強化合宿前日
その夜…星乃零はとある人物と連絡をしていた。
「…で、どうだったのじゃ?」
「それは勿論、全員に断られました、はい」
お昼頃、零はクラスメイトのそれぞれの術を鍛えようと思い、提案を持ち掛けたのだが、
『星乃君』
『うん』
『悪いけど、無能って言われている人に教えてもらうのはどうかと思うよ。それより、零君自信を鍛えた方がいいと思うのだけど…』
『うん…‥うん?』
そう言うと4人は屋上を去って行ったのだった。だが、ある人物は最後に零の方をチラッと見てからその場を後にしたのだった‥‥
「まぁ、無理もないじゃろ。お主は人の誘い方が下手じゃからな」
「仕方がないだろ、今まで人あんまり関わらないようにしてたんだから」
今も電話越しでのその人物の笑いは零の精神にダメージを負わせるのだった。そしてようやく笑い終えると、真剣にこう言った。
「お主、いつまでそんなどうでも良い設定を続けるつもりなのじゃ」
「………」
その人物の一言に零は黙るしかなかった。
「お主は分かっているだろうがあえて言わないが、これだけは言わせてもらうぞ。もう2度と大事なものを失うな」
「あぁ、分かっている。この設定もそろそろ限界を感じているからな」
「そうか…なら良い。それと、もう少しで【アレ】が完成するから楽しみにしておくのじゃぞ」
「あぁ、【アレ】…ね」
何かを察したのかそれ以上は何も言わなかった。
ちなみに、今日の喫茶四季の晩御飯は、ハヤシライスであった。
翌日、学校では授業が始まるのだった。
内容は、それぞれのクラスによって違う。あるクラスでは基礎体力の向上、またあるクラスでは術を使用したゲーム、そしてあるクラスでは体育館でプロが行っている訓練に近いメニューを行ったり様々である。勿論、普通学校で行うような座学の授業もある。そんな中、零達1-Gはというと‥‥
「先生、来ないんだな」
「本当に僕たちを自主退学させるつもりだろうね」
今日の朝のホームルームで隣のクラスの教師から「今日から約1ヶ月松島先生は体調不良でお休みします」という連絡が来たのだった。これには全員『嘘だな』と悟ったのだった。それに教師が来ないと学校内にある設備が使えない決まりとなっており、これから1ヶ月は1-Gは教室以外の施設が使用できない状況となったのだった。代わりの教師をお願いしたが、どの教師も「忙しい」との一点張りで誰も引き受けてくれなかった。
このままだと、今月末にある【術強化合宿】に大きな影響を出してしまう。
【術強化合宿】それは4月と11月の年に2回ある1学年全員参加の強化合宿である。毎年、私有地の山をお借りして1週間そこで学校側が用意したエネミーもどきを対処しながら自給自足の生活を送らなければいけない大きな行事ごとである。
「みんな、まずは今自分が出来ることを考えよう。あんな教育放棄の先生に頼らないやり方で僕たちの底力を見せつけて、他のクラスに存在を認めさせよう。どうかな?」
小笠原陽彩がそう言うと、「そう、だね」「確かにな」「う~~ん」「……」弱冠一名寝ている者がいるが、こうしてこれから1か月間教室内で出来るトレーニングを各自行うのだった。
日付が変わるのはあっという間である。気付けばもう【術強化合宿】前日となっていた。各々明日の準備に備えて術の性能を少しずつ上げたり、持っていくものをクラスの者たちと話し合っていた。そんな中昼休み、零はとある場所にいたのだった。
「…で、会長、何か用があったから校内放送したんじゃないのか?」
「ん~~、別に~、話し相手が誰もいないからどうしようかと思ったら零君の顔が浮かんだからすぐに用事という建前で呼んだの」
「なんちゅう行動力…」
朝比奈莉羅はこの学校に通う者ならばどれもが知っている生徒会長である。生徒たちからは品行方正、文武両道といった完璧人と言われている。だが、零の目の前の彼女は、生徒会にゴロンと寝転がりそのままポテチを食べたり、コーラーを飲んでいる。そして挙句の果てには家庭用ゲームをしている。生徒会の机に置いてあるパソコンだが、その中には18禁のゲームがいくつも入っているとか何とか…それについては真偽が分からない。
「はぁ、用がないなら帰りますよ。明日から【術強化合宿】が始まるんですから、その準備をしないといけないので…」
「むぅ~~零君はそんなことしなくていいの! ずっと私を甘やかしていればいいの!」
ほっぺを膨らませてぷんぷんと怒るのだった。可愛い…
そんなことを思っていると、生徒会のドアが強く開き、
「ちょっと莉羅! もうすぐ昼休みが終わる…って、ああもう、またこんなに散らかして! こっちの片付ける身になってよ!」
「あっ、瑠璃ちゃん~おねがぁい」
「何で私がいつも片付ける前提になってるの! 莉羅! 貴方も手伝いなさい!」
「えぇ~~」
水河瑠璃はそう怒りながらもテキパキと散らかったお菓子やゴミを片付けるのだった。
結局、莉羅会長に呼ばれた理由は全く分からず、掃除が終わるころには昼休みが終わる予鈴が鳴ったのだった‥‥
放課後、俺はとある人物の後を追った。その人物は帰りのホームルームが終わるとすぐに教室から居なくなるので探すのに手間がかかる。だから、こちらも帰りのホームルームと同時にその人物と少し間を開けて教室を後にした。途中陸翔の声がしたけど、まぁ、気のせいだろう‥‥そして後を追っていると途中でその人物を見失ってしまった。一体どこに行ったと辺りを見回たすと、どこからか声が聞こえた。その場所は‥‥
「なぁ、嬢ちゃん。ちょっと付き合ってもらいたいところがあるんだけど」
「ねぇ、そんな急いでどこ行くの? もし良ければ俺も連れて行ってよ」
帰りの途中、私は知らない男性に声を掛けられた。あの日以降私は男の人に対して拭いきれない恐怖心を植え付けられた。しばらくしたら落ち着くけど、この男性たちはどこかに行ってくれない。そんなことを思っていると、
「おいおい、おめーら、こういう女にはな、こうするといいんだぜ」
すると、1人の男が突如私の腕を強く掴み逃げられないようにしたのだった。
「ひっ!!!」
腕を掴まれた瞬間、電車内でされたいかがわしいことの記憶が鮮明に蘇った。そして…
「ん? おい、このガキお漏らししやがったぞ!」
そんな恥ずかしいことを大声で叫んだ。
「へぇ、じ、じゃあ、替えの下着を用意しないと‥‥でもその前に」
「ちょっとぐらい‥‥ヤってもいいよなぁ。みた感じ処女そうだし」
「じゃあ、今からこの子のパンツ脱がせまーす」
そう言い終えると1人の男は私のスカートの中に手を掛け始めた。
「やめて」と言う勇気が出なかった、体がもう動かなかった。私の中にあるのは、恐怖心だけだ。でもきっとすぐに終わるだろう。私が何もしなければこの人たちも満足するだろう‥‥もう何もかも諦めよう…‥そう思い目をゆっくり瞑った。だからだろうかこんな言葉が無意識のうちに出たのは‥‥
「助けて、れー君」




