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洒落にならないほど怖い怪異を強制成仏させるRTA(リアル退魔アタック)配信で生計を立てようとする退魔士あがりのTさん

作者: 赤おじ

配信タイトル:くねくね討伐RTA

概要:Tです!初めての配信で緊張しております!今日はくねくねをボコボコにします!くねくねが出るまでは雑談枠です!


「えー、くねくねって言うのはインターネット上で噂されてる怪異ですね、ハイ。ざっくり説明すると白くてくねくねしてて、田舎に出る。それでコイツをじっと観察してると発狂しちゃうそうなんスよね。はい」


 一面田んぼのクソ田舎、雑に張られたテント。アウトドアレジャー用の折りたたみ机に載せたノートパソコンに向け、男がぺらぺらと軽薄そうに話す。


 ポケットだらけの服。クソデカリュック。顔以外素肌を出さず、膝肘にはプロテクター。右手には箱状の、左手には筒状の謎装置。首元にはVRゴーグルをぶら下げる。端的に言って、不審者である。


「で、そのくねくねさんが出る場所へカメラを向けて待ってるんスよ。出るまで雑談です。出たら教えて下さいねー」


男の傍らには三脚に固定されたカメラが鎮座している。


【暇人で草】

【出たら教えろ?くねくね認識したら狂うんじゃないのか】

 

 配信はリアルタイムであり、ノートパソコンに視聴者のコメントが表示される。


「目撃者の証言からすると、距離が遠ければ双眼鏡で覗きでもしなければ見ても大丈夫なはず。カメラ向けてる先とは十分距離とってる。まあくねくね見えたら一応薄目開けた感じにするとか、各自対策宜しく」


【対策が雑で草】

【視聴者をなんだと思ってるんだ】

【つーか討伐とかボコボコにするとか書いてあるけどなんなの】


「くねくねが出たらダッシュで近寄ってボコボコにします。それがこの配信の趣旨なんで。全人類初挑戦の怪異討伐RTA、つまりリアル退魔アタックです。あ、くねくねに近寄る時はちゃんと視聴者にも効果がある狂気対策考えてるからそこは安心してくれよな。詳細はネタバレになるから言わないけど」


【意味不明過ぎる】

【狂人で草】

【狂気対策w】

【くねくねって実在するの?】

【出るわけねーだろ、たかがネットの怪談だし】

【友達の友達のおじさんの会社の同僚の娘が見たってよ】

【信憑性のかけらもなくて草】

【一面田んぼで雑談するだけの配信】

【これソロキャンプ配信?】

【くねくねのエロ画像キボンヌ】

【今日の晩飯は?】


「俺はマジだぞ。ここにくねくねが出るのもマジだ。一週間張りこんで確認してる。おおよその出る時間も把握してるし、たぶんそろそろ出る頃だ」


【狂人の上に暇人】

【くねくねのために一週間キャンプする奴wwwwwww】

【たまに居るよなこういうアホ】

【くねくねのエロ画像キボンヌ!!】

【バカジャネーノ】


「エロ画像はありませーん。暇人は否定出来ないな……というかお前ら全く信じてないのな。じゃあ俺の言うとおりにくねくねが出たら投げ銭とチャンネル登録と高評価よろしくな。この放送に俺の生活かかってるんで」


【生活かかってるwwwwwww】

【真面目に働けカス】

【くねくねに生活をかけた男】

【出たら10000000000000000ドル投げ銭したるwwwwwwww】

【ジンバブエドル乙】

【ジンバブエドルもう何年も前に廃止だよ】

【マ?】

【ペソ賭けろペソ】

【だめだペソは普通に高い】


「クソマイナー通貨よりもくねくねの話してくれませんかー」


 殺伐とした慣れ合いが続く中、しばらくして。


【ん?】

【お?】

【画面右下の方、なんか写ってね?】

【白いうにょうにょ?】

【あれくねくねじゃねwww】


 出た。


【マジでいて草】

【予想以上のくねくねっぷりに笑う】

【くねくねwwwwww】

【遠すぎてなんだか分かんないな。カカシじゃね?】

【こんなド田舎にあんな激しく動くハイテクカカシがあってたまるか】

【10000000000000000ドルの投げ銭マダー?】

【もっとカメラ寄せて!】

【おい馬鹿やめろ】


「来たか!」


 遠く、カメラが向いた先でくねくねと踊り狂う白い影!

 男は慌ただしく首元にぶら下げたVRゴーグルを被り、ポケットから双眼鏡を取り出す。


「距離はざっと500mくらいかな……よし、雑談枠は終了!今からRTA配信に移りまーす」


 ノートPCを操作すると、配信映像が定点カメラから男の主観映像に切り替わる。どうやら先ほど被ったVRゴーグルにカメラが着いているようで、映像はしっかり目線の高さだ。


 男は深く目をつぶり深呼吸。


「なんだあのカカシみたいなのはー」


 間の抜けた棒読み。VRゴーグル上から双眼鏡を目に当てる素振りをする。


「わからないほうがいいー……状況再現完了、タイマースタートォ!」


 絶叫とともに双眼鏡を投げ捨て、あぜ道を走りだす!


