昨晩起きた事
「‥‥‥‥‥は!?」
少女が勢いよく起き上がり、そして徐々に気を失うまでの記憶を思い出した。さっきまであの人間に酷い目に遭わされそしてそのまま気を失っていたはずであった‥‥だというのにここはあの人間が住んでいるような部屋と全く異なり清掃が行き届いており、悪臭すらも感じ取れない。そして周りにあるのは机と椅子といったシンプルな家具があるだけであった。それに体を見下ろすとまだ少し痛むが包帯が巻かれていることに気付いた。あの後私は一体どうなったのだろうか、とそんなことを思っているとガチャと扉が開く音がした。そして入ってきたのは
「あっ、良かった、目が覚めたんだね」
そう意識を取り戻した少女が見たのは
「ッ!? に、人間!」
その女性の年は少し上だろうか、濡れタオルを手に少女の姿を見て安堵の声を出しながらこちらに近づいてきた。だが
「く、来るな人間!! それ以上近づけば殺すぞ!」
少女のその一言は脅しではなく本気であった。何せ少女が見てきた人間は自分の欲望を満たすならば少女と同じ女子供を使って泣こうが喚こうがお構いなしに痛めつけたり、欲求を満たすために体を玩具のように扱い、金になるという理由でどこかに売り捌いたり、何かの薬品の実験道具として扱われ最後にはゴミのように捨てられたり‥‥‥と何度も何度も、それも数えきれないほど見てきたのだった。そしてこちらに向かって来るこの人間もどうせ同じだと思ったのだった。だけど返ってきた返答は
「大丈夫、私は貴方の味方だよ」
と優しく声を掛けてきたのだった。対して
「ふざけるな!! それで騙されるような私ではないぞ!」
何度も何度も人間から痛い目に遭わされた、遭わされている場面を見てきた少女にとってその言葉は信用出来るに足りない言葉であった。だから瞬時に爪を出してそのまま向かって来る人間に体を貫いて殺そうと行動に移した。だがその寸前
「も~~駄目だにゃ、そんなことしたにゃ」
その声と共に貫こうとしていた腕を何かにガシッと掴まれ、掴まれた腕はピクリとも動かせばかった。一体誰がしたのかと掴んだ腕の持ち主を見上げると驚くのだった。何故ならその腕の持ち主は一見人間の女のようだが頭部とその女の後ろに普通の人間には絶対にないはずのものが付いていた。それは‥‥
「‥‥ど、どうしてここに獣人族が‥‥」
頭には猫耳、臀部には少し長い尻尾が生えていた。そしてその耳と尻尾は少女にも同じく生えているのだった。
「? どうしても何もここには人間に捕らわれていた獣人族を保護する場所だからだにゃ」
「獣人を保護する場所…だと、そんな場所聞いたことないぞ!!」
「そりゃあ、この場所のことが広がったら人間に狙われるから聞いたことないはずだにゃ」
「‥‥あぁ、そうか分かったぞ。どうせお前もこの人間の言いなりなんだ、だからそこの人間の言いなりとなってありもしないことを話しているだけだろ!」
この少女が人間によって受けた傷は相当深い。だから目の前にいる同じ獣人族が何を言ってもそんなことはない、あり得ないと否定的になるのも無理もない。
「貴方がそこの人間を殺せないなら私が殺! そうすれば貴方は言いなりから解放されてここから逃げられる、そうでしょ!」
やがて少女は興奮状態となるのだった。獣人族が一度興奮すれば人間では手に負えなくなるような状態となる。そして最終的には興奮が冷めるまでそこら中で暴れまわり止めるためには怪我覚悟で止めなければいけないのだが
「黙りなさい」
先ほどまでの朗らかな言葉から一転、身が凍えるほどの言葉を発したのだった。それにより今まで興奮状態であったはずの少女は一瞬で興奮が冷めビクッと体を震わせるのだった‥‥。
「貴方のその包帯を巻いたのは私の隣にいる彼女です。そんな恩知らずの獣人はこの私が直々に殺してあげましょうか?」
その獣人が言う言葉1つ1つには重みがあり、そして殺意が込められていた。もしこれ以上言い続ければ間違いなくこの場で殺される‥‥そう思えるほどの威圧感だった。そしてこのまま殺されてしまうのかと思っているとガチャと再び扉が開く音がし誰かが入ってきたのだった。そしてその誰かがこの部屋に入ってきた途端、
「あっ! ディア―――♡」
先ほどまでの威圧感が一瞬でなくなり先ほどまでの朗らかな声と共に獣人の女性はその部屋に着たその人物に向かってピョンと飛んでいきそのまま抱きつくのかと思いきやその瞬間何故かその人物を透り抜けてそのまま部屋の外の壁にドン! と大きな音を立てて激突したのであった。その後「痛いにゃ! 痛いにゃ~!」とその場でじたばたしているのであった。ちなみにその人物は獣人の女性に抱き着かれる瞬間残像が出来るほどの瞬間移動をしたのであった‥‥。
「‥‥それで怪我の具合はどうだ?」
「‥‥フン、人間に助けられたのは癪だけどまぁ今は良いわ。‥‥えぇ、まだ少し痛むけど特に問題はないわ」
