決勝会 Ⅲ
宝があるであろう場所まであと数分ほどで着く距離という所で星乃零と朝比奈彰人が対峙していた。開けた場所で零の後ろにはすでに戦闘不能となっている選手が9人、つまり彼以外の選手は全員零により戦闘不能となっているのであった。
「‥‥てっきり、チームの仇という事で隙をついて攻撃してくると思いましたよ」
「‥‥フン。馬鹿言え、俺をそこらで転がっている者たちと一緒にするな。俺は合理的な戦い以外には興味がない」
2人の距離は数十メートルほど‥‥
「ところで、お前は無能と呼ばれているそうだが‥‥」
「へぇ、あの学生最強と呼ばれている貴方にも俺の事を知っているのですね」
「他校の生徒の情報収集も生徒会としての務めだ。それにお前が無能だろうと、先ほど見せた桁外れのような強さもどうでも良い。それに俺はこの体育祭で優秀しようとしまいが興味はない。我ら日ノ本十二大族にとってこの祭りごとは些細な事に過ぎない」
「それじゃあ、貴方はどうしてこの体育祭に参加したんですか?」
「俺の実力をこの祭りで示すことは日ノ本十二大族にとって合理的だと判断したからだ。俺の実力を披露すれば日ノ本十二大族の実力がより一層広がりやがてはこの国だけでなく世界にも届くことだろう。だがこれは1つの過程に過ぎない。いずれ日ノ本十二大族は全てのエネミーを駆逐しこの国に住む人々に完全なる平和を届けなければいけない。ただそれだけだ」
「‥‥残念ですが、そんな口先だけの平和は何十、何百、何千年経っても来ませんよ」
「‥‥‥‥何?」
「言葉の意味ですよ。完全なる平和? はっ、馬鹿馬鹿しい。貴方はこの国、いや、この世界について何も分かっていなければ何も見えてすらいない」
「ではお前がその強さで完全なる平和をこの国で暮らす全ての人々に届けるというのか」
「いいや。俺は全ての人々に完全な平和を届けるつもりも、エネミーを1匹残さず駆逐するつもりこれっぽっちもない。それにこの強さは果たすべき目的のために手にしたに過ぎない」
「では問うがお前の言う目的とは何だ?」
「それを知りたければ俺を倒すことだな」
「‥‥なるほど。お前のそんな挑発紛いの話し方‥‥目的は時間稼ぎ、つまり俺の足止めだな」
「それを知ってどうしますか? まさかと思うけど背中を見せて宝のある場所まで向かうのか‥‥それならそれでいいけど学生最強と呼ばれている貴方が無能と呼ばれている俺から逃げるのですか?」
「逃げる? 笑わせるな。俺は合理的な戦い以外には興味がないと先ほど言ったのだが‥‥」
朝比奈彰人の頬を零の放った【魔力弾】が掠ったのだった‥‥。
「いい加減にしろよ。そんな3流以下の言葉にいつまでも付き合ってくれると思うなよ」
「‥‥‥‥‥‥いいだろう。お前のくだらない口車に乗ってやろう」
朝比奈彰人は魔武器を携えている鞘から取り出しその剣先を零に向けるのであった。
「どうした、早く魔武器か魔導具を取り出すなりしたらどうだ」
「そんな道具なんか使わなくても俺はこのままで十分だ」
「そうか。では後悔しても文句は言うなよ」
互いに構えて、そして次の瞬間にはその場にドォォォオオン!!! という衝撃音が周囲に響くのであった。
競技場の観客席で決勝会を見ている観客たちは2つの戦闘を見ていた。1つは第11Aと第3X、もう1つは第31Aと1人の選手の戦闘様子である。観客席の者たちはこれらの結果予想はどちらも第1術科学園の生徒が圧勝すると見ていた。何故なら第1術科学園の実力は予選会、本戦会ですでに知っており選手1人1人がプロに近い実力を持っており中でも朝比奈彰人は他チームを寄せ付けないほどの実力を持っている。その証拠に朝比奈彰人が所属しているチームはどの競技でも全てダントツで1位を獲得していた。そんな彼らが本戦会でいきなり混成チームとして出場したチームになんか負けるわけがない。そう誰もが思っていた。
