終業式後…
必要な物を持って星乃零は、喫茶店を出てそのまま通っている学校へと向かった。登校手段は数分徒歩で歩き、次に電車に数分揺られ続け、目的の駅に着いたら目的地の学校まで再び数分徒歩で向かう。という手順となっている。
そして目的地の駅に降りて、しばらく歩いていたら
「おっす! 星乃!」
といきなり後ろから声を掛けてきて背中をバシッと叩いてきた。その人物は
「あぁ、裕也か」
「おうともさ!」
「どした? いつもなら今日も学校しんでぇ~~って言うのに今日はやけにテンション高いけど?」
そう聞くと裕也という少年はその言葉を待っていたかのような返答をしたのだった。
「ふっ、分かってねぇなぁ、今日は終業式! つまり、今日は午前中で学校が終わる! そして、今日はついにあれが出る日でもある!」
そう言うと、ポケットに入れていたスマホを手にし、その画面を零に見せるのだった。その画面にはゲームに出て来る可愛い女の子たちがたくさん描かれていた。
「あっ、これってあの会社の新作ゲーム…」
「あぁ、そうだ。俺はこのゲームが出るのをどれだけ待ち焦がれたことか」
「確かに。この前作は登場する女の子たちは可愛いし、終盤になると泣けるシーンがたくさんあったよなぁ……でも、ここで見せていいの?」
「あぁ、勿論分かっているさ。お前は俺の親友だからこっそり見せてやろうと思ったからな。だが、あいつのせいで俺のスマホたちはどれだけの犠牲を出したことか…」
とこれまで逝った数多のスマホに思いふけっていると
「あいつって、もしかして私の事かな」
と2人は声のした後ろの方を振り返ると、そこには笑顔を浮かべている少女がおり、2人と同じ制服を着ているのだった。その少女を見るや否
「げっ、委員長!?」
「何よ、人の顔を見るなりそんなに驚いて…あっ、もしかして裕也、またいかがわしいサイトを見ているのね!」
「そうじゃねぇって、たまたま面白そうな動画を見つけたから蓮に見せていただけだよ! なぁ零!」
「…あぁうんそうだよぉ」
「なんで棒読み!」
「つまり嘘ってことね。さぁ裕也! 早くそのスマホの画面を見せなさい!」
「ひぃぃぃ、もう勘弁してくれぇ~~」
「あっこら、ちょっと待ちなさい!」
そう言うと二人は全速力で学校まで走ったのだった。その光景は零にとっては見慣れた日常生活の一部であった。
一条裕也。零とは中学からできた友人である。彼はお調子者で学年内ではそれなりに有名である。そして三度の飯よりゲーム(18禁)を愛している。そのため彼の金銭はほとんどがゲームに持っていかれてしまう。
三条絵里奈。零のクラスの学級委員であり、正義感が強く生真面目である。そのためある理由で1人でいた零に良く声を掛けてはもっとああしろ、こうしろ、とよく毎日言って来たりしてきた。一方裕也に対してはいかがわしいサイトを見ている所を何度も見ては注意し、挙句の果てにはスマホを何度も取り上げ、そしてその度に何度も壊したりもしている。彼女から見ればどうやら零と裕也のセットはいかがわしい関連で繋がっていると強く思っているのか2人揃っているところに隙あれば入ってきてあれこれ言ってくるため裕也にとっては非常に困るようであった。
高校でもこのような状況が続くと考えると裕也だけでなく零も困っているのであった…。
零の学年は全部で4クラスあり、零と裕也、絵里奈は3―4である。
零が着いた時にはすでに半分以上の生徒たちが来ていた。その中には案の定裕也と絵里奈もいたのだった。ちなみに裕也はスマホを何とか死守したようだが、ここに来るまでよほど疲れたのか今は机の上で突っ伏せていたのだった。零の席は裕也の1つ前の席である。その席の所に着くと
「裕也、生きているか?」
「あぁ、零か、今回は‥‥何とかスマホを死守出来たぞ」
そしてそのまま会話が終わるのかと思いきや
「あぁ、そうだ零。明日暇なら遊ばないか?」
といきなり遊びに誘ってきたのだった。
「? 明日は今日届くゲームで1日中遊ばないのか?」
「あぁ、俺もそう思っていたけど、実は日用品が切れかかっていることにさっき気付いてなぁ…このままだと満足に遊べねぇんだ」
手をパンと叩いて「頼む!」付け足したのだった。
「う~ん、でもこっちの予定が分からないからまだ何とも言えないけど…」
「助かる!」
