花里マリィについて
「なぁなぁ、見てみろよ。あの子すげぇ可愛くねぇ?」
「ホントだな。ちょっと声かけてみようぜ」
「あ、でもそばに男がいるなぁ···」
「なぁに、あれはどうせ大したことのない非モテだろ。あんなやつにあんなかわいい子の彼女なんてありえないだろ」
「確かにそうだな! それじゃああの男がいなくなった隙に声かけてやろうぜ!」
·····とナンパをやろうとしている大学生くらいの男たちがそうヒソヒソと絶賛話し中であった。彼らとの距離は20メートルほど離れており普通は遠すぎて聞き取れないが星乃零と花里マリィにとってはすぐ傍で話しているようなものである。そしてこのようナンパしようとしている男どもは何も彼らだけではない。実を言えばこのデパート店に入ってからまだ数十分経ったが、それまでに何十人者の男どもがナンパをしようとする声がそこら中からしており「いつする?」「あの男がいなくなったらだ」「いっそのことあの男をあの子から引き離そうぜ」等とよからぬ計画を企てていた。対して零とマリィはというと
「····で、今日は何をしににここに来たんだよ?」
「言ったでしょ。今日は私の買い物に1日中付き合ってもらうわよ」
「いや、だから具体的には何をしににここに来たんだよ」
「何? 買い物するのに理由が必要なの?」
「普通はいるものじゃないのか? 可愛いぬいぐるみを買いにだったり、入荷した洋服を見に···とか」
「生憎洋服はアイドルをやっていたときにスタイルさんからもらって今では着るに困らないくらいあるし、可愛いぬいぐるみはファンからの贈り物でたくさんあるから特にいらないわ」
「えぇ~~····じゃあ何をしにここに来たんだよ····」
「そんなの決まってるじゃない。ぶらぶらしに来ただけよ」
「······えっ、まさかと思うけどここに来た目的とか一切考えていないのか?」
「当たり前でしょ。どうしていちいち計画とか立てないといけないの?」
と当たり前のように言うマリィの一言に零は唖然とするのであった。つまりこの1日は特にぶらぶらするだけで買いたい物や見たい物など一切なく、各コーナーや広場を歩き回るだけのただただ疲れるだけの1日を過ごすという事である。
彼女の行動はいつも自由気ままで気の向くままに行動をしている。例えば重要な話の場でも呑気に置いてあるお菓子を食べていたり、何も呼んでもいないのに零の元に来ては邪魔してきたりからかってきたりしてくる。そんな彼女だが1番好きなことは歌を歌う事である。彼女の歌声には人々を幸せにする不思議な力が備わっていることに気付きいつか世界中の人々を私の歌で幸せにして平和な世界にしたい。という夢を持っていた。だがその夢はあることをきっかけで叶う事はなくなり、そして彼女はこの事を機に二度と人々のために歌う事は無くなり、自分自身の存在理由として歌うようになった。そんな彼女だがどういうわけかアイドルに興味を持ち、それをきっかけに再び人々のために歌う事を決意し、以降彼女は海原マリーという名前で『HSP』というアイドルグループがある会社に所属、そして彼女は僅か1年でセンターに抜擢されその歌や踊りで人々を魅了し僅か1年未満で国民の誰もが知る人気アイドルへと上り詰めたのであった‥‥。
正直、もう帰りたいと思った。先ほどマリィはこのデパート店に来た理由をぶらぶらしに来ただけ、いちいち計画を立てないといけないの。と言うのであった。そして本当にそこら辺のコーナーを1通り見た後はすぐ近くのコーナーへと向かうのであった。そのコーナーのジャンルは様々で食品や洋服、本屋、スポーツ店、レストラン、玩具‥‥等と1つ1つのコーナーを見回り、そこのコーナーで何かを買うわけではなく只々ぶらぶらするだけで商品を買うという行為は一切していない。マリィは所持金を持っていないのかと思うのだがそんなはずはなく、ショルダーバックの中に財布は入っているはず‥‥だというのに何故入店してから1時間はすでに経過しているのだが何かを買おうと行動を起こすような素振りは一切見られない‥‥。それどころか「~~~♪」と上機嫌で鼻歌を歌いながらこちらを時折見る素振りが見られた。そんなに気分が上がるようなことがあったのかと入店から今に至るまでの経緯を脳内で確認するもそれらしい出来事は全くない。という事で
「‥‥随分機嫌がいいな」
「そうかしら? まぁ姿を変えてではあるけどこうしてディアと一緒にいられるからかしら?」
「そうか? いつも‥‥というより最近はよく一緒にいるだろ」
「まぁ、それはそうなんだけど、それはいつも何かしらの厄介絡みの話し合いとかで居合わせるぐらいでしょ」
「居合わせるって、いつもそっちから勝手に来ていただろ‥‥」
「アイドルを辞めてからはディアが今住んでいる喫茶四季でバイトをやっている内に気付いたんだけど、アイドルをやっていた時よりもなんだか最近は気が楽になった気がするの」
「ふぅん、そこまで言える理由とかあるのか?」
「そうね‥‥強いて言うならアイドルやっていた時はああしろ、こうしろっていつも上から目線で偉そうに言う人間が気にくわなかったわ。それに大半の仕事を他の人間に任せてはその人間の手柄をいつも全部自分のものにしていたわ。それにあの人間についてジュダルが調べてくれたけど何でも世間に公表できないような事をいくつもやっていたみたい。そんな人間の元でアイドルやるなんてまっぴらごめんよ。という事で私たちはあのドームライブ後にすぐに引退したのよ。
