光の当たらない場所にて Ⅲ
「皆様大変お待たせいたしました。これよりお待ちかねの刺激を満たすショーを開催いたします」
ステージの袖から出てきた司会者らしき人物が出てきてそう開催宣言をするのだった。そのステージは大型舞台場のような広さでどこかの劇団が1つの劇を行うのに十分であった。そんな大きな広さなのだが1つ加えるのならば観客から見て前方には強固な薄い壁紙のような物が設置されておりその強固さは聞いた話だと超級術に耐えきれるとか‥‥。その開催宣言を聞いて大きな拍手に大きな歓声をパーティー参加者全員が送るのだった。そんな中零達は
『‥‥今からこの念話を使って貴方たちの脳内に直接送るからな』
零は口を開かずにステージの方を見ているのだった。
『‥‥これが念話というものですか。頭に直接響くような感じがします…』
『初めは仕方がない。だがここからはこの念話じゃないと誰かに聞こえてしまっては少々まずいからな』
『‥‥ねぇ零、それってまずい事なの?』
『まずいも何もこの場にいる者たち全員が刺激、または欲に塗れた者たちだ。そんな中にそれらと無縁の者が混ざっていたらどうなると思う?』
『‥‥どうなるのですか?』
『簡単だ。即刻つまみ出されるか、あるいは‥‥』
零がステージの方を見ながら念話で伝えていると
「それではさっそく参りましょう! それでは1人目入場!」
そう司会の者が言うと1人の中高年男性が出てきたのだった。恐らく40代後半から50代という所だろうか‥‥。一見どこにでも良そうだがその男性はあろうことかパンツ1丁であった。そして片手には調理で使うようなナイフを手にしていた。そしてそれを見ていた麗奈は
『なっ! 何であの人はパンツ1枚なのですか!?』
当然ながら驚くのだった。
『何でって、それがこのショーの決まりだからさ』
『だからって、こんなこと許されるわけ
『許す許さないなんてこの場において何の価値もない。このような場所では地位や富、そして強い奴が頂点に立つようになっている。それにおいてこのショーはその者が開催する単なる見せ物だ。‥‥そして2人とも今更言うけど引き返すなら今だよ。もし引き返すなら急いだ方が言い』
『‥‥星乃さんはどうするのですか?』
『どうするも何も貴方から頼まれた生徒を助け出すのに変わらないけど?』
『‥‥‥ならば残ります。そもそもこの件の発端は全部私です。それなのに放り出して逃げるのは鳳凰慈家としてあるまじき行為です』
『‥‥‥分かった。だけどこの件が終われば今日のことはなるべく早く忘れた方がいい。その方が身のためだから』
『‥‥それはどういう意味なのですか?』
麗奈のその問いの意味はこれから行われる見せ物で分かるのだった。ちなみに有紗は『‥‥えぇ、努力するわ』と両腕、両足を組みステージの方を見るのだった。‥‥普通なら『助手のくせに生意気ね!』とか何とか言いそうなのに‥‥
「さてそれでは始めましょう。まず始めに登場したのはこの者は数日前に一緒に暮らしていた奥さんをその包丁で刺し殺しました。その理由は仕事が上手くいかずそのまま倒産、そして酒に溺れ挙句の果てに暴力・暴言で奥さんを黙らせていました。そして最終的には酔った勢いで間違えて投げた包丁がその奥さんの心臓に直撃してしまい、そのまま死亡‥‥。あぁ、何と悲しい事でしょう」
まるで何かの演説をするかのような話し方でその男性について簡単に話すと「最低だ!」「奥さんに謝って来い!」「懺悔しろ!」とその男性に向けて叫ぶのだった。その光景はまるで悪人を断罪する善人たちのようであった。対してその男性も「ち、違う! あれは間違えて…」と怯えながら言うも観客たちの耳には男性の言葉なんて全く届いていなかった。そんな男性の言葉を置き去りにするかのように「さて、それではさっそく参りましょう。それではお願いしまーす」と進行を続けそうしてステージの端からドスンッ、ドスンッ‥‥と現れたのは人の背丈よりも数倍もあり、そして現れたのは1匹の獣だった。だがその獣はただの獣ではなかった。顔はライオン胴体は山羊、そして尻尾は蛇のような形をしていた。
「この獣はとあるルートで入手し、普通の獣と異なり術のような力を備えております。勿論凶暴ですがご安心ください。首には奴隷の首輪をしているためご参加のお方たちには危害を加えることはございません。‥‥まぁ、ご参加されている方から見えるこの結界を破られるようなことはございませんので思う存分楽しんでいってください」
