太陽神の花嫁 ~妹に花嫁の証が現れましたが……~
初めて小説を書いた上に初投稿なので至らぬ点があると思いますが、少しでも楽しんでいただけると嬉しいです。
【追記】
誤字報告、ありがとうございます。
遥か昔、この国が瘴気に満ち、厚い雲が覆い、闇に包まれ、水が蒸発し、木々が枯れ、大地が荒れた際、不安になった人々は太陽神に祈りを捧げた。
すると、太陽神が雲を割いて辺りを光で照らしながら一人の娘の前に現れた。
人々は、娘の手の甲に太陽を模った痣があることに気付いた。
自身を模った痣を持つ娘に気を良くした太陽神が、祈りに応えてご降臨されたのだと悟った。
太陽神が現れてすぐに辺りが浄化され、光が射し、青空が広がり、水が湧き、大地が緑で覆われ、木の芽が大樹にまで成長し、人々をお救いになった。
太陽神は娘を抱き寄せ、そのままどこかへ飛び立ってしまった。
それから太陽神から加護を受けている証として、300年ごとに手の甲に太陽を模った痣を持つ娘が現れるようになった。
その娘は、太陽神の花嫁と呼ばれるようになった。
「見て、私の手! 太陽神様がいつも見守って下さっているのよ!」
そう言いながらソレイニ侯爵家の娘、アウローラ・ソレイニに自身の手の甲を見せびらかしているのは妹のマルタ・ソレイニだ。
「ねえ、アウローラ姉様の手も見せて下さいな」
マルタは無邪気に、自身の姉であるアウローラに手の甲を見せるよう強請る。
分かっているくせに……。
「あら、ごめんなさい。アウローラ姉様にはありませんでしたわね」
無邪気に……いや、嘲笑うために言ったマルタにアウローラは唇を噛みしめる。
悔しそうな顔を見たいがために、わざと意地悪をするのだ。
伝承によると、昔、この国が瘴気に満ちて様々な災害が起きた際、手の甲に太陽を模った痣を持つ娘の祈りに呼応して太陽神ヘリオロッソがお出でになり、人々を救ったとされている。
それ以来、毎年、手の甲に太陽を模った痣を絵具で描いた女性が太陽神の花嫁として、太陽神であるヘリオロッソに感謝の祈りを捧げる祭りを盛り上げている。しかし、最後にヘリオロッソがお出でになってから約300年ごとに本物の太陽を模った痣を持つ娘が現れるとされ、その娘のみを太陽神の花嫁として盛大に祝うようになったという。
今年がその300年。
数年前、太陽神の花嫁である証、太陽を模った痣がマルタの手の甲に現れた。
手に包帯を巻いたマルタが不安げな表情で包帯を解く。
そこには太陽のような形をした赤い痣が……。
「どこかで、ぶつけたものと思いましたの。でも、数週間経っても消えなくて……」
それを見た両親は歓喜した。自分の娘が太陽神の花嫁に選ばれたのだと。
本当は私も憧れていた……太陽神ヘリオロッソ様の花嫁。
でも、それは私にはどうすることもできないこと。
ヘリオロッソ様がお決めになったことなら、私は妹を応援しなければ。
「今年は特別な年だから、伝承を基にした劇をするんですって。太陽神の役を私の婚約者である王太子殿下がなさるのよ。もちろん、花嫁役は私で!アウローラ姉様、絶対見ていて下さいね」
「ええ。とっても楽しみだわ」
アウローラは当たり障りなく答えたつもりだったが、マルタは気に入らなかったようだ。
「アウローラ姉様、全然嬉しそうじゃありませんわ……」
「そんなことないわ。マルタの素晴らしい演技が見られると思うと今から待ち遠しいわ」
「嘘よ! アウローラ姉様は花嫁に選ばれなかったから、私に嫉妬なさっているのでしょう!?」
マルタは号泣し、必死で宥めるアウローラ。
いつもこうだ。
マルタはアウローラの発した言葉を論い、酷いと非難する。
そのせいでアウローラは常に気を張り詰め、言動に気を付けている。
マルタの泣き声で飛んできた母がアウローラを叱りつける。
