無能からの提案
そこは学校内にある学食堂だった。
食堂のメニューには、カレーやカツ丼、うどんやラーメンと言った麺類、菓子パン、そして、カロリーバーが売っている自動販売機…等が置いてある。それに値段も安く、学生にとってはありがたいのである。そんな食堂の隅に1-Gのクラスメイト6人がいたのだった。
「それにしても、まつ‥‥松なんちゃら先生って貴方たちの事に関して詳しいんだね」
「あ、あぁ、まぁ、そう、だね」
「松なんちゃら先生じゃなくて、松島先生だよ星乃…さん」
「星乃でいいよ。小笠原君」
「‥‥そうか」
等他愛もないやり取りを行っていた。
小笠原陽彩。彼は【魔術】を使えるらしい。そして松…何とかからは彼を何故か欠陥品と呼んでいる。理由は不明。今学期から転入してきた生徒である。
「でも星乃君は、先生からあんなこと言われて平然としていられるの?」
そう聞いてきた少女——大和里見。彼女は大和という昔いた人の名前のように【剣術】が使える。彼女は、松・‥‥から大和の無能と言われていた。こちらも理由は不明。彼女も他校からの転入生である。
「むにゃ、むにゃ…」
寝ながらも器用に食べているのは柳寧音。彼女は【召喚術】が使えるらしい。この子も同じく転入生である。
「あーもう、寧音。ちゃんと起きて食べなさい」
そんな寧音のお世話をしているのは柏木理沙。彼女は【拳闘術】が使えるらしい。柳寧音とは幼馴染である。そして同様転入生。
そして最後に、あまり食が進んでいない彼女は確か・・・
「星宮さん。あまり食が進んでないけど大丈夫?」
と声を掛けると、
「っ! いや!!!」
と怯えながらいきなりコップに入った水を掛けたのだった。
そして、彼女は自分が何をしたのかすぐさま気付き、
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい…‥」
何度も何度も謝るのだった。そこへ、
「おやおや、そこにいるのは【無能】の星乃君ではありませんか」
…‥このねちねちした言い方は、
「何の用? 陸翔」
「つれないねぇ。折角僕も君たちの親睦会、いや、無能同士の集まりか! 失敬これでは私は仲間に入れませんねぇ!」
そんなことを言うと
「いよっ、さすが陸翔様!」
「冗談がお上手だ!」
案の定取り巻きの二人がそうおだてるのだった。
実際、この食堂には零たちに他に様々なクラスの生徒たちがいた。彼らは陸翔の台詞に「いいぞ陸翔!」「もっと言ってやれ!」「ここは無能が使っていいところじゃなぇんだよ」「さっさと失せろ!等々の罵倒を浴びせられた。これに対して小笠原は
「どうして無能はここにいてはだめなのですか! ここは在籍している生徒なら自由に使っていいのではないのですか!」
そう言うと、周りは静寂し、やがて一人の生徒が、
「ぷ、ぷぷ、ぷははは…何言ってやがる! ここはなぁ、元から無能の奴は使えないようになっているんだよ! さっきから思ってたんだけどなぁ、おい星乃! なんで1つの術すらも使えない無能中の無能がいるんだ! さっさと消えろ!」
そう言うと、立ち上がりあろうことかテーブルにあったナイフを零に向けて投げたのだった。そして誰もが零の顔に刺さる光景を予想しただろう。だが、
零は動じずに人差し指と薬指で挟むように受け止めるのだった。
そして零はそのナイフを自身のテーブルに置き、
「…行くよ」
そして他の5人は零に慌ててついていくのだった‥‥
場所は屋上へと移り…
「星乃君、術者なのに術が使えないって本当なの?」
里見は誰もいない屋上でそう問いただした。屋上は常に開放してるがこの時間帯は生徒たちは帰宅しているか先ほどの食堂にいるかである。
「…‥まぁ、そうなるかな」
「そんな…」
「まぁ、そう落ち込むなよ。術が使えないけど、事実退学してないし」
「でもそれじゃあ、理不尽だよ。どうして皆は星乃君にあんなひどいことを言うの?」
「仕方ないよ。ここにいる生徒は最低1つの術が使えるし、俺はこの学校に紛れ込んだ害虫みたいなもんだ」
「害虫って‥‥」
「まぁ、俺の事はいい。さっきの光景を見てどう思った?」
「えっ、どうって、あんなの…あんまりだよ」
「じゃあ、この学校を変えたい?」
「…‥変えたい。そう思った、でも」
「力が足りない。でしょ」
その回答に対して4人は心を見通されているかのようだった。でもだからといって今のままではさっきの生徒達誰1人にすらも勝てるわけがない。そう思っていた。が、
「‥‥鍛えてあげる」
「えっ」
その一言に4人は零を見たのだった。
「もう1度言う。鍛えてあげる」
ちなみに、柳寧音は立ち寝をしていたのだった。