と冗談めかすように言うと参加者たちは笑うのだった。そして司会者から告げられたルールは‥‥
1.制限時間は1分
2.1分経ったその時にその者が息をしていればこの場から解放
3.使用する武器の指定はない
4.それなりの賞金を贈呈
一見、獣と対峙している者が有利に見えなくもない。何せ1分間逃げるなり戦うなりすればそれだけで賞金がもらえ例え死刑になるような罪を犯していようがそれを白紙に戻すのだからその者にとってありがたいと思えるほどの内容と思えるだろう。
だが彼らは知らないだろう。あれは凶暴で片付けられるほどの獣ではないことに、あの獣は本来この国に実在するはずのない生態系の生き物であることに、そして‥‥
「それではいきましょう、始め!!」
その瞬間、その獣が何かに縛られていたであろうものから解放されるとそのうっぷんを発散するかのように一気にとびかかり目の前にあるであろう人間にとびかかるのだった。その獣は目の前にいる人間なんて単なる餌としか見ていない。それも何も出来ずに怯えてどうぞ食べてくださいと言わんばかりに突っ立っているのだからそれを食らい付くのに何も躊躇もいらない。対してその者は目の前にいる巨体な獣に対して怯えているだけだった。無理もない。何せこれまで生きてきた中で数メートルもある動物に見下ろされたことなんて早々ないのだから‥‥。そうしている間に司会者が開始の合図を告げたのだが当たり前のように身動き1つとれるわけがない。よって何も出来ないまま‥‥‥
ブチッ、ブチャ、ブシュ―、バリバリ、グシャグシャ、ブチブチ、ムシャムシャ、‥‥‥ゴックン…
その者の頭が、胴体が、両手が、両足が、その巨体な獣によって噛み千切られ、大量の血が噴き出そうがお構いなしに食らっていた。その光景はまるでライオンが獲物を食べるように食らい続けながら咀嚼、そして嚥下するのだった‥‥。
そして僅か10秒でそのステージにあるのは巨体な獣だけで、男性の者であったであろう最後の足の部位を食らい終えるとそこにあるのは大量の血が付着していたのだった。
そしてそれを見ていた参加者たちはというと‥‥
うおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!
耳の鼓膜が破けるのではないのだろうかと思えるほどの歓声を送るのだった‥‥。
「…‥‥」
狂いに狂った歓声を送る参加者の背後には零達がおり、そして当たり前だがこの一部始終を見ていた。零はというとまるでどこかで見慣れているのか只々黙ってステージの方を見ており、有紗は一瞬顔をしかめたようだがすぐに表情を開始前の状態へと戻すのだった。そして麗奈は
「‥‥っ!」
まるで気持ち悪い食べ物を摂取したかのように口を押えて嘔吐しようとしていた。だが
『吐くな。今吐けば間違いなくあの者と同じ末路に遭うぞ』
『っ!! ‥‥‥はぁ、はぁ‥‥だ、大丈夫、です…』
何とか戻しそうなものを無理やり飲み込み、しばらくして零に安堵させるのだが明らかに顔が真っ青であった。無理もない。何せ今まで生きてきた生活の中で先ほど起きたような光景に出くわすことなんて万が一にもないし、まずあり得ないのだから‥‥。
『‥‥‥ほ、本当にこの国の裏側では先ほどのようなことが起きている事なのですか』
『…そうだな。こういう見せ物はこういった裏の顔がある会社にとって日常茶飯事だ。‥‥ちなみに他に何があるか聞きたいか?』
『…い、いえ、遠慮します』
『それが賢明な判断だ』
そうして麗奈に水を渡すのだった。それを受け取り一気に飲み干すと少しは落ち着いたのか顔色が少し良くなった気がした。
『星乃さん、まさかと思いますがこの後も先ほどのようなことが起きるのでしょうか?』
『‥‥‥そうだ。ジュダルの話だとあと4名ほどだとか』
『そしてそれが終われば‥‥』
『おそらく今度は鳳星桜学園の生徒があの獣の餌になるだろうな』
その話を聞いて『そ、そんな‥‥』と再び顔を真っ青にするのだった。
(さて、そろそろあいつらは奴らに接触し戦闘を行っている所だろうな。‥‥鳳星桜学園の生徒の番までおおよそ十数分、それまでに撃破して助け出せるかどうかだけど正直半々といったところか。まぁ、万が一の時は‥‥)
鳳星桜学園の生徒に危機が迫る中、零は呑気にコップに注いである飲み物を飲むのだった。