まだ最後まで言っていないが何故か遊ぶ方向へと向かっていた。だが、この会話を聞いた少女が黙っていなかった。
「ちょっと二人とも!」
と先ほどまで自分の席にいたはずの三条絵里奈がいつの間にか零たちの席のところまでやってきていたのだった。
「げっ、委員長! 俺はただ明日零と遊ぶことを約束していただけだぞ!」
「えぇ、今聞いた」
「じゃあ、何だよ…」
また怒られるのではないかとハラハラしていたがそれは杞憂に終わった。
「私も一緒に行くわ。貴方たちがこの学校の品格を落とさないかの監視役として」
「はぁ? 駄目に決まってんだろ。男同士で遊ぶんだから委員長は楽しくないと思うぞ」
「それはこっちのセリフよ。どうせいかがわしい店に行って一日中遊ぶんでしょ」
「んなわけないだろ。それに学生がそんなところ行ったってバレれば最悪退学になるんだぞ」
「どうせ貴方たちのことだから何かしらの方法を使って遊ぶんでしょ。これだからいか がわしいことで頭がいっぱいな男は…」
「はっ! 委員長こそ実はこっそり誰もいないところで何かエロいことでもしてるんじゃないのか? 俺の持っているゲームでも真面目な女の子ほど欲求不満だっていうしさ!」
絵里奈の発言に頭が来たのか裕也は思わず身勝手な考えを告げるのだった。だがそれが余計な一言とはこの時気付かなかった。
「……な、なんですってぇぇぇぇぇ!!!!」
怒りのあまり絵里奈は裕也にとびかかったのだった。そしてこのクラスでは見慣れた喧嘩が始まったのだった。それを見たクラスメイトは「あっ、まただ」「相変わらずだよなぁ…」「ほんと、さっさと付き合えばいいのに」と呟かれていることなど気付いていなかった。
「……えっ、俺も裕也と同じ、なのか?」
そんな中零は絵里奈に言われたことにショックを受けていたのだった…。
そして、終業式を無事に終え、その後授業はないため、少しのホームルームを終えると、教室や下駄箱の所では多くの生徒で賑わっていた。「明日から春休みだ!」「明日は何しようかなぁ」等の春休みの予定をそれぞれ言い合っていた。そして結局、零も明日は裕也と絵里奈でここから少し離れた大型デパートで遊ぶことになってしまったのだった。ちなみに零は明日の予定に関しては1日中ゴロゴロしようと考えていたのだったが、それは叶わなくなってしまったのだった。相手から頼みごとをされると断りにくく、結局頼みごとを受けてしまう。つまり押しに弱いのである。
「はぁ、結局委員長も来るのかぁ~~」
「しょうがないよ。三条さんは頑固だから言い出したらもうこちらの言い分は受け付けないし、諦めて受け入れるしかない」
「はぁ~~~だよなぁ~~…でもなぁ~…」
慰めても裕也は何度も溜息をつくのだった。
「なぁ、星乃。今から昼飯行かねぇか?」
と誘ってきたのだった。異常な切り替え速度であった。が
「…ふっふっふ。今日は」
「あっ、そうか今日はあれの日か」
「最後まで言わせてよ…」
裕也は何かを察したのかこれ以上は何も言わなかった。
「じゃあな。俺は今から猛スピードで帰ってゲーム漬けの半日を送るぜ!」
というや否すぐに下駄箱へと向かった。零もある場所に行くために早歩きで下駄箱へと向かった。だが途中
「おやおや、そこにいるのは星乃君ではありませんか」
と声がしたのでその方向を向くと、そこには1人の男子生徒と数名の生徒がいたのだった。零に声を掛けてきた生徒は周りの生徒と戸は違う雰囲気を纏っていた。
土谷陸翔。零と同級生である。彼は何でも世間で有名な一族の1人で学年成績もそれなりに上位に入る。そして陸翔の姿を見ると周りの生徒たちは「あっ、陸翔だ!」「えっ、陸翔!」といつの間にか陸翔の周りには多くの生徒で囲まれていた。この状況から見て彼はこの学校ではかなりの有名人である。ちなみに陸斗の近くにいる生徒は陸翔の取り巻きであるためごく一般の生徒である。
「…はぁ。で、何か用? 今急いでいるからさっさと用件済まして」
「あぁ? 陸斗さんがお前のような市民に声を掛けて頂けたのだぞ! 深くお辞儀の一つでもするのが道理だろ!」
「そうだぞ! 高級品の菓子の1つでも差し上げるのが当たり前だろ!」
いや、どうしてそうなる。と思っていると、
「落ち着け二人とも。ここはどこか分かっているのか?」
「「はい、すみませんでした!!」」
(分かりやすい奴ら!!)
