退院前の不吉
終業式が終わったことから俺は校舎から出ようとしていた。帰ったら愛花の退院祝いとして盛大なパーティーを行う計画を立てていた。この事はすでに四季姉妹たちも知っており営業と同時に密かにパーティー用の飾りつけや料理、そしてプレゼントなどを考えてもらっていた。彼女たちも愛花と実際に会ったことがあるので退院すると聞いてすごく喜んでいたことは覚えている。だからという事もあってそのパーティーを盛大に盛り上げるつもりでいるらしい。愛花のためにそこまでしてもらってくれているので今でもその感謝の気持ちでいっぱいである…。
そして下駄箱で靴を履き替えて校舎から出ようとしたのだが、
「星乃君、ちょっといいかな?」
その聞き覚えのある声で俺を引き留めたのだった。そうして声のした方向に顔を向けるとそこには水河瑠璃がいたのだった。そして続けざまに
「申しわけないけど、今から生徒会室に来てくれない? 時間はそこまでかからないと思うから」
正直断りたいのはやまやまだが帰ってから急いでやることも特にないので仕方なくその言葉通り水河瑠璃とともに生徒会室へと向かうのだった。
そうして生徒会室に入るとそこにいたのは生徒会長であり水河瑠璃の弟である水河雄大とその副会長の女性、書記の男性であった。初期については1学年だと思うが生憎興味どころか会ったことがあるのかも分からないので名前は知らない。俺が生徒会室に入って来るや否「へぇ、ちゃんと来てくれたんだ?」と上から目線な態度で俺を見るのだった。
「雄大、星乃君に対してそんな風に言うのは失礼でしょ」
「姉さん、ここでは生徒会長と呼んでくれないか? そうでないと周りに差し支えるからさ。それに貴方はもう生徒会のメンバーではないでしょ? ねぇ、元副会長さん?」
「…雄大」
その表情はどこか悲しげであった。
「…さて、僕と元副会長の話はこれくらいでいいでしょ。…星乃零、君を呼んだのは他でもない。君にはある場所へ来てもらいたいとあるお方から連絡が届いた」
そうして間をおいてこう告げた。
「君には日ノ本十二大族のトップである朝比奈家に出向いてもらいたい」
その発言にこの場にいる誰もが驚愕の目をしたのだった。
「ど、どういう事なの? 何で、星乃君が朝比奈家に出向かなければいけないの…」
「さぁね。僕もどうして星乃君が朝比奈家に出向かないといけないのかの理由は聞いていない。それに仮に理由を聞いてもどうせ教えてもらえないよ」
まるでその朝比奈家がどういう所なのか知っているかのようであった。
「せ、生徒会長! その発言は場合によっては大問題です! 朝比奈家は日ノ本十二大族をまとめ上げる由緒正しき家系です! なのにどうしてそんな場所にこの無能を出向かわせるのですか!」
「それに朝比奈家はこの国の社会の大半を担っているこの国の要にして国家に欠かせない名家です! そこに無能を向かわせるなど我らにとっては言語道断、あってはならないことです!」
副会長と書記は必死に生徒会長である雄大に俺をそこへ向かわせることを考えさせようとするのだが
「まぁ、確かに俺もお前たちと同じ気持ちだが星乃零が朝比奈家に出向くことは事実だ。…その証拠に昨日俺の元に1通の手紙が届いた。最初は偽物かと思ったがこの朱印は紛れもなく朝比奈家の者だ」
そうして2人に持っていた手紙を見せてそれを確認する2人、そして、「ほ、本当だ…」「ま、間違いない、これは本物…」と納得するしかなかった。
「そういう訳で星乃君、明後日朝比奈家に出向いてもらいたいわけだが、勿論行って
「はぁ? 嫌に決まってるだろ?」
速攻で断った。
「お前らが何勝手に俺の予定を決めてんだ? 生徒会ってのはそういう事を相手の意見を聞かずに勝手に出来るのか? そもそもその日はすでに予定が入っているんだ。…話がそれだけなら俺は行かせてもらうぞ。明後日の準備について話し合いがあるからな」
そうしてその場から去ろうとしたのだが…
「それって、君の妹である星乃愛花さんが退院する日の事だよね?」
「…‥‥‥どうして知っている?」
「僕も日ノ本十二大族の者だ。これくらいの情報なら日ノ本十二大族の者なら誰でも知っているさ」
まるでそんなことを知らないとでも思ったのか? と挑発しているかのようであった。
「というわけで改めて、君には明後日である12月25日に朝比奈家に出向いてもらう。あぁ、勿論君に拒否権はないよ」
「……もし断れば?」
「そうだな…例えばもう2度と歩くことも、退院できないような状態にするとか? まぁ、あくまでも
ドッッッ!!!!
