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創られた世界に破壊を込めて  作者: マサト
天使顕現

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284/349

1分間の試合

 「……どうしてこうなった」

 第3術科学校にある訓練場。そこはいつも生徒が術の自主訓練を行う場所だが放課後の今は誰もいない…と思っていたが、どういうわけか多くの生徒たちが訓練場にある観客席にいるのだった。

 「さぁさぁ! 今から始まるのは我らの生徒会長である水河雄大! 対するは凡人以下の無能の星乃零による試合が行われます! 生徒会長である彼は学年一、いや、校内一の実力を持ち試験生成期は常に一位、術の実技も断然の一位とどれをとっても我が校の誇る有能者と言っても過言ではありません。そして星乃零に関しましては………特になしです!」

 この試合が行われようとしている場所では進行らしき生徒が笑いどころを含ませた内容で進めていたのだった。

 「そしてこの試合を見守っているのは、かの日ノ本十二大族からお二方が来ており、更には校長も見守られながら試合が始まるのを待っておられます。そしてなんと! 校長の許可を得てこの試合はこの学校サイトにある動画サイトより生中継で配信されています!」

 その進行者の言う通り、この場所は今ドローンが4機ほど飛んでおり、試合場の全体が見えるようにその場で止まっているのだった。ちなみに試合が始まる前だというのにすでに数百の視聴者がこの試合が始まるのを今か今かと待っているらしい…。

 「普通は2人だけで済ませるんじゃないのか?」

 「どうやら外で聞いていた生徒が自主的に行ったのだろう。まぁ、好きにさせるといい」

 本来ならば星乃零と水河雄大の2人だけで終わらせる手筈だった。だが、零が校長を裏拳で吹き飛ばしその際扉が壊されその音を聞き駆け付けた生徒がその後の話を聞いてすぐさま行動に移したのだろう。どうして人はこういう時に限って行動が早いのかが分からなかった。

 「それで改めて確認するけど、この試合に私が勝てば君には日ノ本にその内に秘めている力を渡してもらうよ」

 「何回言えばわかるんだよ。そんな力なんて知らないし、覚えなんてない」

 「まぁ、仮に君が知らずともこれは日ノ本が定めて絶対条件だ。これに逆らえば君だけでなく周りの親しい者にも危害が出ると思っても構わない。そう、例えば君の妹さんや君の居候先の方々にも、ね」

 そう言われると零は黙るしかなかった。が、

 「……へぇ、それって脅し言葉として受け入れていいのか?」

 「そうだな。そう受け取ってもらっても構わない。すべては日ノ本のためだからね」

 そうあっさり認めて零は「……そう」と呟くのだった。


 「なぁ、この試合どっちが勝つと思う?」

 「どっちも何も会長だろ」

 「そうそう、会長はあの朝比奈彰人と同等の実力を持っているっていう噂があるし、それに使う魔術も最大で5連続で詠唱出来るからさ。ぶっちゃけ、この試合の結果なんて見るまでもないし」

 「天才の会長と無能の星乃、どっちが勝つかなんて分かりきったことだよ。まぁ、出来レースだな」

 「凡人以下のあの無能が勝てるだなんて万に一つ、いや、億に一つもあり得ないよ」

 観客席にいる生徒は水河雄大に対して高評価、対する星乃零には低評価をそれぞれ言い合っているのだった…。

 「星乃零め、よくもこの私を無様な醜態をさらしてくれたな。本来ならばこの私が直々に教育してやろうと思ったが、男を教育したところで何の価値もない。だから水河雄大には私の代わりに奴を徹底的に痛めつけるよう言ってやったわ」

 「貴方っていう人は、どうして生徒相手にそこまで出来るのですか…」

 「ふん! 決まっているだろ。この私はコケにした罰だよ。奴にはこの配信で己の犯した罰をきっちり懺悔してもらわなければ気が済まない。だから私はこの配信に賛同したのだよ」

