連続失踪事件 ~決行前~
「花里マリィです。しばらくの間ですがお世話になります」
喫茶四季に帰宅後マリィは店にいた四季4姉妹と有紗、そして博にそう挨拶をしたのだった。すでにマリィとは顔を合わせている春奈、夏希、有紗は(ジュダルさんの知人の子だったんだ…)とどこか納得していたのだった。その後マリィは春奈に上の階へ一緒に上がり空いている部屋へと案内をするのであった。喫茶四季は現在休憩時間で店が閉まっており、零は6人に改めて事情(嘘出鱈目)を伝えるのだった‥‥
そして休憩時間が終わり再び営業再開された。その時間と同時に数名のお客が来店しその度に席の場所へ案内するのであった。今日のシフトは夏希、冬美、零、有紗の4人で回していた。他の者は上の自室で大学出てた課題やそれぞれの趣味に取り組んでいるのであった。
「いやぁ、それにしても海の家がまさか営業延期になるなんて、なんかショックだなぁ~~」
10名にも満たないお客がいる店で夏希はそう呟いていた。今日は、いや本格的に夏に入ったこの時期はどの店も人の来店が少ない。そして今日の天気は一段と暑く、よほどの人(暑さで頭がいかれた人、暑さの中でもイチャイチャしたいカップル)以外の人たちは家で冷房を効かせてゴロゴロまったりしていたり、涼しい部屋でのんびりする、もしくは夏休み中に出た宿題や課題の消化を行っていることだろう。ちなみに零は涼しい時間帯主に朝早くや夜の時間帯に宿題や課題を行うタイプである。
「こんな時は‥‥冬美にギュッとしよう」
「な、夏希ねぇ…」
「はぁ~~♡ 冬美は体がひんやりしているから涼むのに丁度いいや。まさに冬美さまさまって感じ」
「あっ夏希ねぇだけずるい! 私もふゆに抱きたい!」
そうして冬美にギュッと抱きつく夏希と有紗であった。そんな光景を見ていた他の男性客は‥‥
「‥‥百合だ」
「‥‥神秘の領域だ」
「‥‥眼福」
「あれ、ここは天国ですか?」
等と可愛い女子同士でイチャイチャしている光景を見てそう呟くほかなかった‥‥
「ん~~? 零も加わりたの?」
「あぁ~~、遠慮しときます」
夏希にそう誘われたがきっぱり断るのだった。
その後店を出る人々の顔は幸せなものを目にした見たような幸福感に包まれている気がした‥‥
お店の閉店後はマリィも入れた8人で夕食を食べるのであった。今日はマリィがここで暮らし始めるという事で急遽豪勢な食事を作ることとなった。マリィは「そんな気持ちだけで十分ですよ」と言うも「良いのいいの、私たちが好きでやっているんだから」と笑顔でそう言う春奈に何も言えず「じゃあ、お願いします」とお願いするのだった。そして何品物の料理がテーブルに置かれたが料理をしている春奈が「あ、しまった、調味料切らしていること忘れてた‥‥」との声が聞こえたためマリィが「あっ、でしたら私が買ってきましょうか? このまま何もせずに待っているのは性に合わないので‥‥」というが「駄目よ。こんな夜に出かけたらマリィちゃんもあの事件に巻き込まれてしまうかもしれないんだから…」あの事件とは勿論女子大生・女子高生連続失踪事件である。この事件は未だに解決しておらず術者や警察の総動員で捜索しているが全く手掛かりを得られていないのであった。そして昨日もまた数名ほど謎の失踪をしたというニュース速報が昼間に流れていたのだった‥‥これらの事件は夜に起こることが多いがごく稀に昼間にも起こることがあるらしい。「あっ、それでしたら俺が同行しますよ。それでしたら問題ないですよね」そう言い零が率先して挙手をしたため「う~~ん、まぁ、零君なら大丈夫、かな?」と渋々許可を出したのであった。そうしてマリィと零の2人で切らしていた各調味料を近くのスーパーで購入し急いで喫茶四季へと戻るのであった‥‥
この謎の失踪事件が起きた場所は公園や噴水広場、人通りが多い場所で起きていた。夜の公園や噴水広場は昼間と違い人通りが少なく、近くには住宅地がおるのでそこを通る住居人が多い。そして人通りが多いような公共の場で起きる理由として挙げられるのは単に人混みでその道が溢れているからである。この道を歩く人は仕事帰りのサラリーマン、子供を連れて歩く家族、男女手を繋いで歩くカップルなど挙げればきりがないがその中で1人歩く人物がいるとしよう。その人物の周りを歩いている人びとはその人物の顔を当然知らず赤の他人である。もしその1人で歩いている人物が突如神隠しにあったように消えても気付く人は一体どれほどいるのだろうか‥‥仮に気付いた人がいてもその人は何が出来るのだろうか。