陸斗から注意を受けると2人はすぐに黙ったのだった。陸翔に対しては物分かりがいい2人である。
「すまないね。二人共どうも君の事になると血の気が盛んで」
「うん、だから今急いでいるから早くして」
「分かった手短に済ませよう。星乃君僕の…」
「話は大したことないようだな。じゃあ帰るね」
と最後まで聞かずにさっさと返答して、その場を離れるのだった。
「まぁまぁ、そう急かなくていいじゃないか。僕と君の仲じゃないか」
正直、特に好意を持たない女子が聞いたら嗚咽しそうなセリフではないかと思う。
「折角だから、一緒に春休みを満喫しようじゃないか。僕に希望を出せばもしかしたら叶えられるかもしれないよ」
「あぁそうか、でも特に何もないな。じゃあ俺は今急いでいるんだ」
「何だい? この僕よりも優先すべき用事があるのかい?」
「あぁそうだ。お前の何十、何百、何千倍も価値のある用事がな」
そう告げて零はこの場から離れるのだった。
「おい! 勝手に逃げるな!」
「陸翔様直々の誘いを断るのか!」
と取り巻き生徒が遠ざかっていく零の背中に向けてそう叫ぶのだった。その光景を見た生徒たちは
「えっ、何が起きたの?」
「あぁ、陸翔が星乃を春休みに遊ぶ約束したみたい」
「ふーん。まぁ、仕方がないんじゃない。だって無能だし。それにあいついつも何考えているか分からないし」
周りの生徒たちは零に関しては陸翔の時と異なった発言をし、一方陸斗は誰にも聞こえないようにこう呟いていた。
「ちっ、無能風情がいい気になりやがって…」
その言葉は先ほどと違いどこか苛立っているように見えたのだった。
「ふぅ…あいつら何故かいつも突っかかってくるからほんと迷惑なんだよなぁ」
校舎を出てしばらくした所でそう呟くのだった。陸翔たちがこうも執着してくる理由は心当たりがない。一体いつまで続くのか不安で堪らなかった。もしも高校生活でも続くなら本格的に対処しようとそう決めたのだった。
その後は何のトラブルもなく電車に乗り、それから数分後には目的地がある駅に降りて、それから目的地まで徒歩で数十分したら到着である。
「まぁ、陸翔とのことはどうでもいいや。それよりも早く向かわないとな」
その目的地にはある人物と会うため週五回で行っており、自分にとっては安らげる場所の1つである。早く会いたいな。そう思い、笑みを浮かべながら人通りの多い大広場を進めていくのだった。
だが、突然の爆発でその笑みは崩れ去ったのだった。
その爆発が起きた建設途中の建物にある黒い生物がいた。その生物は普通の動物、ましては人間ではない。もしそうだったら立っていることすらあり得ない。何故ならその生物は爆発が収まっても傷一つどころか火傷もなく四本足で立っていたのだった。その黒い生物は一匹だけでなく何十体もおり、そして
「「「■■■■■■■■!!」」」
人には聞き取れない言語で雄叫びをあげるのだった。
「…はぁ、なんでこんな時に…」
零はその状況の中気分が右斜め下にガタ落ちしたのだった。