 「貴方は…馬鹿げてる」

 「どうとでも言えばいい。最終的には奴の持つ『大聖女の加護』というものを当主に渡さばそれだけでたんまりと褒美がもらえるのだからな。これほど楽なことはないだろうな! ハハハハハ!!」

 一方で校長と日ノ本の者たちは呆れるような話をしているのだった……。

 「ではルールを説明します。ルールは簡単。相手を戦闘不能、あるいは降参宣言のいずれかを満たした時点で勝敗が決まります。それでは両者、構え!」

 そうして進行者が試合開始の合図を告げるまであと数秒というところで

 「悪いけど、この後予定があるんだ。だから…」

 「試合開始!!」

 「1()()で終わらせる」


 「【炎よ吠えよ! フレア・バースト】!」

 先手必勝で先に仕掛けたのは水河雄大、彼は詠唱を唱えると手のひらから凄まじい炎が放出された。その大きさからして広範囲攻撃だろうか、捕らえた獲物を逃がさまいと零めがけて襲い掛かるのだった。対する零はというと躱すどころか防御態勢を取らず、向かってくる炎に対してその身一つで受け止めるつもりでいるのだった。その行動を見た生徒たちは「馬鹿だな」「これで決まったな」「あっけな」とボソッと呟くのだった。そして炎と零がぶつかりそのままドォオオオ!! と音が響くのだった…。

 そして音が止み、水河雄大の目の前には本来なら既に戦闘不能になってもおかしくないはずの星乃零がいたのだった…。

 だが彼は目の前の光景に対して動じることなく

 「【風よ、目の前の敵を貫け! ウインド・ランス】!」

 風を凝縮して出来た風の槍、それも5本を同時に生成、そして零めがけて放つのだった。だが、その結果は先ほどと同様、零に直撃しそのまま視界が隠れるほどの煙と同時に起きた爆発音で状況が分からなかったのだった。そして煙が晴れたときには零は無傷どころか表情変えずに突っ立っているままだった。その表情はまるで、何かしたか? というような表情であった。

 当然ながら生徒たちは何が起きているのか理解出来ていなかった。何せ先ほどの攻撃で水河雄大が勝利でこの試合が終わると思っていた、だが実際はその攻撃が零に直撃したというのに全くの無傷でその場で立っていたのだ。先ほど放った【フレイム・バースト】は威力が高く、生徒で使えるという時点で優れた術者であることの証ともいえる。他にも先ほどの【ウインド・ランス】も同じで、風を槍の形に凝縮する際、魔力のコントロールや風を槍のように生成する精密さが求められ、少しでも加減を間違えれば風が霧散してしまうほどの難易度である。そしてそれを水河雄大は5本同時に生成するという偉業を達したということで誰もが彼を『天才』と敬うのだった。

 「なら、【水よ、流れに従い敵を縛れ ウォーター・バインド】」

 繰り出されたのは魔力の水で出来た拘束用のリング。それが2本同時に放出され左右同時に零めがけて向かっていくのだった。魔力で出来た水は普通の水とは異なり、液体の水を液状だけでなく固形物に形状を変えることが可能となる。そうして放たれたのが【ウォーター・バインド】というリング状の物質である。

