劇震
体育祭が終了して気付けば10月31日、つまり10月最終日である。今日の夜はついに人々が待ちに待ったあの日である。今日に至るまでその場所では準備が行われておりステージ設営から照明準備、そしてグッズ販売‥‥等の準備は問題ないだろう。そして‥‥時刻は20時となり
「皆――!! 今日は私たち『HSP』のライブに来てくれてありがと――!! 今日は時間の限りめいいっぱい楽しんで言ってね――!!」
海原マリーがマイクでこの会場にいるであろう観客に向けて言うと「「「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」」」」とマリーの言葉に応えるかのようにサイリウムや団扇を精一杯振るのであった。
「それじゃあ、このオープニング曲から行くよ―――!!」
「「「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」」」」
そして1曲目が流れ出しそれに応じるかのように『HSP』たちは歌とダンスを披露していくのであった‥‥。
「流石はマリーじゃな。観客たちの心を1曲目から掴んでおるのぉ…」
「そりゃあそうだろな。マリーの歌には人の心を動かす力があるんだからな‥‥」
マリーや観客の様子をこのライブドームにあるVIPルームに4人の人物がいた。1人は片手にワインを持ってちびちび飲みながら見守っているジュダル、もう1人はその隣で炭酸ジュースを飲んでいる星乃零、そして2人の後ろにはメイド服を着ているローズと執事服を着ているクランが2人を挟むように座っていた零視点で右からクラン、零、ジュダル、ローズとなっていた。
「そういえばお主の関係者が何人かこのドーム内のおるのじゃろ?」
「あぁそうだな。最前列だったり真ん中あたりの席で今もサイリウムや団扇とかを振っているんじゃないか?」
このライブドームのどこかに零以外の1-Gや朝比奈莉羅や水河瑠璃、影山優美や山影実憂、そして喫茶四季の面々や成宮千尋や立花豪志、黄菜子といった関係のある人物をこのライブチケットを前もって渡していた。そして夜という事もあるのか彼らは全員このドーム内で今も『HSP』のライブを見ている事だろう。
「お主は行かんで良かったのかぇ?」
「俺は人混みが嫌いだから良いんだよ‥‥‥それにわざわざ俺をこの場に呼んだという事は何か理由があるんだろ? 先の体育祭の件や術者強化改造計画の件についてとか‥‥」
「察しが良すぎるのも面白くないのぉ‥‥まぁそうなんじゃが…」
ワインをくいッと飲み零の方に顔を向けて
「その前にお主はどうやって先の体育祭に出られたのじゃ? 恐らくじゃがあの体育祭のほとんどは第1術科学園を輝かせるためだけの祭りごとじゃ。それなのに出場するどころかまさか優勝するとはのぉ‥‥」
(‥‥どうせ大方見当はついているんだろうな‥‥)
零はジュダルに改めてどうやって体育祭に出場できたのか、どのような方法で体育祭で優勝できたのか、そして決勝会で見た事感じ取った事を話すのであった。
まず本戦会に出場した方法なのだが、結論から言えば体育祭運営委員長を脅したのである。ちなみに脅迫内容は覚醒剤を売買していること、委員長としての立場を利用して女性に対して性的暴行を行っていること、また受けた女性に口止め料として何十万を密かに渡していることを世間に公表させたくなければ俺と今から言う9人の人物を特別枠として出場させろ。ということを言ったのである。勿論最初は馬鹿馬鹿しいと断られたが、彼の自室に複数の覚醒剤を隠している場所を告げたりパソコンに保存していた何十ものの性的暴行の映像があるファイルの暗証番号を1文字も間違いなく言った瞬間、どうしてそれを知っている!? という焦りの表情を出してしまい彼がそれに気付いてもすでに遅かった。そして先ほどの脅迫が本気だと理解してくれたのか俺と、俺以外の1-Gの5人、朝比奈莉羅、水河瑠璃、山影実憂、影山優美の10人が特別枠チームとして出場することが出来たのであった。
