8月31日 ①
8月31日、夏休みもいよいよ今日までである。この夏休みの間に出された課題は一昨日で終わらせており、この3日間で1か月分の夏休みを取り戻すつもりで満喫しよう。そう思っていた。本当ならばオタクにとって戦場ともいえる夏のコミックマーケット通称コミケに全3日間行ったり、夏にしかない熱狂的なあのライブに行ったり、アニメイクのはしごを何日も行う‥‥等々の計画を立てていたが先の謎の連続失踪事件の際に使用した力の反動により約1か月ほど意識を完全に失っていた。目を覚めた当初は失意のどん底にまで落ちたが一昨日開催したパジャマパーティのおかげである程度までは回復した。(精神的に)
そうしていつまでも過去にうだうだしていたら残りの夏休みが終わってしまう。それだけは何としても避けなければいけない。という事で残りの3日間は出来ることはすべてやろうと思った。食べ歩きからアニメグッズ・ラノベの購入、プールや花火、スイカ割り、後は肝試しなどの夏の定番をめいいっぱい行い楽しもうと思っていた‥‥‥だが、
8月29日から31日にかけて台風並みの強風によりこの3日間はどこにも行けなくなってしまった‥‥
「‥‥お客さん、誰も来ないねー」
「そりゃそうでしょ。こんなに風が強いなら誰も来ないわよ」
「それにニュースでも外出は避けてください。って言っているし‥‥」
「これじゃあ、屋外イベントなんてどこもやっていないでしょうね‥‥」
外は今大粒の雨に大きな音がするほどの風が吹いていた。その強さは台風並みに匹敵しここしばらく外を眺めていたが誰1人として外を歩いていなかった。もし外を歩けば刺している傘は骨組みが壊れ、さらには吹き飛ばされ、店の看板などの小さなものは遠くへ吹き飛ばされる光景が目に見えている。喫茶四季でもそれは同じことで店の中には看板や植木鉢が全て置かれており、窓もガムテープで止めたり、雨戸を閉めたりして対策をしていた。
時刻は午前10時カウンター席には四季春奈、夏希、秋実、冬美、有紗がコーヒーやカフェオレを飲みながらニュース報道を見ていた。その5人の彼女から少し離れた団体用のテーブルに
「…‥‥‥‥‥‥‥」
何かブツブツ言いながら携帯を操作している星乃零がいた。彼は今酷く落ち込んでおり声を掛けるのにも勇気が必要と思えるほどだった。そんな彼に1人の人物がやって来た。
「零―、何やっているの?」
花里マリィである。彼女は先月の下旬辺りからこの喫茶四季に同居を始めており時折だが店の手伝いに入っていた。彼女の笑顔には一度見るとお客たち(特に男性)はキュンとときめき何度もこの店に足を運んでしまう不思議な魅力を持っていた。ちなみにだが、零が意識を失っている間に海の家が営業が始まった際マリィは零の代わりに手伝いに行っていた。そしてそこでも笑顔を見せては多くのお客たちをご案内していた。ツイターでも『笑顔が可愛い女の子がいる』『一度見たら絶対に忘れられない笑顔』『スタイルもいい、笑顔もいい、まさに最&高!!』などどトレンドにも入るほどであった‥‥
「‥‥‥‥‥‥‥ん? あ、あぁ、通販だよ。不幸中の幸いかネット回線は落ちていないからここで爆買いしているの」
「ふぅ~~ん。で何を買ってるの?」
「アニメグッズだったり新作のラノベだったり、もうすぐ放送のアニメの原作小説の購入だったり、まぁいろいろだよ」
携帯を操作しながらもマリィの問いに答えるのだった。「そっ」と言い持っていたカフェオレを飲むのだった。
「それにしてもマリィちゃん、もしかしてと思っていたけど零君とも知り合いだったなんて…」
「まぁ、私はなんとなく分かっていたけど‥‥」
28日のパジャマパーティにてマリィは『実は私、ジュダルと知り合いって言ったけど零ともそれと同じくらいちょっとした関係なの』とカミングアウトをしてきた。具体的な関係なのかまでは話さなかったが少なくともただの友人、ではなくもっと別の何か‥‥
「零って、あとどれくらいの女の子をたぶらかしているのかしら」
「ど、どうしたの有紗ちゃん?」
「だって、零の回りって可愛い女の子が多くない?」
「あぁ‥‥‥うん、まぁ、たまたまじゃない?」
「しかもただの友人関係じゃなくて、何かを含んでいそうな雰囲気を漂わせているし‥‥絶対何か隠しているよ!」
ほっぺをプクーと膨らましている有紗。春奈たちは口を出しては言わないが可愛いなぁ…と心の中で思うのだった。そこへ
「まぁ良いじゃないか、彼にだって隠していたいことや言いたくないことがあるだろうし‥‥もし気になるなら直接本人に聞けばいいんじゃないかな」
四季博が有紗たちの元にやって来た。手には何かデザートの様なものを持っていた。
「? おじいちゃん、これは?」
「あぁ、これは今度出そうと思っている新作メニューだよ。とはいってもまだ試作だけど」
それはさつま芋を使ったショートケーキだった。イチゴの代わりのさつま芋を使用しており見た目も苺のショートケーキとはあまり変わらない形だった。
「へぇ~、じゃそれじゃあ‥‥‥・ん~~美味し~~」
有紗は一口食べると満面の笑みでそう言うのだった。可愛い‥‥。
「そっか、そろそろ新作考えないとね‥‥う~~ん、何が良いかな…」
うんうんと悩む春奈と秋実、有紗と夏希と冬美は提供されたさつま芋ショートケーキを試食、対してオンライン通販にてグッズを買い物中の零、零に対面するように座りカフェオレを飲むマリィ‥‥店内はまさに平和そのものだった。
そんな平和な雰囲気に1人の人物が突如として現れた。
「た、楽しそうじゃのぉ‥‥‥わ、童も混ぜてくれんかのぉ…」
団体用のテーブルに突如現れた人物は、どこかやつれたような姿であった‥‥




