死の山道、その奥にて
その場所では現在戦闘が行われていた。一方は4~5名の人間が連携や指示を飛ばしながら目の前にいる相手を撃破しようと試みていた。この人間たちが戦っている相手は術者が常日頃戦っているエネミーのような知性もなければ連係動作を行い、そして言葉を発しないような生物…ではなかった。その生物はエネミーと異なり真っ黒な色をしておらず体中が炎のようにメラメラ赤く燃え、4足歩行で俊敏に動き、そしてその人間たちの動きを見ながら次の行動を起こし炎を吐いているその姿はまるで大きな狐のようであった。この戦いが始まって人間たちは様々な術攻撃を放ってはその狐のような獣を撃破したいのだが、その度にその狐のような獣の口から炎のブレスや鋭利な爪で術そのものの攻撃を切り裂き、燃やしていたのだった。だがその狐のような獣は未だに口から炎を吐いたり術を切り裂いたりするだけで人間たちの間合いに入り爪で切り裂こうとはしなかった。それは何故かというとその獣の後ろには大きな空洞がありその入り口の岩陰にはまだ幼い子供が3名ほどいるのだった。だがその子供は普通の人間の子供ではなかった。その子供たちはそれぞれ赤や青、そして緑色の髪をしており背中には僅かばかり羽のようなものが3人のその子供に共通するかのように生えているのだった。そしてこの戦いが始まって以降怯えているままの子供を守るかのようにその獣はこの空洞の入り口から移動しようとはしないのであった。そしてその獣は対峙している人間たちに
「貴様ら! 今すぐここから立ち去れ! ここは人間ごときがいる場所ではないぞ!」
その獣はエネミーと異なり言葉を発することが可能で力強い言葉でその人間たちにそう脅すが
「勿論お前の言う通りここから立ち去ってもいいぜ。ただしお前の後ろにいるその3人のをこちらに引き渡してくれたらな」
「ほざけ! 貴様らのような人間の要求を私が呑むとでも思ったのか!」
「そうつれないこと言うなよ。お前たち精霊族の力を俺たち人間が効率よく使ってやるだけだよ」
「笑止! 貴様らのような人間が我ら精霊族に行った卑劣外道な行いを知らぬとでも思っているのか! 精霊族を捕らえては獣人族のように玩具のように扱いそして最後に待つのは日の光すら見ることなく死ぬ末路だけだ!」
「まぁ、確かに、そう捕らえられるのは仕方がねぇ。でもな、精霊族の持つ力はこの先人間社会に必要不可欠の存在となる。その証拠にお前のような老いぼれた精霊獣1体でも莫大なエネルギーを持っていることは分かっているんだよ。そのエネルギー量は例えるなら今後の人間社会が抱えるであろうエネルギー問題をいとも容易く解決するほどの量があるんだ。な? 悪い話じゃないだろ? お前たちは獣人族と違って特別な存在なんだ。だからお前らまとめて俺が面倒見てやるよ」
「…そんな誘いに乗るくらいなら私はこの場で魂もろとも自害する!」
「…はぁ、それは困るんだよなぁ。だからさ、こうするよ」
そのリーダらしき人物が指をパチンと鳴らすとその人物のいる位置の左右の空間にガラスのようなヒビが入るのだった。そしてそれがパリンッと割れると現れたのは2体のキマイラだった。
「なっ! 馬鹿な、キマイラだと! キマイラは本来魔族の国にしか生息せずこの世界には存在していない……それなのになぜ!」
「へぇ、キマイラを知っているんだな。こいつらはあるところから譲り受けたんだ。そしてこいつらは俺の言うことは何でも聞くんだぜ。例えば、そこの岩陰にいる3人の精霊を連れてこい。とかな」
その命令を聞いて2体のキマイラは同時に動き出した。その狙いは当然精霊獣の後ろに隠れている3人の幼い精霊族である。そして当然ながら
「ッ! させるとでも思うか!」