「ネット上で見た怪談で、怪異に遭遇する場面までを再現し、再現完了とともにタイマースタート。今回のターゲット『くねくね』で言えば双眼鏡で覗き、『わからないほうがいい』と言い終わったタイミングだ!」


 男は全力疾走しながらも一切息を切らさず、流暢に話し続ける。力強い走りからは日頃の鍛錬が伺える。


「タイマーストップは対象の消滅!今回はくねくねをボコボコにして消滅させる!これが怪異討伐RTAだ!!」


 男はくねくねを目指して走り続ける。読者の皆さんは疑問に思うかもしれない。なぜこの男はくねくねを視認しながら発狂していないのか?


 その答えは男の被ったVRゴーグルにある。


「よし、問題なく機能してるな。……俺の被っているのは少々の改造を施したVRヘッドセット。基本的には周囲の映像をそのままとり込むが、今回は『白くて細長く、くねくねと動いているもの』をリアルタイムで美少女モデルに変換して表示する機能を追加した。VTuverの配信技術の応用だな」


 男の視界ではVTuver『羽目魔くり』の3Dモデルがものすごい勢いで腰振りダンスをしている様が映しだされている。

 VRヘッドセットは男の背負ったクソデカリュック内のPCに接続され、リアルタイム変換を実現しているのだ。

 そしてVRヘッドセットのカメラ映像は音声も含めて無線通信で待機場所のノートPCへ送信され、配信されている。男は先程から独り言を漏らしているわけではなく、視聴者に向けて解説しているのだ。


「とりあえず解説はこんなもんで。今はコメント見えないから、質問は後でまとめて受け付けるぞ。おし、じゃあボコるか!」


 『くねくね』は動揺していた。

 人間など取るに足らぬ矮小な存在。己の姿を視認しただけで狂ってしまう。

 狂った人間は周りの人間を絶望させる。その絶望を糧として喰らい、怪異が絶滅しつつある現代まで命をつないできた。


 なのに、こいつは何だ。なぜ狂わん。あまつさえ己に走り寄ってくるなど!


 両者の距離は二十メートル程。

 怪異たるくねくねは千年以上の時を生きて初めて恐怖を感じた。

 その感情はかの伝説の退魔人、源翁和尚と対峙した時すら選ばなかった逃避行動をくねくねに強いる。


「逃がすかァ!!破ァ!!」


 走る男は右腕とそれに付けられた黒い箱のような装置を逃げ出そうとするくねくねへ突き出し、箱についたトグルスイッチを倒す。


『掲諦掲諦波羅掲諦波羅僧掲諦菩提莎訶賛曰前説法義二持雖勸信學欲令神用速備更説呪持佛以大劫慧悲難修誓行加略文字意趣深遠教理幽廣不易詳賛』


 爆音で鳴り響く真言(マントラ)!!黒い箱は強い指向性を持ったスピーカーだったのだ!

 御仏が勝利を叫ぶ強き言葉が『くねくね』の行動を縛る。

 コロナ禍によって世間では「オンライン読経」なるものが生まれたが、これに疑問を呈する声は多い。だが少なくとも退魔行においては、経や真言、祝詞や呪言を覚えるのをめんどくさがった現代退魔師が録音垂れ流しの除霊を実践し、遜色ない効果があることが確認されている。

 そしてデジタル読経の音量は大きければ大きいほど良い。現代退魔師の間では常識である。

 例に漏れず、硬直するくねくね。

 

 距離は残り十メートル。


「もいっちょ、破ァ!!」


 クソデカリュックからコンプレッサーの爆音エグゾースト!そして左手の筒から液体が射出される!!

 古くから霊を払う力があるとされる酒であるが、これは酒の成分であるアルコールの消毒作用により「穢れ」が払われるメカニズムによる。

 故にアルコール度数は強ければ強いほどいい。飲むにも退魔にも。現代退魔師の間では常識である。であるならば、この射出された液体は。


「アルコール度数96%のスピリタスをくらえっ」


 ジュ~~~~ッ、という音とともに蒸気のようなものを噴出し、もだえ苦しむくねくね。もっとも、走り寄る男に見えているのは、白目を剥いて舌を突き出し両手ピースでエビ反り痙攣するVTuver『羽目魔くり』だが。


 そしてついに彼我の距離はゼロに。


「破ァァァァァァァァ!!」


 全力疾走の勢いすべてをぶつけたドロップ・キックがくねくねに突き刺さる!