 そして零めがけて放たれたそれは拘束する前に先程と同じく衝撃音とともに視界を遮るほどの煙が三度零の姿を隠すのだった。


 「……なぁ、おかしくないか?」

 「おかしいって、何が?」

 「だっておかしいだろ。何で雄大の攻撃があの無能に直撃したはずなのに無傷なんだよ。放ったのはどれもプロ並みの威力だぞ? なのにどうして無能は無傷のままなんだよ」

 「そう言われたって、俺だって分からねぇよ。雄大の実力は俺たちクラスメイトが知っている。でもこれじゃあまるで…」

 「おい、そんなこと言うなよ。もしかしたらあの無能が何か細工をしているかもしれないだろ。そのせいであんな余裕そうな態度をとっているにちがいないだろ」

 「じゃあ聞くけど、その細工ってなんだよ?」

 「それは…これから探す!」

 試合を見ていた生徒たちは零が何か細工をしているかもしれないと勝手に思い込むのだった。

 「……なるほど、そういうことか」

 一方で、日ノ本の1人は零がどうして無傷なのか何となくだが分かったのだった。


 「分かったよ。どうして君が私の放った術を直撃しても無傷なのかを」

 「へぇ、言ってみてよ」

 「まず初めに、君の周りには不可視の防御結界が展開されている。そしてその結界にはある施しがされている。それは私の術に対してわざと相殺させるほどの威力で術をギリギリの距離で放つことでまるで直撃したかのような演出が出来るということだね。だが、どうしてこんなことをするのだい? 君にはこの試合に勝つという意気込みがないのかな」

 その回答はまるで正解だろと言わんばかりの言葉だった。だが、

 「……()()() ()()()()()()()

 零は水河雄大の言葉に溜息をつくのだった。

 「そもそも貴方は勘違いをしている。俺は術なんて一度も使ってないし、結界を展開するための魔力なんて持っていない。相殺は、まぁ、合っているが正確には相殺じゃない」 

 零はパチンと指を鳴らすと周囲に先ほどまで存在してなかった複数の物体がいくつも現れ、それらは全て零を囲むように展開していた。その物体はまるで中世時代に出てきそうな盾のような形であった。

 「俺はただこの盾を展開していただけだ。相殺も何も一切していない。貴方の攻撃はただこの見えなかった盾に全て防がれただけだ。あぁ、さっきに水はこの盾にぶつかった際に水蒸気となって蒸発しただけだよ。……で? もう終わりか?」

 星乃零にとって今までの攻撃全て何の脅威を感じていない。それほど目の前にいる人物は大したことのないと見ていたのだった。

 「…なるほど、では、その盾を壊せば私の勝ちということでいいのかな?」

 「やれるならやれば? どうせ壊せないけどね」

 「さて、それはどうかな?」

 そう言うと、片手を上へと掲げ

 「【フレア・バースト、ウインド・ランス、ウォーター・トルネード、サンダー・レイ、アース・インパクト】」

 詠唱により上空の5つの攻撃魔術が展開された。そして

 「【我が命に従い、目の前の敵を、完膚なきまで打ち倒せ】!」

 指示・対象・命令を用いて展開されていた5つの術が零めがけて放たれた。水河雄大による五連続詠唱攻撃【ファイブ・オーダー】である。放たれた術はどれも威力が高く、もしこの学生同士の試合でこの詠唱を使えば最後、その対象となった者は無事では済まないほどである。だがそれを彼は何の躊躇いもなく使用した。本来ならば危険行為だが、学生で使えるという時点で魔術の最高点に達しているといっても過言ではない。故に周りは止めるということも忘れ見とれていたのだった。水河雄大は将来間違いなくこの国を担うほどの大物になれると誰もが思っていた。

 そして放った【ファイブ・オーダー】を零の展開している盾へと直撃したのだった…。

 

 【ファイブ・オーダー】は当然ながら魔力の消費が桁違いである。一度でも使えば魔力枯渇症状を起こす可能性が高い。だが水河雄大は息を切らす程度でその場に立っていた。それほど魔力量が高いという証である。これで、彼も試合を見ていた生徒も勝利を確定していたつもりだった。