すぐさま2体のキマイラめがけて炎のブレスを吐いたのだが攻撃を感知されたのか難なく躱されその勢いのまま3人の元へ向かうのだった。だが2体の動きと精霊獣の動きには大きな差があり
「遅い!」
3人に近づこうとしていた1体のキマイラに鋭利な爪で切り裂こうと振り下ろしたのだが
「ば、馬鹿な!」
振り下ろした爪は確実にキマイラの命を絶つ一撃だった。だが振り下ろした爪はキマイラの胴体に命中する寸前何かに遮られたかのように止まるのだった。
「残念だったな。2体のキマイラには俺たちの魔力を使って最大に練った超強固な防御結界で守られているんだ。その硬さはどんな攻撃、それも超級並みの攻撃ですらも難なく防いでしまうほどさ」
「ならば力づくでもこじ開けて…」
「おっと、よそ見していいのか? 相手は1体だけじゃないんだぞ」
「! しまっ…
気付いた時には精霊獣の背後にもう1体のキマイラが同じく鋭利な爪を精霊獣の背めがけて振り下ろしたのだった。そしてそのまま背中から大量の血しぶきをあげながら、更に追撃と言わんばかりに精霊獣からの攻撃を防御結界で防いだキマイラが尻尾の3体の蛇を動かしてそのまま胴体に2本と首に1本と嚙みつくのだった。
「これで勝負あったな。おっと、抵抗しても無駄だぜ。その蛇の唾液には猛毒を含まれていて抵抗するたびに全身に回る速度が速くなるんだ。だからその場で見ていな。……おい、連れてこい」
その人物が言うと他の者たちは岩陰に隠れているであろう幼い3人の精霊族の元へと向かうのだった。
「よ、よせ、やめ…がぁあああ!!」
「ほら抵抗するから猛毒が回り始めているよ。このままだと貴方死んでしまうよ?」
「わ、私の命など、くれてやる。じゃが、あの子たちだけは貴様ら人間に渡すわけには…」
「無駄無駄。だってもう…」
そう言いながら岩陰の方をチラッと見るとそこから鳴き叫ぶ声や、激しく抵抗する声がするがそれらは全て力のある人間には何の意味をなさなかった。
「ほら。もうこれで俺たち人間の勝利だ」
「………我ら精霊族が、こんな人間どもなんぞに…」
「あはははは!!! まぁ心配せずとも俺たち人間様がこの精霊族に社会貢献をさせるからあの世でしっかり見ていな。…あぁ、でも精霊にあの世っていう概念はあるのか? …まぁどうでもいいや」
そうしてそれが合図となり猛毒の牙を立てていたキマイラはぺっと吐き出すように精霊獣を放り出すかのように投げ飛ばしたのだった。その最中でも幼い精霊たちは「やめて! やめてよぉ!!」「助けて…助けてぇ…」「痛い! 痛いよ!」と幼いながらも手足を動かして抵抗するも「黙れ。黙らなければあいつのようになるぞ」「痛い思いしたくなければ大人しくしてな」と脅しをしながら前進に毒が回ってピクリとも動けなくなった精霊獣の姿を見せたのだがそれが逆効果となり更に鳴き叫ぶ声が大きくなったのだった。
「仕方がない。あの首輪を嵌めて大人しくさせろ」
そう指示すると精霊を抱えている者たちはポケットから1つの首輪を取り出したのだった。その首輪は一見ただの首輪だが実際は首輪を嵌められたその者が嵌めた者の命令を聞かなかければ首輪が締め付けて強制的に躾や教育を無理やりさせる魔導具の一種である(ただしこれは一般的に知られていない)。
「こんなことになったのはいつまでも泣き止まない君たちのせいだ。君たちは人間社会に役に立つが、その前にまずはこれで君たちを徹底的に教育しなければいけないね」
そうして3人の幼い精霊に痛みと苦しみしかない首輪を嵌めようとした……。
「【獣王ノ牙道】」
