あれから8ヶ月ほど···
この世界には人間の住む世界と異なる場所がある。そこに行くためにはとある方法でしか行けず今の人類ではそこへ行くことはまず不可能である。ではその先に何があるのかということだか、まずそこは人間の住む世界と異なり大きな建物はとある場所しかなくそれ以外は小さな村や小さな町ぐらいだけである。そしてそこに住む者たちは全員人の姿をしていない。人の姿をした動物や魔物が住んでおり、彼らは時折出没する獣を倒したり、食材にしたりと生活を送っていた。彼らは亜人、あるいは獣人と呼ばれており人間と変わらないような日々を過ごしているのだった。
この世界で最も大きい場所と言われているところが魔族が暮らす場所と言われている魔族の国である。魔族の国はこの国最大と言われているほどの大国でそこに住む市民たちはおよそ数万人といわれている。そしてこの国のいいところは亜人族でいうことが証明されれば自由に出入りすることができるので商人にとってはなんとも便利な機能である。そして魔族の国には軍が設立されており国の近辺や村に出没した獣の討伐を行っていることから市民たちは安心して生活を送っているのであった。
そしてこの国には軍隊を指揮する者たちがおり、彼らは亜人や魔族の中でも飛び抜けた実力を持ち、そしてこの国を統べる王の力の一部を与えられて以降数々の敵を撃破してきた国一番の猛者たちであった···。
カツ、カツ、カツ、カツ······
魔族の国にある軍施設を一人の女性が歩いていた。その女性は人間と異なり肌の色が褐色で髪の色は灰色である。だがその容姿はこの国いちと言っても過言ではないほどの美しく、もし男性に告白でもすれば相手はほぼ確定でお付き合いの申し出を受けてしまうだろう。だが、その女性の表情はあまりにも機嫌が悪くすれ違う者にとっては睨まれただけで殺されるのではないかと錯覚してしまうことだろう。だがそんな女性に1人の男性が何事もなく声を掛けるのだった。
「どうしたミザリー、そんな顔では男どもがちびってしまうぞ」
「黙れタイロス、気安く声を掛けるな」
「そんな釣れないこと言うなよ。俺とお前の仲だろ」
「誰がお前となんか···死にたくなければさっさと視界から失せろ」
「暇なんだよ。ちょっとぐらいいいだろ?」
「さっさと消えろ」
ミザリーはタイロスに一切構うことなく目的地まで歩いていくのだった。だが、タイロスと呼ばれるその者はその言葉通りに従うことなくついていくのだった。
「···お前といると気分が害されるんだが」
「そうか? 俺は楽しいけどな」
「私は最悪だけど」
「じゃあいいな」
そんなどうしようもなく噛み合わない会話を行いながら目的地へと向かう二人の前に
「おやおや? ミザリーとタイロスではありませんか?」
「ちっ、お前かサタルド」
その者は亜人や魔族と異なり実体がないことから奥の通路が薄く見えるほど透けているのだった。この者も妖魔族の中でもこの国の誇る屈指の実力を持ち合わせている強者である。
「そんな言い方をしなくてもいいのではありませんか? 私と貴方は同じ王から力を授かった者同士なのですから」
「いい加減その言い方に腹に立ってきたから殺していいか?」
「おぉ物騒ですなぁ」
殺意を込めた一言ですらこの者にとっては単なる挨拶にしか思っていないのであった。
「···そろそろ機嫌を治したらどうなのですか? たかが人間ごときに敗北とはしたとはいえあれから時間がだいぶ経つことですし···」
ヒュンッ
いきなり鞭が顔面めがけて伸びていくのだがそれを容易く止めるのだった。
「私の前でその話をするな!」
そう言うと来た道を回れ右を行い
「おや? 今日は行かないのですか?」
「黙れ、お前のせいで気分が害されたから出直すだけだ」
そう言うと去っていくのだった。
「···そういえばミザリーのやつに一体何があったんだ? 聞いたけどよぉ、全然話してくれなくてよぉ」
置いてけぼりにされたタイロスはサタルドにそう問うのだった。それを聞いたサタルドは「あぁ、そういえば貴方はあの時遠征中でしたね···」と呟き
「今から8ヶ月ほど前にミザリー率いる軍隊が人間を襲撃したのですよ。そしてあともう少しで贄として王に提供する寸前で救出に来た人間によって台無しにされたのです」
「何だ? それ失敗であいつはあそこまで落ち込んだのか?」
「話はまだ終わっていませんよ。その中のうち1人の人間だけは他の人間と比べて並大抵ではない力を秘めており、そしてその人間の放った一撃は大地を抉り、駆けつけた軍隊を壊滅させるほど、とのことでした。ですが不思議なことに軍隊は壊滅させましたが全員死亡はしていなかったのです。そのことから彼女はおそらくこう思ったのでしょうね。手加減された、と」
その出来事を話し終えると
「な、何だよそれ······」
「···やはり貴方も彼女と同じく
「すっげぇぇぇなぁぁぁ!!! その人間!」
「·········はい?」
「その話が本当なら急いで遠征を終わらせるべきだったぜ! くそぉ、あの時あの獣がすばしっこくてなかなか仕留めきれなかったんだよなぁ···」
タイロスはその人間のことを聞いて勝手に盛り上がるのだった。
「···てっきり、舐められたものだ···とか言うと思ったのですが···」
「んなこと言っている暇なんかねぇだろ! で! そいつの特徴は何だ! 今すぐ会いに行くからよぉ!」
その姿は我慢のできない子どものようであった。
(···武人というものは誰もかれもこのような血の気が多いのでしょうか······)
やれやれと肩をすくめるサタルドであった。




