光の当たらない場所にて Ⅰ
このビル内では本日とある催しが行われる日であった。その催しの主催者が何でも大企業の社長という事もあるのか催しが行われる会場には名の知れた企業の社員や政府関連の職員といった国に貢献している者たちがそこら中にいるのであった。そのためかこの会場内ではそれらの人物たちがあいさつや挨拶代わりの名刺を渡したりしその後は談笑からこの催しの内容について語っていたのであった。そんなまるで一種の社交の場というのに‥‥
「んん~~!! この料理美味しーー!! あっ、こっちも美味し――!!」
「えへへ…食べ放題だ♪」と大皿を持ってそこら中の並んである料理を十分に堪能している者がいた。その者の顔には口以外を覆い隠すような仮面をしているのであった。そしてその人物を遠くから、まるで他人のように見る2人がいるのだった。
「‥‥あの、あそこまではしゃいでも良いのでしょうか?」
「‥‥あ、あぁ…まぁ、別に、いいんじゃない? 周りからは料理を堪能している一般客にしか見えてないはずだし‥‥うん」
その2人のうち1人は今現在料理を堪能している者と同じような仮面を着けているがもう1人の方は仮面を着けていなかった。そして持っている飲み物を飲みながら
「…この着けている仮面のおかげで私は周りから男性として見られているのですよね?」
「そのはずだ。前に作った物の改良版だから問題なく作動出来ているようだな。それと分かっていると思うがここにいる時は絶対にその仮面を外すなよ。もし誰かに見られれば少々面倒だからな」
「分かっています」と器用に飲み物が注いであるグレープジュースを飲むのだった。
「…それにしても男性らしい振る舞いと言うのは難しいですね。動き1つで周りからどう思われているのか不安で仕方がありません」
「別に完全に男になりきれというわけじゃない。適当に提供された量を食べて、適当に注いである飲み物を飲めばいいんだからさ。男性らしい振る舞いなんてどうだっていいんだよ。世の中には女性の振舞い方が美しかったり丁寧ということからそれに魅了された男性なんてよく見かけると思うし…」
「? そうなんですか?」
「さぁ? 知らん」
「ふふふ‥‥何ですかそれ?」
仮面で口以外の表情は見えないがその人物の発言でなんとなくだが笑ってくれたような気がした。そんな2人に
「ねぇ見て見て!! こんなに料理を盛ってきたよ。折角のタダ飯何だから元を取るくらい2人も食べようよ!」
雰囲気をぶち壊すかのように両手に乗せてある大皿にこぼれるほどの料理が大量に盛られていたのだった。そして仮面を着けているが笑っているであろうその人物が盛っているのは殆どが肉や油者と茶色いものばかりであった‥‥。
「…‥‥‥」
「あ、はははは‥‥」
1人はあまりの光景に唖然とし、もう1人は苦笑いをするしかなかったのであった‥‥。
「それじゃあ、近くの席が空いているからそこに行こーー!」と言いながらその場所へと向かうのであった。そして向かう途中に盛り過ぎた料理を落とすのではないかと思ったがバランス感覚か、それとも体感が良いのかは分からないが1つも料理をこぼすことなく「よいしょっと」と席に真ん中に置くのであった。
それから後に続くようにもう1人の仮面の人物が向かい、そしてその人物に続くように
(鳳凰慈さんはともかく‥‥所長は本当に大丈夫なのだろうか‥‥‥)
不安を抱くながら2人の元へ向かう星乃零であった。
数時間前、正確には17時になるという所まで戻るのだった。連れ去られたであろう鳳星桜学園生徒を救出するため零1人で向かおうと告げようとした時エントランス内に響くような声と共にドアをバンッと大きな音を開けて現われたのは四季有紗であった。そもそも彼女がどうしてここにいるのかだが、まぁべつに隠すことではないが成宮千尋とは1つ学年は違うも同じ大学でよく顔を合わせる仲だったが、四季有紗が行っている探偵業を通してより仲が深まって以降休みの日にはメールや電話のやり取り、そしてウインドウショッピングに行く仲となっていたのだった。そして今日は同じ講義で受けた際に千尋が忘れ物をしていることに気付いたため連絡をし今どこにいるのかを教えてもらいそして今いるマンションまで届けたのだった。そして帰るためエントランスを出ようとしたのだがそこに零の姿があったため息を潜めて会話内容を聞いていたのだがどうやら話の内容を聞く限りどうやら穏やかではない内容だった。そして話を終えると彼は連れ去られたであろう人たちを助けに行こうとしているのであった。そして同時に有紗は何をどう解釈したのかこれは事件の匂い、つまり探偵事務所エトワールの出番の予感がし零に同行するために室内に響くほどの声と共に名乗り出たのだが‥‥
「いやダメでしょ」
「何でよ!!」
あっさり零に断られたのだった。
