合同交流会 Ⅶ
『どうして私はここにいるのだろう‥‥』
私はそう思った。ここは第4術科男子高等学校のどこでもなかった。ではどこにいるのかというと‥‥一言でいえばドーム‥‥の観客席と思わしき所にいた。そしてドーム内では今でも戦闘音や術による攻撃音、そして5人の声であった。そしてそんな5人の戦闘を同じく観客席から見ているのは星乃零という男子生徒であった。
私は今から1時間ほど前に零に泣き顔を見られ、そして人としての尊厳を失ってしまった。きっと蔑まされるのだろうと思っていたがあろうことか「大丈夫か?」とたった一言をかけて近づいてきた。来ないで。と拒みたかった。何せ今の私は‥‥だがその人は何の躊躇もなく抱き上げた‥‥ではなくどこから出したのか杖の力かどうかわからないが私の体は何故か宙を浮いていた。そしてそのままこの場に現れた大きな扉の中に入れられたのだった‥‥。
そしてその先にあったのは浴室だった。浴槽からシャワー、シャンプーやリンス、そしてボディーソープなどの入浴に必要な道具が一式揃っていた。一体ここで何をされるのかと辺りを見渡していると目の前の鏡にこんなことを書かれていた。
『とりあえずある程度体操服を着たまま体の汚れを洗い流したら、その後はその体操服を洗濯するから用意している洋服を着ていて。あとそこにあるシャンプー類は使っても構わないよ』
と書かれていた。浴室の扉があるので近くを見たらそこには替えの服であろう洋服が置いてあった。なんか、可愛らしい洋服だった‥‥。服の事は置いといて、折角なのでその書かれた文に従って甘えることにした。まず体操服を着たままある程度の汚れをシャワーで10分ほどかけて流し、その後は脱衣所に誰もいないことを確認し浴室の入り口に置いてあった洗濯機に水が床に落ちない程度まで絞り、下着も一緒にそのまま洗濯機に入れそして蓋をした。その後は頭と体を入念に洗ったのだがシャンプーやリンス、そしてボディーソープから何の花か分からないがいい匂いがし、一体どこのお店でこんないい匂いがする物を買っているのだろうと気になるのだった。その後は浴槽に使ったのだがここでも入浴剤を使用しているのかとてもリラックスすることが出来た‥‥気がする。長湯はしないで浴室から出た後は用意している替えの洋服を着た。この際気になったのが洋服の他にどうして下着が用意されているのだろうか。あの人は女性用の下着を持っているのだろうかと気になって仕方がなかった。だがここで気にしても仕方がないのでとりあえず考えないようにし手に取り穿き付けた‥‥‥でも私がいつも付け穿いている下着とサイズがぴったりなのかがやっぱり気になった。
そしてフリフリの洋服に着替え終えると私は脱衣所を出た。出口はどこなのだろうと辺りを見渡しているとふと明かりがさしている場所があったため恐る恐るその場所へ向かうとそこは広いドームだった。それもプロによる野球やサッカー等のスポーツが行えるような広さの場所だった。そして目の前では何故か5人の術による攻撃が繰り広げられていた。5人の相手はエネミー‥‥‥いや、エネミーにしては何だか生き物らしいというか、表情が分かるような‥‥あれは一体‥‥
「あれは魔獣だよ」
思っていることを見抜かれたように声を掛けられ後ろを振り返るがそこには誰もいなかった。今の声はどこから? と辺りを探していると「おーい、ここだよ」と再び声がした。その声は上からしていたため顔を上げるとそこには声を掛けた人物がいた。私はこの人を知っている。先週あの人に【魔力弾】1発で模擬試合を制した‥‥確か魔力がほぼなくほとんどの生徒や教師から【無能】と言われ続けている唯一の生徒である星乃零さん。「とりあえずここまで上がってきなよ」と声を掛けてくれたため私は星乃さんのいる所まで向かうのだった。
「あの、魔獣って‥‥」
「ん? ‥‥‥あぁそうか、今の時代の人たちは魔獣の事は知らないか‥‥」
そうして1時間前の事を確認し星乃さんが言っていた魔獣とは何かと聞いてみたのだが、なんて言ったのかがよく聞き取れなかった。
「えっと、そうだね‥‥アニメやラノベとかのファンタジー世界で魔獣っていう生き物がいるじゃん? 俺はちょっとここであの魔獣たちをプログラムで再現してみただけだよ」
そう聞いて私は一体何を言っているのかが分からなかった。その魔獣っていうのは架空世界に出てくるような害獣ではないのだろうか、それをこの人は「再現」と言った。その再現とは一体どういう意味なのだろうか。そう考えているとドーム内から戦闘音が聞こえたためその方へ顔を向けると複数のイノシシのような魔獣が5人に向かって襲い掛かっていた。5人は術で応戦するが向かって来る勢いが減速する様子はなくむしろ怒っているかのよう雄たけびを上げながら体当たりをしてきた。その猪は鋭い牙が生えておりもし当たれば痛いだけでは済まないだろう。だから5人とも必死になりながら何とか体勢を崩すように足元に魔術や剣術、召喚術を撃ち続け残り数メートルの所でようやく1匹が転倒し始めそれに続くかのように2匹、3匹‥‥と転倒を始め、そしてその一瞬をついて一撃をお見舞いしそしてその猪のような魔獣は粒子となって消えたのだった‥‥
「とまぁ、今のイノシシの魔獣やそれ以外の魔獣も全てプログラムで作られているから倒すことが出来ればさっきのように粒子となって消えるんだけど、勿論プログラムとはいえ当たったら怪我をするし、痛みだってちゃんとある。まぁ命に関わるような怪我はしないけどね」
言っている内容があまり頭に入ってこなかった。「それにしてもこの1時間で10匹も倒せていないのか、う~~ん、もう少し難易度を下げるか? いやそうすると‥‥」ブツブツと独り言を言っているのだった。と星乃さんの携帯からアラーム音のような音が鳴るのだった。そうして操作しアラームを止め、
「それじゃあ、お昼になったから1時間のお昼休憩ね~」
観客席を降りぜぇぜぇ、はぁはぁ‥‥と息を切らしている5人に向かいのほほんとそう告げるのだった。