そして本戦会を難なく突破し決勝会が行われる近くの実践会場へと向かった。入り口から会場内には運営委員が競技場よりも多く待機していたのであった。一見もしものため怪我や事故等に備えて待機しているのではとも思ったが、実際そうではなかった。何故ならその会場内にいたほとんど(8~9割)の運営員は全て誰かの指示のもとで動いているのかどことなく違和感があった。やたらと第1術科学園のチームが待機している場所から出入りしている運営委員が多いし、決勝会が行われる実践場からも運営委員の出入りが多い。1回で10人前後が一斉に出てきたり、何かボソボソ話していたりと気になったため姿と気配を消して後を追ってみたところ「会場の仕掛けは終わったか?」「第1術科学園の生徒以外が木々に触れたり指定した場所を踏めば強力な電流が流れるようにした」「用意した宝玉の近くに第1術科学園の生徒以外の反応があった瞬間周囲に隠してある殺傷性の低いレーザー光線が一斉に放たれるようにしている」「これで間違いなく今年も第1術科学園の優勝だな」と言っていたのであった。そんなわけで第3Xの待機場所に戻る前に実践会場を軽く調べるとその者の言う通り密集したいくつかの木々や開けた場所のいくつかの所に電流が流れるように設定されていたり、宝玉から少し離れた所まで行くと確かに宝玉を囲むようにレーザー光線機が7つほど設置されていた。宝玉についても確かめて見たかったがそこまで行くとレーザー光線の餌食となるので行けなかった。
指定されていた時刻に決勝会が始まった。俺の役目は第31Aの足止めをすることである。がその前にさっさと宝玉を手に入れようと思い先にその場所へと向かった。正直こんな仕組まれた祭りなんて興味はなかったが誰かのために優勝するのもたまには良いかなと思いながら【座標転移】を使用し先ほどは異なり今度は宝玉との距離が間近という所まで転移したのであった。その距離は数メートルほどで当然俺に反応し周囲の7機のレーザー光線機が一斉にこちらに向かいそのまま放とうとしていた。だがそれより早くすでに手にしていた虹色の杖を上に上げて電磁妨害波である【パラライズ・ジャミング】を発動した。この効果は一時的に電子系統の機能を一斉停止する効果を持っており広範囲まで影響を及ぼす。その範囲はこの実践会場全体まで行き届くため当分は数時間ほどかけて用意した罠やレーザー機は使えないためこちらに放とうとしていたレーザー光線は電源が落ちたかのように瞬時に停止したのであった。宝玉に関してだがどうやらこれには第1術科学園の生徒以外の者が触れれば暗証番号を宝玉が置いてある置き場に入力しないといけないらしい。これも電子系統なら良かったのだが宝玉が置いてある置き場には魔力で守られており力づくでとることが難しかった。まぁ出来なくもないがもしそうしたら運営委員に勘づかれるかもしれないため辞めた。かと言って暗証番号数は8文字あるため分からない。が、別に取れないというわけではない。この宝玉は第1術科学園の生徒ならば暗証番号を入力する必要はなくそのまま取れるため特別何かで覆われているわけではないため第1術科学園の生徒以外の者でも取れないことはない。この宝玉は触れただけで暗証番号を入力しないといけないならば考え方は簡単、触れずに取ればいいのである。という事で目の前にある宝玉と決勝会開始前にそっくりそのまま複製した宝玉を用意し、目の前にある宝玉とこの宝玉の位置を入れ替える【マジック・チェンジ】を使用すると手に持った複製の宝玉と目の前の宝玉が光り、そのまま消失したと思いきや再び現れたのだった。形も重さも複製と変わらない、が、俺が今持っているのは本物だと確信した。何故なら【マジック・チェンジ】を使用する前に事前に複製に用意したある仕掛けの痕跡がどこにもなかったからである。つまり今持っているのは本物で今目の前にあるのが俺が用意した偽物となるのであった。そしてその後は本来の役目である第31Aのの足止めへと向かうのであった。
朝比奈彰人の接戦途中に遠くから並々ならぬ魔力を感じたためそこへ向かうと影山優美が安藤小夜に殺されそうな状況を【座標転移】後に確認したため間髪入れずにとび膝蹴りをお見舞いした。だが直撃はしたがすぐに起き上がりそのまま電気を纏った魔武器で突き刺すように攻撃を仕掛けてきたが何の脅威でもないため一蹴した。先ほどの魔力量といい、並外れた攻撃力、そしてここまでの執念はまるであの兄弟を思わせるほどであった‥‥。そこで『術者強化薬剤:パンドラ』を口にしたところ案の定表情に僅かな動きがあったためこれではっきりした。『A7S』は安藤小夜の名字、『あ』のA、名前の『さ』はS、7は第7術科女学院、つまり『A7S』は安藤小夜の事を言っているのであろう。だがそれが分かろうとも彼女は止まることはなかった。再び魔武器を万力の力でこちらに振りかぶって来たので虹色の件で難なく防ぐと持っていた魔武器はボロボロで今にも砕けそうであった。それでも向かってこようとしていたためこちらもそれなりの対応を行おうとしていたが突如誰かと話し始めた。片耳を塞ぐように話していたためおそらく耳に何かしらの通信機が付けられているのだろう。そしてそれが終わると急に立ち去ろうとした。だがそのまま見逃すわけにもいかず追いかけようとしたところに後ろにいた9人めがけて【ストーム・ファング】が迫っていたため踵を返しそのまま迫り来る【ストーム・ファング】を虹色の剣で一閃したのであった。
