その力、まさに‥‥
ジュダルとの念話通話をやり取りしている間にもS級エネミーの攻撃は止むことはなかった。何十本もある触手による叩きつけ、突き刺し、先端による術の攻撃、そしてスライムの体に強制的に植え付けられたような多くの目玉による熱線をこの数分間で放ってきた。対するこちらは回避や、取り出した虹の剣で切断、そして防御壁で凌いでいた。そして数分間の念話通話を終えて分かったことがあった。まずどの攻撃もまともに直撃すればただでは済まない、休みなく触手による攻撃を仕掛けてこちらに反撃の隙を与えない、目玉からは熱線を放ち行動を制限させていた。一見隙や弱点のコアがどこにあるのか分からない、だが零にとってはこの程度なんてことはない。何故ならこれまで降り注ぐ攻撃を念話通話しながらも軽々躱しており未だに怪我や傷が1つもない、こちらにとってはS級エネミーの数十の降り注ぐ攻撃などスローモーションと同じくらいに見えて、次の攻撃がどこに撃ってくるのか、どこに着弾するのかが手に取るようにわかるからである。だからいくら攻撃の手数を増やそうともこちらに当てることなどほぼ不可能、つまりこちらの見ている世界とエネミーの見ている世界が全く違うという事である。
そんなわけで念話通話と回避行動を同時に行いながら体内にあるコアを特殊な眼で探し、その結果はというと…あっけなく見つかった。だがそのコアの傍には生命反応を示す座標が頭の中で表示されていた。その生命反応は当然ながら体内に取り込まれた生島家のものである。だがその反応は4つしかなかった。では後1人はどこにいるのか、両眼にもう少し力を込めて調べると最後の1人の居場所が分かった。その場所はすぐそこだった。その場所はなんとこの巨大スライムそのものであった。ではどうやって5人を助けてこの巨大エネミーを倒すのか? それは至極当たり前で、口では誰でも言えるようなことだった。
5人を巨大スライムのようなエネミーの体内から直接切り離せば良いのではないか。
このエネミーは攻撃の際には体内のエネルギーを消費しなければいけない。これは一般の人間がスポーツや走るなどの体を動かす際に必ず必要なものである。ではこのエネミーはどこからエネルギーを自身の体内に取り込みそして攻撃を行っているのか。それは捕えた術者、つまり魔力持ちの術者から根こそぎ吸い上げ、そして空になればそのまま用済みとなり体内で自動で溶け始めそのまま死に至る。それがこの世界のどこかにいるであろうスライム特有の消化方法である。まぁ本来スライムはよほど大きくなければ人間の様な生き物を体内に取り込まないで代わりに草や昆虫など小さなものを取り込むのだが‥‥まぁ今目の前にいるのはとてつもないほどの巨体でそしてS級エネミーなのだからこんなこともあるのだろうと結論ずけるのであった。
とまぁ、少々脱線したがジュダルの言葉が本当ならばあと数分ほどで4人の魔力が尽きて体が溶け始めていく。‥‥正直言うと俺はこの5人の事など助ける義理はないし、面倒だからこのままこのエネミーごと消滅させてやろうかと考えていた。だが今は気が変わり捕らわれた5人を助けてやらないこともなかった。まぁ理由として挙げるならばこの5人に接触したであろう人物や、何故秋実さんの様な何の力もない人を手にかけた動機を聞いてみたいと思ったからだ。
そんなわけでそろそろこのS級エネミーにはこの世からご退場してもらおうかな。あと数分すればプロの術者計数百はこの場に来るだろうし‥‥そうなればその数百のプロ術者たちは8割9割は無駄死にするだろうしね。
そして虹色の杖を天に向けてこう唱えた。
「【氷結:時ノ停滞】」
そう唱えた瞬間その一帯だけ時間速度が急激に遅くなった。エネミーはこちらが唱えるよりも先に攻撃を放ったがその攻撃すらも停止しているように見えた。だが完全に止まったわけでなくゆっくりだが確実にこちらへ向かっていた。他にも様々な攻撃がこちらに向かっていたがその攻撃全てが今の彼なら歩いても余裕で躱せるほどであった。まさにチート級と思わせるほどの力であるがこの効果は長くは続かない。発動から30秒もすれば自動で解除され再び時間が流れ出し、連続使用は不可能で次に使用できるのが12時間経たなければ発動できないという使い所を試され、そしてこの力を使える者は当たり前だが零以外は現在確認されていない。だが彼にとってこの30秒は丁度いいものであった。
「虹色の剣、鎌形態」
瞬時に杖から鎌へと変わった。今の零の姿はメイド服を着ている少女であり、傍から見ればメイド服を着た美少女が鎌を持つ姿などまるで可愛らしい死神のように思えた。そして持っている鎌を投擲のように構え、そして生命反応のある触手めがけて
「【狂乱円斬】」
【強欲の魔眼】で捕らえたそれぞれの触手の中にあった4つの生命反応のうち1つめがけて鎌を投げた。4つの場所は同じ触手にあったわけではない。右上、左下、右上右、左下右にそれぞれ1つずつ隠されてあった。1つ1つ斬りとっては30秒なんてあっという間に過ぎてしまう。そこで持っていた鎌をその場で投げてその4つの触手を斬り取ることにした。そして1つ目を斬ると次の瞬間本来ならばあり得ないことが起きた。触手を斬った鎌が回転しながら今度は別の触手に向かって曲がり始め2つ目、3つ目と次々に斬り落としていた。まるでその鎌が意志を持って生きているかのように、まるで何かの魔法にかけられたかのように‥‥
そして斬られた4つの触手はそのまま下に力なく落ちていくがその中には当然人がいるため落ちる着地点にクッションの役目として水で出来たマットを瞬時に呼び出しその後ずれることなく着地したのであった。そして生命反応が示す最後の1人の場所の傍には丁度探していた弱点のコアがあった。本来ならば生存者の傍に弱点のコアがあるとつい躊躇ってしまう。もしコアを破壊するのに巻き込まれたらその人物はどうなるだろうか、最悪の場合コアの破壊と同時に消滅してしまうかもしれない。そう考えるのは人として当たり前だと思う。だが彼は何の迷いや躊躇いすらなく一気にそこへ鎌を振り下ろした。
「【狂乱血斬】」
再び虹色の鎌を手に取り、コアとの間合いまでまるで瞬間移動のように入り必殺の一撃で強固なコアはあっけなく完全に破壊された。それと同時に30秒が経ち一帯の時間が通常の流れを再開するとコアを失い肉体を保てなくなったS級エネミーは崩壊が始まった。つまりたった1人で数百人がかりで倒すべきのS級エネミーを余裕で撃破したという事になるのであった‥‥