そしてアイドルを辞めて自由の身になった今は誰かにああしろ、こうしろって上から目線で行ってくる人間がいなくて気が楽になったわ」
「‥‥‥そうか、で、今後はどうするんだ? またアイドル活動したいとは思わないのか?」
「ん~~、そうねぇ‥‥今のところは考えていないわ。でも好きな歌は続けたいしなぁ‥‥今度ジュダルに相談しようかしら」
「まぁ、そこはマリィに任せるよ。‥‥で、次はどこに行くんだ?」
「そうねぇ‥‥どうしようかしら?」
様々なコーナーを回っている内に今はCDショップにいるのであった。そしてアイドルコーナーで販売しているCDの音源を聞いているマリィだがどれもピンとこないのかすぐに音源が流れているヘッドホンを置くのであった。そしてCDショップを出るのであった。そして次の場所に向かおうとしていた所に近くの店で大きな物音が鳴るのであった。
その店内からフードを被った2人組の男が勢いよく出てきたのであった。持っている袋には宝石らしき物が入っており「どけ! どけ!」と男が走る方角にいる人々を包丁のような物で脅しているのであった。そんな男たちに「そこの2人止まりなさい!」と2人組の警備人が取り押さえようと向かってきたのだが対して1人の男は「はっ! 誰が止まるかよ!」というや否持っている包丁を警備の人に向けると包丁先からどういうわけか火の球が放出された。そしてそのまま向かって来る警備員の1人直撃し、そしてもう1人が放った風の球が放出、そのままもう1人の警備員に直撃したのであった。「ざまぁねぇな! 無術者風情が俺達を止められると思うな!」「最近手に入れた最新の魔武器に手も足も出ないようだな!」気を失った警備員を確認して再び逃走を始めた。そしてその強盗組は逃走の妨げとなっている人に「あそこで寝ている奴と同じ目に遭いたくなければさっさとどけ!!」というと悲鳴を上げながら卯木次人人々はその場から逃げていくのであった。そしてその先には「ママぁ~~、グスッ…」とその場で立ち尽くして泣いている子供の姿を見ると「お前もさっさとどけぇ!!」と包丁のような魔武器から火の玉を放ったのであった。そしてそのままその幼い子供に直撃したのであった。だがその子供はどういうわけか液上で出来た障壁のような物で守られており、そのおかげでその子供には傷1つすらなかった。その液状で出来た障壁は見たところ水で出来ており‥‥
「全く、どうしてそんな物騒なものを平気で子供に向けれるのかしら。理解に苦しむわ」
子供の目の前には花里マリィが立っていた。だがその姿は先ほどまでの茶髪から本来の水色髪の姿へと戻っていた。そしてマリィの周りには豆粒並みの小さな水の玉がフワフワと浮いているのであった。
「なんだ、女! 邪魔をするなら容赦はしないぞ!」
そういうや否包丁先から先ほどよりも質量が大きい火の球を放出したのだった。この威力なら目の前にいる女性の意識を奪えると思っていたのだろう。そしてその隙に逃げれば何の問題もない。そう思っていたのだが、対するマリィはというと周囲に浮かせていた小さな水の玉に何らかの指示を出したのか、その水の玉が意思を持ったかのようにそのまま向かって来る火の球へと直進しするのであった。本来なら質量の多い火の球に対して豆粒な水玉1つで消すことなんてまず不可能だ。それは目で見るより明らかである、だというのに火と水がぶつかった瞬間あろうことか火の球の方が一瞬で消化・霧散しさらにその水玉は消えることなくそのまま放った男めがけて腹部に直撃すると「がはっ!」と鉛を撃ち込まれたような声を出してそのまま気を失うのであった。もう1人は一体何が起きたのか分からなく思わず逃走とは真逆の方向へ一目散に逃げるのであった。当然マリィは見逃すとは考えておらず‥‥
「逃げられると思うの?」
そう言うと先ほどと同じく浮いている水玉に命令を出し、逃げ出した男めがけて水玉が追いかけるのであった。その動きはまさに生きた生き物同然であり曲がり道でもお手の物で余裕で曲がれるのであった。そしてしばらくすると遠くからバタンという倒れる音が聞こえたのであった。
そしてしばらくすると店の者が通報した術者警備隊の者が到着し2人組の男を引き渡すのであった。この時マリィはすでに茶髪の姿へと戻っているのであった。そして術者警備隊の者たちが去ると
「お疲れ」
「‥‥別に疲れてないわよ」
掛けてきた声の主が零と分かると素っ気ない言葉で返すのであった。零はマリィから「ディアは手を出さないで。私1人で十分だから」というとすぐさま強盗のいる方角へと向かうのであった。とりあえずいつでもフォローに入れるように準備をしていたのだがそれは必要なかった。マリィは1歩も動かずに周りに浮いている水の玉に指示を出して2人組の強盗めがけてそのままぶつけ意識を狩り取るのであった。浮いていた小さな水玉はマリィの体の一部のような物であり手足のように自由自在に動かすことが出来、一定の範囲内なら攻撃だけでなく目視出来ずとも水玉を通して映像共有が可能で相手がどこにいるのかを探すことが出来る万能物である。
「全く、折角の時間が台無しじゃない。あの2人の人間にどう責任を取ってもらおうかしら‥‥いっその事殺して報わせるか…」
「殺すな殺すな」
デパートでの時間を奪われて不機嫌なマリィに対して零はどう機嫌を戻せばいいのかと考えていた所に
「あら? そこにいるのは星乃さんですよね?」
零は思わず声を掛けてきた者の顔を見るために後ろを振り向くと、そこにいたのは‥‥




