癪に障って
「術科の皆さんはあのような指導の下であれほどの威力を出せるのですね」
「‥‥まぁ、人それぞれ出せる術の強さは限られているけどね」
先ほどまでの午前中は略式詠唱術の指導を受けておりその後は昼休みとなったため零達1-Gの面々は教室で昼食を摂っていた。その中にも当たり前のように鳳凰慈麗奈も一緒にお昼を摂っていた。しかも零の隣で‥‥。そして当たり前だが彼女は零以外とは初対面のため
「‥‥えっと、星乃君、ずっと気になっていたんだけどそちらの方は?」
「あぁ、私としたことが自己紹介が遅れましたね。私は鳳星桜学園1年の鳳凰慈麗奈と申します。今日から特別体験入学として数日の間ですがどうぞよろしくお願いします」
と丁寧に自己紹介をしたのであった。
「えっ! 鳳星桜学園ってあの鳳星桜学園!?」
「理沙、知ってるの?」
「知ってる知ってる! 鳳星桜学園っていえば他の学校では見かけないような独特な取り組みを行っている進学学校で、生徒たちの可能性を広げるために様々な部活動や校外学習を積極的に行っている学校何だよ! ‥‥あぁ、でもあそこって偏差値が高いんだよねぇ」
柏木理沙がその学校について周りに話すのであった。
「えぇ、そうですね理沙さんのおっしゃる通り鳳星桜学園はそこに在校する生徒の可能性を広げるために様々な物事に取り組んでいます。例えばお昼は食堂で生徒たちが用意した料理を召し上がったり、部活動の数も他の学校と比べて倍ほどはあります。そしてこの学園には進学、就職といったコースの他にも芸能コースがありましてそこでは業界人からの講習や指導、そして自分たちの手で1本の番組やドラマを作ることが出来ますよ」
その説明に「へぇーー」「凄ーい」「そんな学校があったんだ」と感心していたのであった。
「でもそんなすごい所に通っているのにどうしてこの学校に体験入学しようと思ったの?」
「はい、それは我が学校の生徒に術者はほとんどいないのです。そこで私が学園代表としてこの目で術者たちが通う学校について調べたいと思いこうして体験入学に立候補したのです」
影山優美の質問に麗奈はそう答えるのであった。
「それでこれが一番聞きたかったんだけど‥‥鳳凰慈さんは星乃君とどのような関係ですか? さっきから思っていたんですけど妙に距離が近いと言いますか」
この問いには誰もが思っていたことである。この昼食の時間から2人の距離が近い、それも後数十センチで肩と肩が当たりそうなほどの距離であった。零はその問いに対しても黙食しているし、麗奈はいうと「‥‥あぁ、そういえばまだ言っていませんでしたね」と微笑んでいた。
「私が星乃さんと出会ったのは7月のあるコンビニの前で見知らぬ男性たちに強引な誘いを受けていたのですがそこに颯爽と星乃さんが現れてその男性たちはいとも容易く懲らしめてそして「お怪我はありませんか?」と優しく手を差し伸べてくれたのです。そしてその後は彼と一緒に夏祭りに行って屋台を巡りながら買った食べ物をお互いに食べさせ合いました。その後しばらく会えない日がありましたが数日前にデパート店でお会いすることが出来てそこで一緒にお買い物をしました。‥‥これはもう友達以上恋人未満という関係でしょうか」
そのきっかけに女子たちは「…嘘、もうそこまで進展してるの?」「香蓮の新たな恋のライバルの登場の予感かも!」「~~~~ッ!!」と互いにああだこうだと言っているのであった。
「いや捏造するなよ、というか友達以上恋人未満って出会った回数は3回だけだろ」
そこに間髪入れず零がツッコむのであった。「いいではありませんか、大事なのは回数よりもその時間をどのように過ごしたか、ですから」と零に返すのであった。
その後も昼休みが終わるまで零と麗奈の関係について根掘り葉掘り聞かれるのであった‥‥‥。
結局あの後は「単なる友人だ」という形で何とか納得してもらえたのだった。が「ならこれからは友人以上の関係を目指します」と鳳凰慈麗奈はなぜかそう宣言し当然女子たちはきゃあきゃあ言ったり星宮に「鳳凰慈さんに負けないように応援しているからね」とエールを送ったりしていたのだった。そして午後の授業は座学でその内容は術と関係のない授業を受けるのだった。この学校は術を学ぶ学校なのだがそれだけで知識が身につくはずがないので1日の時間割の半分は国語、数学、英語といった普通の授業をしっかり受けるのであった。勿論この科目のテスト試験はあり、赤点を出すと補習や追試を受ける羽目となるのである。だが幸いもこの1-Gにからは今のところ赤点を出した者はいないのであった。小笠原陽彩や柏木理沙といった成績上位者がおるためテスト勉強の際には2人に苦手な科目を見てもらいながら何とか赤点だけは回避していたのである。そして意外にも柳寧音はいつも寝ているのにも関わらず平均点を取れるほどの学力を持っており、柏木理沙によれば「あぁー、寧音は応用とかはいつも間違うけど基本問題に関してはどうしてかいつも間違えないんだよね‥‥」と不思議そうに思っていたのであった。その口ぶりからしてどうやら今でも分かっていない様子であった。
