光の当たらない場所にて Ⅸ
アリスが地下5階の天井を割って降りた時小笠原陽彩たち1-Gは地下4階へと向かうため階段を急いで降りていた。彼らは先ほど第7術科女学院との戦闘で窮地に立たされていたのだがアリスのおかげでその窮地を抜け出すことが出来たが誰1人としてアリスの姿を目視していなかった。何故なら戦闘時のアリスの動きは並の術者程度では例えウォーミングアップのような軽い運動ですら目視出来ないので無理もない。そのため彼らは一体何故彼女たちがバタバタ倒れたのか未だに分かっていない‥‥。だがそれを好機と彼らは思い、たまたま近くにあったもう1つの4階へと降りる階段を利用して鳳星桜学園の生徒が捕らわれている場所へと向かっていた。
「優美ちゃん‥‥無事だといいな」
「大丈夫だよ。実憂。優美は強いんだからきっと帰ってくるよ」
山影実憂の呟きに柏木理沙は安心させようと声を掛けるのだった。「‥‥うん、そうだよね」と理沙の強い声掛けのおかげか僅かだが安堵したのだった。そして
「見えた! この先が4階だよ!」
先頭の陽彩が後ろに届くように声掛けを行い、そして彼らはそのまま4階へと降りるのだった‥‥。
3階では2つの剣が交わる音がしていた。その階では牢獄が半壊していたり、完全に壊れ元の原型を留めていなかった。そしてその周りには炎が弱々しく燃えているが2つの剣が交わるたびに鳴り続ける大きな音、それと同時に吹き荒れる風によりフッと息を吹きかけるように瞬く間に消え、檻の欠片となったそれは音の発生地点が近ければ近いほどどこかへと容易く吹き飛ばされていた。そしてそんな現象を起こしている2人の人物は
「優美ィイイイイイイイイイ!!!!」
「ッ! ぁああああああああああ!!!!」
1人は目の前にいるその人物の名を叫びながら鍔迫り合いで押していく者、対してもう片方はそれでも負けずと目の前にいる者と同じくらいの叫び声を上げながら鍔迫り合いで押していた。
「優美! ここで…ここで貴方を殺す! だから、さっさと死になさい!」
「私は、どうして小夜がここまで私を、影山家を憎んでいるのか分からない‥‥でも! だからといってこんなところで死ぬわけにはいかないの!」
その言葉が合図となり双方後ろへと下がるのだった。そして再び双方鍔迫り合いが行われ…
「私には待っている友達が、大事なクラスメイトがいるから!」
「だったらそんな友達もクラスメイトも私が殺して、優美もろともあの世へ送ってあげる!」
安藤小夜の力が徐々に膨れ上がっていき影山優美を押していくのだった。それと同時に剣に纏っている炎が小夜の感情的な発言と共にさらに一回り燃え上がりそのまま優美を呑みこもうとしていた‥‥
「そんなこと、させない! 【ホーリー・フラッシュ】!」
その単語を唱えると優美の持っている剣からこの階を照らすほどの光が解き放れた。思わず小夜は「ぐっ!」といきなりことに驚きそのまま後退したのだった。そんな強い光を出した優美自身も何が起きたのか分かっていなかった。先ほどの単語は突然脳裏に浮かんだものでそれを思わず唱えたのであり、まさかここまでの光を出すとは思ってもいなかった。その隙に「がぁあああああ!!!」と叫びながら再び小夜が優美に斬りかかって来たため、この剣に一体何があるのか考えることを放棄し再び剣を交えるのだった‥‥。
地下5階では殺戮が行われていた。その殺戮を行っているのは1匹の動物‥‥いや、それは動物と呼んでいいものか迷う生物だった。その生物の正体はキマイラ。その生物は本来この国に生息しているわけのない化け物で、ライオンの顔、山羊の胴体、3匹の蛇の尻尾を備えており、他の者がその生物を聞けば「そんなの架空生物でしょ?」と10人中10人がそう言うだろう。だが‥‥
「た、助けがぁあああああああ!!!!」
「く、来るなぁあああああ!!!!」
「お、俺の腕がぁあああああ!!!」
素早い移動や尻尾の蛇を使い後ろに身を潜め怯えている人間を捕らえ、そして逃げないように手足の骨を巻き付いてからの折る、あるいは鋭利な爪で体を一突きしそのまま絶命させたキマイラは大きな口を開き1人の人間を食らえば、蛇で加えている人間、そのあたりにすでに絶命している人間を咀嚼音を立てながら喰らうの繰り返しだった。すでにエレベーター付近にいた数名は難を逃れこの場から逃げているがそうではない者は「早くしろ!」「どけ! 俺は大手企業の社長だぞ!」「隙間を開けるな!」と揉め合っておりエレベーターに我先に乗ろうとする者たちで溢れかえっていた。当然ながらエレベーターには大きいものだと9人ほど、小さければ6人ほどしか乗れない。そしてこのエレベーターは運悪く後者の方だった。そしてエレベーターが往復で地下から目的地まで約1分ほどかかる。1分は大して短いと思うがこの場から一刻も早く逃げようとする者から見ればその1分は3分や5分と長い時間と認識してしまう。対してキマイラの食事時間は約1分半で終わってしまう。そして周りにはすでに数名の絶命した人間がおりそれを食し終えるまで約5分はかかると予想される。これならその間に数十名は助かるのだが、キマイラにはもう1つある能力が備わっている。それは‥‥
ゴォオオオオオオオ!!!!
