発明家は彼らの使命な事を言いました
―前回のあらすじ。小樽市にてかなりの音を出している家があった。その音のせいで、近所迷惑がかかっていた。仕事が公休日だった元春はぐっすり寝るのだが、騒音で起きたのだった。
そんな騒音している家に、小樽アパートの大家・柳文子率いる住民がその家に押し掛けるのだった。後から来た元春達は、何とか止めるのだが出てきたのは一台のロボット・番三と、その家の主・機野戒次郎だった。
「凄いですね……」
「機械なものばっかり。これ全て、機野さんが作ったんですか?」
セレナたちは、戒次郎が作ったものをジロジロと見た。
「流石だなぁ」
元春も頷いていた。その一方、戒次郎は―。
「オイコラ! 放しやがれ、油断されてこの野郎!」
実は番三が元春を追い払うために戒次郎が命令したが、なぜか戒次郎の方に投げられた。そして、気絶してる間、縄に縛られていたのだ。
「ちょっと黙ってて下さいよ、近所迷惑は嫌ですから」
「やかましいわ! ワシは何十年もやってるんだぞ! 一体何するつもりだ!?」
「周りを見るだけですよ」
これに元春は見回ると、戒次郎は気付いた。
「分かったぞ、アンタら税金のモンだな? 持って行っても何もねぇぞ」
「誰が税務署ですか、俺は薬局店の店長です」
「なに? 薬局店だと?」
とりあえず元春は、戒次郎に名刺を見せる。
「『ハトバ小樽店店長 御子柴元春』だと? お前店長か?」
「はい。一応は薬とかの知識もありますから」
「フンッ、と言ってもココは薬とか全くカンケーないぞ」
戒次郎はそっぽ向くと、元春は文子に尋ねる。
「頑固な方ですが……、大丈夫なのですか?」
文子は言った。
「まぁ、一応は。なんせ、何十年も機械いじりしているからね」
「それはいいですが、あの人、一人で暮らしているのですか?」
「………」
文子はタバコを出して、寂しそうな目をした。
「息子がいたんだよ」
「息子さん?」
「十年前に、息子は病死したんだよ」
「!」
文子の言葉に、元春は驚いた。
「名前は知らないけど、原因は肺炎病だったそうだ。夢は後を継いで技術者になるって言って、運悪く病が悪化してこの世から去ったんだよ」
「そんなことが……」
これに戒次郎は―。
「余計な過去を言うな、今はこの機械ロボットが俺の息子だ。それに、俺には新たな挑戦をしているからな」
「新たな挑戦?」
「時空、だ」
その一言に、セレナたちは心当たりがあった。
「時空……」
「一体何をするつもりですか? 時空って何をやるのですか?」
戒次郎は時空について説明した。
「漫画とか小説とかであっただろ? ファンタジーな世界に行けるという、時空ホールさ」
「ま、まさか……」
「未だ完成はしていないが、くたばっちまう前に、腕が衰弱する前に完成するってやつだ」
信じられない話だった。しかし、戒次郎は本気だった。
「あ、あの……。戒次郎さん、その時空ホールが出来た場合、ソルフィルスの世界に行けますか?」
「? 何の話なんだ?」
戒次郎に話した方がいい、セレナやエリーゼ、キャロルたちが異世界から来た話を。
元春は、セレナたちの事をすべて話した。
「おいおい、冗談はよしてくれ」
「本当です」
だが、信じてない様子。
「ファンタジーと言えば、魔法使いだろ? そんなのいるわけ―」
すると、エルザは人差し指から火を出す。戒次郎は目玉が飛び出るような顔をして驚いていた。
「ま、マジか……」
「論より証拠です、如何ですか?」
これに戒次郎は認めるしかなかった。
「………なら、どうやって来たか、話してくれないか?」
セレナはすべて話すことに。
これまでの元春の出会い、さらにエリーゼやキャロルなど。これに戒次郎は思う。
「こいつはもしかしたら、『時空の使命』かもしれない」
「時空の……使命?」
「なぜ、アンタらがこの世界にやって来たのか? それは異世界が平和に訪れた。しかし、もう一つの世界、即ちこの世界・現世だ。この現世の世界に、何かの災いが降りかかってくるかもしれない。その為に、お前らがこの世界にやって来た証拠。ソルフィルスが平和になっても、裏には暗躍な奴もいるかもしれない。そして、この世界を滅茶苦茶にする、そう考えよう」
「………」
元春は心当たりがあった。そう、ある人物がこの世界に来たことを―。
(もしかしたら……、その人物が俺らがいる町を? オルグス・ルドベキア……、彼しか思い浮かばないな)
「ま、表裏一体な世界になるにはそれしかないだろう。この令和な時代にも戦争は起こってるもんだ」
「………」
するとだった。セレナはある話を思い出した。
「その話、もしもこの世界にある方が居たら、時空ホールが出来るのでしょうか?」
「ある方?」
「少し、ソルフィルスで聞いた事がありまして……、時空を司る神がいるという話です」
「時空を司る神……」
「時空を異世界と現世を繋げる能力を持つ、そんな話がありました」
これに戒次郎は―。
「有り得ねぇ話だが、この姉ちゃんの話はホントのようだな。だが、運が良ければ会えるかもしれないがな」
すると、元春は戒次郎に尋ねる。
「戒次郎さん」
「何だ?」
「その時空の使命、セレナさんだけじゃなく俺らもあるってことですか?」
「………ま、可能性はあるな」
元春の周りには店の店員、龍一には魔王の下僕や幹部。義子には機械娘、雪子にはネクロマンサー使い、桜子には商人がいる。龍一達もきっと、元春と同じかもしれない。
「さて、話は終わりだ。帰ってくれ」
「その前に、騒音迷惑を何とかするんだな」
文子の一言に、元春達はすっかり忘れていた。
(そういえば、騒音を止めるんだった)
これに元春達は案を出した。
「あの~、防音シートとか張らないのですか?」
「………お前たちの話を聞いて、少し頭が冷やしたわ。防音シート張ってやるよ、わしの家回りに」
こうして、戒次郎の家回りは防音シート張りになっていた。
その夜―。
(時空の使命……か。その使命は、ソルフィルスの世界の住民と、現世の住民にとっての使命かもしれない。平等にするって言ったけど、……この先、どうなるかだな)
夜空を見て思う元春。
そして、東京から遠い島にあるものが動く。
「来たか、この時が―」