魔王軍が内職を始めました
―ライアは思った。彼女は魔界の魔王幹部、姉は陛下、部下は側近である。そして現在は、三人共現世の人間界にいる。住んでいる主は、山城龍一であった。彼は、ハトバの店員として働いていた。だが、ライア達は家では、何もしていなかった。魔王としての仕事でも、彼の役に立ちたい。そう思っていた。
そして、彼女は決断した。
「働きたい?」
ライアは龍一に頼んでいた。
「我が働きたいだなんて、滑稽であろう?」
「…………まぁ、働くならええけど、一体どうしたんや? なんかあったんかいな?」
ライアは言おうとした。
「その……、まぁ、アレだ。貴様は、働いているからな。我も甘えるわけにはいかないから、こういうのも悪くないからやろうかと」
「いいけど、一つ言っておくで。ライアってエリーゼさんとは仲が悪いんやろ? ウチで働くのはええけど、揉め事は嫌やしな」
「龍一、我はハトバに働くなんて言っておらぬぞ」
「…………?」
するとそこへ―。
ピンポーン、と、インターホンの音がした。
「こんにちはー、小樽会社です~」
「…………?」
ドアを開けると、そこに青い作業着を着た二人が来た。
「今回の初めての作業、よろしくお願いします」
渡されたのは大きい箱二つだった。
「何やこれ? 作業をよろしくお願いいたしますってどういう事や?」
「実を言うと、姉であるマリーナが考えたのだ。貴様が働いて、我らは甘くなりすぎていると」
これに龍一は言う。
「ちょい待って、これってアレやん。内職かいな?」
「そうだ。貴様には伝えてなかったな。まぁ、大丈夫だ。ロレナが既に向こうと認識済みだ」
「俺には先に言ってほしかったんやけど……、まぁともかくや。働くならええけど、大丈夫かいな?」
心配そうにしていた龍一。
「大丈夫です」
そこへ、ロレナとマリーナが来た。
「龍一様の為に、ライア様は決めたんです」
「ちょっ……!」
「え?」
ロレナはライアの事を全ていう。
「こっそりと、貴方を支えるためにやったのですが、バレてしまうので全部話したのです」
「俺の為に? どういう事や?」
「さぁのう、本人に言ったらどうじゃ?」
ライアは恥ずかしながら言った。
「…………貴様の為に、仕方なくじゃ。甘えるわけにはいかないし……」
「つまり……、ライアの意志で?」
「…………」
ライアはそっぽ向く。
「それならええけど、無理しなくていいんやで?」
「わ、分かってる」
「で、何が入ってる?」
「ポケットティッシュです」
龍一は察した。ポケットティッシュの袋詰め作業だろうと。
「確かに、簡単な作業やな」
「マニュアルも用意しておりますし、安全です」
箱に出てきたのは、袋とポケットティッシュ、セロハンテープが入ってた。
「期限は一週間後、時給は二千円ぐらいか。ま、こういうのもええかもしれないし、手伝うか」
「! いや、しかしこれは我らだけがやるものだ。龍一は今日は仕事休みでも、疲れているのだろう? ここは、我らに……」
しかし、龍一は遠慮なしだった。
「ええやん、たまにはこういうのも悪くないやろ?」
「…………」
ライアの頬が赤くなる。これにロレナはタイミングを察した。
「ほう、なら手伝ってくれますか? 人手も助かるので」
「ちょっ、ロレナ!?」
「ええんか? では、手伝いさせてもらうで」
手伝いをすることにした、龍一の視線から何かいた。
「?」
後ろを向くと、ジ~ッと見ていた人物がいた。
「ま、麻衣?」
魔王の娘と人間のハーフ・紅麻衣だった。
「なに見てるねん?」
「あ、いや、その……、何してるかな~って見ていたけど……、まぁ、私には不要よね」
なにやら動揺の顔をした麻衣。これに龍一は気付いた。
「何や、やりたいなら言えばええやん」
「は、はぁ!?」
めずらしい動揺していた麻衣。魔王の娘であり、小悪魔な性格だった彼女がやりたがっていた。
「そ、そんなわけが……」
「麻衣様、顔に書いています」
「…………」
これにニヤニヤする龍一達。ほっこりした感じだった。
「その顔は何!?」
「いや、何でもあれへん」
龍一は思う。例え魔王軍でも、悲劇を持った集団。護ってやりたい、そう思ったのだった。