口から炎のブレスを吐くのである。その炎はエレベーターで揉め合っている者たちに吐かれたものであり、キマイラにとってそれはまるで前方にうるさい虫がいたので一掃しただけ‥‥という感覚だったのだろう。そしてその炎を受けて何人かは生存していたがその代償として腕や足が焦げていたり、激痛が走るほどの痛みで苦しんでいたが、直撃した者は声を上げることもなく体を動かすこともなくそのまま黒焦げとなり絶命したのだった‥‥。
そんな架空生物のはずであるキマイラが殺戮を行っているのに対して零達はというとステージの所におり、すでに手足を何かしらの術で拘束されていた鳳星桜学園の生徒を解放していたのだった。そして全員解放された生徒たちは「鳳凰慈さん!」「ありがとうございます!」「ぐすっ、もう駄目かと思ったよぉ…」と助けに来てくれたことに安堵したりあまりの嬉しさにその場で泣き出す者が見られたのだった。その度に「もう大丈夫です。他の生徒の皆さんも今救出されているはずですから急いでここを出ましょう」と安心させように声を掛け続けるのだった。が、それを壊すかのようにキマイラが先ほどまでエレベーターの方へ顔を向けていたはずなのに突如として鳳星桜学園の生徒の方へと狙いを変えそして雄たけびを上げてこちらに向かってきたのだった。それを見た生徒たちの表情は安堵から絶望の表情へと変わるのだった。彼らはキマイラに対抗できるような力がなければ術すらもない。このまま万事休すかと誰もが思われたが
「【グラビティ・プレス】」
虹色の杖を持った零が発動させた重力場がキマイラを床に叩きつけたのだった。その威力故かキマイラは立ち上がることすら出来ずミシミシと音を立てながら床に押しつぶされ続けるのだった。そしてキマイラを見ながら鳳凰慈麗奈にある結晶を渡した。
「それは数時間前に集まったマンションの敷地内に転移するように設定されている。それを持って今4階で救出を行っている陽彩達と合流し、1人も残さずに救出し終えたらそれを使ってこのビルから脱出しろ」
「でも、そうすると星乃さんは‥‥」
「俺はあと1つやることがあるからここに残る」
「そんな、見捨てるようなこと私には出来ません、星乃さんも一緒に…」
「‥‥悪いけど俺はこれからある場所へと向かう。そこで誰にも見せられないようなことを行う。日の光を浴びて生きてきた貴方たちにとってきっと悪い事だ。だから、来るな」
そう言うと【グラビティ・プレス】の威力をさらに上げて、そして‥‥
そこの広さは5階の催し場の半分ほどの広さだった。その階の明かりは最低限しか照らされていなかったがこの階にはそんな明かりに劣らないものがあった。それは大量のテレビ画面である。その画面にはこのビルのありとあらゆる階の様子が何十も映し出されており、まるで監視ルームのような場所だった。そしてそんな場所に1人の人物がいるのだがどうにも慌ただしい様子で当たりにある資料を大きなバッグに強引に詰め込んでいた。そして一刻も早くこの場から逃げようとしていた。
「くそっ、なんでこうなった! これも全部あの雌獣人が台無しにしてくれた! 絶対に許さない! いつかこの手で!」
それはキマイラが10代半ばの少女を食い殺そうとした時だ。突如として天井を突き破ってあの雌獣人が降りてきてから状況が変わった。使役しているキマイラを使ってあの獣人を殺すよう司会を務めていた男に命令したのだがそれすら叶わないどころか逆に使役している魔晶石を壊されるとそのままその男性を食らってしまった。そして超級術にすら耐えきれる結界を拳1つで壊すと使役から解放されたキマイラは次々に観客たちを食らい始めた。これではもはや催しどころではなくなったため、ここは難を逃れるため急いでそこらじゅうの資料をかき集めて今まさにバッグに詰め込んでいた。
「だ、大丈夫だ。私にはまだまだ金があれば後ろ盾もある。それに、生きてさえいれば何度でもやり直すことが出来る‥‥。何、会社が1つ潰れるだけ。私にはまだまだ多くの会社が残っている。そこでまた今日のような催しを開けばまた
そんな風にテレビ画面に背を見せ今後の計画を企てていると
ドォオオオオオオオオンンンンン!!!!!
この階の天井が突如として割れたのだった。そしてドサッと大きな音を立てて上から降ってきたのはキマイラだった。そして
「お前がこの催しの主催者か?」
虹色の杖を持つ1人の少年だった‥‥。