「だって所長、絶対に何かやらかしそうだし‥‥以前目立つような行動をしないって約束したのに結局尾行していた人に見つかったり、その後1人で勝手に犯人を取り押さえようとしたけど相手が拳銃を所持していたことで危うく死にかけたし、それに‥‥報酬で受け取ったお金を勝手にあまり役に立たなそうな探偵道具を大量に買ったり、あとは‥‥」
「そ、その事は今はどうでも良いでしょ! それに尾行が気付かれたのは持っていた小型警報機が誤作動を起こしただけで、それに拳銃を所持していた人には不意を突いて何とか乗り切ったから良いの! 買っている探偵道具は今は役には立たないけど近い将来絶対何かに役立つから良いの!」
「いや近い将来の事は考えないで良いでしょ‥‥」
「いいったらいいの! それに私は所長で零は助手でしょ! 所長命令は絶対なの!」
「いやいや、これまでは何とかなったけど今から向かう場所は危険な所なんだよ」
「やだやだやだやだ!!! 行くったら行くのぉ!! 零が行くなら私も行くのぉ!!」
もうすぐ二十歳になるというのに幼子のように駄々をこね始めるのだった‥‥。そんな光景を見たジュダルは
「‥‥‥零よ。連れてやってはどうじゃ? 確かにお主が向かう場所には若い女が単身で向かえばまず間違いなく身も心も穢されるじゃろうのぉ。じゃからお主1人で向かうのじゃろ? 他の者の身が危険が及ばないようにそう気遣ったのじゃろうなぁ。‥‥じゃがここまでの懇願に対してそれを無下にするほどお主の器は狭くなかろぅ?」
零がどうして1人で行くのかの理由をすぐに看破しそれを告げると
「…俺ってそれほど分かりやすいのか?」
「付き合いが長いからのぉ。お主が考えていることは大抵は分かるじゃよ」
「‥‥そうか」と言いながらどこからともなく1つの仮面を出したのだった。その黒い仮面は口元以外は全部覆われていたのだった。
「‥‥この仮面には認識阻害の効果が付与されていてこの仮面を着けた者は周りから1人の男性として認識されるようになる」
そして仮面を駄々をこねている有紗に差し出し
「今から向かう場所で目立つような行動をしない、その場所では何があっても絶対にこの仮面を外さないって約束を守れるのなら、‥‥まぁ、ついて来ても大丈夫、だと思う」
そう言うと有紗は顔をぱぁぁぁ! と輝かせ「うん! 絶対に勝手に外さないよ!」と満面の笑みでそう答えるのであった。このやり取りを通して一体どちらが所長で助手なのだろうか‥‥。
「星乃さん、勝手な我が儘だとは分かっていますが私も連れて頂けないでしょうか? 連れ去られた生徒を助けるのに本来は部外者であるはずの星乃さんに任せっきりなのは居た堪りません。鳳凰慈家の者としてそして何より鳳星桜学園の一生徒としてどうか手伝わせてもらえませんか?」
彼は1人で多くの人を助けるような力は持ち合わせていない。だがそれでも自分に出来ることを懸命に探し出しそして見つけたのが零に同行しそして連れ攫われた生徒を全員助け出し、そのビルで何が行われようとしているのかこの目で逸らすことなく見ることであった。そんな強い思いを感じたのか零はもう1つの仮面を取り出した。その仮面は先ほどと同じく口元以外は覆われているが仮面の色が黒ではなく白色であった。「‥‥まぁ、貴方なら問題はないか」と言いながらどこからともなく取り出した白い仮面を麗奈に渡すのであった。
この催し場には基本男性しかいない。そしてその男性たちの殆どが欲望や刺激に飢えた者たちであり早く時間にならないかとワイングラスを片手で持ちながらもウズウズしている者も少なからずいるのであった。そしてそんな者たちなどまるで蚊帳の外のように
「んーー! やっぱり催しで出てくる料理サイコー―!!」
有紗は盛りに盛りまくった料理をバクバク食べているのであった。1つの皿の乗ってある料理たちが無くなるたびに「あっ、すみませーん、料理をお皿に乗せて欲しいんですけどー」と近くにいるウェイターにそう注文しているのだった。そして再びバクバクと食べ始めるのだった。
「‥‥あの、いくら何でも食べ過ぎなのでは?」
「ん? そうかな? 私にとってはこれくらい普通の事なんだけど‥‥おかしかった?」
「い、いえ! そんなことはないと思いますよ。食べっぷりのいい女性もきっと素敵だと思いますし」
「えへへ‥‥それほどでもぉ~~」
そう笑いながらも有紗の端を持つ手の速度は止まることはなかった。‥‥やっぱり連れてくるのではなかったのだろうかと今更ながら後悔している零であった。そんな零に麗奈は小言で
「あの、星乃さん、あの人たちは無事にこのビル内には入れたのでしょうか?」
「ん? あいつらの事か? 心配せずともちゃんとこの建物内に入っていく様子は確認出来たよ」
「そ、そうですか…。何も起きらなければいいのですが‥‥」と不安そうに呟くのだった。
(‥‥何も起きらなければ、か。そうなればいいけどな)
そうして零は上の天井を見上げながらそう思うのであった。