「アウローラ! また、マルタに嫉妬して! そのような醜い心を持っているから、太陽神様の花嫁に選ばれなかったのよ!?」
「申し訳ありません……」
マルタが太陽神の花嫁に選ばれてから、両親は明らかに姉妹の扱いに差をつけ始めた。
それをマルタは感じ取ったのだろう。
コイツは自分より下なのだと。
● ● ●
アウローラはいつも一人で食事を摂っている。
マルタが太陽神の花嫁に選ばれたから、姉であるアウローラが嫉妬して虐められるようになったと両親に訴えたのだ。
どちらかといえば、マルタがアウローラを虐めているというのに。
何も言い返さないアウローラを使用人たちは心配していた。
いつも通りアウローラの部屋へ食事を運ぶ侍女。
アウローラは侍女の顔が少し青ざめていることに気付く。
「どこか具合が悪いの?」
「いいえ……」
実際、侍女の具合は悪くない。
アウローラは疑問に思っていると、食事のメニューを見て納得する。
また品数を減らされたのだ。
アウローラは、自分のことのように心を痛めてくれている侍女に優しく声をかける。
「大丈夫よ。一度の食事としては十分な量だから」
そんなはずはない。
すべてを平らげたとしても、すぐに空腹になってしまうほどの量しか給仕されていない。
現に、アウローラの体は痩せ、服に少し余裕があるように見受けられる。
「申し訳ありません。アウローラお嬢様」
「どうして貴方が謝るのよ」
アウローラは苦笑いしながら気にしていないとでもいうように、いつも通り食事を摂り始める。
その様子にさらに侍女は心を痛める。
侍女だけではない。
使用人は皆、アウローラのことを気にかけている。
アウローラがマルタや両親に虐められている時、何度も助けに入ろうと思った。
しかし、そのようなことをして不興を買えば累が及ぶのは自分。職を失いたくない使用人たちは、いつも歯痒い思いをしていた。
食事を終えたアウローラは部屋で一人、窓辺に跪き、太陽神に祈りを捧げていた。
太陽神が見守って下さること、豊かな生活を送ることができることへの感謝を。
亡くなった命、自分が生きるために奪ってしまった命への冥福を。
命あるもの全てに祝福を。
この国に更なる繁栄を。
そして、太陽神ヘリオロッソ様ご自身に幸福を。
私も太陽神の花嫁に選ばれたかった。
でも、それは叶わない。
ならば、せめて祈りを捧げよう。
私があの伝承の娘なら、そうしていたと思うから。
祈り始めてすぐ、私は何かに包まれたように体が温かくなっていくのを感じた。
もしかしたら、ヘリオロッソ様がいらしているのかも知れないと、花嫁に選ばれなかった自分にはありえないことを想像しながら……。
● ● ●
この日は、マルタが着る祭りの衣装についての打ち合わせ。
この国だけでなく、海外からも様々な絹織物を取り寄せている。
一目見ただけで上等な品だと分かるものばかりで、色とりどりの絹織物はもちろん、傾けるだけで色が変わるもの、複雑で美しい柄が染められたものなどが部屋を華やかに彩っている。
祭りの主人公であるマルタは機嫌良くデザイナーに要望を出す。
「とびっきり豪華な刺繍をあしらってね! レースやフリルも欲しいわ! 生地の色は私に似合うピンクが良いかしら。やっぱり清楚な白?」
いつもは両親からマルタに近付くことを固く禁じられているアウローラだが、今日はマルタからの強い希望で同席を許されている。
太陽神の花嫁として、忙しく準備している幸せな自分を見せつけたいのだろう。
両親はご機嫌なマルタを眺めて心から笑顔になっているが、アウローラは笑顔を貼り付けている。
マルタが自分に何か仕掛けて来るのではと警戒しているのだ。
「ねえ、アウローラ姉様。どちらが似合うと思います?」
来た。
