日ノ本の計画 Ⅱ
1月1日元日。年明けである今日は新年の挨拶を行うためとある有名なホテルで食事会が行われるのだった。このパーティーには全国の日ノ本十二大族の本家と分家の各代表が一堂に集まる会で食事は勿論、現在進めている事業や経営、エネミーについての報告の情報共有、一族同士の婚姻の話など様々な話がそこら中から聞こえていた。そして私は言うと
「おや? そこにいるのは水河家の長女さんではありませんか」
私の目の前にいるのは1人の男性だった。その男性はすでに成人しており現在はプロの術者であり、その実力を買われ名のある有名な術者警備隊に所属している実力者である。
「あぁ、やっぱり、お久しぶりですね。最後に会ったのは約1年ほど前でしょうか。随分とお綺麗になられてその着物もお似合いですよ」
「……ありがとうございます」
「いやはや、こんな綺麗なお人があともう少しで、僕の婚約者になるのだから今から楽しみですよ」
そう言いながら私の傍に近づいてきたのだった。その距離は肩が触れ合うまであと数センチほどで、時折私の顔を見ながら微笑みを返されるのだった。本当なら今すぐこの場から立ち去りたいほどだ。何せ私はこの男のことをそこまで好きではないからだ。私の婚約者と言いながら最後に会ったのは先ほど言っていた去年のこの日で、メールのやり取りだって年にたったの数回ほど、一体どうすればこの男性は私のことを婚約者とそう呼べるのだろうか、いっそ、婚姻の縁を切りたいほどだ。だが、そうできないのがこの日ノ本十二大族だ。日ノ本の女性は十代後半になると強制的に親が婚姻相手を決めなければいけないという決まりがある。その理由については詳しくは分からないが、おそらくこの日ノ本を絶たせないためだろう。そして仮にその婚約者の男性がどんなに素行が悪く、悪い噂があり、女遊びが激しくてもその家の嫁とならなければならない、最早そんなの女性にとってはただの苦痛しかないだろう。だが、だからといって他の男性、それこそ日ノ本以外の男性、一般民と婚姻することは許されない。もしそんなことが起きるようならばその男性関係者を徹底的に調べ上げられ、どんな手段を使ってでも2人を別れさせられてしまうからだ。実際に数年前にそんなことが起こったらしく、詳しくは知らないがその2人、1人は何でも原因不明の死、もう1人は日ノ本の目の前で処刑にされたらしい。
(さっさとどこかに行ってくれないかしら…)
まぁ、だからといって異性の人をこれまで好きになったことなど一度もないからこのままだとこんな好きでもない男性と婚姻してしまうわけだが、正直どうでも良かった。私を本気で好きになってくれる人なんてこの世にいないのだから…。
「……以上で私の現在の状況報告を終了します」
食事もひと段落し、次に行われたのは各地方から集まった日ノ本たちによる近況報告を共有し合うのだった。日ノ本が携わっている様々な企業、自社で取り扱っている魔武器である新型の開発状況、そして各地の共通の脅威であるエネミーについての報告とこの場にいる全員と情報を報告するのだった。企業に関してはそれなりの売り上げを出しているようだが、最近になって一部の商品が右下がりの傾向があるようで、魔武器は現在最新式の開発を進めており、魔武器から放出される魔力を最小限にするかつ強力な一撃を放てる武器の開発、現在は実践投入の数が少ない魔装備の開発を中心的に進めているようで魔装備の方はもう間もなく最終調整段階に入っているようで数か月をすればエネミー相手に実践を開始するとのことだ。そしてエネミーについてだが、昨年から今日に至るまで高ランクのエネミーの出現率が高いようで年の数回しか出ないはずのS級エネミーは5回ほど出ているとのことだった。A級でも脅威とされており術者1人ではまず無事に生きて帰ることはまず不可能なほどで、そのA級はS級の倍である10体はこの1年で確認されているようで…
「やはりどこの地方でも強力なエネミーが出ているようですね」
「…えぇ、そうみたいですね」
「でも、安心してください。この僕平岡家長男である平岡良太が貴方を必ず守って見せますから」
「……ありがとうございます」
この男と私が今住んでいる場所から何十キロも離れており、一体どうやって守るつもりだろうか。
「…そういえば貴方が住んでいるところでもS級エネミーが出たと報告にありましたが、大丈夫でしたか? 何でも現れて数分後には消滅が確認されているようでしたが」
「…あぁ、はい、特には」
「もしかして誰かがS級を倒したのでしょうか? まぁ、そんなわけないですよね」
「…そう、ですね」
彼は知らないようだが、私は知っている。かつて文化祭や他校との合同交流会で突如として現れたS級認定されたエネミーをたった1人で倒した少年を。…まぁ、別に言う必要はなうだろうから黙っておいとこう。
「あっ、そういえばこの前父上から聞いたのですが、来月日ノ本は何やら大きなことをやるようですよ。何でもあの『欠陥品』が関わっているようですよ」
『欠陥品』その言葉をこの場で聞くということは彼女のこと以外ありえない。それにそのことについてはこちらは知らない話だ。それについて尋ねようとしたところで
「皆、今日は集まってくれてありがとう」