 怪異に物理攻撃が効くの?と疑問をお持ちの読者も居るかもしれない。

 男が素手素足を晒していれば分かることだが、彼の手の甲、足の甲にはいくつかの梵字やルーン文字が描かれている。

 現代退魔師による、怪異への物理攻撃を可能にする常套手段だ。ちなみに筆で書くのが正道であるが、面倒であるため、大抵の現代退魔師はインクジェット・プリンタによってシールやデカールとして印刷し貼り付ける。まれに不退転の覚悟、などと言って彫り屋に頼んでタトゥーにして入れるバカが居るが、これは現代退魔師界の間では嘲笑の対象である。一般人にも分かる感覚としては、彼女の名前や自身の所属するバンドの名前をタトゥーとして掘るバカに近い。


 地面を数度バウンドし、それでも這いずって逃げようとするくねくねに跨る男!

 その手にはみっちりと塩(メキシコ産)が詰まった大袋が握られていた。


「オラーーーッ!!破ァ!!!」


 ざばざばと大量の塩(メキシコ産)を振りかけられ、のたうち回るくねくね。

 一般に、特別な塩でないと怪異には効果が無いと思われがちだが、実は海外製だろうが大量生産品だろうが全く問題ない。確かに清め塩などのほうが除霊効果は高いが、コストパフォーマンスで言えば重要なのは質よりも量である。

 酩酊したい時のアルコールと同じだ、と現代退魔師たちはうそぶく。手っ取り早く酔いたいなら、安酒をしこたま飲んだほうが良い。一説によれば、盛り場の路上で酔いつぶれて寝ているバカのうち、半数は現代退魔師であるという。


 男は、塩まみれで痙攣するくねくねを執拗に殴りつける!


「退魔パンチ!退魔パンチ!退魔パンチ!退魔パンチ!退魔パンチ!破ア!破ア!破ア!破ア!破ア!破ア!破ア!破ア!破ア!破ア!破ア!破ア!破ア!破ッ!!」


 連打の末、ズムッ、と突き刺さる拳。クリーンヒット、もしくはかいしんのいちげき。ポンッという軽妙な音とともにくねくねは消え去り、かわりに塩まみれでぐったりした小さな白蛇がいた。くねくねは年経た白蛇の化生だったのだ!ということで討伐完了!酒と暴力は全てを解決する、現代退魔師の間では常識である。

 男は白蛇を右手に握りしめ掲げると勝鬨をあげた。


「タイマーストップ!!記録、2分18秒!!」


 男は喜色満面といった面持ちで白蛇を握りしめたまま、スキップしながら待機場所へ戻る。

 ヌンチャクのように白蛇を振り回しゴキゲンだ。


「いやー疲れました。完走した感想ですがっ……ん?」


 しかしノートパソコンに映った配信画面を見て凍りつく男。


【あばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばbbbbbbbbbbbbbbbbb~~~~~~^^】

【アッチョンブリケw】

【釜飯を開けろ。香れ。匂え。食え。釜飯は戦場に咲く一輪の花だ。】

【朕のちんち~~~~~~~~ん】

【ぱしへろんだす!!】

【窓に!窓に!窓に!窓に!窓に!窓に!窓に!】

【くぁwせdrftgyふじこlp】

【なんで亀ラップなの~~~~~~??】

【tanasinn…】

【拳って知弁しておるようじゃな?】


 画面上を横切る意味不明なコメントの群れ!一つとして意味を成すものはない!


「し、しまった!!!!!!!」

 

 男は自分の視界に写っていたのと同様、VTuver『羽目魔くり』に変換後のくねくねの映像を配信していると思っていたが、うっかり変換前、すなわちありのままの姿のくねくねとの乱闘を垂れ流していたのだ。

 哀れ、主観映像のドアップでくねくねの存在を詳細に認識してしまった視聴者は、全員もれなく狂人と化した。


「え、え~、まあ配信方法に多少のガバはありましたが、ひとまず退魔アタックとしては最善最速、多分これが一番早いと思います。はい。無事くねくね討伐完了ということでね。うん。配信をおわりまーす」


【ウンバボウンバボ】

【最後にあなたのサイズについて、これ以上心配することはありません。】

【パンティー持ち帰りサービス2000円】

【スペルマニアックス!!!】

【おう、こっちこっち!】

【今来た。なんでこんなコメント荒れてんの?】

【射爆了】

【男根比べかね〜?】

【オッペケペッポーペッポッポー】

【アジャラカモクレン!!!!!!!!】

【アウアウアッーーーーーーーーーーwwwwwwwwww】


「こ、好評価、チャンネル登録よろしくです。次は鏡の前でお辞儀したら出てくるヤツでもボコろうかな。そんじゃね」


 ブツリ。


 完

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