無能と日ノ本十二大族の当主 Ⅱ
忍者のような姿をした者に星乃零は首を斬られた。1秒もかからないであろうその動作をこの場にいる者全員がその目で確認した…。そしてその畳の上には斬った際に飛び出た血が大量に付着、そして星乃零はそのままバタンと倒れたのだった。その忍者のような姿をした者はこの日ノ本十二大族で秘密裏に動く影の集団、簡単に言ってしまえば潜入調査や対象の尾行、そして汚れ仕事を難なくこなすための集団である。そしてこの者はその集団の中でも指折りの実力を持っており、その実力は当主である朝比奈海斗も買うほどである。これまでこの者たち影の集団は日ノ本に危害を加えそうな企業や人物を命令1つで次々と潰したり、殺したりしてきた。当主が『この企業を潰せ』『この者を殺せ』というだけで何も考えずにそれらを全て実行してきた。彼らは朝比奈海斗の言うことがすべて正しい、とそれをこれまで1度も疑いもなく過ごしてきたのだった。全てはこの国の平和のために……。
そんなこの者だが星乃零を首に刃を当てた状態でそのまま横に動かして始末するのに1秒もいらなかった。それほどまでに容易な事であり、これまで受けた命令の中で一番簡単な内容であった。そして合図を受けてそのまま零の首にスパッと軽く斬っただけでその傷から大量の血を出しながらそのまま絶命した‥‥‥それは当たり前の事で間違いのない事実であった。仮に彼が万が一何か起こそうが1秒足らずで何かが出来るわけがないし、何かを起こすことなど不可能である。それは結果を見るよりも明らかな事、そう思っていた。
「がっ…は…な、何故、だ…」
だが、例外を挙げるとするならばその者が斬ったであろう星乃零は普通の人間などではない。その証拠に目の前で倒れたのは全く似ても似つかない別人でこの場にいた日ノ本十二大族の者であった。
その光景を見て誰1人例外もなくざわめきが起きた。目の前で顔見知りの者が死んだのだからその者関係者は悲鳴を上げることも無理はなかった。だが、当主である朝比奈海斗も技化ばかりの動揺を見せたがすぐに冷静さを取り戻していた。そこは流石の当主の貫禄が備わっていたのであった。そしてすぐさま辺りを見渡し星乃零を探すのだが
「ギャーギャーうるさいな。ここは動物園か?」
その声の主は襖の扉を開けて入ってきたのだった。その正体は当然ながら星乃零であった。彼の首元には魔武器の刃によって斬られたはずの出血痕がなく、それ以前に刃を長い間当てられてできていたはずの少量の血の跡すら残っていなかった。
「…一体何をした?」
思わず朝比奈海斗は零に尋ねた。だが「答えるわけないじゃん」と言うとフッと姿が一瞬で消えてしまい、次に姿を現したと思えば
「貴方、俺を殺すのに0.7秒かかってたね? でもさぁ、その秒数じゃあ俺に猶予を与えてしまうよ。…もし俺を殺したければ…」
忍者の姿をしたその者の背後に立っており、そして零はその者を畳の上に顔から勢いよく叩きつけたのだった。
「0.1秒でやり遂げないと俺を殺せないどころか傷1つも付けられないよ?」
そうしてその者は意識を途絶えるのだった…。
「…さて、貴方と話すことは何もなくなった…と言いたいところだけど俺からも1ついいか?
来る脅威、これはどういう意味だ?」
「‥‥‥何のことだね?」
「いや? 前に第3術科の校長が言ってたんだ、来る脅威に備えて、と。エネミーなら分からなくないこともないが、脅威とは何だ? そしてお前たちは何を企てている?」
「…なるほど、あの者が日ノ本以外に告げたようだな。全く日ノ本以外には告げるなと言ったというのに…あのバカ者め」
来る脅威という言葉を聞いて海斗はその者に対して溜息をつくのだった…。
「なるほど、その反応から知っているようだな」
「仮に知っていても君に教える理由も義理もない、何せ君は日ノ本の者ではないからな。まぁ、君が私の元へ来るというなら教えてやっても構わないが…」
「はっ、それだけは断固拒否するよ」
日ノ本十二大族は一見するとこの国に大きく貢献していると考えていてもいい、だが、この巨大組織にはあのくそ組織の内の1人、あるいは数人が関わっている可能性が高い……故に零は日ノ本十二大族の元に降るつもりは毛頭ない。
「あぁ、それともう1つあったんだった…。俺の妹のいる国立病院、その地下深くには化け物がいるんだろ?」
それはしばらく前の事である。零の元に1本の連絡が入ってきたのだった。連絡してきたのはジュダルからであった。この時零はどうせ暇つぶしでかけてきたんだろうなと思い連絡に出たのだった。
「なに? どうせ暇つぶしがてらで連絡してきたのか?」
『んー、まぁ、それもそうじゃが、実は気になるものを見つけてのぉ。これはお主が可愛がっている愛花という者と関係があるかもしれぬぞ』
「…へぇ? 聞かせてくれよ」
『愛花という者が入院している国立大病院じゃが、あそこが出来る前は小さな神社じゃったそうじゃ』
「それはその神社を管理している神主がいなくなったから、その代わりに出来たのが病院ってことか?」
「まぁそう結論付けるでない。その神社にはあるものを代々守っていたらしい。それはなんでも数多の化け物、負の感情を集結したかのような人外、昔戦死した者の怨念で出来た怨霊…と色々そんな噂があったらしいのぉ』
