圧倒Ⅰ
先ほどより数十分前、数百名のテロリストは【ドリハピ】に襲撃を開始した。この店内にいるすべての客は全員1人の例外もなく全員拘束をした。襲撃理由はとある施設から逃げ出した子供を捕まえることである。テロリストたちにとってこの依頼は簡単すぎてあくびが出そうな内容だった。そして依頼主からは子供を捕まえた後は人質の客に何をしてもいいとの事だ。これを聞いたらそのまま逃がすなんてもってのほかだ。今まで溜まったストレスをその客にぶつけても誰も咎めない。何故なら、自分たちは人を殺せる武器を持っている。それに拘束しているロープは術者の力を完全に無力化に出来る特注品である。だから、やりたい放題である。とりあえず男と子供は1人残さず殺して、可愛い女がいればその女たち1人残らず死ぬより残酷な目に遭わせる。そして満足したら他の客同様殺す…とそんなことを考えている輩がほとんどである。
だが、その願いはこの後誰1人叶わなくなるだろう。何故なら……
「…まぁ、こんなもんか」
その少年の周りには気を失って倒れているテロリストたちが数十人いたのだった。その者たちは拳銃やナイフ、そして術を使用するのに必要な魔導道具装備していた。だが、立っている少年は拳銃やナイフ、魔導道具も何一つも持っていない。普通ならば生身の人間が拳銃やナイフを持っている人間に立ち向かおうとはしない。当然逃げる一択である。そして魔導道具を装備している術者に生身の人間が挑むのは言語道断である。勝負になるはずがなくこれは覆せない決まりである。そこへ、
「いたぞ! 奴で間違いない!」
と遠くから新手の武装をした集団テロリストが数十人率いて少年に向かってきたのだった。そして持っていた数十の拳銃、マシンガン、魔導道具で何十発、何百発と発砲、攻撃してきたのだった。どんな術者でも生身は人間である。何百発、何十個ものの術の攻撃を休みなく一斉に浴びれば無事では済まない。だが、
「くそっ! なんで当たらない! おかしいだろ!」
その者の言う通り迫りくる少年めがけて銃弾や術を撃ったり放ったりしようがそれらを全て躱すため当然全く当たらなければ1ミリも掠りもしない、そんな光景が繰り返されるのだった。そして少年が武装者との間合いに入ると
「遅い」
とその一言だけを発し、一人の武装者を殴り飛ばしたのだった。そしてそのまま気絶して目を覚ますことはなかった。
「くそがぁぁぁぁぁ!!!」
近くにいた者はやけくそになり拳銃を連射したのだった。だが、
「動きが単純すぎ」
当然当たるわけもなく弾切れと同時に裏拳を受けてその場に倒れたのだった。その後は、少年の猛攻は続き拳と蹴りだけでその場にいたテロリスト数十人は全員倒れたのだった。
警備室にて
「くそっ! 何故誰も応答しない!」
テーブルに座っていたテロリストの男性が無線機を勢いよく投げ捨てたのだった。
異変が起きたのはこの近くにいた客たちを全員1か所にまとめ終えた頃だった。警備室にいた1人の仲間が警備室から少し離れた場所に1人の少年がいたことを報告するのだった。当然その少年の元へ数人程度を向かわせそのまま拘束しようと考えたのだった。たかが子供1人に1人程度で良かったのか、と思っていた。だが、それが間違いだった。しばらく経っても連絡がないため子供相手に何していると思いこちらから連絡を飛ばしたら
『あっ、貴方がここのリーダーさん? 悪いけど貴方たちに用があるからそこで待っていてね。ちなみにお仲間はここで寝ているよ』
と一瞬何が起きたのか理解出来なかった。だから防犯カメラで調べるとそこには1人の少年がおり、その周りには向かわせた仲間がその場に倒れていたのだった。
『舐めたことをしてくれたな。泣いて詫びても許さんぞ』
『おぉ~怖い、怖い』
それから警備室にいる仲間にこう命令した。
あの少年を捕らえろ、生死は問わない。と
