今日は巡回の人が来るけどかなりの影薄いチーフがいつの間にか来ていました
ある日のこと、ハトバから報告が来た。
「チーフが今日、うちの店に来る?」
元春はチーフが来ることに、皆に話す。
「今日は巡回の日らしくて、今日はうちの店にもやってくる」
「そうなのですね」
チーフには店の巡回することがある。それは、店の評価や売り上げなどのチェックをするのである。だが、小樽市のハトバは初となる。更には……。
「うちら、チーフにはあったことないのですが、どんな人ですか?」
元春以外は、チーフにはあったことがない。龍一の質問に、元春は答えた。
「至って普通な人、と言いたいけどね」
「? どういうことですか?」
「あの人、色々あって巡回しているんだ」
「訳アリなのですか?」
元春は言った。
「う~ん、なんて言えばいいのかな……」
「それで、いつ来るのですか?」
エリーゼの質問に、元春は腕時計を見て言った。
「そろそろなんだけど、どうしたんだろう……」
「……」
まだチーフが現れない。とりあえず、皆はチーフが来るのを待ちながら仕事に入った。
そして、セレナは休憩室に用があり、入ってい行く。
(元春さんに言うには、あの人は訳があって巡回しているのですよね。一体どんな人なのでしょうか?)
休憩室のドアを開けると、そこに誰かいた。
「…………」
一人の中年男性がいて、セレナは心の中で驚いた。
「あ、やっと来た。といっても、初対面か」
「…………」
セレナは、中年男性を見て慌てた。
「元春さん! 大変です! 休憩室に見知らぬ人が入っています!」
「あ、いや、僕は……」
みんなが入ってくると、彼を見た。
「誰やねん、このおっさんは? どっから来たんや?」
これに元春は言った。
「皆、この人、チーフの人だよ」
「ええええええ!?」
なんと彼がチーフだった。男は苦笑いをしながら頭を掻いた。
「ええっと、元春君以外は初めてだったね。僕は長脇茂、ハトバのチーフをしているんだ」
茂は自己紹介をした。
「この人がチーフだったなんて……」
「いつ来たのかしら?」
みんなは彼がどこから来たのか分からなかった。茂はこれに言った。
「前からだよ。すでに朝礼からずっとだよ」
「そうなのですか?」
元春はその理由を言った。
「長脇チーフは、実を言うと影が薄いんだ。全然気付いてなくて、本人も気にしているらしくて」
これにセレナは言った。
「影薄いのですか? それなら自分でも気にしてるなら、少しは目立つものをしたほうが」
茂は言った。
「そうなんだけど、どれも目立てなくてね、生まれつきなんだ」
(哀れすぎる……)
さすがに可哀想と思ったセレナ達。
「そういえば、チーフは巡回している理由があるそうですよね。何かあったのですか?」
エリーゼの質問に、元春が代わりに言った。
「実は、チーフに奥さんがいるんだ。でも、その奥さんが行方不明なんだ」
「!?」
これにセレナたちは驚いた。
「奥さん、行方不明なんですか?」
「大変じゃないですか! 警察に言わないとぉ!」
慌てる皆だが、元春は言った。
「警察には言ったけど、奥さんの顔が映ってなくてわからないんだ」
「奥さんも影薄いのですか!?」
「そうなるね」
茂本人も納得していた。
「どんな夫婦やねん! しかも奥さん行方不明っていったい何があったんですかいな!?」
龍一は茂に尋ねた。
「あっちこっち行ってて、牛乳を買いに行ったら行方不明になってて」
「それって、方向音痴なのでは?」
「そうなんだ、あの人は無事だからいいけど、さすがに探さないといけないし」
なんだかこの人の奥さん、頭おかしい。と、セレナたちは思った。
「そろそろ、行かないと」
茂は立ち上がった。
「えっ? もう行くのですか?」
「妻を探さないとね」
茂はそう言うと行った。
この時、セレナたちは思った。
「世の中、ああいう人いるんですね」
「そうなんだよなぁ」
チーフである長脇茂は、妻を探しながら巡回していくのだった。