「…なぁ、それが仮に本当だとしたら何でその神社のあった場所なんかに病院を建てたんだ? というか普通そんな場所に病院なんて建てることなんてあり得ないだろ?」
『まぁ、始めはその神社の神主は当然ながら反対はしたそうじゃ。何せ神社には先ほど言った存在が封印されていたのじゃからのぉ、じゃがあることを機に神社は取り壊され、そのまま病院が設立されたのじゃ。…のぉディア、一体どうしてこれまで反対していた病院設立が出来るようになったと思う?』
ジュダルのその問いに考えるまでもなかった。
「‥‥‥もしかしなくてもその神主を殺したのか?」
『そうじゃ、そしてその神主は妻子持ちじゃった。その者たちも容赦なく殺した。そして神主を指示する者も同様に殺した。これで反対する者は1人としていなくなり病院の設立が可能となったのじゃよ』
ジュダルの情報収集力は本物で零も認めるほどであった。そんな彼女が言うにはこの話も本当という事となる。
『そしてその実行犯は…』
「‥‥‥日ノ本十二大族の関係者、そうだろ?」
『そうじゃ。正確にはその組織内で秘密裏で動いておる闇夜の集団、という者たちじゃ』
「…‥‥‥分かった。それで、愛花とどう繋がっているんだ?」
『‥‥‥その者の体内には3年前にあのクソ組織の内の1人から受けた呪いが宿っておるのじゃろ、恐らくその呪いを神が授けた奇跡、脅威を乗り越えるための希望‥‥‥なんてありもしない嘘を信じ込ませたのじゃろうなぁ。そしてこんなことでも言ったのじゃろうな。
12月25日はその秘められた力が1番発揮される。その日に封印された大いなる希望に奇跡の力を宿りし者を贄と出せばこの国に永久の平穏が訪れるでしょう···とな。
そんなことあるはずなかろう。待つのは破滅だというのにのぉ…』
「25日…か。なぁ、仮に、仮にだぞ? 愛花をその化け物に贄として出した場合愛花はどうなる?」
『知っておるじゃろ? 十中八九、死ぬぞ。それに封印という事は恐らくその日に封印の結界が崩壊するという事となる。つまり、贄として出しても出さずとも結果的にその化け物が解き放たれるのはまず間違いないはずじゃ。そして恐らくじゃが、奴等はその化け物に贄を出せば手中に収められるとでも思っておるのじゃろうのぉ。馬鹿な奴等じゃ』
日ノ本十二大族がその化け物に殺されようが零にとっては雑草を引き抜く程度のように何とも思わない。だが愛花が、守るべき存在に危険が及ぶというなら…
「その時は俺がその化け物を始末する。簡単な事だ」
『まぁそうじゃろうのぉ。念のためこちらからも当日クランを病院付近で待機させるように命じておく』
「あぁ、分かった」
そうしてジュダルとの連絡を終えるのであった…。
「化け物? 君は何を言っているのだ」
「なるほど、黙秘するという事か。まぁそんなことは分かっていたことだ。端的に言うけどあれは貴方たち人間が手中に収められる存在じゃないぞ。それどころかこの国の半分は数日、いや1日で滅ぶぞ?」
「やれやれ、君の言っていることは理解が出来ない。私たちの思想は永久の平和だ。戦争はそうだがこの国に住む人々が安心して生活を送れるように私たちは日々対策を練っている。それを邪魔するのがエネミーである。そして私たち日ノ本十二大族はいずれエネミーを産み、この国を滅ぼそうとしている害なる元凶である組織を壊滅させるために作られたのだ。それを私の代で終わらせてこの国を平和に導くのだ」
そんな力説に「当主様…」「流石です…」「私もお手伝いします」と1人、また1人と声を上げるのであった。そんな中「‥‥まぁ、好きにすればいいさ」と言い零はもうこの場にいる理由がないと分かったのか襖の扉を開けて出ようとした。だが
「まぁ待ちたまえ星乃君。そろそろ封印された希望を私たちが手にする瞬間を見届けようではないか。ちなみにこの屋敷内にはS級エネミーでも壊しきれない強力な結界を張っている。いくら君がS級並に強いだろうが君でも壊しきれないよ」
その言葉通りこの屋敷内には結界が張られていた。結界は本来外側から身を守るためのものだが、この結界はどうやら特殊なのか当主が自在に操作できるのかいつの間にかこの畳部屋を囲むように展開されていたのだった。軽く叩いたがビクともしなかった。どうやらそれなりの強固さがあるようだ。そうして諦めたのか零はこの部屋から出るのをやめ「…なぁ、1つ聞くけど」と当主である海斗へ顔を向けて
「貴方たちはこの国を救うためなら犠牲がいるとでも思っているのか?」
「ふむ。何を言うのかと思えば実に容易な事だな。答えはハイだ。犠牲無しでこの国は永久の平和は訪れることはない。君にとって最愛の妹だろうが、私たちにとってただの生贄だ。残念だが諦めてくれ。君の妹はこの国に貢献したということで勲章を後程授けるつもりだ」
それは本心であり、まごう事なき現実的である。それが間違いだなんて思う者はこの場にいる誰1人としていないだろう。だが零は「‥‥‥そう」と一言言うだけで、
瞬時に出した黒い剣で結界が張ってある前方めがけて横に斬るのだった。するとこれまで破壊されなかった結界がいとも容易く粉々に破壊されたのだった…。そして粉々となった結界が降ってくる中
「そんな犠牲で成り立つような国なんてなくなればいい」
そうして零はいつの間にか持っていた石のような物を力を込めるとこの場から一瞬でいなくなるのだった‥‥‥。




