無能と日ノ本十二大族の当主 Ⅰ
時間は少し遡り、星乃零は日ノ本十二大族というこの国における最大の権力家にしてこの組織のトップ、そしてこの国の要と言っても過言ではない朝比奈家の前まで来ていたのだった。朝比奈家の場所については第3術科の生徒会長からは聞いていないが以前1度だけテレビ番組で朝比奈家についての特集としてこの場所が紹介されたことがあった。朝比奈家の家は一言で言えば巨大な屋敷である。そしてその周りをエネミーが侵入しないようにとこの巨大な屋敷を覆うほどの強力な結界が展開されていた。その結界は常人には見ることはできないがなんでもS級エネミーの攻撃ですらビクともしないらしい。ちなみに広さだが巨大ドームが丸々1個入るほどの広さだった。
では改めて星乃零がどうしてこの場所に来ているのかというと今から数日前の終業式終了後零は水河瑠璃の弟で現生徒会長である水河雄大余地朝比奈家に向かうようにと告げられた。当然ながらその日は妹である愛花が退院する日なのですぐさま断ったのだが雄大の考えなしの言葉によって零は激怒、そうしてそんな安い挑発に乗るかのように零は朝比奈家へと向かう事を決めたのだった。
時刻はもうすぐ12時になるという所で今まで閉まっていた大きな門がギギギ…と開くとそこから現れたのは着物を着た1人の女性だった。
「…星乃零さん、お待ちしておりました。この先に手我らが当主である朝比奈様がお待ちです」
それだけ言うとその女性は星乃零にまるで興味のないようにクルっと回りその場所までスタスタと歩いていくのだった。その女性はおそらくしなくとも無能と呼ばれている星乃零がどうしてこの場にいることが理解出来ていないようであった。まぁ無理もないだろう、この場所は由緒正しき場所である日ノ本十二大族、もしくは関係す者しか中へ入ることが許されていない。だというのに無能と呼ばれこの組織とは全く関係のない者がこの門をくぐるのだから忌々しいと思ってしまう事だろう。だが、それを許したのがこの家の当主ならば話は変わり無能と呼ばれていようともこの門をくぐらせなければいけなかったのだった…。
そうして零を目的地まで案内されるまでその女性は一言も零に話しかけることがなければ零も女性に話しかけるようなことは一切しなかったのだった。そして目的地である入り口の前まで着くと「ここです」というだけでその女性はさっさとその場から去っていくのだった。まるで顔すらも見たくないかのように…。そんな女性に対して零も一切興味がないように襖の扉を開けるのだった。
零の予想ではこの襖の先にはその当主と数人程度の関係者がいると思っていた。だが実際にはその当主らしき人物とその関係者がおおよそでも30人ほどいたのだった。全員スーツ姿の男女の中にはまだ幼い子供もおり、いくらなんでも1人の人物、それも無能と呼ばれている者に対していくら何でもやり過ぎなのではないかと思えたのだった。そんな彼らだが零が襖を開けたというのに一切表情を動かさずに目の前にいる当主の方を向いていた。まぁ、この場にいる何人かの子供はこちらを見たのだがそんなことはどうでも良かった。そしてこの後どうすれいいのかと思っていた所で「そこに座りなさい」と1人の人物が零に対して座る場所を指さしたため零はその場に座りに行くのであった。
そして午後12時丁度となったところで
「初めまして。私はこの日ノ本十二大族の当主を務めている朝比奈海斗と言う」
この組織をまとめ上げるこの国トップの権力者と無能と呼ばれている1人の少年が初めて会うのだった。
(…この人が日ノ本十二大族をまとめ上げる者であり、そして…朝比奈莉羅の父親、という事か)
その男性は一目で見れば40代後半辺りだろうか、かといって体の方は見たところでは30代のような体型をしていることから日頃から体を鍛えているという事が分かる。この朝比奈海斗と言う人物はメディアに出ることは殆どなく日頃はなんでも日本全国を回りながら市民との交流や市民の要望対して対応を行っているらしい。そのためほとんどこの屋敷にいないこの者がこの屋敷にいること自体珍しいようだ。
「…ふむ、君が星乃零だね。君の事については報告は受けているが、こうしてみると一見どこにでもいるただの少年のように見えるが、その報告では君は無能と思えないほどの実力を秘めているようだね。どうかね、今この場で見せてもらえることは可能だろうか?」