「‥‥そうか」とその人物は言うのであった。その人間はどこからどう見ても人間だった。頭に耳が付いていなければ尻尾すらも生えておらず、第一印象はとても貧弱そうで戦えばこちらが余裕で勝てそうな相手だった。だけど話によればこの人間が私を助けてくれたらしい。一体どうやってここまで運んだのか気になる所だが、
「‥‥悪いけど私はここに長くはいられないわ。もしかするとあの欲まみれな人間がここに来るかもしれないから‥‥私の首には奴隷の刻印が備わっていてこれがある限り私はどこに逃げようが隠れようがすぐに見つけるわ。そうなったら貴方たちも獣人族を匿った罰として殺されるか、殺された方がマシと思えることをされるわよ。‥‥特に私を手当てした貴方なんか弱いから一番に狙われるわ」
その言葉にその女性はただ黙るしかなかった。そんな静寂を破ったのは
「大丈夫だにゃあ~~」
と獣人の女性はそう呑気に言うのであった。そして続けざまに
「だってその話が本当ならどうしてその人間はいつまで経ってもここに来ないのかにゃあ?」
「そ、それは万全な態勢で私を拘束するため、拘束用の道具を今準備しているはずだから‥‥」
「その前提が間違っているんだにゃあ。だってその人間たちは‥‥」
その続きを言おうとしたところで「待てアリス」とその人間が言葉を止めたのであった。そして後ろを振り返って「成宮さん、少し席を外してもらえますか? ここから先は貴方は聞かない方がいいと思いますので‥‥」と言うのであった。そしてその成宮という人間は「‥‥‥えぇ、分かったわ」と言うとこの部屋から出て行くのであった。少女は一体どうしてその人間をこの場から外したのかが理解できていなかった。
「アリスの続きは俺が言おう。昨日俺が貴方を助けた後の話だけど‥‥」
そして私が気を失っている間に起きた昨晩の話をしたのであった。
「‥‥‥‥嘘でしょ?」
「嘘じゃないにゃあ。ディアにかかれば貴方の言う欲まみれの人間なんてそこら辺に転がっている石っころレベルに過ぎないんだからにゃあ」
「‥‥まぁ正確にはティアとグレンがやったんだけどな」
俺は獣人の少女に昨晩起きたことを話したのであった。
少女をあの場から助けた後首辺りに何かの刻印があることに気付いた。この刻印について調べたいため偶然近くにあった廃墟ビルの方へと向かった。そして調べた結果奴隷の刻印であることが判明した。そしてこの刻印には現在地の居場所を特定する機能があり、本来ならこの刻印を解除するにはかけた本人を殺すか、その本人に解いてもらうかの2択だった。だが俺の場合はある方法を使えばそれに関係なく解呪出来るのだが今解けばかけた本人に気付かれてしまうのは確実だ。そこでこの刻印を逆に利用させてもらった。まず後数分でその本人の部下がここに来ることを読んでこのまま廃墟ビルに留まることにした。そしてその部下が来たタイミングを狙って『座標転移』でこのビルの屋上、それも周りの建物を見渡せる場所まで移動し宙を浮きながらその十数名が2階へ向かうまで待つのであった。1階はすでに俺の眼の範囲となっているので1階に誰1人おらず2階以降へと捜索し始めたところで『座標転移』で1階まで戻り1階と2階を行き来する階段に大きめの瓦礫を用意するのであった。そして俺は彼らと彼らを仕切る者を平和を脅かす害と認定しグレンとティアを呼び出し1人残らず始末するように命じるのであった。
グレンは未だ獣人捜索しているグループといきなり現れた瓦礫を撤去するグループに分かれてしばらく時間が経過した瞬間を狙い音もなく撤去グループ数名の背後から音もなく現われそのまま声を出させずに首と胴体を持っていた大斧で横に一閃しそのまま切断し絶命させるのだった。その後も捜索グループ12人に大斧で縦横斜めと一閃するといとも容易く1人、また1人と絶命していくのであった。そして最後の1人を始末した後は証拠隠滅のためこの廃墟ビルを破壊するように命じ大斧を屋上にて一振りするとそのまま崩壊し始めたのだった。
そしてティアはというと部下を仕切るその者1人となり、呑気にタバコを吸い通信機を出し完全に油断している瞬間を狙い音もなく背後に迫りそのまま持っている短剣で首と胴体を分けるのだった。ティアがその人物を始末したことにより獣人少女にかけてあった奴隷の刻印は消えたのだった‥‥。
「‥‥それで俺がここに来た理由は奴隷の刻印の後遺症がないか確認しに来ただけだ。そして聞いたところ後遺症はないとの事だ」
そう言い終えるとその人間はこの部屋を出ようとしていたのだった。
「‥‥どこかに行くの?」
「あぁ、ちょっとこれから用事があるんだ。ここには少し時間があったから寄っただけだ」
そしてこの部屋から出ようとしたところで「待って、貴方何者なの?」とそう声を掛けられたため適当に「星乃零。どこにでもいるただの人間だ」と答えてこの部屋を出るのだった。




