激情 Ⅰ
「ふぅ~、これで1つ目の裏メニューは終わりだぁー」
「お疲れ、れー君」
星宮香蓮はそう言いながらハンドタオルを星乃零に渡すのであった。零は今露出の多い服を着た状態のとある少女の状態で素で喋っていたがこの場には香蓮と水河瑠璃しかいないので特に問題はなかった。
「それにしても星乃君のあの演技力、ちょっとやそっとで出来るものじゃないわよ。一体どんなことをすればああいうことが出来るのかしら?」
「そうですね…まぁ強いて言うなれば昔実際に見る機会が何度もありまして、恐らくそれで覚えたからですかね?」
「いや疑問形で言われても‥‥」
「ちなみにこの服は実際に着ていた人から貰い受けた物です」
「いや聞いていないから」
「そして大事なことは勢いと大胆さです。もし間違ってもその場で勢いで乗り切ればいいって言っていましたよ。あ、あとその人は内気な性格でしたけどこの服を着たら何でも出来る気がするらしくて、やり続けている内にどんどんはまっていって最終的にはその店のエースになってらしいですよ」
「‥‥つまり、星乃君がやったことって‥‥」
「まぁ見様見真似でしたんですけど、なかなか上手くいきませんね~~」
「いや、十分上手いと思うけど!」
「そうだ、水河先輩もやってみませんか? さっきの調教の仕方もいいと思いましたし、いい線行くと思いますよ」
「ぜっっっったいにやらない!!」
隣で香蓮もうんうん。と首を全力で振るのであった。
「まぁそれは置いといて、そろそろ秋実さんと冬美さんが来ると思うから準備しとかないとね」
さっき連絡が来たからね。と付け加え、露出の多い少女姿からすぐさまキュート系のメイド服を着た可愛らしい少女姿に切り替えるのであった。その早業に2人はもう気にしたら負け…と心の中でそう思うのであった。そして3人が戻ってくると
「た、大変だよ!!」
看板を持って校舎内を歩き回りながらメイド喫茶を宣伝していた大和里見が大慌てで戻ってきたのだった。朝比奈莉羅は「どうしたの?」と声を掛けたが里見の表情がただ事ではないと訴えていた。そして
「だ、第1術科学園の生徒がこの学校の生徒と近くで乱闘を起こしてるの!」
大きな声でそう叫ぶのであった。と同時に近くでどぉぉぉぉん‥‥という大きな音がしたのであった。
「んだよぉ! めちゃめちゃよえぇぇじゃねぇか!」
「第3の生徒でもそれなりの実力があるって期待していたのにがっかり…」
「まぁそれだけこの僕らが強いってことですね」
2階のフロアにて5人の術者が平然と立っていた。勿論彼らは第1術科学園の生徒である。そして倒れているの十数名の生徒であった。その中には土谷陸翔、佐藤光一、斎藤銀次郎‥‥等、零の一応の知り合いが床に這いつくばっており中には女子生徒も同じく這いつくばっていたのであった。きっかけはちょっとしたトラブルからだった。ちょっと互いの肩がぶつかっただけ、ちょっと持っていた焼きそばのソースが第1術科学園の生徒の制服についただけ、ちょっとお互いが揉めて口論しただけ‥‥誰しもそんなちょっとしたことで辺り一面が術の影響で床や天井、壁が抉れるなんて思っていなかったであろう。そしてその口論の結果一方的な力により十数名の生徒たちが手も足も出ずにこうして地に伏せられるとはどの生徒も思っていなかった。
「くっ、くそ‥‥手も足も出ないなんて‥‥」
「これが第1術科の実力なのか…」
「格が違い過ぎる…」
悔しい。そう思いながら呟く者たちと
「ぎゃははは!! そうだ! これが俺達の力だ!」
「貴方たちこの学校辞めちゃえば? 私たちに勝てないようならこの先やっていけないよ」
「そうそう、弱い奴なんて消えちゃえば良いんだからさ」
狂喜。そう思いながら嘲笑う者たち。
この場にはこの2つの言葉で表せないような者たちで支配されており周りにいる他の生徒やお客たちは単なるギャラリーに過ぎなかった。
「あぁそうそう。あまりものしょうもなさに忘れる所だった。なぁ、星乃零ってやつ知らないか? 俺たちそいつに用があるんだけど」
「‥‥そんな奴の事なんて俺たちは知らないし、知るつもりもない」
「ふぅん。庇ってんのかぁ~~、じゃあ、お前らを痛めつければそいつは出てくるのかな!!」
光一の腹部めがけ強烈な蹴りを入れる。「がはっ」と強烈な痛みと共にくの字の曲がるのであった。そして何度も何度も行い、
「……はぁ~~全然出て来ねぇなぁ。おーい、星乃零君~~、早く来ないと君のお友達がもっとひどい目に遭うよ~」