そしてこの魔術を繰り出したのは【魔力接合】を行った何十人者のこの会場内にいた運営委員によるものであった‥‥。やはり彼らは誰かの指示の下で動いていたという事で狙いは第7術科女学院の選手がこの場から立ち去るまでの時間稼ぎ‥‥そのために俺ではなくあえて他の9人を狙った。そうすれば俺が迷うことなく9人を守るということを選ぶと分かっていたのだろう。
そして第7術科女学院の選手の姿が完全に見失ったと同時に決勝会が終了する合図が鳴るのであった‥‥。
「‥‥で第31Aは俺の用意した宝玉によって競技場のスクリーンに盛っている映像が映し出されている間に俺は本物の宝玉を用意されていた置き場において優勝を果たしたというわけだ」
「それでお主が脅迫したであろう男はどうなった?」
「あぁ、当然術者警備隊により連行されて、それにより被害を受けた女性たちは一斉に告発して世間に公表したよ。それによって体育祭運営委員の取り調べが行われるみたい。他に加担した者がいないか徹底的に調べ上げるために」
「脅迫はその者の動きを縛るため、その者の立場を利用するために使うのにのぉ…」
「馬鹿言え。覚醒剤売買に性的暴行‥‥あいつに利用価値何て1ミリもない」
あの時スクリーンに映し出されたのは盛っている場面だけではなかった。他にも複数の人物と大金を引き換えに覚醒剤の売買を行っている映像、性的暴行の瞬間‥‥等々が数十分かけて流れたのであった。当然この様子は世間に曝け出されたので、当たり前だが市民から痛いほどの言葉が次々とメディアを通して流されたのであった‥‥。それがしばらく続き1週間ほどするとようやく落ち着くのであった。
「まぁ、それもそうじゃな」とジュダルもこの件はすでに知っており持っているワインを飲み干し「因果応報とはこういう事じゃろうな‥‥」と言うのであった。
「俺の話はこれで終わりだ。それでジュダルの用事ってなんだ?」
「なに、頼まれたものを渡すために呼んだのじゃよ」
ローズがスッと立ち上がり一体どこに隠し持っていたのか両手で持てるほどの箱を俺に渡すのであった。「あっ、これって‥・」と今まで忙しかったためすっかり忘れていたが事の始まりである体育祭当日の食事交流会へと潜入の前に受ける条件として出していた品物であった。俺は受け取った箱を開けると「お~~~~~~‥‥‥お?」と初めは感激したのだが何故か違和感を感じた。結論から言えばジュダルの頼んだのは女児向けアニメに出てくるキャラクターである。だが数が足りなかった。どうしてかと聞いてみたところ
「それはどうやら全部で6人じゃが童が手に入れたのは5人だけなのじゃよ」
「それは‥‥まぁ、仕方がないね。そんな時もあるだろうし‥‥」
「じゃが、その6人目は近々とある場所で限定1品として売られることが分かってのぉ‥‥」
「…‥‥‥‥‥マジで?」
「マジじゃマジじゃ」とジュダルはニヤニヤしながらそう言うのであった。俺は一瞬目をキラキラにして喜んだがすぐにはっと我に戻った。何故ならジュダルの事だからその場所を教える条件として何かされるのだろうと察したからである。「お主は最後の6人目が欲しくないのかぇ? もし断れば2度と手に入らぬじゃろうがのぉ‥‥」とニヤニヤしながらそう誘って来るのであった。欲しいか欲しくないかでいえば正直欲しい。だって最後の6人目は可愛いだけじゃなくカッコいいのだから‥‥それにカッコ可愛いキャラは超好みである‥‥だからというわけではないが「‥‥‥‥欲しい、です」と結局迷いに迷ってそう言うのであった。「現地は取ったからのぉ」と手元に持ってあるボイスレコーダーを見せびらかしてきたたためこれでもう後に引けない状態へとなるのであった。
そして話に夢中で気付けばマリーのライブはもう最後の曲となっており、最後の踊りを終えると曲が終了し観客席からは「「「「うおおおおぉぉぉぉぉ!!!!」」」」と最高潮の声援がドーム内にVIPルームまで響き渡るのであった‥‥。
そして『HSP』のドームライブは終了し観客たちは1人、また1人と帰路についておりその表情は笑顔や爽やかな表情が見られ明日も頑張ろう、これからも『HSP』への推し活に励んでいこう、グッズ布教を行い続けよう‥‥‥などと思っているファンたちであった。明日からまたやってくる仕事や学業を乗り越えて再び彼女たちをテレビで活躍する光景を見るために‥‥。
だが翌日11月1日彼らは世界がひっくり返るような衝撃を受けるのであった‥‥。
『電撃ニュース!! 昨日ドームライブを果たしたあの大人気アイドル『HSP』が11月1日をもって突如引退すると発表がありました!』