そして体験入学1日目が終了したのであった‥‥。
次の日の2日目、零は偶然を装ったであろう鳳凰慈麗奈と登校をしたのだが下駄箱にて運悪く
「おやぁ~~、そこにいるのは星乃君ではありませんかぁ?」
とねちねちした声と共に土谷陸翔とその取り巻きが零の前に現れたのだった。そして他の場所には佐藤光一や平岡涼介、田中美織といった顔見知り(一応)がいたのであった。
「‥‥えっと、星乃さん? こちらの方は?」
彼らを知らない麗奈は零にそう聞いたのだが
「…‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥さぁ?」
「なるほど知らない人なのですね」
「そうそう、じゃあさっさと教室に行こうか」
「なぁ―――に勝手に行こうとしているのかなぁ?」
先に進もうとしている零の前に取り巻きが立ちはだかったのだった。そんな中陸斗はふと零の後ろにいる人物に目を付けた。
「貴方は確か‥‥あぁそう言えば1-Gに特別体験入学をしている他校の学生がいると昨日担任から聞きました。確か、鳳凰慈麗奈、さんですよね」
「はい、私は鳳凰慈麗奈ですが何か御用でしょうか?」
「貴方に1つお聞きしたいのですがどうして1-Gという落ちこぼれしかいないクラスにどうしているのでしょうか? そんなクラスなんかではなく上位クラスのA組やB組といったクラスに行けば実りのある体験入学が出来るというのに何故そのクラスを選んだのでしょうか?」
「‥‥すみませんが質問の意図が分かりません」
「まぁ要するに彼は落ちこぼれのクラスの中で最も最弱で、最も術の才能がない無能です。そんな彼と一緒にいては折角の体験入学が台無しになります。今からでも遅くありませんから今日から1-Aで授業を受けてみませんか? きっと有意義な時間を過ごせますよ」
「あぁ、それでしたら結構です。私は今でも十分有意義な時間を過ごせていますので」
予想外の返答に「なっ!」と思わずそう言うのであった。
「‥‥貴方は正気なのですか? そんな無能といても得られるものは何1つもないというのに‥‥」
「いいえ、何かを得られるのかなんて関係ありませんよ。私にとって大事なことはその生徒が楽しい学校生活を送れるか、その生徒が将来なりたい自分になれているかどうか、それだけです。‥‥それに星乃さんは無能なんかではありませんよ。私が保証します」
初対面の人物に対しても自分の意見を物怖じせず堂々と言えるのは財閥家として生きる者だからか、それとももっと別の思いが彼女の心の内にすでにあったのだろうか‥‥。
「……全く、駄目ですよそんな無能に脅されてそう言う他しかなかったのでしょうがここは誰もが平等に過ごすためにある学校です。この場で嘘なんてつく必要なんてないのですから、さぁ、本心を大きな声で仰ってください。本当はそこの無能に脅されていた。と」
その一言は最早横暴の一種と思えた。鳳凰慈麗奈が嘘偽りなく陸翔の目を見てはっきり言ったのに対して全く効く耳を持たなかった。それどころか自分の都合よく解釈しそしてまるで先ほどの言葉を全部脅迫されてそう言うしかなかったと思わせることで周りにいる生徒達は同情や哀れといった共感を鳳凰慈麗奈に対して持たせるのであった。流石にそんな返答が返ってくるとは思っていなかったのか麗奈は唖然とするしかなかった。その間に「可哀そう」「なんてやり方だ!」「これだから無能は‥‥」と一方的に零の価値観を下げていくのであった。
「なっ!? 馬鹿なことは言わないで下さい! 私は本心で先ほどの言葉を述べたのですよ!」
「あぁ、可哀そうに‥‥無能から一方的にそう言わなければひどい目に遭わされるのですね‥‥」
最早話にすらならなかった。麗奈が何かを言えば陸翔が都合のいい解釈を考える‥‥その繰り返しだった。その度に零は周りの生徒から好き放題言われていくのであった。
『‥‥‥ここは彼にとってとても居心地が悪い所なのですね』
私はある理由でこの第3術科学校に特別体験入学という名目でこの場にいる。その理由は彼こと星乃零という人物を少しでも知ることである。そのために鳳星桜学園の理事長を務めている叔父に直談判をし少しでもいいから第3術科学校に通いたい。とお願いをしたのだ。そして数日ではあるがこの願いが叶うことが出来、そしてまだ2日目だが彼とその周りのクラスメイト達と過ごすことは私にとって価値のある時間だと思えた。