そう全体に聞こえるように呼び掛けても聞こえてくるのはギャラリーによるザワザワという声だけであった。その後何度も何度も蹴りを入れるうちに光一の声が聞こえなくなった。
「‥‥あ~~、気ぃ失いやがった。これだから弱い奴は面白くないんだよなぁ」
「なぁ、きっとその星乃ってやつはそこに突っ伏している奴らをどれだけ痛めても来ないんじゃないか? 彼らは星乃という人物を無能と言い続けたんだからさ、きっといい気味だと思っているよ」
「じゃあどうすればいいんだよ? このまま脅しても来ないならどうすればここに来るんだよ」
「簡単だよ。星乃零と深い関係のある人物を徹底的に躾ければいいんだよ」
その人物の手元には数枚の紙があり、そしてこの場にいるお客と生徒を持っている紙と見合わせながらそして見つけたとばかりにニヤリと笑い
「そこにいる四季秋実と四季冬美を徹底的に可愛がればいいよ」
その人物と目が合うと四季冬美はビクッと震えたのであった。そうしている間にも物の数秒でその人物が迫っていた。そんな震えている冬美を庇うように
「冬美が嫌がってるでしょ! こっちに来ないで!」
秋実が前に出て1人の妹の盾になるのであった。だが止まることはなく
「はっ、足が震えてるじゃねぇか、そんなに怖いならダサいことするなよ」
「貴方には分からないでしょうね。怖がっている妹を守るのは姉としての役割なの!」
「‥‥気に入らなぇな」
そう言い秋実の首を掴みそのまま上に持ち上げて
「弱い奴がどんなこと言ったってな、なんの説得力なんかねぇんだよ」
込める力が徐々に強くなっていき、
「に、逃げ、て、早く、彼を、呼んで、きて‥‥か、れ、なら…」
呼吸がしにくくなり発する言葉も徐々に弱くなりながらもそう伝えるのだった。
「おっと、逃がさないぜ」
逃げようとする冬美の腕を掴み逃げないように力強く握りしめ
「あっ、い、痛い、痛いよぉ‥‥」
涙目でそう訴えるもその言葉、その思いすらもこの人物には全く届くことはない。冬美が片手を使って振りほどこうともビクともしなかった。
「へぇ、よく見ると子供っぽいな。きっと趣味も子どもっぽいんだろうな。そんなんだから男からも好かれないんだろうな。でも大丈夫だ。この俺がここで抱いてやるからさ」
その狂気で増した表情に冬美は怯えてしまい、そして
「‥‥はぁ、はぁ、はぁ、はぁはぁはぁはぁ、はぁ!! ‥‥ゴホッ、ゴホッ、ゴホッ!!」
突然咳込みだしやがてそれが徐々に大きくなっていった。四季冬美はとある条件を満たせばこのような症状を起こす。それは心が不安定な状態で異性と触れられると何の前触れもなくいきなり喘息が始まるのである。本来ならば常に所持している吸引型の薬を吸うことで徐々に落ち着くのだが相手は当たり前だがその事を知らないでいた。
「おいおいおい、この俺が折角誘っているんだぜ。本来年下が好みだが特別にこうして誘っているわけなのによぉ、その反応はがっかりするんだけどなぁ」
チラッと後ろにいる者たちを見た。そして返ってきた答えは‥‥
「こっちに答えを求めるな。それとここは他校だ。あまり問題を起こしたら学園をいよいよ対処できなくなると思うぞ」
「そうかぁ? 学園はこれまで俺たちの問題行動はすべて白紙にされて初めからなかったことになっているんだからさ、ここでも大して変わらないだろ」
「そういうことを言っているんじゃ・・・・はぁ、もういい、いざという時はこの場にいる者とこの光景を見たすべての人を殺せばいい。ただしそれはお前がやれよ」
「話が分かりやすいぜ。それじゃあ、手始めにこの威勢がいいだけの弱い女を子の片手だけで殺すかな。今の俺なら弱い女程度片手でも十分殺せるしな」
そして秋実を掴んでいる手に先ほどよりも力を入れ追い込みを入れた。もう1言も声を出すことが出来ず後もう少しすれば秋実は確実に死に至るであろう。それが分かった瞬間冬美は
(い、いや、やめて‥‥秋ねぇを殺さないで‥‥秋ねぇは私の、私たちの大切な家族なの。だから、だから‥‥‥)
喘息を起こしているため声を発することが出来ないがそれでも心の中でやめて、殺さないで、と何度も訴えて、
(お願いだから、もう、やめて‥‥誰か、誰か助けて…‥‥星乃君)
「さぁ! 今から人が死ぬ瞬間を拝もうかぁぁぁ!!」
ラストスパートをかけてそして言った。
「しn」
その瞬間殺しにかかろうとしたその者は幽かだが見たのであった。自身の顔面に向かってあり得ない速度で飛び蹴りをしてきたメイド服を着た少女の姿を‥‥