アウローラは慎重に言葉を選びながら答える。
「マルタなら、どの色でも似合うと思うわ。ピンクはさらに可憐さを引き立たせるし、白も純粋な貴方にピッタリ」
笑顔で助言し終わったとたん、マルタの表情が曇る。
「どうしてアウローラ姉様は投げやりに答えますの? 私は真剣に聞いておりますのに……」
両親はアウローラに鋭い視線を向ける。
その後はアウローラにとって地獄だった。
アウローラが青色を勧めれば、「この色は嫌いなのに酷い……」と泣かれ、両親に怒鳴られる。
次に黄色を勧めれば、「これだと安っぽく見える! そんなに私のことが憎いんですの!?」と喚かれ、母親に床へ叩きつけられた上に客人に止められるまで父親に何度も蹴りつけられる。
アウローラは、信仰している太陽神の怒りに触れることを恐れた両親によって、悪人を成敗せんと言わんばかりに何度も痛めつけられていた。
何を言ってもマルタにとっては正解で、アウローラにとっては不正解だった。
ようやく解放された後、侍女に手当てをしてもらう。
内出血を起こしているのだろう、所々、筋肉の繊維に沿って赤く染まっている様が痛々しい。
侍女は不安げな表情を浮かべながら、顔色を窺っている。
アウローラは痛みを堪えながら侍女にお礼を言った後、ベッドに横になる。
柔らかいベッドのはずなのに、怪我をしている部分に当たると脳天を突き刺すような痛みがアウローラを襲う。
疲れた……マルタが王太子妃になれば少しは楽になるのかな。
いや、私自身に原因があるのかもしれない。
もしかしたら自分が太陽神の花嫁に選ばれなかったからマルタに嫉妬して、つい酷い言葉や態度が出てしまっていたのだろうか。そうだとすると、父様や母様の言うように私の心は醜いのかもしれない。
アウローラは最初は体中の痛みで寝付けなかったが、だんだん微睡みに包まれ、ついに寝息を立て始める。
アウローラは、緊張感が和らぐような不思議な夢を見ていた。
そこは青空が広がり、近くで小川が流れる音が聞え、荒れていたであろう大地に草が覆い、木々に青々とした葉が生い茂っている。
優しい日差しが心地良い。
あたりを見回していると急に目の前が眩しく光り、見たこともない服装をした男性が現れる。
その男性は跪き、私の手を取ると甲の部分に口づけをする。
「 」
男性は何か呟いていたが、アウローラは聞き取ることができなかった。
● ● ●
祭り当日。
去年までは手の甲に太陽を模った絵が描かれた女性で溢れていたが、今年は女性の手の甲には何も描かれていない。
本物の太陽神の花嫁がいるのだ。
大通りでは多くの屋台が建ち並び、果物を使った飴や焼き菓子、串に一口大の肉を刺して焼いたもの、パンの上に野菜やチーズを載せた軽食なども売られている。
しかし、祭りに来ている人々の目当てはそれではない。
本物の太陽神の花嫁を一目見ようと、屋根のない大型の闘技場に多くの人が集まる。ここで太陽神の花嫁と太陽神に扮した王太子の演劇が行われるのだ。
太陽神の花嫁であるマルタの家族は国王の温情により、王族席のすぐ下の席に座っている。
流石、王族用の席に近いだけあって劇が見やすく、声もよく聞こえる。
アウローラは自分の妹、マルタを見つめていた。
本当に生き生きしている。
今、この瞬間は姉として、太陽神を信仰する者として純粋に妹の晴れ舞台を喜んでいた。
劇ももうすぐ終盤。
マルタが祈る。
その様子を見たアウローラも自分の席で祈りを捧げる。
いつも私たちを守って下さり、感謝いたします。
この国や、命あるものに繁栄と祝福がありますように。
太陽神ヘリオロッソ様が幸福でありますように。
すると、天から眩い光が降り注ぎ、男性が空から舞い降りてきた。
劇の演出ではないのは明らかだった。
民衆から、どよめきが起きる。
