従業員が風邪を引いたのでヘルプを呼ぶことにしました
―事態が起こった。ハトバにとっての大ピンチがやってくる。それは、店長である御子柴元春にとっての危機がやって来たのだった。
「まずいなぁ……」
それは―ほとんどの店員が風邪を引いたのである。
今、店に居るのは元春、義子、セレナ、エリーゼ、アリアの五人だった。
「あぁ、マジでまずいな」
義子も言う。
「いや、本当にまずいなぁ」
「いや、本当にマジでまずいな」
さすがに困っているだろう。この状況はヤバい。
「あの、他の人は……?」
アリアは元春に尋ねた。
「残念だけど、風邪じゃない人もいるけど、用事がある人ばかりで無理だったんだ」
「そ、そうなんですね……。確かに、雪子さんは家の用事で出られませんね」
雪子の実家は刃物屋。だが、店を営んでいた母が腰を打ってしまったことに、しばらくハトバに行けない。
「困りましたね、桜子さんも山城さんも風邪をひいてしまってますし……」
セレナも困った顔をしていた。
「ハトバの初のピンチか……」
するとだった。義子は、ため息をして何やら仕方ないという顔をした。
「仕方ないか、こうなったら私の助っ人を呼ぶしかないな」
義子はそう言うと、スマホを出して義子の助っ人を呼ぶ。
「え? でも、店の店員には認識しないと……」
「この際言っても仕方ないだろう。ハトバのルールは一時無視するしかない」
「…………」
確かに店にはルールがある。といっても、店には四人しかいない。助っ人を呼ぶ方が少しマシだろう。
「でも、義子さん。助っ人って誰を呼ぶんですか?」
エリーゼは義子を尋ね、彼女は答えた。
「ウチの舎弟だ」
「…………はい?」
元春達は目を丸くした。
「元々、私に後輩がいてな。後輩というより舎弟というところだな」
「舎弟って、義子さんってもしかして……、元不良?」
義子は何も言わなかった。
(もの凄く意外だった……! まぁ、確かにそういう人もいるけど、ひょっとして昔はレディースとか? だったらありうるな……。とんでもない人を化粧品担当したなぁ)
元春は初めて知って、どんな舎弟の人物か恐ろしかった。
その時だった。
ドカンッ!
「! 今の音は何ですか?」
壊す音がした。行ってみると、裏のドアが外れていた。
「ウチのハトバの裏ドアが!」
「あ、すいません!」
そこには一人の男がいた。
「今、ドアを何とかします!」
「いやいや、無理だろ! 壊れてるよ、業者呼ぶしかないよ!」
「義子さん、何ですかこの人は!」
ビックリしている元春とエリーゼ。義子は冷静に言う。
「舎弟の荒川達郎だ。」
「どうも、荒川達郎といいます! よろしくです!」
「ど、どうも……、店長の御子柴元春といいます」
「セレナ・ガーネットです」
「エリーゼ・ルドベキアです」
「アリア・ソウルートといいます」
これに達郎は言った。
「本当に異世界の人いるんスね! すごいです!」
元春は義子を見た。
「もしかして、喋りました?」
「……、仕方なかったんだ。こいつらはよくウチに来るからな。娘の面倒もよく見ている」
すると、エリーゼは手を挙げた。
「ちょっと待ってください、もしかしてシャルアも?」
「もちろん知っている」
これに元春は言った。
「ちょっと待ってくださいよ、いくら知り合いでも限度というものがありますよ。助っ人を呼んだのは仕方ないとして、別世界から来た人のことを教えてどうするんですか!」
「安心しろ、教えたのはこいつらだけだ」
「こいつら? もしかして、もう一人来るんですか?」
「あぁ、そうだ」
その時だった。
ガシャーン!
「! 今度は何!」
行ってみると、別の裏ドアから誰かいた。
「…………」
「す、すみません、姐さん」
元春は頭を抱える。
「業者、呼びますか?」
おそらく義子の舎弟だろう、だが厄介な一日になりそうだった。
つづく