星乃君が強いからと言っても気配が分からなければ勝てっこないわ」
「その通り。我ら『黒狼』は陰に潜み、対象の一瞬の隙をついて影の中から始末することが可能な暗殺部隊。いくら強者であろうと気配がなければどうしようも出来まい」
その声は建物のそこら中から反響するかのように聞こえてくる。この場の周りには様々な建物がある。黒狼はその建物の影を自在に行き来できるような術を用いて対象の隙を、一撃で始末することが出来る場所を探している。そうしてその場所を見つけたら後は対象が一瞬でも隙を見せた瞬間、一気に飛び出し音もなく持っているナイフで対象を始末する。それが黒狼のやり方である。……だというのに
「へぇ~~、そうなんですかぁ~~」
不安や焦燥感、緊張感がないどころか「あっ、今度出るこのゲーム結構好みかも。明日にでも予約いれよぉっと」「あっ、こっちもいいかも」と平然とした様子でスマホを扱っていた。どうやら近日中に出る新作ゲームの情報を見ており、これではどうぞ殺してくださいと言っているようなもので……。
「…なるほど。どうやら『黒狼』の恐ろしさが分かっていないようだな。ならば」
ユラリ。零の背後の影が僅かだが動いたかのような気がした時には
「我ら『黒狼』の恐ろしさをその身で味わうといい!!」
そうして持っているナイフの刃が零の首筋に向かっt
「話が長いし、あとどこにいるのかバレバレ」
向かってくるナイフを首を横に動かすだけで難なく躱し、もう片方の手でナイフを持っている黒狼の腕を掴むのだった。そうして地面に向けて振り落とす。が
「【黒の符:影移動】」
幸いなことに振り下ろされる個所に影があったためすぐさま詠唱し、影の中に入ることで地面にたたきつけられることは免れるのだった。
(…今のはまぐれ。たまたま気付かれやすいところにいたから見抜かれただけだ)
そう思いながら今度は先ほどとは違う影へと移動する。そうして今度は零のすぐ傍にある影へと移動し
(今度は仮に気付かれても反応することは不可能…。これならさっきのようなヘマはしない)
そうして零の足から伸びている影より音もなく飛び出し、そのまま零の背中に一気に斬りかかる。が、
「だから、バレバレだって言ってるだろ」
先ほどと同じく難なく躱され、しゃがみ体勢からの足払いで黒狼の態勢を崩すのだった。
(くっ、何故だ⁉ 何故私の気配が分かるのだ⁉ だが、もう一度【影移動】で態勢を整えて…)
そう思いながら先ほどと同じ幻陽術を唱えるが潜る影の傍に小さな球体があり、気付いた時にはその小石がパンッ!! とはじけたかのような音が鳴るのだった。すると次の瞬間黒狼は「がっ!!」と声を出しながらその場でドサッ! と倒れるのだった。
「そのすぐに影に潜る癖はやめといたほうがよかったな。そのせいで次の行動が見抜きやすいし」
「お前…本当に、人間なの、か」
零が振り向いて見下ろせば、そこには体が痺れているのかピクピクと小刻みに動かしている黒狼がいたのだった。その黒狼は体が痺れて動けないが言葉を発することは可能のようだった。
「さて、それじゃあ…」
「言っておくが、私を殺しても無駄だ。この場にいる黒狼は私1人だけではない。もし俺が殺されたと分かれば即座に他の者が『大聖女の加護』を持つお前を襲うことだろう。それこそその家の中にいる者たちを人質にしてでも大聖女の加護を手に入れる…」
喫茶四季の方へ視線を向けながらそう告げるのだった。
「……それってさぁ、もしかして脅しのつもりか?」
「…なに?」
「それに、もしかしなくても人質を取る前提で話を進めていた? ならお前ら黒狼は馬鹿だけが集った何かの集団程度だな」
「お前、私の言葉が嘘だと思っているのか」
「いや? 嘘も何もお前の言っていることは本当だろうな。さっきまであちこちから気味の悪い視線が俺の体に突き刺さっていたからな。…まぁ数的にはお前以外に5人はいたんだろうな」
「…さっきから何を言っている……」
「なんだ? まだ分からないのか。つまり、こういうことだよ」
そう言うと零の後ろにドサドサドサと何かが落ちてきた音がした。その何かは外にある街路灯に照らされて判明するのだった。
「ば、馬鹿な…」
それはそう呟いた黒狼と同じ全身黒ずくめの5人の者たちだった。彼らの手や足、肩にそれぞれ1本の短剣が刺されており、零の傍にいる黒狼の姿を確認すると「も、申し訳、ありません」「背後に誰かがいると気付いた時には…」「何者かに襲撃を…」と呟くのだった。
「これで分かったか? お前ら如き雑魚が俺を殺すどころか、何の関係もない人を危害を加えることなんて出来ないってことが」
零がそう勝敗を告げるが
「……我々は死を恐れぬ、影の部隊。任務を失敗すれば自害一択のみ…」
体の痺れの効果が弱まってきたのか、傍に落ちている短剣を手にし自身の頭部に向けて刃先を勢いよく持ってきてそのまま言葉通り自害しようとした。だが
「何勝手に自害しようとしている」
自害するよりも早く投擲した短剣が黒狼の腕に深く突き刺さりそのまま地面に突き刺さるのだった。それにより自害するということは叶わなくなるのだった。
「ぐっ! …お前、我々の責務を邪魔するつもりか……」
「はっ、自害が責務だって? 馬鹿を通り越して最早阿保だな。そんなことをさせるようなら俺が直々に殺してやるさ」
そう言いながら零は今も動けない5人の黒狼の方へと向かうのだった。
「お前たちが自害するというなら勝手にしろ。だがその前に今からやる実験の被験者になってもらうぞ」
零がポケットから取り出したのは何かの液体が入った2本の試験管。そのうちの1本の液体を5人にまんべんなくかけるのだった。そうしてそれはすぐに効果が現れた。5人の黒狼には男3人、女2人とおり女の方は「か、体が、熱い…」「体が、疼くっ!」と苦しんでおり、男の方は「が、我慢、でき、ない!!」「抑え、きれない!!」「滅茶苦茶にしたいっ!!」と動けないはずだというのにいきなり起き上がり傍にいる同じ黒狼の女に襲い掛かると同時に上下の衣服を力強く引き裂き、そのまま本能に従うかのように体を重ね合わせ始めたのだった……。