誰もが太陽神ヘリオロッソだと確信した。
祭りに参加した民衆は歓声を上げた。
加護を求めて手を伸ばす者もいる。
手を合わせて涙を流しながら祈る者もいる。
「太陽神はいたんだ!」
「奇跡だわ……」
「花嫁の祈りに応えたんだ」
皆、太陽神が実在したことに喜んだ。
一人を除いて。
太陽神ヘリオロッソは神々しいオーラを纏っていたが、決して威圧感を与えるようなものではない。
程よく筋肉があり、燃えるような赤い髪を持ち、端正な顔をしていた。
女性なら一目で恋に落ちてしまうような容姿をしていた。
民衆は自身の花嫁の元へ行くのだと思った。
しかし、ヘリオロッソは花嫁に見向きもしなかった。
その様子を見た民衆は困惑し、ざわつき始める。
「なぜ、花嫁の前を素通りしたんだ?」
近くにいた王太子も、マルタが太陽神の花嫁だと思っていたので戸惑っている。
ヘリオロッソは王族席の下の席へ向かい、アウローラの前で立ち止まる。
そして跪き、アウローラに求婚する。
「迎えに来たよ、アウローラ。私の伴侶としてそばにいてくれないか?」
突然のことに驚くアウローラ。
混乱して頭が回らない。
夢に出てきた男性が、今、自分の目の前にいる。
しかも、その男性は幼い頃から信仰していた太陽神。
ずっと夢見ていた……太陽神の花嫁。
本当に?
私がヘリオロッソ様と?
嬉しい!
しかし、舞台上で不安げな表情をしながら立ち尽くすマルタの姿を目にしたアウローラは口を噤んでしまう。
ヘリオロッソは切ない表情で言葉を重ねる。
「生涯を共にする伴侶はお前が良い。アウローラ」
その切ない表情に心を打たれたアウローラは覚悟を決める。
「謹んでお受けします……!」
アウローラは太陽神からの求婚を受け入れた。
ヘリオロッソはその言葉を聞くと微笑み、アウローラの手をとって口づけをする。
すると、アウローラの手の甲にくっきりと太陽を模った紋様が浮かび上がる。太陽神の髪の色と同じ燃えるような赤色だった。
ヘリオロッソは立ち上がるとアウローラを抱きしめる。
父親以外の男性に抱きしめられた経験のないアウローラは硬直していた。
アウローラは求婚を受け入れた後、ふと、あることに疑問を抱く。
でも、マルタが太陽神の花嫁では……?
その様子を見ていた国王がアウローラの父親であるソレイニ侯爵に問いかける。
「ソレイニ侯爵、これはどういうことだ?」
穏やかな口調だったが、明らかに怒気が含まれている。
国王に問いかけられたが、父親も理解が追い付かない。
「も、申し訳ありません。私も皆目見当が……」
ヘリオロッソは場の空気を察して民衆に聞こえるよう語りだした。
「私の真の花嫁はここにいるアウローラただ一人。300年の間に語り継がれてきたことが少しずつ変化していったようだが、太陽の紋様は昔、私の求婚を受け入れた証として付与したもの。自然に浮かび上がるものではない!」
それを聞いた民衆はマルタに疑いのまなざしを向ける。
王太子に至っては睨みつけていた。
ヘリオロッソはマルタを問い詰める。
「お前は誰だ。なぜ、手の甲に太陽のような痣を付けている」
マルタは怯え、顔が真っ青だ。
嘘を吐くことはできないと悟り、正直に話した後でヘリオロッソに赦しを請う。
「も、申し訳ありません。この痣は街で彫師に依頼して彫らせたものです……出来心だったのです、どうか! どうか、お慈悲を!」
「嘘が露見するとは考えなかったのか?」
「痣が浮かび上がるのは現実的に、その……あり得そうな話ですし…太陽神様は、ただの……言い伝えだと……ほ、本当に存在するなんて……」
呆れたようにヘリオロッソはため息をつき、アウローラを徐に抱きかかえる。両腕に収まっているアウローラは顔を赤くしながら、小さくなって手を胸の前で握る。
「あの……?」