その言葉が一番前にあるステージから聞こえたのだった。その声の人物は朝比奈海斗。この日ノ本十二大族を束ねる当主にして日ノ本の中でもずば抜けた実力を持っており、さらには2人の子供も父親と同じくらいの実力を持ち合わせている。だが、彼女だけは違う。
「こうして各地で精進している皆と顔を合わせることでこの1年間無事に集まれることが出来ると嬉しく思う」
初めは互いの顔を見て安堵する話から始める当主を見て、この場にいる者たちはうんうんと頷くのだった。
「…さて、私の話はここまででいいだろう」
そう言うと空気が僅かだが変わったような気がした。
「この話は時期がくればこの場にいる者たちだけでなく未だ状況を知らない国民たちにも話すつもりでいる」
そうしてこう告げた。
「……まもなくこの日本にこれまでにない災厄が訪れる。これは確定である」
まもなく災厄が訪れる。そう当主が言い終わると同時にこの場にいる誰もがザワザワと騒ぎ始めるのだった。だが「皆、落ち着くのだ」とすぐさまこの場を収めるためそう告げ
「皆もすでに知っているはずだが、ここ最近になってA、S級エネミー、そして魔族の確認が多く上がってきている。これは私の考えだがそう遠くない未来、魔族たちがこの国に侵攻を始めるかもしれない、エネミーが大量に出現しこの国を埋め尽くす可能性が大きくなった。現時点では場合によっては我ら日ノ本だけでなくまだ若い学生たちにも助力を申すかもしれない。これは私の不甲斐なさが生んだものだ」
謝罪を込めて頭を下げ、
「だが、我ら日ノ本もただただ蹂躙される弱者ではない。すでに前もってこの話を私が信頼資する者たちには伝え至急対策を練り上げている。対魔族用の魔武器と魔装備、術者たちの実践を用いた訓練、そして…」
朝比奈海斗がそう言いながらステージの端を見て
「この者の助力を用いてこれまでにない災厄の対策を立てている」
そうしてステージに現れたのは1人の男性だった。見た目は60歳ほどで、どこかの宗教の者か神父が着ているような服装を着ていた。だが、この場にいる者は察したのか「「「おぉ!!」」」とどよめくのだった。この神父が只者ではないと気付いたのだろうか。
「皆さま初めまして、私はセインと申します。私は皆さま日ノ本に助力したいと思いこの場に参りました。新参者だと思いますがよろしくお願いします。ぜひ力を合わせ襲い掛かる災厄を乗り越えましょう」
丁寧なお辞儀で簡単な自己紹介を終えるのだった。
「この者セインは最前線で戦えないが後方支援でぜひとも力になりたいと強く志願したためこの場に来てもらった」
「いえいえ、私の強い思いが貴方様に届いたということですよ」
謙虚するかのように笑顔で返答するのだった。
「さて、申し訳ないがさっそくこの場を用いて現在の状況を再確認したいのだが」
「はい、もちろn
そう言い終える前にステージ前にいる1人が挙手をするのだった。それに気づいた当主が「どうした?」と尋ねると、
「話を遮る様で申し訳ありません。私はその者に関しまして分からないことばかりです。どうして当主様はその者を信頼できるのでしょうか?」
その問いに周りも頷くのだった。そう思うのも無理もない。何せ私もあの神父が日ノ本にいたということ自体初めて知り、状況が追い付いていない。
「…なるほど、確かに一理はある。何故私がこの者を信頼しているのか、話さなければいけないな。だが今は状況が状況だ。詳しいことは災厄を乗り越えた後でも構わないだろうか」
「…分かりました。重ねて話を遮る様で申し訳ありません」
「良いのですよ海斗様。私が話さなければ今後上手くやり取りなどできないでしょう」
仏のように優しい神父ことセイン。
「…そうですね。私がこの者を信頼したのか、手短だが話そう」
そうしてこう話すのだった。
「神父セインが言うには『大いなる力』、『大聖女の加護』、『虹色ノ剣』、『天使の魔力』この4つの力が集まったとき、あらゆる災厄すら跳ね返す力を得て、永久の平穏が訪れるだろう。そう仰っていた」
その4つの単語を聞いて会場の者たちはどういう意味だ? なんかの詠唱か? とそれぞれ言い合うなか
(大聖女の加護、虹色ノ剣、天使の魔力……それって…)
唯一水河瑠璃は4つのうち3つはその単語がどういう意味か心当たりがあるのだった。
(天使の魔力は莉羅の心臓に宿っているもの。そして大聖女の加護、それに虹色ノ剣って確か一度だけ彼が使っているところを見たことが…)
そう思えるのはかつて魔族に連れ去られた莉羅達を助けに向かい、その後脱出の際1人の魔族と戦う際に彼がそう唱え手にしていたのを見たことが、そして大聖女の加護はその翌月に目にした大量の猫族と兎族の死体を再び生き返させるために使っていたものと一致、確証はないがそんな気がした。
「神父殿。質問ですが、それらはどこにあるのでしょうか?」
今度は別の人物がセインに挙手をし質問するのだった。そして返ってきた答えが
「勿論場所は存じております。大いなる力、大聖女の加護、虹色ノ剣はとある2人の人物が持っており、天使の魔力はすでに日ノ本が所持しております」
「神父、その人物は誰なのですか?」
そうして神父はその人物を口にした。
「はい。皆様も知っているかもしれませんが大聖女の加護、虹色ノ剣は第3術科学校在籍の星乃零さん。大いなる力はその妹さんである星乃愛花さん。そして、天使の魔力は…」
神父が言い終える前にステージ袖からその人物が現れたのだった。