私の家柄の事情があるためか他の同学年の生徒と一緒に食卓を囲むことは殆どない。仮にあったとしても私の家柄の事が分かればすぐによそよそしい態度を取られ、そして一緒に下校したりショッピングに通ったりと他の人なら当たり前の行為が一切出来ていなかった。私だって家柄以外は普通の女の子である。下校にクレープ屋によっておしゃべりしたり、友達とお洒落について話したりもしたい。そんな叶わない願望をこれまで内に秘めていたが、なんと昨日初めて星乃さんのクラスメイト数名と一緒に帰り道にあるクレープ屋に寄りそのまま一緒にクレープを食べることが出来たのだった。本当は星乃さんと一緒に食べたかったけど女子だけだったので当然ながら星乃さんはいなかった。でもそれはそれで嬉しかった。だからこの嬉しい気持ちを今度は星乃さんと一緒に共有したいと思ったのだった。
この時星乃さんの事について少し聞くことが出来たのだった。何でも彼は生徒や教師化ら無能と呼ばれているらしい。まぁそれは事前に調べていたので問題はなかった。だが次からが問題だった。彼はなんでもこの世のものとは思えないほどの力を身に宿しているとの事だった。無詠唱術を始め、9月末に第7術科女学院では正体不明の黒い柱が現れたという事はニュースで流れていることは知っている。だがそれ以上の事は何も分かっていなかったのだが彼女たちが言うにはあの黒い柱は星乃君が起こしたとの事で、1度死んだはずの影山優美さんを何らかの方法で生き返らせたという事らしい。そして彼は性別や肉体を少年から少女、男性から女性へと自在に変えることが出来るとも話していた。そしてこれが一番気がかりなのだが半年前一度だけまるでアニメやゲームに出てくるような可憐な聖女のような姿へと変え、そして無差別に殺されていた人物たちを1人も欠けることなく助けたとの事であった。今までの話もそうだが特にこの最後の内容だけはどうしても不可解な所が見られたが、どうやら彼女たちも詳しくは知らないらしい。そして彼女たちはこのような事から彼の事を規格外と呼んでいるらしい。‥‥確かにその呼び名が似合うなと思えたのであった。
だからこそ彼の事を無能と一方的に言い続ける彼らが許せなかった。だから思わず反論したのだがどういう解釈をすればあのような馬鹿げた発言が出来るのか理解できなかった。でも、それ以前に何度反論しても同じようなことを言い続けて彼の価値を下げてしまう行動をとってしまったことに泣きたくなるほど悔しかった。彼の事を何も知らないくせに、彼の優しさを踏み躙るな、と本当は声に出して言いたかった。でもそうすればもっと彼の価値が下がってしまう事に恐れてしまい何も言えなくなってしまった‥‥。だからもう『‥‥ごめんなさい』とそう心の中で言うしか
パチパチパチパチ‥‥‥‥
私の後ろから拍手をする音が聞こえた。その音のする方を振り返ると…
「いやはや、全くアンタの演技っぷりには驚かされたよ。何度言ってもすぐにそんな周りに理解されるような言葉がポンポンと出てくるのだからな」
「おやおやぁ? さすがの無能の君でもこの俺の凄さに理解し納得して頂いたようだねぇ。さてどうだい? 鳳凰慈麗奈さんをうちのクラスで体験入学をさせる気になったかい? その場合は必ず昨日よりも有意義な時間を送らせると約束しようではないか」
拍手をしながら陸翔の方へと向かってくる星乃零はそう褒めるように言いながら気付けば陸翔の目の前にいたのであった。対して陸翔は褒められたことに気持ちが緩んだのか零に麗奈をこちらで体験入学を受けさせるよう提案をするのであった。そして「そりゃあ勿論…」と笑顔の状態で零が続けて言おうとしているのだがこの時誰も気付けなかった。普段あまり笑わない人が笑うとそれはどういう意味なのか、そして知らず知らずの内に零の癇に障っていたことに‥‥
「ふざけるなよ。雑魚風情が」
その言葉だけで十分だった。その言葉を聞いた生徒(鳳凰慈麗奈は除く)はその場で一瞬自身が死んだのかと思えるほど体中の体温が、血液が一気に失うような感覚を得たのだった。もちろん死んではいない。だが他生徒から見た星乃零を僅一瞬人とは思えない、それもこの世に実在しないような怪物を目にしたかのような表情をしその場から動けず身震いをし始めたのだった。いきなりの感覚を得たのか「なっ! ど、どうして‥‥」「な、何で止まらないの!」「か、体が言う事を効かない!」と当然のように騒ぎ始めたのだった。対して零は他の生徒が騒いでいることに目も呉れずいきなり体が震え始め狼狽えている陸翔の耳元に
「これ以上俺の邪魔をするというなら一度この辺りで白黒つけようか」
そう言いカバンに入れていたある用紙に自身の名前を書いてそのまま陸翔の足元に置くのだった。そして
「まさかと思うけど受理しないわけないよね? 無能如きなんかに楽勝で勝てるっていつも周りに豪語しているもんね」
そう言いながら下駄箱場から立ち去るのであった。
そして零が陸斗の足元に置いたのは決闘申請の書類であった‥‥。




