実親からの遺書で彼は前へと進むのでした
―前回のあらすじ。今いる元春の親は、偽者だった。本物は十年前に偽者に殺され、本物の元春の親の遺体を庭に隠したのだった。
だが、キャロルの呪術によって見つかり、見破った。実は、元春の叔父と叔母であることが判明。二人はギャンブルに手を染めて、お金を貸してほしいとお願いするが、断られて強引に殺したという。
そして、元春もそれに聞いて知り、十年間の怒りを持って、偽親を殴ったのだった。だが、元春はどう思っていたのか、彼の十年間の不安は残っていたのだった。
そして、偽親は逮捕された。庭にあった死骸を鑑識に回した。その結果は、翌朝に報告された。
「あの遺体は間違いなく、お前の親だ、御子柴」
「……」
元春の同級生であり、刑事・三好令次は元春たちに、報告を伝えた。
「元春の親は、お前にだけ虐待されたと聞いたんだが、まさか偽者で、十年間もお前を虐めていたとは」
「……」
「元春さん……」
心配そうに見るセレナたち。
「もう、訳が分かんなくなってきた。俺は、十年間も何もかも、今まで何やっていたのかも、分からなかった。家に帰るのが、怖くなった。ずっと、隠して抱えていたんだって」
「御子柴、お前……」
するとそこへ―。
「店長!」
「御子柴!」
警察署にやって来たのは、龍一や円、村上達も来ていた。
「お前ら……、店はどうしたんだ?」
円は言った。
「臨時休業したのよ。元春の実家に、ニュース速報がでていて、もしかしたらって思って」
「元春、ニュースで聞いたぞ。お前の実家で、今いた親は十年間も騙っていたってな。本物は遺体となっていたって」
「……」
これに元春は、顔に手を当てた。
「十年間も心縛られた。俺は、何もできなかった。逃げるしかなかった、見返したかった。なのに、俺の心は……、十年間も誰も助けてくれなかった」
ボロボロと、目から涙が出た。セレナは元春を見て、ずっと縛られていたんだろうなって。
その時だった。
「三好刑事、捜索中にこの手紙が……」
「何?」
警官が持っていたのは、古い手紙だった。
「古い手紙だな……」
裏を見ると、そこに書いてあったのは―。
「み、御子柴! この手紙、お前の親からの遺書だ!」
「⁉」
元春は、手紙を受け取り、読んでみた。間違いなく、実親からの手紙だった。
『元春へ これを読んでいることは、私と妻はこの世にいないだろうと思う。 時期に私の財産を狙う愚かな弟、つまりお前の叔父がやってくる。きっと、私を憎んで殺すつもりだろうと確信している。
その為、遺産はお前にやる。もしかしたら、この遺書を見つかってしまったら、きっとお前は虐められるのだろうと思う。
だからそのために、逃げて生きなさい。それが実親のお願いだ。いままで、こんな親で親不孝なことして、ごめんなさい』
「まさか、既に先を読んだのか?」
義子はビックリしていた。
「だが、おそらくは偽親に、この遺書を見つかったから隠したという事か」
三好は予想をしていた。
「……すまないが、一人にしてくれ」
元春は何処かへ行く。
「御子柴!」
元春は曲がった角にて、一人になった。そして―。
「……、う、うわあああああああああああああ!!」
―泣いたのだった。
悲しみの声に、セレナたちは泣いていたのだった。
「御子柴……」
村上はそれに黙って見守るしかなかった。
その夜、牢屋に入った偽父と偽母は―。
「十年も黙っていたのに、こんなことになるとは……。これもお前のせいだぞ!」
「なによ! あんたのせいよ! せっかく乗っ取りができたのに!」
「くそ、あの女のせいだ! こうなったら、いつか出所して、今度こそ……」
揉めていると、そこに一人の警官が来た。
「そこの二人、面会だ」
「面会だと? ふざけるな! 暫く誰とも会わんぞ!」
「そうよ! 今はそれどころじゃないのよ!」
「いいえ、どうしても会いたい方がいらっしゃいまして……」
「しつこいぞ! いいから、お断り!」
偽父は立ち上がって、警官に文句を言う。
「本当に、あいつらのせいで……」
「……」
すると、偽父は何故か静かになっていた。
「? どうしたのよ、なに静かにしてるのよ?」
その時だった。急に偽父は倒れてしまった。
「ど、どうしたのよ?」
そこには、心臓に刺された偽父がいた。
「⁉ な、な……」
「随分と待たせてしまったね、十年もだましたという事を」
警官は帽子を外した。その正体は―。
「あ、あなたは……、元重! あなたは七年前に失踪したんじゃあ……!」
「ええ、そうですよ。今は黒村克茂と名乗っていますがね。まぁ、名前の事はどうでもいい」
克茂はナイフを出す。
「十年間も騙して、おかげで僕は怒っているんですよ。しかも、本当の親を騙るとは……」
「待って、殺さないで……」
「残念ながら、あなたの判決は死刑となりました。よって、地獄へと落ちてください。では、さようなら」
「や、やめ―」
偽母は言いながらも、黒村によって殺した。黒村はその後、何処かへと言ってしまった。その二人の遺体は、翌日に発見されるが、それはまた別の話。
「……」
数日後、元春たちは親の墓に立って、合掌をしていた。
「十年間も、こうして自分が思ったよ。気付かなかった愚か者だということを。けど、そんな呪縛は、今なくなった」
「元春さん……」
「知らぬが仏、とはこのことか」
元春は空を見た。
それは、とても悲しく、辛い。元春にとっては、胃にヒビが入ったかのようだった。
「でも、親父さんはきっと、お前のために生きろと言っているはず。なら、進むしかないだろ」
村上は元春を励ました。
「……」
元春の周りには、大切な仲間がいる。異世界から来た者でも、腐れ縁でも、心は繋がっている。
「俺は、吹っ切れたよ。だが、吹っ切れたかはどうか、まだ長いかもしれない。俺にとっては、ここにいるみんながいる。俺は、幸せ者だ」
これに皆は笑って、安堵な顔をした。
「どうやら、安心だな」
「十年間も心配してしまったけど、やっぱり自慢の息子ね」
「……進め。焦らず、自分のペースで、友人と一緒にな」
元春の実親は天から見守っていた。そして、元春はハトバとして、店長として、生きていくのだった。
『親心編』 完