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010. 『異世界軍』、首都上陸

 ——九十九里浜。

「航空優勢を既に取られている以上、今回は厳しい戦いを強いられるであろう。しかしながら、その困難の中でも、我々は国民を守らねばならない!!! これまでの訓練は全てこの瞬間のためにあったと思え!!!」

 ここに残る隊員は、九州で生き残った者が殆どである。

 既に巨人兵などの様々な理不尽を目にした彼らは、ドラゴンやワイバーンと言われても特段驚かない。

 ……筈だった。

 空を黒く染め上げる無数の竜。水平線を埋め尽くす艦艇群。

 誰もが絶句した。


 ——首相官邸・特別会議室

「ところで首相は、我々の交渉目的を知られておいでか?」

「正直に申し上げると、いいや全く、といったところ」

 ここで見栄や虚勢を張っても、圧倒的実力差の前には無意味。

 首相は敢えて、全く知らないと言った。

「ではこちらの条件提示から」

 そう言うとウィミスーリタは、小さな地球儀を懐から出した。

「我々『太平洋帝国』の目的の1つは、勢力圏の確立である」

 堂々と侵略を宣言したウィミスーリタに、首相は驚きを隠せない。

「しかし、勢力圏の確立など、真の目的に比べれば些事(ささいなこと)である」

「真の目的は明かせない、という訳か」

「まあ今の戦況を見るに、明かしたとて問題は無さそうだが、一応」


 ——大磯海岸。

「敵飛竜兵3000、6分後には到着の見通し」

「対空砲斉射用意」

「放て」

 号令と共に、日本の現時点での最大()力を用いた総攻撃が始まった。

 堤防沿いに並ぶ戦車隊が、一斉に火を噴く。

「対空ミサイル第5波、着弾。被害軽微」

 (たと)え米軍であろうと、一撃目ならば防ぐ事が出来ると言われた水際防衛線。

 『異世界軍』は絶対的航空優勢を背景に、日本側の総攻撃を物ともせず、爆撃を開始した。

「ドラゴンが腹部に爆弾を装備しています」

「飛竜の腹部を狙え」

 誘爆で何体ものドラゴンを倒す事に成功するが、数が数である。

 既にワイバーンが上空を埋め尽くし、戦車隊は横や背後から襲撃を受ける。

「ワイバーンの上に乗るゴブリンを狙え。奴らは軽装だ」

 しかし、上空から急降下して襲撃を加え、すぐに急上昇する敵には成す術がない。

 現代技術の粋を結集しても、このような動作は不可能である。

 不可能なものに、対処する技術は存在しない。


 ——首相官邸・特別会議室。

「首相は『異界』というものをご存じかな」

「異世界、という事でしょうか」

「我々はまさに君たちの言う『異世界軍』だよ」

 異世界とは一体何なのか。

「我々の『異界』はね、君たちの世界と同時に始まったのだよ」

「……と言いますと?」

(そこまで知らないのか……)

 ウィミスーリタは若干呆れながらも説明を始める。

「我々の『異界』は言わば並行世界的な存在で、君たちの世界から『外れたもの』がやってくる世界だ」

「つまり?」

「神や幽霊、魔物の存在する世界だよ」

「……冥界?」

「冥界と言って差し支えはない部分もあるが、君たちの想像する『いわゆる冥界』とは違うね」

「『無い』の対義語は『在る』だろう? この世界に『無い』ものは全て、それらが『在る』世界を作り出す」

「想像が新しい異世界を生む、と?」

「まあそんな所だ。知的生命体の『|想像《imagination》』という営為は、新しい並行世界を作り出す」


 ——千葉県・館山某所。

「東京湾口に敵が侵入するまでの時間を稼ぐのだ」

「大磯防衛線が突破されたとの事」

「うむ……多摩防衛線が突破されたら、東京港連絡橋(レインボーブリッジ)以北へ撤退か……」

「その指示でしたね」

 そう話していた折、急報が飛び込んできた。

「九十九里浜から敵軍上陸っ!!!」

 敵軍こと『異世界軍』は神奈川県沖と千葉県東部から上陸し、東京に迫りつつあったのである。


 ——首相官邸・特別会議室。

「それより首相、既に一部の避難民を巻き込んでの戦闘が起こっているようだが」

「……何が望みだ」

「最初も言ったように、勢力圏の確立だ」

(仕方ない……越憲的(・・・)密約を結ぶしかないか)

「腹は決まったかな?」

(既に対米軍裁判権に関しては越憲的密約を交わしている。今更2つ目が生まれても問題はない……国民を守る代償だから、仕方がないのだ。そう、仕方がないのだ……)

 首相は自身にそう言い聞かせ、次のような提案をした。

「ならば、関東地方への『進駐(しはい)』を認めよう」

(進駐……まあ拡大解釈していけば良いさ)

 ウィミスーリタは、守る気のない密約を交わした。

(向こう側には表沙汰に出来ない事情がある。つまり破り放題である)


 首相は全部隊に交戦停止を指示し、『異世界軍』の進駐を受け入れる事となった。

 密約の内容は勿論、京都の臨時政権には伝わっていない。

 そもそも、首相は亡くなったものだと思っているのだから。


 交戦停止を指示したといっても、この時残っていたのは1000人足らず。

 抵抗能力の殆どない政権など、『異世界軍』にとっては無視できる存在。


「私は『太平洋帝国』北方軍総帥ウィミスーリタ、日本国の施政権を一時的に預かった」

 関東のみならず全土を支配すると宣言し、首相も驚いたこの放送。

 これは全国放送で流されたものの、情報錯綜の中で、意味を持たなかった。


 東京近郊では進駐軍への抗戦が開始され、幾度か首相解放軍が結成されては鎮圧された。

 関西圏などでは京都臨時政府を中核にまとまりが出来た。

 しかし通信手段が限られていた事もあり、実効支配域は本州西部に限られた。


 関東以北については県知事が連合し『北日本臨時政庁』を結成した。

 実効支配域が(おおむ)ね奥羽越列藩同盟の領域であった事から『奥羽越政府』とも呼ばれた。


 こうして日本はバラバラにされてしまった。

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