2度目の魔族襲来 Ⅲ
その場にいた者たちは未だに状況が理解出来ていなかった。何故なら先ほどまでいた星乃零がいきなりこの場から消えたのだから…。だが、それで何かが変わったわけではなく未だに状況は良くない、…いや、おそらく悪化したことだろう。何せ先ほどまでオーガ族相手に全く動じず、さらには何かしらの方法でそのオーガ族を吹き飛ばしたのだ、その彼がこの場にいなくなったということはこの魔族たちに囲まれている状況下で対処出来る者が誰もいないということで……
「残念だったわね、人間ども。先ほどの人間がいなくてはお前たちはもう何も出来ないな。…いや、違うわね。お前たちはその人間に見捨てられたんだわ」
1人の魔族がそう言うとクラスメイトたちは「そんな…」「どうして、いなくなったんだ…」「もう、終わりだ…」と全てをあきらめたかのような表情を浮かべるのだった。
「さて、さっき上から連絡が入って、もう貴方たちには用はないわ。だから、私たちに奪われるだけ奪われて…死んでね」
それが合図となり壊された壁の外から一斉に魔族たちが襲い掛かるのだった。武器を用いて断末魔を聞くため、鋭利な爪で引き裂くため、死ぬ寸前まで繁殖行為を行うため…それぞれの魔族はこれらを叶えるために自身よりも弱く、ただ怯えることしか出来ない人間に向かうのだった。
そして、あとほんの数メートルで叶うところで……
「みんな、つっかまえたぁー」
魔族の手や足、そして胴体、首に何かが巻き付いて身動きが取れなくなるのだった。
「な、何よ、これ! 全然、動けないんだけど!」
体中に巻き付かれたそれはいくつもあり、解こうと体を動かしたり、掴み、武器を振り下ろすも全くピクリとも動かなかった。
その巻き付いているこれらの正体は 白い手だった。このいくつものの腕は人間の腕の形をしており大小は異なるが、力は魔族ですらもピクリとも動かせないほどの腕力を秘めていた。そしてこの腕たちにはすべてに共通するものがある。それは大小異なる腕には赤い液体が肌を隠すほどたくさん付着していたのだった……。
「おいお前たち! そんな腕如きサッサと振り解いて私を
「きゃははは!! 無駄だよ。お前たち魔族程度じゃあそれは解けないよ」
ハーピィー族の助けを遮るかのように割り込んできたのは1人の少年だった。誰がどう見ても8~10歳ほどの人間の男の子だった。
だがここで違和感に気付く。この少年は一体どこから入ってきたのか、そして何故誰も感知されずに平然とに座っ教卓に座っているのか
「無駄ですって? はっ! 笑わせないでよ。私は魔族、貴方はただの人間。つまり人間がどれだけ魔族に抵抗しようが痛くも痒くもないのよ!」
魔族の体には魔力で練り上げられた強固な障壁が常時展開されており、それにより魔族たちは人間の繰り出すありとあらゆる術攻撃を弾き返すことが出来それにより魔族たちは絶対的な自信が備わっているのであった。だが、
「ふ~~ん。それじゃあ、さ、こんなことされても痛くないってことだよね?」
男の子はたまたま近くにいたゴブリン族へと手を伸ばし武器を持っている方の腕を掴むのだった。対するゴブリン族は平然としていた。何故ならゴブリン族にもありとあらゆる攻撃を跳ね返す結果が張られており、人間、しかも子供が何をしようがどうせ痛くも痒くもないことをされるのだろうと思っていたのだった。だからそのまま受け入れるような余裕の表情をして……
ブチブチブチィィィィ!!!!!
