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002. 沖縄海域の悲劇

 ―突然の台湾陥落から2日。


 『異世界軍』の要求を黙殺して1日が経過したが、何も起こらず、日本国民が胸を撫で下ろしつつあった頃の事であった。


 沖縄へと向かう、古く小さなフェリーが一隻あった。

 「あれ、なに?」

 5歳児ほどの少女が何かを指差す。

 それは黒い点となり、線となり、やがて空を埋め尽くした。

 そして空からドラゴンに乗った知性を持つゴブリンが、客船に侵入した。


 船内の乗客はパニックを起こした。


 「ラノベ作家の皆様は、魔法を使える模様です…」

 官邸の発表を思い出すも、そんな非現実、あり得る訳がない。

 ゴスロリ風の服に身を包んだ彼女の名前は白州さとう。先程の少女の連れ人だ。

 「**ちゃん、離れないでいてね」

 「分かった」


 彼女はパニックの中、少女の手を取って、逃げ道を探した。この時乗客は出入口に殺到し、一歩も動けなくなっていた。

 彼女は人間観察が得意であった。というのも彼女はラノベ作家であった。

しかしながら自分の作品のみを唯一至上の小説だと考えるように自己中な人物であり、その態度は後に悲劇をもたらした。


 彼女はその人間観察の才から、出入口で渋滞している原因を見抜いた。

 扉の向こう側に何かがあって、開かなくなっているのだ。

 彼女は椅子の下の消火器を持ち出し、(おもむろ)にその先を扉へと向けた。


 その消火器は彼女の見立て通り、船同様に老朽化していた。彼女が少し緩めて底を叩くと、消火器は勢いよく、扉目掛けて飛んでいった。


 扉周辺の人諸共にその衝撃が伝わり、何かが引っ掛かって開かなかった扉は、向こう側に開いた。


 「痛い!」

 「危ないだろ!」

 そういう怒号も飛び交う中ではあったが、扉は確かに開いた。

 彼女は少女を連れて、モーセの海割りの如く、人の海を通り抜けた。


 扉のすぐ傍には、消火器で怪我した老人が横たわっていた。

 扉と一緒にあの衝撃を受けたのは、その場に居た人よりは遥かに少なくほんの数人。その内の1人だった。


 「お嬢さん……私は貴女を恨まない……だからどうか、私の孫娘だけでも、一緒に連れて逃げてはくれぬか」


 彼女はその申し出を、いつものように一蹴した。

 「マジで死んどけ」

 彼女はこう言い残して扉を通り抜けた。その老人の顔すら見る事なく。


 それに狂気を感じた群衆は、彼女に色々と抗議の声を立てるが、彼女は全く耳を貸さない。

 呆れた一人が彼女を捕まえるが、彼女は自前のスタンガンで身動きを封じ、そのまま進み続ける。


 彼女が目指すのは脱出ボート、ではなく機関室。

 現状の最適解は船を進める事。彼女は突然の怪異から逃げ延びる術を、極めて冷静に分析していたといえよう。

 そのためなら、どんな手段も厭わない。この少女との愛を貫くためなら。


 止めるに止められない群衆は、操舵室に入る彼女を横目に、背後から迫りくるゴブリンに怯えていた。

船長は「現状を確認するまで待機する」と放送したばかり。しかしこのままでは。

 そこにいる誰もがそう思った。

最早、この狂気に満ちた女に最後の望みを託す外なかったのかもしれない。


 彼女は船長にスタンガンを強く押し当て続けた。痛みを原因とした一時的ショックを狙ったものだった。

船長が気絶するまではそう長くなかった。

彼女は様々なレバーやボタンを押したり引いたりして、操縦方法を何となく掴んだ。


 彼女はマイクを取ってこう言った。

 「乗員乗客の皆様、只今この船は再出発致しました。現在後方には化け物がいます。その化け物が操舵室に至ると、この船は終わります。ですので、廊下にバリケードを設置し襲撃に備えて下さい。」


 彼女はこうして少女を一番安全で、自分の目の届く所に置く事に成功した。


 バリケードは何とか持ちこたえ、船は進み続けた。


 乗客が安堵したと思うや否や、操舵室を訪れる者があった。

 彼は先程の老人の孫にしてあの孫娘の15歳差の兄。彼女とは同年齢であった。


 扉を叩く音が聞こえる。彼女はそれに扉を閉めたまま応じた。

 「そこの少女に用がある」

 彼女は警戒態勢に入るも、それは少し遅れた。

 男は扉に付いた窓を壊し、(ひる)んだ彼女を扉越しに杖で強打した。


 「さあ、こっちにおいで」

 こう言って男は少女を手招きするが、少女は怖がって彼女の袖を引っ張る。


 破られた窓から扉の鍵を開ける男に、彼女はスタンガンで応戦する。

 「もうその手は見切ってるんだよ」

 そう言って男はスタンガンを奪って彼女に押し付け、少女を連れ出す。

 彼女は咄嗟の事に行動できなかった。


 男が操舵室から離れようとする時、船全体が揺れた。

 新たなドラゴンが船に着いたのだ。

 これまでは船の速度を上げ下げする事で防いでいた、最悪の事態が起こってしまった。


 「この()」だけが俺を救ってくれるんだ!」

 男はこう叫んで少女を放そうとしない。

 彼女は立ち上がってこう一言。

 「マジで死んどけ」

 彼女に男は頭を回し蹴りされ、意識朦朧としながら嘔吐し、倒れた。


 少女を取り返した彼女は操舵室に戻ろうとした。

 しかしながら彼女も男に受けた怪我で倒れこんでしまった。

 バリケードは破られ、次々と乗客が悲鳴を上げる。


 ゴブリンは数匹に増え、操舵室に迫る。

 彼女は最後の力を振り絞り、少女にこう告げる。

 「操舵室に隠れて、扉を閉めてて。後でそっちに行くから」

 「さとちゃん、約束だよ」

 「約束する。絶対戻ってくるから、それまで待っててね」


 少女は操舵室の扉を閉め、隠れ続けた。


 それから暫く後、反応のないフェリーが発見された。沖縄沖にあった筈の船は流されて足摺岬沖に漂っていた。

 唯一の生存者はこの少女であったという。

 少女は、彼女が最後に着けていたリボンとお揃いの指輪を、今も持っている。

 今回は白州さとうさんの設定を盛り込んだものです。「序盤でインパクトを残したい」「えげつない死に方で」というのと名前の由来がハッピーシュガーライフから来ているという事からそれっぽい話に寄せてみました。

 こんな風に要望応じますので(&なるべく本人に合わせるように努力しますので)、応援お願いします。良かったら(面白いと思ったら)ブックマーク/フォロー・評価等お願いします。

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