最後の草野球試合の決着です
元春達の反撃が始まった。2-0で、「OTARUNZU」が二点取っていた。これに一方、「鉄鋼工業」は元春を見て、怒りが燃えていた。
「うらぁ!」
村上達も、元春に後れを取らないように反撃した。「OTARUNZU」のピッチャーである車坂は奮闘の投球をした。
(こ、こいつら……! あの御子柴とかいう奴のせいで本気で来ていやがる。クソッ、なめやがって!)
だが、岡田達もこれに無茶な反則を出したのだった。
「この野郎!」
「!」
岡田はバットを投げたのだ。
「く……っ!」
車坂は少し痛み出す。
「へへっ、悪いな。手が滑った」
(さすがに一筋縄ではいかないか……)
実はこれも、元春の計算通りだった。
数分前。元春は皆に話した。
「相手の方は、俺がボールを打ったせいでイラついているかもしれない。きっと、妨害する可能性がある」
「というと?」
「奴らはムカついて、バットを投げたりタックル攻撃、または俺達をデットボールで当てるつもりだろうな」
「そんな時どうするんだ、御子柴」
元春は言った。
「挑発に乗るな、怒りはスポーツで勝つ。それだけだ」
「しかし元春さん、そんなこと耐えても怪我人が出る可能性があるはずです」
セレナは心配そうに言う。
「だからこそさ、ソルフィルスの世界でも一緒なはず。兵士が負傷したら包帯や氷嚢で治療する。現世でも一緒さ」
「お兄ちゃん……」
「そのために治療箱持ってきている。もちろん、氷の氷嚢シップも持っている。相手は何するか分からないから、耐えて勝つしかない。我慢すれば、奴らの士気は徐々に下がる。それまでに耐えてやるんだ」
「出来るのか?」
「薬局店の店長として、保証はする」
元春の瞳は覚悟の瞳だった。
そして、「OTARUNZU」の防衛態勢でも、攻撃態勢でも「鉄鋼工業」の妨害を耐えた。
「ぐはっ!」
元春の読み通りに相手は元春達を妨害。タックル攻撃やデットボールなどをしたのだ。
「ぐぬぬぬ……」
バッターである小倉康夫も、デットボールになっていた。
(クソ……、こいつらワザとやっている。でも、耐えるんだ! そうすれば、勝利が見える!)
その一方、「鉄鋼工業」は……。
(こいつら、俺達の妨害を耐えていやがる。なんて奴らだ、それもこれもあいつの人望の策か)
これにベンチにいた上司の中尾は険しい顔をした。
(あの小僧、御子柴とか言ったな。奴の作戦のせいで、向こうは奮起しているのか。だとすれば、このままではヤバいな)
すると、中尾は気が付いた。
(あの男のせいか。ならば、こっちのターンが来たら……)
何かの企みの笑みをした。
そして、「鉄鋼工業」の攻撃ターン。中尾は山崎にあることを伝えた。
「奴の腰や腹じゃなくて、顔面に当てろと?」
「そうすれば、向こうも崩れる。顔面じゃなくても、鼻や目に直撃しても構わない」
「分かりました」
山崎はピッチャーに立つ。
(顔面か……、デットボールにしては酷いやり方だが、当てれば奴らの士気も下がる。あの御子柴とかいう奴を大怪我すれば、こっちのモンだ!)
山崎はボールを投げ、バッターである元春の顔面に命中した。
ガン!
「! 御子柴!」
これに村上達も心配して立ち上がった。
(よっしゃ! 顔面だけじゃなくて、目や鼻に命中したぞ! ざまーみろ!)
だがその時だった。
「!?」
山崎達に悪寒が走った。それは、元春が顔にボール当たっても鼻血をだしても、本気の目をして睨んでいた。
(な、何だよ……、あの目? ヤバい、足がガクガクする)
「だ、大丈夫かね?」
審判は元春に心配そうに言った。
「大丈夫ですよ。デットボールですから、一塁行っていいですかね?」
これに岡田も悪寒が走った。
(こ、こいつはヤバいぞ! さすがにやりすぎたのかもしれない……!)
その後、彼らの因果応報のせいか、元春達の攻撃によって点数が更に取られた。
もはや彼らに勝ち目はない。その結果―。
「16-0で「OTARUNZU」の勝ち!」
審判はこれ以上の試合にて臨めないためゲームセット。「OTARUNZU」の勝利にて終わった。
「やりましたね、元春さん!」
「お兄ちゃん、みんなすごいよ!」
するとそこへ―。
「! アンタら……」
「鉄鋼工業」のチームが元春達のところにやって来た。そして、彼らは―。
「馬鹿にして、すいませんでしたァァァァ!」
と、まさかの謝罪の土下座をしたのだ。
「な、何だ? いきなり土下座して……」
「俺達、アンタらのことをなめていました! 嫌がらせをしてすみません! もう二度と、ちょっかいを出しませんので!」
これに元春は―。
「本当に反省しているのか?」
「は、はい!」
「…………分かった。じゃあ、許すよ」
元春は「鉄鋼工業」を許した。
「いいのか、御子柴?」
「世の中にはガラ悪い人もいる。けど、のちに悪い奴でもきっと許してくれるさ」
「元春さん……」
こうして、町内会草野球は幕を閉じた。
二日後。
「店長、どうしたんですか? 顔に絆創膏を貼ってますが?」
ハトバの仕事で、皆が元春を見て驚いた。
「ちょっと、色々あって怪我しただけさ」
「そうなんですか、そりゃあ災難でしたねぇ」
「ま、この怪我も経験の一つかもしれない」
「え?」
するとそこへ、業者がやって来た。
「ちわー、どうも「鉄鋼工業」です~」
「天井に小穴が空いてるらしいんスけど、どこですか~」
山崎と岡田が来た。
「案内するよ」
「あ、どうもです」
これに、龍一達は呆然した。
「あの人らって、ガラ悪いで有名な「鉄鋼工業」やないか。なんか、改心した顔をしとるで?」
「何かあったのかしら?」
「セレナ、エリーゼ。心当たりあるのか?」
セレナは言った。
「分かりませんが、人はいつかそういう事もあるだけ、ですかね」
セレナは元春を見て、微笑んだ。