リーダーであるその人物が1回だけ目を瞬きをした時にはある変化が起きていた。1つ目は嵌めようとしていた首輪がなくなっていた。2つ目は他の者たちが抱えていたであろう3人に幼い精霊がいなくなっていた。3つ目は首輪を持っていた手と精霊を抱えていたであろう片腕が無くなっていた。そしてその者たちから少し離れたところに1人の女性がいたのだった。その女性は人にはないものが備わっていた。頭には獣のような耳に臀部には獣の尻尾が生えていたのだった。そしてその女性はあろうことか3人の幼い精霊を両腕で抱えていたのだった。それを理解するとブシュウウウウ!!! と女性が通ったであろう跡にいた者たちは全員例外なく手足がなくなっており中から大量の血飛沫がマグマの噴火のように噴き始めたのだった。そしてようやく自身の手足がなくなったことを理解すると激痛が襲い掛かってきて「ぎゃああああ!!!」「お、俺の腕がぁあああ!!!」「し、死にたくねぇええええ!!!」と叫ぶのだった。幸いリーダーであるその者は手足は無事だったのですぐさま行動に移した。
「今すぐその女を殺せ!!」
動けない者たちに変わってキマイラにそう命じると2体は同時に動きそのまま女性めがけて襲い掛かったのだった。
「【黒閃烈火斬】」
そんな声が聞こえたと思った次の瞬間には2体のキマイラは同時に頭部と胴体、尻尾が分かれるように一瞬で斬られそのまま黒い炎に包まれそのまま灰になることなくそのまま燃え消えるのだった…。そしてキマイラと入れ替わるかのように1人の少年が降ってきたのだった。その少年は近くにいる獣人であろう女性と異なり頭には獣のような耳が生えてなければ当然尻尾すらも生えていないただの人間だった。その者はまさかこの少年が2体のキマイラを殺したのかと思ったのか
「…いやはや見事な腕前だ。君はおそらく学生かな? それでここまでの腕前とは見事の一言だよ。……そんな君に頼みたいことがあるのだけどいいかな? 君の近くにいるその獣人族を殺してくれないかい? その獣人族は人間社会で今後役に立つであろう精霊族を奪ったんだ。これは人間社会に対する由々しき問題となるんだよ。…それに獣人族は皆殺しにする必要があるからね。勿論お礼は弾ませてもらうよ。それで、どうかな? 受けてくれるかい?」
あくまで紳士的に少年に対してそう対応しながら近づくのであった。こうすれば必ず引き受けてくれるだろうと思って…。
「あっ、そうそう、お礼は当然お金
「…うるさい」
その者の横を何かが通り過ぎたような気配がしたと思った次の瞬間には背後で今も痛みによって苦しんでいるリーダー以外の者たち全員が一斉に黒い炎に包まれ、そのまま叫び声を上げることも灰になることすらも叶わずそのまま燃え尽きたのだった……。その光景を恐る恐る見ていたその者はというと
「き、貴様ぁああああああ!!!!」
先ほどの紳士対応はどこへ行ったのか少年を殺そうと襲い掛かろうとしたが
「…黙れ」
少年の持つ黒い剣は気付けばリーダーである者の首筋に置かれていた。この状況にはその者もこれ以上少年を襲うことは出来なかった。
「…聞きたいことがある。………お前は先ほどのキマイラと言い精霊族のことは誰からの入知恵だ? この2つは本来この現代で暮らしている人間にとって無縁なものだ。一体いつ、どこで、誰から、どのようにして知った?」
その少年から発せられる冷たい視線に冷たい言動、そして首筋に添えられている剣がその者に絶対的な恐怖を与える。そして…
「そ、そんなの…知るわけが、ないだろ…だって、キマイラを手に入れた方法も精霊族が社会問題を解決することも全部…ネットの掲示板で知ったんだからよぉ。だ、だから、見逃し
「そうか、じゃあ…お前に用はないな」
その者が言い終える前にそう告げ、そのまま首筋に添えていた剣を横に振るうとその者の首はあっさりと跳ねてそのまま弱々しく音を立てるのだった……。




