彼はかつて過去に誰一人味方がいなかったそうです
―彼は本気だった。狂った正義を持つ、そんな人間は愚かで間違っている。それを正しくするために、彼は本気の拳で殴ったのだ。火傷した素手で、殴ったのだ。
「が……、こ、この野郎がぁ……!」
オルグスは御子柴元春の目を見た。
「そんな目で私を見るな……! こんな平民な奴に殴るとは、やっぱアンタは危険だ」
「何度も言うんだな、危険だろうがヤバい人間だろうが、俺が正してやる」
「元春さん……」
セレナとエリーゼは瞳を潤んだ。
「クソがぁ……、後悔しても知らないぞ……!」
そう言うと、オルグスは退いた。
「…………」
すると、元春は倒れた。
「! 元春さん!」
「しっかりしてください、元春さん!」
元春は少し意識が薄れた。
―十年前。
「さすがだね、やっぱり兄であるアンタが一番優れているわね」
「そうだな、お前のような奴には、やっぱり一番だな。元春は、さすがに無理だな」
「そうね。元春じゃあ、任せられないわね」
元春の親は、彼の兄を褒めていた。元春は、親には一度褒めたことがなくダメ出しが多かった。むしろ、いらないのかもしれない。兄弟には、下剋上というものがあるのか? と。
元春が高校卒業後、出ていくと決めた。咲夜は反対をしていたが、親からは大賛成をしたという。つまりは、こうだった。
「元春が出てってくれれは、安泰だわ~」「いらない奴は去ったほうがいいな」
など、まるで元春が貧乏神のような追い払いのようだった。
彼は、普通に生きよう、そう思ったのだ。
「う、う~ん……」
元春は目を覚ました。
「お兄ちゃん、気が付いた?」
「ここは……、俺の家か」
そこには咲夜、エルザ、キャロルがいた。
「セレナとエリーゼに感謝して、二人が元春を運んだから」
「…………」
「それにしても、エリーゼ様の兄がここに来るとは、いったい何の目的なのか……?」
元春は口を開いて言った。
「あの男は、暗い人生を送った人間だと思う」
「元春」
「あの男、正義と思っているが、まさに狂っていた。悲しい感じだった」
「…………」
そこへ……。
「元春さん!」
セレナとエリーゼが入ってきた。
「やぁ、二人共」
「…………、無茶なことして……。でも、良かったです」
「…………」
すると、元春は言った。
「咲夜、エルザ、キャロル。悪いが、二人に話があるんだ。席を外してくれないか?」
「お兄ちゃん……」
これに三人は部屋から出た。
「…………、あの男、オルグスと言ったかな? あの男を見ると思い出す」
「思い出すって、なんですか?」
「俺には、兄がいた。実の兄が」
「元春さんの、お兄さん?」
元春は、実の兄のことを言った。
「俺の兄の名前は、御子柴元重。俺と違って、なんでもできた兄だった。けど、親からは兄だけ褒めていた。なのに俺はダメ出しばかりで、責めだらけ。高校卒業後、家を出ていくことにしたが、俺の事なんて心配していなかった。そんな大学の頃に、兄は行方不明になってどこかにくらました。きっと嫌気があったんだろうなって。人生はこんなことがあるってそう思った、運命はこうなるのかって、そう思った」
「…………」
「怖いんだよ、この先が、本当に……。俺はハトバの店長になったとはいえ、ここからどうするか、そう考えていたんだ」
すると二人は、元春を抱きついた。
「…………、大丈夫です。私達がいます、だから一人じゃないですよ」
「…………」
元春は二人を見て思った。泣いている。それは悲しいことだったんだと。
「…………、ああ。すまない」
その夜、元春は眠れなかった。そして、彼は決断をしたのだった。
つづく