魔王の幹部の姉がやって来ました
―日が沈み始めた頃、夜はやって来た。その月は明るく満月だった。ビルの屋上にて、月を見ていた人影がいた。
「ここが、現世世界。なるほど、歪みが狂っているのはそういう事なのね。我が妹がいなくなってからどこに行ったのか、まさかこの世界に……。その可能性はあるのか」
するとだった。呟いていたところに、警備員に見つかった。
「おい、そこで何している!」
「見つかったか。まぁ、よい。この場から退散しよう」
謎の人影はサッと消えてしまった。
「! な、なんだったんだ?」
警備員は呆然とした。
そして―。
「この町に、妹がいるというのは可能性があるのぅ。行こうではないか、あ奴を捜しに」
建物の上をジャンプしながら、ある人物を捜しに行った。
「龍一、今日の晩飯はなんだ?」
今日の晩飯にライア・エミルは言う。
「すき焼きや。今日は、牛肉が安かったんや」
「すき焼きだと?」
「明日仕事休みやから、今日は遠慮なくこれにしようかと思ってなぁ。たまには、羽目を外さないとアカンわなぁ」
龍一は楽しそうに言う。
「それにしても、いい匂いですね」
ロレナもさすがに美味しそうに思っていた。これに龍一は言った。
「ええとこや、なんせ糸こんにゃくや豆腐、後追加にはうどん! 欠かせないのは牛肉とほうれん草! こういうの待ってたわ~」
龍一はやけにご機嫌そうだった。
「龍一、お主いい事でもあったのか?」
「ないで。ただ、ゆっくりする明日が楽しみやから」
「あぁ、そういう事ですか」
ロレナは納得した。
「さーって、もう少しやで~」
楽しそうにすき焼きを作っている龍一。だが、その時だった。
「!」
ライアは気配を感じた。
「この感じは……!」
「どないしたんや?」
これにロレナも気付いた。
「まさか……! いや、そんなはずは……!」
するとそこへ―。
「そのまさかが、ここにおるのじゃ。のぅ、我が妹よ」
現れたのは、ライアと似ているツインテールの赤ピンク髪の女性だった。
「久しいのう」
「ね、姉様! どうして、この世界に?」
「なぜ、マリーナ・エミル陛下がここにいるのですか?」
ライアとロレナは、マリーナという人物を見て驚いていた。
「色々事情があってのう、この世界にやって来たのでな。まさか、騒がしい世界とは思っていなかったぞ」
「…………」
そこへ、龍一が来た。
「誰やこの人は?」
ロレナは彼女の事を紹介した。
「この方は、魔王様の側近であり、陛下であり、更にはライア様の姉・マリーナ・エミル様です」
「! ホンマかいな! しかも、姉おったんか!」
さすがにビックリした龍一。
「それにしても、姉妹にしてはそっくりやなぁ」
「お主は誰じゃ?」
マリーナは龍一に尋ねる。
「俺は、山城龍一。マリーナさんやっけ? 妹さんはこの世界に来て、俺が保護したんや」
「保護じゃと?」
「まぁ、色々あるんやこっちは。それにしても、まさかお姉さんもここに来るとは。やっぱり、何かの影響でもあるんかいな、ソルフィルスの異世界の人らは」
「? なぜ、ソルフィルスという世界のこと知っているのじゃ? そちはどう見ても、この世界の住民にしか見えんようじゃが」
龍一は言う。
「まぁ、うちの仕事場に騎士団長さんとかネクロマンサーとかおるからな」
「…………、まさか奴までなのか?」
「? なんか言った?」
「言っておらぬ。が、ライアよ」
マリーナは、ライアに言った。
「は、はい」
ライアは恐る恐る返事した。
「お主は、この町に溶け込んでいるそうじゃな」
「そ、それは……」
「妾は、妹であるお主の事心配していたのじゃぞ?」
「…………」
するとだった。龍一はすき焼きを持ってきて、敷物に乗せた。
「まぁまぁ、再会したんやから。腹減っているんやろ、食ったらどうや?」
「お主、今は妹と話しているんじゃ。邪魔しないでもらいたい」
「俺はそういう喧嘩なことは嫌いやねん。平和主義者やし、食ったらええやん」
これにマリーナは思った。
(この男、動じない奴じゃのぅ。もしや、この状況から気付いてないと?)
だが、所詮は一般人。マリーナは、龍一に言った。
「お主、妾は……、むがっ!」
龍一は牛肉をマリーナの口に入れた。
「…………、う、美味い」
「そんなことしても、変わらないんや。けど、この世界のことについて学べばきっと何かがつかめるはずなんや」
「どういう事じゃ?」
龍一は答えた。
「例え、魔王の幹部であろうが陛下であろうが、俺は誰も孤独にはしない。そういう意味やねん」
「…………」
「龍一……」
この時思った。マリーナは、妹であるライアのことを大切にしているということを。
「人間とは面白い奴じゃな。気に入ったぞ、山城龍一」
「?」
「しばらくここに厄介になる」
龍一達は、マリーナの発言でびっくりした。
「お姉様、本気ですか?」
「我は本気じゃぞ?」
この時、龍一は思った。
(今度はライアの姉、しかも魔王の側近の陛下。やっかいなやつが増えたわな……)
こうして、マリーナもしばらく龍一のところに住むこととなった。