二人は時空の番人と出会いました
―龍一達は海に巻き込まれた子供を救助した。ホテルに戻り、母親は子供を見てホッとしていた。
「ママぁ!」
「坊や!」
子供を抱き上げ、母親はお礼を言った。
「ありがとうございます! なんてお礼を言えば……」
「……」
しかし、龍一達は安堵そうにしていなかった。
「山城君? 店長とセレナさんは?」
「……そ、それが」
状況がまだ分からない桜子達。すると―。
ドサッ!
「! エリーゼさん!?」
「どうしたアルか!?」
エリーゼは崩れ落ち、眼の光を失っていた。
「二人が……、元春さんと団長が……」
「何があったんだ?」
義子は二人がいないことに、もしやと気付いた。
「おい、まさか……」
龍一は言った。
「二人が、子供を助けたんですが柱が倒れ、海の大波にのまれてしまい……、店長とセレナさんを助けることができませんでした……」
海に飲まれたことに全員は驚愕した。子供を最優先とした後、二人は最悪にも雷に落ちた柱が倒れ、波にのまれ、行方不明になったのだ。
「そんな……! お兄ちゃんが、セレナさんが……、大波に?」
生死不明の元春とセレナに、義子は動揺した。
「ふざけんなよ……! あいつら何やってんだよ!」
「桐島さん……」
「今すぐに遅くはない! 警備員に捜索願を出すんだ!」
義子は警備員に依頼をする。だが―。
「もう、無理ですよ……」
エリーゼは悲しそうに言う。
「二人は大波にのまれて、きっと冷たくなって……」
「何言ってるの! お兄ちゃんとセレナさんは何処かで……」
「見たんですよ……、二人が落雷した柱が倒れて巻き込んで……」
絶望としていた彼女に、意外な人物が励ます。
「まだ、分からないだろう!?」
ライアだった。
「あの二人が大波にのまれても、生きている可能性はあるはずだろう!」
「ライア様……」
「勝手にあ奴らを死んだと思うんじゃない!」
これにエリーゼはライアに向けて言う。
「貴方に、何がわかるんですか! 貴方も見たはず、二人は子供を助けたのち、雷で柱が二人の所に倒れ、大波に……」
「確かにあ奴らは波にのまれてしまった。じゃが、生きている可能性はゼロではない! 今は祈るのだ、二人が帰ってくることを!」
「……ライア」
帰ってくるのを信じるしかない、それしかなかった。すると―。
ビシャァン!
雷が鳴り、更にはガラスが割れた。
「このままでは……!」
安全な所に避難したエリーゼ達。
その頃、元春とセレナは―。
「……こ、ここは?」
先に目を覚ましたのは、セレナだった。
「洞窟……?」
どうやら、二人は謎の洞窟にいるようだ。辺りは暗闇だがチカチカと光があった。更には水の音が聞こえていた。
「私達は倒れた柱に巻き込まれ、それから波に……」
その隣に、元春達がいた。
「私達、生きているのですね……」
元春も助かっていた。が、セレナは思い出した。
あの時、元春が溺れかけた所、助けて人工呼吸をしたのを。セレナはこれに頭からボンッとコミカルのように出て、赤面した。
「でも、仕方ないですよね! 元春さんを助けるしかこういうやり方が―」
だが、外を見るとまだ台風の音がしていた。
「……しかしここは、どこの洞窟でしょうか?」
その時だった。
『ここは、青の洞窟だ』
「!? 今のは……?」
謎の声がしていた。
「誰ですか? どこにいるんですか?」
すると―。
『ここにいる』
「え?」
目の前にでかい生き物がいた。
「ひ、ひゃああああああ!?」
セレナはでかい生き物を見てビックリしていた。
『驚くことはない』
「驚きますよ、誰だって!」
驚いていたセレナは元春を起こそうとした。
「元春さん、起きてください!」
「う、うう……」
元春は気が付いて目を開けた。
「ここは……? もしかして、助かったのか?」
『私がお主らを助けたのじゃ』
元春は目の前にいた巨大な生き物を見て驚いた。
「ぬわぁ! く、く、くくく、クジラぁ!?」
その生き物はクジラだった。
「しかも、このクジラは『ザトウクジラ』じゃないか!」
「ザトウクジラ?」
元春は説明した
「地域毎の北半球や南半球にいるクジラで、人の前では滅多に見られないクジラだ! どうして、ここにいるんだ?」
「しかも、このクジラは青の洞窟とか言ってましたよ」
