例え嫌われようとも・・・・
目を覚ますとそこには見慣れた天井があった。そして起き上がり周りを見ると見慣れた机、見慣れたカーテン、見慣れたアニメグッズがある。つまりここは俺の部屋だな。と自覚する星乃零。そこにドアを開けて1人の人物が入ってきた。そして起き上がった零を見ると「れ、零が目を覚ましたーー!!」と四季有紗が大慌てで下へと降りてそこにいるであろう他の者たちに知らせるのだった‥‥
「……それじゃあ零君、説明してもらってもいいかな」
現在零は1階のテーブルに座っておりそこで問い詰められていた。前方は四季姉妹と有紗と博がおり、後方には壁際があり逃げ道がどこにもなかった。そしてもう1人の同居人である花里マリィは面白そうにニヤニヤ笑っていた。助けてよ。と思う零だった。
「どうしてこの1か月以上もずっと眠っていたままだったの」
…‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ん?
今、なんて言った? 1か月も? 眠ったまま? 確かにあの力を使った後の記憶が全くないことから気を失っていたことはなんとなく分かっていた。でも覚醒するまでに1か月もかかったのか? 3日や1週間じゃなくて‥‥。そう思い近くにあるカレンダーを見てみた。するとそこには
『8月28日』
そう書かれてあった。
‥‥‥‥1回落ち着こう。夏休みは全部で42日間ある。1日目は愛花たちと近くの神社で夏祭りに行った。2日目は海に行きそこで営業する海の家の準備、そしてS級エネミーの撃破、その後この事件の調査のためどの海の家も営業延期となりそれまでの間はこの喫茶四季に帰ってきたのが5日目、そして翌日にはジュダルとマリィと会ったのが6日目、そしてその日の夜にマリィからのお願いで廃工場へと向かった‥‥‥
‥‥あれおかしいな。ここ最近の記憶がこれぐらいしか‥‥あぁそうか、これは夢だ。だったらもう1度寝て起きれば実は夏休みがまだ半分以上も残っている日に戻れるんだ。よし善は急げだ。急いで寝直せば…
「まぁ無理もないよ。60人以上の少女の1か月分の記憶を取り込んで脳内で処理するまで今の零の場合だと半月以上かかるんだから。それに【大聖女の加護】の使用反動も今の零にとって負担が大きいから回復するまで結構時間がかかるから、それも合わせると最低でも丸々1か月かけないと元の調子に戻れない‥‥だからさ零、もう現実を受け入れなよ」
まるで人ごとのように昼食を食べながら呑気に言うのだった‥‥
このマリィの一言で目の前が真っ暗になるほど絶望に叩きのめされた零であった‥‥
夕食後零は自分の部屋にいた。時刻はすでに11時を過ぎており零は今何をやっているのか、答えは簡単、学校から出された夏休みの課題をやっていた。これまで少しずつ課題をやっていたおかげか課題の教科書がまっさらではないのが唯一の救いである。課題に手を付けてすでに数時間が経過し後もう少しで終えるところに
「ディアー、私の話し相手になってー」
ドアをノックなしに開けてきたのはパジャマ姿の花里マリィだった。パジャマは水色で半袖とショートパンツのようなパジャマズボンを穿いていた。
「今忙しいから後にして」
「えぇー、いいじゃん、こんな超絶可愛い私が来たんだから構うべきなんだよ」
「はいはいかわいいですねー(棒)」
「なんで棒読みなのよ!」
そんなことを言いながらベッドに座るのだった。
「それにしても、あのディアがまさか学校に通う学生だなんて‥‥」
「何だ、そこまで驚くことか?」
「別に~~、まぁどうして他の人間に交じってあんな面白くも楽しくもない生活を送っているのかは気になるけどね~~」
室内を物色しながら1冊の漫画本を手にするのだった。
「私にとって人間は全員等しく敵。この気持ちは今も変わっていない。ディアだってそうでしょ」
「……まぁそうだな。どの時代の人間は自身の欲望のためなら平気で人を殺したり、大切な物を平気で奪ったり壊したりする。でも、それでも、中には俺が命を張ってでも守りたい人や物だってちゃんと存在している。マリィだってそうだろ?」
「まぁ確かに私の周りにいる人間は薄汚い欲望や願望を持っている人間よりもまだマシだから別に何とも思っていないけどね‥‥それで零の言っているそれってここの家族だったり、この漫画本だったり‥‥」
「あぁそうだ。こんなすごい本を書いたり、アニメやグッズを作ったりできる人間がいることに始めは驚いた。そして‥‥」
零が部屋のドアを見て‥‥
「今聞き入っているそこの人たちに居場所を失くした初対面の俺と愛花を家族として受け入れくれてここに住まわせてくれた。だからその恩に報いるために俺はどんなことがあってもこの家族の日常を守るんだよ」
ガチャ。とドアが開いて‥‥
「あらら、バレちゃった‥‥」
「もう夏ねぇが物音を立てるからでしょ」
「秋実だって2人の会話に興味があったんでしょ」
「ご、ごめんね‥‥」
「わ、私の隠密がバレた…」
部屋の前にはマリィと同じくパジャマ姿の春奈、夏希、秋実、冬美、有紗が立っていた。そして少し離れた所に博が立っていた。
「こんな時間だけど折角なら、1階でパジャマパーティーをやろうか」
「わーい、じっちゃん、気が利く~~」
その提案に有紗が食いついたのだった。他の人もその提案を断ることなくそのまま下の階へと降りたのだった‥‥
「マリィはどうする? このパジャマパーティに参加するのか?」
「‥‥まぁ、折角だから参加するのも悪くないかもね。この家族からは邪な心の気配は今のところないから。で、零はどうするの?」
「パジャマパーティというものは聞いたことがあるけど参加したことはない。でもこの機に参加するのも悪くないかもね」
今やっている課題の教科書を閉じて1階へと降りた。そんな零の背を見て
「ディア‥‥何だか前より表情が和らいでいる気がする。これもあの家族と出会えたおかげなのかな‥‥」
そんな誰にも聞こえない声で呟いてマリィも下へ降りるのだった。
今年の夏休みは1回限りだ。だから色々計画を立てていたのだが今回の事件で全部水の泡となった。でもこの何気ないおしゃべりを軽食や飲み物を交えながら行うだけでもこの夏休みは悪くない。そう思えるのは家族と呼んでくれた者たちが笑顔でいるからだろうか。もしそうなら絶対にこの家族の日常を守らなければいけない、例え俺が全ての人間から嫌われ者や悪魔と呼ばれようとも‥‥‥