雄大がその発言を最後までする前に生徒会室にあった置物や書類が吹き飛び、そして窓ガラスが勢い良く割れるのだった。そして今の生徒会室はまるで嵐が去ったかのような滅茶苦茶な状態だった。
「……あくまでも…そこからお前は何て言おうとしたんだ?」
その言い方は死の予感を告げるようなものだった。次にその者が発する言葉を1つでも間違えれば即座に殺される…そんな予感が星乃零からしたのだった。そんな彼を
「星乃君、やめて」
水河瑠璃のその一言で先ほどまで出ていた殺気が収まるのだった。どうやら親しい者の言葉を聞く余裕は残っているようであった。
「こんな生徒会長でも私の弟だっていう事は変わらない。貴方が怒ったのは愛花さんが危害を加えられると思ったから、そうでしょ?」
その質問に対して何も言うことなく零はその場から今度こそ去ろうとした。だが扉を開ける前にこう告げた。
「‥‥‥分かった。明後日俺はその朝比奈家に出向く。そこで朝比奈家には、日ノ本十二大族にはどういう奴らがいるのかこの目で確かめてやる」
そう告げて生徒会室から去るのだった。
「雄大、まさかと思うけどあんな言葉を言ってまで星乃君を出向かわせるつもりだったの?」
「…まぁ、僕の考えていた返答とは異なったけど、結局彼は朝比奈家に出向くのだから問題はないよ」
「ふざけているの? もしそれで雄大が死んだら元も子もないじゃない…」
「ふざけているのはそっちでしょ? 昔の姉さんなら僕以上に上手く立ち回れていた。なのに、姉さんは変わってしまった。それも全部あの欠陥品と一緒にいるようになってから…」
「今ここで莉羅の事は関係ないでしょ!」
「僕は別に欠陥品を朝比奈莉羅とは一言も言ってないけどね。慌て過ぎだよ、姉さん?」
「そ、そんなの、言っているのも当然でしょ!」
そう告げて水河瑠璃も生徒会室から出て行くのだった。そしてこの生徒会室には吹き飛んだ置物や書類、飛び散った窓ガラスの後片付けを行っている書記と副会長、そして生徒会長の椅子に座っている雄大の3人が残るのだった。
(…それにしても、やはり星乃零はただの無能ではないな。生徒会室をこのような状態にするだなんてどんなプロでも出来るわけがない…つまり彼は1歩も動かずに殺気だけでここまで盛大にやったという事になる。これは、朝比奈家が、日ノ本十二大族が喉から手が出るほど欲しい人材になるだろうな…。だがあの人は一体どうやって彼の事を知ったのだろうか? もしかして誰かが彼の実力について内密に報告をしていたという事なのか? もしそうならその人物は星乃零の周りにいる誰かという事になるわけだが…)
だが、いくら考えてもその答えに辿り着くことはなかった。
そして時間はあっという間に過ぎ12月25日になるのだった。世間ではクリスマスの日となるわけだが星乃零、星乃愛花の2人の兄妹にとって忘れられない最悪の1日が始まるのだった‥‥‥。