それから仲間たちを1人また1人と向かわせたのだった。だが、誰からも連絡が来ることはなかった。そして、警備室にはついにリーダーらしき男性だけとなったのだった。そして、取った行動は————
「さて、もう少しで警備室だけど……ん?」
とそう思いながら向かうと先の方から何か光ったため、思わず首を右に僅かばかりずらすと先ほどまであった首の位置に銃弾が飛んできたのだった。
「危ない、危ない。もう少しで首が飛ぶところだったよ。でも…」
今の攻撃で飛んできた場所を把握するのだった。
「残念だけど、その距離じゃあ俺を殺せないよ」
そう言い放ちながら前進するのだった。この先にいる狙撃手に向かって。
『くそっ、当たらないだと! ここから数百メートル離れているはずだぞ! 奴は本当に人間なのか』
そう心の中で愚痴りながらも再びスナイパーライフルを構えたのだった。その男性がいるのは警備室の扉の前である。前方は数百メートルあるが、後ろには壁のためこれ以上下がることは出来ない。だが、この場所なら大型動物すらも貫通するスナイパーライフルを設置出来るので、そのまま設置し射程圏内に入るまで静かに、それこそ物音を立てずに少年を迎え撃つのだった。普通の拳銃や、魔導道具ではあの少年を殺せないと判断したためこのような行動に出たわけである。そして射程圏内に少年が入ったことから初撃を撃ったのだった。これで決まるかと男は思っていたが、どんな反応速度か首を僅かにずらしただけで避けられてしまったのだった。
『あの反射神経は何だ。まさか見えるのか、いや、あり得ない! この弾丸はどんな人間でも捉えることが出来ない速度だ。きっとまぐれに決まって、いる!』
そう思いながら2発目を撃ったのだった。結果は、
『バカな! また避けられただと!』
2発目は心臓に照準を当てて撃ったが、少年は横にステップするだけで難なく躱すのだった。それからも3発、4発と連続で撃ったがどちらも掠ることなく躱すのだった。そして何を思ったのかその少年はこちらに向かって走り出したのだった。
『馬鹿が! 走りながら躱すなど不可能だ。その頭に銃弾をお見舞いしてやる!』
走りながら前方から来る銃弾、ましてスナイパーライフルの弾を躱すのはどんな人間でも不可能である。その状態は『どうぞ撃ってください』とアピールしているようなものだ。弾丸の初速はマッハ4~5つまり音速の4~5、躱すにはその速度と同等の速さ、もしくはそれ以上の速さで躱さなければならない。リーダーはそのことを理解しているため
「死ねぇぇぇぇぇ!」
と殺意を込めた声でライフルの引き金を少年の頭に照準を当てそのまま引いたのだった。だが当たることは叶わなかった。
何故ならその少年の手刀によって叩き落されたからである。
「………はぁ?」
腑抜けた台詞が出たのだった。
この世界は術による身体強化が存在する。それを使用すれば前方から飛んでくる攻撃術や銃弾などを叩き落すことは不可能なことではない。だが、その芸当が出来るのは身体強化に対して最も優れた【拳闘術】だけである。
つまり、この少年は拳闘術を使用できるという事となる。
だが、たからといって、誰もが拳闘術が使えるからと言って、ましてやあんな子供がおいそれと出来るわけではない。
「じゃあ、もう終わりにしようか」
『っ! しまっ!』
その声に反応し咄嗟にスコープの中を覗くと、その先には先ほどまで数十メートル離れていたはずのにその少年の姿がなかった。そして男性はハッとし、反射的に背後を見たのだった。すでに男性の背後に立っており、すでに片足を振り上げた状態からそのまま勢いよく振り落とす動きを。その際その少年はなぜか笑っていた。だが、その微笑みはどこか恐ろしく感じ取れるのだった‥‥
「くそg
最後まで言い切れず振り下ろされたかかと落としは男性の顔面に命中したのだった。