「じゃあ、ここは青の洞窟なのか! でも、なんでザトウクジラがこの洞窟に?」
ザトウクジラは言った。
『ほぅ、この魚はザトウクジラというのか。ランダムで取り付いたが大きいせいか、そういう事だったのか』
「いや、知らずに乗っ取りしてたの? ていうか、取り付いたって?」
「貴方もしかして、ザトウクジラじゃないのですか?」
ザトウクジラは本当の事を言った。
『私は、時空の番人』
「じ、時空の番人!?」
『私の本当の姿は肉体を失った時空の番人、自分が何者かも、名も、すべて深淵の底になっている。だが、時空の能力が使えることで、皆からは時空の番人と呼ばれているのだ』
「まさか……時空を司る神?」
「如何にも」
これに二人は、その人物が目の前にいることに唖然していた。
「ソルフィルスでその話はおとぎ話だと聞いてたのですが、本当にいたなんて……!」
『私は全ての世界を散歩するのが趣味なのでな』
「意外な趣味だな、オイ」
元春は呆れてツッコんだ。
「では、私の頭の中から声が聞こえたのは、貴方なのですか?」
セレナの言葉に、元春は驚いた。
「え? セレナさんも頭の中から謎の声が?」
「元春さんも?」
時空の番人は答えた。
『左様。お前たちの事を、ずっと待っていた』
「ずっと待っていた?」
『その女がこの世界にいたのは、お主でも分かろう?』
セレナはそのことについては機野戒次郎から聞いていた。
「ある知り合いから少し聞きました。ソルフィルスの世界が平和になった事で、今度はこの世界に災いが起こるため、私やエリーゼさん達がこの世界にやって来たということを」
「時空の番人、教えてくれ。この世界に、何の災いがやってくるんだ?」
時空の番人は災いの事を語った。
『この世界に、信じられないほどの災いが降ってくる。その理由は知らぬが、災いを防ぐには彼女と、彼女と出会ったお主の二人、そして仲間との協力である』
「俺だけじゃなく、山城君や久本さん、倉木さんに桐島さんもってことか?」
『その通り、そのために代表であるお主ら二人を呼んだのだ。この青の洞窟に来るようにな』
「……」
『だが、いずれにせよ今後にこの世界に災いが来る。その為に、お前たちが必要だ』
これに元春は―。
「その話は信じられないほどで、本当な話。頭の中が支離滅裂でくじゃくじゃだ。でも、その話が事実なら、その災いを防ぐ。俺は普通が大好きなんでね」
「元春さん……」
『その瞳、よくぞ言ったものよ』
時空の番人は空に向けて、何かを構える。
『その言葉を信じ、災いの大風や雷雲を消そうぞ』
「そんなことができるのか?」
『私は時空の番人、お主らの事を信じて見せよう』
そして時空の番人は、力をためて、空に向けて放とうとした。
その力は、まるで光る柱のように闇雲へと、貫くのだった。
その頃、龍一達は―。
「! あれは……」
ライアは何かを見つけた。
「どうしたんや、ライア?」
「離れた大岩の島に、光が……」
見てみると、その光は雲を貫き、更には風が徐々に弱体化していくのだった。
「風が……、収まっていく……」
「これは一体、どういうことなのでしょうか?」
信じられなかった。風が収まり、空が、黒い雲が無くなり、青空が出てきたのだ。
「奇跡にも程があるじゃろう……」
だが、龍一は思った。
「奇跡? いや、もしかしたらこれは、先程の光で誰かが放ったんや。摩訶不思議な光景やったけど、きっとその者が、助けたんや」
その頃、元春達は―。
『これで、貸しは出しておこう。お主らならきっと、この世界に潜む災いを防ぐだろう』
「時空の番人はどうするんだ?」
『私はしばらくはここに潜みながら世界を見よう。だが、いつでも私を頼るがいい。それがお前たちの、この世界を災厄を防ぐための者の、託す使命者だ』
「……分かった。何か起こるか分からない。その為に、平穏な日常を護ってみるよ、俺やセレナさん達で」
時空の番人は頷いた。
『では、送ろう。お主らの仲間の元へ』
こうして、時空の番人のおかげで、台風や落雷が消滅した。このことに、ニュースでは消えた台風に奇跡が起こったことに、その頃の小樽市では喜んでいた。
そして、元春とセレナは―。
「……!」
エリーゼたちのもとに、生還した。
彼女の瞳は、光に戻り、皆で泣いて無事を喜んだという。
つづく