 「【六花永呪】」

 気付いた時には水河雄大の両腕、両足、肩、といった胴体に複数の短剣が突き刺さっていた。そして煙が晴れて彼の目の前では

 「なんだ。ほんの少しは期待していたけど所詮はこの程度。大したことないな、五連続詠唱っていうのは」

 先ほどと表情と態勢を一度たりとも変えていなかった。

 「それじゃあ、そろそろ1分経つからもう終わろうか」

 「な、なにw

 ドクン。短剣が刺されている体の部位から突如として異変が起きた。

 「ゴフッ!」

 突如として口から吐血し始めたのだった。それにより体を支えきれず前のめりに倒れた。だがそれだけでは終わらず、突如として体全身痙攣を起こし、短剣が刺されている箇所から先ほどまでの肌色から青紫色へと変化、皮膚は少しずつだが溶けるように剥がれはじめていた。

 「~~~! ~~! ~~~~~!!!」

 何か言葉を発しようとするも呂律が回らないのか言葉を発することが出来なかった。そんな彼の元へ零は歩み、

 「勝負あったな。…よし、じゃあ俺は予定があるから帰るね」

 「~~~!! ~~~~~~!!!」

 「え? なんて言ってるか分からないけど?」

 「~~~~~~!!! ~~~!!!!」

 「あぁ、もしかして……」

 苦しもがいている水河雄大の耳元に

 「先ほどまで余裕綽々だったのにこんな無様な醜態をさらされて悔しいのかな?」

 「~~~~~!!!!!!」

 「あはははは!! じゃあ、記念に写真撮ってSNSに流すね」

 そうして零はスマホのカメラでパシャパシャと撮るのだった。

 「見てみて。こんな無様な写真が撮れたよ。題名はどうしようかなぁ。『自信満々の生徒会長、無能に負けて醜い醜態をさらす』かな?」

 「~~~!! ~~~! ~~~………」

 最早反論するほどの体力がなく、目から大量の涙を流すのだった。

 「…まぁ、今すぐSNSに上げても面白くないか。ところでこの試合に勝ったらどうするんだっけ? あぁ、そうか、俺が勝ったらもう2度と日ノ本とは今後一切関わらないだったな。もし叶うのならその無様な姿から戻してやってもいいんだけどなぁ…」

 「……~~…」

 「あぁ、でもなぁ~、どうせすぐに日ノ本のためだー。当主様の命令だー。とか適当な言い訳をしてなかったことにされるんだろうなぁ…。そんな奴を助けたところでこちらにはデメリットしかないんだよなぁ…。そうなるんだったらこのまま放っておこうかなぁ…。うん、そうしよう」

 「~~~!! ~~~!!! ~~~~!!!!!!」

 「~~あぁもう、うるさいなぁ! そんなに騒いだら…」

 ザクッ!

 「うっかり殺してしまうだろ」

 短剣が水河雄大の目の前すれすれに突き刺さるのだった。その際、彼は見たのだった。短剣を突き刺している星乃零の表情は一見すると笑っているようだがその内心はとてつもないほどの悪意で満ちていると…。

 「…まぁ、現時点で俺の大切なものに手を出していないということもあるから特別に戻してあげる」

 そう言い零は何処からともなくとある色をした液体の入った1本の小瓶を取り出し、そのまま開けて直接水河雄大に液体を流すのだった。

 「ただし忘れるな。今後一切どんな理由であれ日ノ本の件に関わらわせようとするならお前はもう2度と死ぬまで一生日の光を見ることはないと覚えておけ」

 そうして約1分間の試合は星乃零の勝利で終わるのだった。

 

 ちなみにだが、六花永呪の効果が表れて以降は多くの生徒があまりの怖さを見たためか顔を青ざめたり、悲鳴声を上げたり、嘔吐をしたりとてんてこ舞いであった。そして後日この配信を見ていた視聴者からは大量のクレームやコメント欄にもこの学校に対する誹謗中傷(主に零が原因)がしばらく止まることはなく教師陣はその対応に追われるのだった。それからしばらくして今日配信された生配信動画は完全に消去されることが決まり、2度と見ることができなくなるのは当然のことだった……。 

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 大体1分ぐらいで見終われるように書いております。  内容次第では少し長くなります。
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