その者たちは今日もその場所で身を潜めていた。その者の目的はただ1つ、若い人間の女を攫う事である。それも何の力を持たない女を‥‥。術を使える女もこれまで攫ってはいるが力のない女と比べれば圧倒的に少ない。そのためその者のリーダーから今回は術が使える女を連れて来い。と命令されたのだった。これまでその者たちは持っている武器で力を持たない女をある程度痛めつけて気を失わせてから連れて行ったが術を使える者はその者たちに防衛を行うため少し厄介である。そこでとある種族から提供された物があった。それは1つの鈴であった。その鈴は一見何の変哲もないが実はこの鈴には音を鳴らすだけで相手を眠らせる効果があり、そのおかげで術を使える女にも対抗できチリン…と音を1回でも鳴らせば相手は徐々に眠気に襲われそのまま深い眠りに落ちる…まさに至高の一品であった。
そして今日まで攫った女は大体の数だが約50人を超えていた。この調子ならば最強の軍隊を作れるだろう‥‥そう思っている所にその場所——噴水広場に1人の若い女が歩いてきた。その少女は今まで攫った女と違って髪の色が水色だった。きっと何かしらの強力な力があるに違いない‥‥そう思いながらその女がその者たちが身を潜んでいる茂みを通り過ぎて数メートルの距離が空いたところに音もなく動き出し、そのまま武器を振り下ろした。これでまた今現在作ろうとしている最強の軍隊に貢献が出来る母体を手に入れることが出来る。そう思っていた‥‥だというのに
「【ウォーター・プリズン】」
その言葉と同時にその者たちは気付いた時には水で出来た球体の牢獄に閉じ込められていた。この牢獄の中は当然水で出来ているためその者たちは呼吸が出来なかった。一体どこからこんな水が現われたのか辺りを見渡すと近くに噴水があった。そしてその噴水から出て溜まっていたすべての水が一瞬で牢獄の形となりそのままその者たちを閉じ込めていたのだった。何とか脱出しようにも出るに出れなかった。
「【アクア・カッター】」
そう唱えると水で出来た球体の監獄の中に水で出来た強靭な刃が現われそのままその者たちの四肢や胴体を切り裂き、そのままその者たち——ゴブリンたちは絶命したのだった‥‥
(な、なんてことだ‥‥)
たまたまゴブリンの様子を遠くで見ていた1人のある人物がそう驚愕していたのだった。その者は先ほど絶命したゴブリンに指示を送っていたリーダーの右腕的存在だった。先ほど公園にいた若い数名の女を魔術で眠らせ先ほど隠れ潜んでいる場所まで【座標転移】で送った後で近くにあのゴブリンどもが上手く事を進んでいるか確認しようと見にきたのだがその結果まさか水色の髪をした少女に手も足も出ずにそのまま絶命した瞬間を見てしまったのだ‥‥
(もし、奴に我々今が隠れ潜んでいる場所を突き止められてしまえば間違いなく壊滅してしまう‥‥それに奴のあの溢れ出るような魔力量は尋常ではない! こうしてはいられない、急いで戻りあのお方に伝えなければ‥‥)
そう思いその場を後にしようと【座標転移】を発動した。だが発動寸前パリンと音を立てて【座標転移】の魔術陣がきれいさっぱりなくなったのだった。一体何故? そう思っていると背後から足音がした。そしてそれと同時に気付いてしまった。どうしてこんな場所に寄ってしまったのかと‥‥。その者に振り返えらずとも分かってしまった、いや、分かりたくなかった。何故ならこちらに向かって来るその者から溢れる魔力量とゴブリンを絶命させた水色髪の少女との魔力量が数十、数百もかけ離れていることにたった今気づいたのだから‥‥
その後、その者——妖魔族は向かってきた者により姿を確認できないまま片手1本で顔を握りつぶされそのまま絶命したのだった‥‥だがかろうじて妖魔族が最後に見たのはその者の瞳が黄色と赤色に変わっていた‥‥そんな気がしたと思う。