教室に大量の血しぶきが飛び散るのだった。その出どころは当然先ほどまで余裕の表情をしていたゴブリン族からであった。この場にいた生徒たち、いくつものの腕によって身動きが取れなくなっていた魔族たち、そのどちらもこの状況に対して理解が追い付いていなかったのだった…。そして
「……ガ、ガァァァァアアアアアアアア!!!!!」
腕をいきなり失い、そして遅れてきた激しい激痛とともにゴブリン族は絶叫したのだった。そしてそれが引き金となり「きゃああああ!!!」「あ、あ、あああああ……」「うっ、うぉええぇぇぇ……」叫ぶ者、怯える者、嘔吐する者と生徒たちはそれぞれ目の前の光景を目の当たりしてこれらを行う生徒が続出するのだった。
「……は、は? 一体何が起きたの…?」
対する魔族たちは先ほど起きた光景にようやく状況が理解し腑抜けたようなかと場を発したのだった。その子供は誰がどう見ても力を入れてゴブリンの腕を引っ張ってなどいないことは確認済みだ。なのにどうすれば少し引っ張っただけで片腕がもぎ取られるほどの腕力が出せるのだろうか……。
「えぇ~~。どうしてほんの少し引っ張っただけで千切れちゃうの?」
そして男の子はそんな疑問を言いながら千切った腕をあろうことかそのまま口の中に入れて咀嚼音を鳴らしながら最後にゴックンと飲み込むのだった。
「バ、バケモノ…」
そんな言葉を魔族の誰かが言った。そして次の瞬間その者は瞬く間に首と胴体が離れ離れ、つまり絶命したのだった……。一体誰がこんなことをしたのか? この状況下で出来る者なんて1人しかいない。
「…ねぇ? 誰が僕のことをバケモノって言ったの? 君? 君かな? あぁ、それとも君かな?」
そう言いながら次々と身動きの取れない魔族たちを次々と殺し始めるのだった。男の子は手のひらを魔族たちに照準を合わせてそのままヒュンと振るうと首や胴体に命中、そして真っ二つとなり絶命…。まるで振るった手のひらから見えない真空の刃が出ているかのようだった……。
「僕はね? バケモノって言われるのが大っ嫌いなの。僕にはご主人様からくれたアサヒって名前があるんだから、さ」
そしてこの教室にいたであろう十数の魔族たちは気付けばハーピィー族以外は全員絶命しておりその証拠に教室の隅々まで血しぶきが飛び散っていたのだった……。ようやくアサヒは「あっ、そうだ思い出した思い出した」とそう言いながら本来の目的を唯一生き残ったハーピィー族に告げるのだった。
「ねぇ? どうして魔族たちがこんな利益のない場所を襲撃したの? ここを襲撃したってそっちが得することなんてないよね?」
「り、利益? そ、そんなの…一兵のあたしが知るわけが…」
「ふ~~ん。じゃあ、用はないね」
そう言うだけで最後に生き残ったハーピィー族の首を何の躊躇いもなく手刀で斬り落とすのだった……。
この地獄のような光景は何もこの教室だけで起きていることではない。各階各教室でも同様魔族が壁を壊して生徒や教師に襲い掛かろうとしていたのだが、魔族に対してだけいきなり現れた赤い液体が付着している無数の腕が一瞬で拘束、そしてその教室同様突如として幼い子供がそれぞれの階、それぞれの教室に現れてその場にいる魔族たちを次々始末していくのだった……。誰かが言うにはその子供たちは殺しというものをどこか楽しんでいるらしかった…。
「…はぁ~、折角ご主人様に褒められる機会だっていうのに誰1人として情報を持っていないだなんて…」
『…で、でも、ご主人様からは雑魚を始末しろって言われているだけだから…きっと誰も持っていないと思う…よ?』
「はぁ~~、だよなぁ…。アサヒの所も成果なしだってさっき連絡が入ったよ。ヨヅキは?」
『私も…誰も、これかな? っていうものはなかったよ? ……と、ところで、マヒルお兄ちゃん…』
「ん? どうしたヨヅキ?」
「……この室内の後始末……どうしよう?」
『……………あ、あぁ…』
この血で染まりきっている部屋の後始末に関して悩む2人だが、現在、隣の校舎では3人のいる室内以上の被害を出している者が絶賛暴れているのだった…。