ヘリオロッソはアウローラに穏やかな笑みを浮かべ、マルタには怒りを露にした表情を向ける。
「お前に罰を与えたいところだが……私が手を下すまでもないようだ」
民衆はヘリオロッソに聞えぬよう、小さな声でマルタに対して暴言を吐く。
まさか、太陽神の花嫁を騙る不届き者が存在するなど、太陽神への信仰が厚い彼らにとって想像もしていなかった。
しかも、この女は出来心で騙ったのだ。
民衆の怒りは収まらない。
「太陽神の花嫁を騙るなんて……罰当たりなことを」
「許せない。俺たちを騙していたのか」
「この詐欺師が」
ヘリオロッソは愛しの花嫁に汚い言葉を聞かせたくないとでも言いたげに、アウローラを抱えたまま、どこかへ飛び立ってしまった。
その後、調査が行われ、マルタの痣が単なる入れ墨であることが証明された。
彫師は、大金と引き換えに太陽神の花嫁の痣を偽造したとして辺境の地での強制労働が決まり、移送されていった。
マルタは詐欺罪に問われたが、本物の太陽神の花嫁の血縁者に咎人がいることは芳しくないという父親の主張が通り、不問になった。
だが、王太子との婚約は破棄されることに。
太陽神の花嫁を騙る者など将来の国母には相応しくない。なにより、王太子自身が拒否している。
国王にそう言われると、マルタも両親も王太子との婚約破棄を受け入れるしかなかった。
罪には問われなかったが、父親は今回の騒動の責任を何らかの形で取らせなければと考え、マルタを辺境の地にある修道院へ送ることに。
しかし、そこでは虐めが横行しており、マルタは日々虐げられている。供物が少ないことを理由に食事の量を減らされ、太陽神の花嫁を騙った詐欺師だと詰られているという。
否定したいが祭りでの出来事は多くの人に知られており、自分の手の甲にある入れ墨が証拠となって言い逃れができない。
奉仕活動の際、子供に石をぶつけられた。
しかし、誰一人、子供の行いを咎める大人はいなかった。
マルタはこの時になって、ようやく、自分はこの国の人々にとって許されないことを仕出かしたのだと思い知る。
両親にも罰が下った。
ソレイニ侯爵家の使用人たちは領民や他の貴族の使用人に、両親が行った本物の太陽神の花嫁であるアウローラへの仕打ちを話すと瞬く間に広がった。
連日、多くの貴族から厳しく追及されて社交界に出られなくなり、領民に至っては納税を拒否する者が後を絶たず、ソレイニ侯爵家の家計は火の車に。両親は知らなかったと訴えたが、そういう問題ではないことに気付いていない。あれは親が子にする仕打ちではない。
現在、両親は親戚に侯爵位の跡を継がせて、どこかへ消えてしまった。
まだ赦されはしないだろう。
太陽がこの世界を照らし続ける限り。
そんなことになっているとは知らないアウローラは、顔を真っ赤にしながら太陽神ヘリオロッソに話しかける。
「あ、あの! 不束者ですが、よろしくお願いします!」
ヘリオロッソはクスッと笑いながら呟く。
「最初に求婚した時と同じだな」
「?」
「何でもないよ」
ヘリオロッソはアウローラに甘えるように抱きしめる。
アウローラは益々顔を赤らめながら、それを受け入れていた。
遥か昔、この国が瘴気に満ち、厚い雲が覆い、闇に包まれ、水が蒸発し、木々が枯れ、大地が荒れた際、人々は私に祈りを捧げた。
しかし、どれも自分を助けて欲しいという祈りばかり。
そんな時、一人だけ自分自身ではなく苦しむ人々や動物、自然の為に救いを乞う娘がいた。
自身も不安だろうに。
その不安が表に出ていたのか、娘は少し震えていた。
私はその娘が十日間も食事や睡眠すら取らず、ひたすら祈り続ける姿に感銘を受けた。
その清廉な心を持った娘の願いを叶えたいがために、その国を救ったのだ。
その娘に会いたくて、地上へ降りたのだ。