それは興味本位だろう。報告と言う紙に書かれただけの情報ではその人物について理解することは難しい。だからそういうのも無理もない。だが、
「残念ですが、お断りです。俺の力は他者に見せびらかすようなそこら辺の下手な大道芸のようなものではありませんから」
そうきっぱり断るのだった。そう言うと「…ふむ、一理あるな」とすんなり受け入れるのだった。このまま引き下がるのかと思いきや
「ではこうしよう。今から私の秘書と模擬試合を行ってもらおうか、この秘書の実力はこの日ノ本十二大族の中でも随一と言われている。ならば文句はないだろう」
あろうことか模擬試合という建前で俺の力を見ようとするのだった。
「…話を聞いてたのでしょうか、俺の力は大道芸のようなものではないと先ほど言いましたよね? まさかと思いますが都合の悪い単語は聞こえないふりをするのでしょうか?」
「…ふむ、ではこちらからも言わせてもらおう。君はそうやって適当な理由をつけてこの場を凌ごうとしているのではないのかい? では何故そんなことをするのか、これは私の予想だが君のその力は他者に見られてはいけないものではないのかい?」
「‥‥言うだけ言えばいい。俺は何と言われようともこの場で力を見せるつもりはない」
「…なるほど、それが君の言い分という事だね」
そう言い終えると同時にまるで打ち合わせをしていたかのように零の首元に魔武器の刃を突き付けるのだった。その刃を突き付けた人物は忍者のような恰好をしており全身黒づくめの格好をして零の背後を一瞬で取るのだった。対して零は
「…何の真似でしょうか?」
「ほう、動じないか。どうやら肝は据わっているようだね。だがその状況では何も出来まい。‥‥‥だが、唯一助かる方法がある。それは何だと思うかい?」
「さぁ? 知りたくないね」
「なに簡単さ。君はこの場で日ノ本十二大族の一員となると宣言すればいい。そうすればその状況から解放してやっても良い。勿論今君が抱えている問題もすべて白紙に戻そうではないか」
「問題? 一体何のことやら?」
「君はあと数か月で今通っている第3術科学校を退学するらしいね。だがそれは学生である君にとって都合が悪い事だろう。私なら君を退学させないように手配することが出来る。どうだい? 君にとって悪い事ではないだろう?」
この朝比奈海斗という者はやはりと言うべきか零が第3術科学校を退学させられそうになっていることはすでに知っていた。だが彼は零をこのまま退学させるつもりはないらしい。ではなぜここまでして日ノ本十二大族に入れようと、退学を取り消して恩を作ろうとしているのか、それは至極簡単、彼の持つある力を欲しているからである。その力については断片的な情報しかないがその力はすでに死んでいた猫族と兎族を生き返らせるというこの現代ではありえないような力を振るったという情報が書かれていたからである。もしそれが本当ならばエネミーとの戦いで万が一命を落とす者がいても彼のその力があれば再び息を吹き返すことが出来るからである。そんな力は当然ながらこの国どころか世界中探しても誰も使える者はいないどころかそんな魔導具も実在しない、だからこそ何としてでも手に入れようとこうして取引を提示したのだが
「…ぷっ、はははは‥‥‥」
「…何がおかしい?」
「ははは……いや? まさかこんな玩具ごときで俺がそんなしょうもない取引に応じるとでも思ったのか? そう思ったら笑いが止まらなくなって…くくく」
「…だが君のそんな危機的状況は笑おうが一向に変わらないぞ。私がその者に命じれば君のその首を瞬時に跳ね飛ばすぞ。それでもいいのか? そうなれば君の妹が孤独になるぞ?」
「はぁー、笑った笑った。…じゃあ、やれるもんならやってみれば? それに俺は妹を、愛花を寂しい思いをさせるような兄なんかじゃないし」
「…そうか、残念だよ。君なら私の誘いに乗ってくれると思ったのだが、どうやらそれは間違いだったようだ」
「ふ~ん? 俺はそれで嬉しいけどね?」
それが合図となり今まで零の頸動脈に当てていた忍者のような姿をした人物は魔武器の刃をスパッと紙を切るような簡単動作でそのまま横に引き………
そしてその場の畳の上に大量の血が飛び散ったのだった‥‥‥。