だが結果はどうだ。第11Aは雨宮宗だけが残っており、第31Aも残り朝比奈彰人だけとなっていた。対して第3Xは10人とも無傷の状態だ。第11Aは初め9人の第3Xに強襲を仕掛けた。いきなりの奇襲だっためそのまま成す術もなく戦闘不能になるかと思っていたがまさかの防御結界が9人を包み込むようにすでに展開していた。映像を見ていたが詠唱をしている様子は確認できなかった。では一体どうやったか。何でも噂で第3Xの選手のほとんどが無詠唱術を使用できると聞いたことがあった。通常の詠唱でも3節は最低でも必要で、防御結界も3節唱えて初めて使用できるものである。だが無詠唱術の場合は3節も、1節すらも唱える必要がない。つまり5秒前後かけて詠唱することで発動できる防御結界も僅か1秒前後で展開できるという事である。
ここで観客席いる者たちは1つの疑問が浮かび上がった。そんな無詠唱術は一体誰が教えたのだろうか。と‥‥
そんな考えをする暇もなく状況は進むのであった。強襲が失敗したため今度は攻撃役の選手が術による攻撃を放った。だがそれを風の障壁で瞬時に防がれその後攻守交替し今度は第3Xが中級攻撃術を放ったのだった。それらの攻撃を防御役が防ごうとするがいきなり足元からいきなり現れた太い枝で動きを制限したり、目くらましの光や視界を暗闇で隠されたりすることで僅かに防御結界の展開を遅らせそしてそのまま直撃しまさかの戦闘不能となっていたのであった。その後も第3Xの攻めが続き気付けば雨宮宗だけとなっていたのであった。
もう1つの戦闘様子は誰もが唖然としたのであった。何故なら朝比奈彰人以外の第31Aの9人が全く相手にならずまるで弄ばれているようであった。1人を地面に叩きつけたところから戦闘が始まったのだが、1人、また1人と戦闘不能にされていき時間的には1分経たずに9人がその場で倒れている映像を観客たちは目にしたのであった。その後何やら話しているがこの映像では話の内容を聞くことは出来ないようになっておりそれから数分後には2人が激突し、その影響で周りの木々が大きく揺らいでいたのであった。
そして観客席にいる者たちは第11Aと第3Xの9人による戦闘様子を再び見るのであった‥‥。
第11Aは残り雨宮宗だけとなっていた。彼の強さは集団戦闘のため個人戦闘の際はその実力が発揮されない。だがそれでも彼は負けられなかった。第1術科学園の代表選手として選ばれた誇りにかけて‥‥
「ま、まだだ、まだ私はやれるぞ‥‥」
そういう雨宮宗だがすでに満身創痍であった。彼は数分前に第3Xに1体1の決闘を申し込んだ。9体1は弱い者苛めではないのかと訴えかけたのであった。そしてその答えは「まぁ、それもそうかも‥‥」という事で第3Xからは影山優美が代表としてその決闘に挑むのであった。そして決闘が始まったのだが始まってから数分後今現在の状況はというと影山優美が圧倒していた。雨宮宗は魔術、影山優美は剣術で挑んだが影山優美の実力に雨宮宗の実力が及ばず膝を地に付けていたのであった。始めは互角かと思っていたが勝敗を分けたのはやはり詠唱術か無詠唱術によるものであった。雨宮宗の詠唱から攻撃時間を合わせると3秒前後、対して影山優美はそれの半分ほどの1.5秒である。この場合どちらが優勢に立つかなど誰もが分かる事であった。
雨宮宗がゆっくり立ち上がるに対して影山優美は静かに見据えていた。次こそ完全に戦闘不能にするために、次の一撃を持って確実に戦闘不能にさせる‥‥そう思うながら静かに呼吸をするのであった。そして魔武器を構え足にグッと力を入れて一撃を繰り出そうと
「待って! 優美ちゃん!」
もしも山影実憂の制止の声がなければ、僅かに感じた危機感に気付かなければ、間違いなくどこかから繰り出された術攻撃による放出に巻き込まれそのまま戦闘不能になっていたかもしれない。そして先ほどの放出攻撃に直撃してしまった雨宮宗は吹き飛ばされ50メートルほど先の場所にて意識を失っていた。
「見ぃ~~~つけたぁぁぁ!」
その狂気染みた声と同時に影山優美めがけて1人の人物が魔武器を勢いよく振り下ろすのであった。




