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3部 お嬢様のペット

 なでなで、なでなでなでなで、ん?


『いてっ! なにすんだぞ!』


「怪我してるの?」


 よく見ると首の付け根から流血している。さっきの話があるってもしかして治療をお願いするつもりだったのか?


「ごめんなさい、私回復魔法は使えないの。あなたは空飛べないの?」


 空飛べるなら怪我する理由が分からない。見た感じ切り傷だし、上空でも生存競争とかあるのかな?


『空飛んでたぞ、高度3000mくらいで。回復魔法使えないなら他を当たるぞ』


「死なない?」


『竜種は丈夫なのが取り柄だぞ、それにもし死んでも大丈夫ぞ』


 結構高いところ飛んでたんだな。それにしても含みのある言い方で死んでも大丈夫だなんて訳ありか?


「私は回復魔法使えないけど、私の知り合いなら使えるわ、ちょっとこのまま待てる?」


 そこまでの致命傷でもないし、シロエさんの魔法なら大丈夫なはず。竜の治療は専門外かもしれないけど、どうにかしてくれるだろう。


「そんな上空飛んでてなんで怪我したの?」


『撃ち落とされたんだぞ。急にナイフと魔術が飛んできて、それが掠めたから高度が落ちたんだぞ。そしたら、今日の鍋は竜鍋だとか、お嬢様も大喜びだとか......』


 あっ......すごくごめんなさい。間違いなくあの姉妹です。


『だから必死に逃げたんだぞ』


「なにがあっても私が守ってあげるからね!」


 ドラゴンくんは少し嬉しそうに、かなり恥ずかしそうにまるくなった。


『というかお前竜語わかるのか?』


 竜語! そんなのあったんだね。悪いけど少しもわかんないわ。


心読(ハートリーダー)って言って、心の中が読めるの。だから言語通じなくても意思は通じるの」


『そんなことができる奴はお前が初めてだぞ』


 さっきからお前お前ってこいつ威厳がどうとか言う前にそもそもの礼儀が分かってないんじゃないか?


「私はリリィ・クラヴェリ。ドラゴンくんの名前は?」


『名前はない......俺は育ちが悪いらしいぞ』


 このドラゴン捨て子かよ......可哀想だけど俺がなにかできるわけでもないし。今は撫でてやるくらいしか......


 なでなで......


『同情はいらないぞ。お前よりも年上だぞ』


「その見た目だけどドラゴンくんはいくつ?」


 ドラゴンはデカいイメージあるからな。このドラゴンを産まれたてとか言われても多分分からない。


『20過ぎだぞ。この歳なら10mくらいになっててもおかしくないけど、俺はまだまだだぞ』


「20なら私の半分しか生きてないね」


 今世ではまだ9つだが、体験した年月は40年以上だ。このおさな可愛い見た目だけで判断されては困る。


 ドラゴンくんは丸い目をさらに丸くしている。


『その見た目で40? エルフ......いや魔力はニンゲンのだぞ』


 ドラゴンくんの言葉からエルフがいる事がわかった。やっぱり美人さん多いのかな? そんなことより本気でドラゴンくんの事を考えないといけないな。



「お嬢様? なぜそんなにも泥だらけで座っていらっしゃるのですか?」


 気がつけばクロエさんがすぐそこまで帰ってきていた。


 俺はすぐにドラゴンくんを服の中に隠す。どうする、どうやってドラゴンくんの事を説明する?


「シロエさんは?」 


 シロエさんとならまだ会話ができそうだけど、クロエさんに見つかればこのドラゴンくんの保証はできない。


「シロエなら道具を取りに1度塔へ行くと言っていましたわ。それより服の中になにかいるようですが?」


『バレたぞ......』


 クロエさんは一歩一歩近づいてきて、ドラゴンくんは服の中で死んだフリをしている。一か八か正直に言うしかないか。


「クロエ、怒らないで聞いてください」


 俺の呼びかけに不思議そうに眉をひそめるが頷いた。


「実は、ドラゴンを拾いました」


「ドラゴンですか......やりましたわねお嬢様! 自分の料理は自分で捕獲するなんて! 素晴らしいですわ!」


『お嬢様? もしかして俺を撃ち落としたやつはコイツぞ?! しかもコイツが差し出そうとしていた相手はお前ぞ?!』


 ドラゴンくんのことは一旦無視。

 クロエさんは捕獲に対してすごく嬉しそうだ......しかし、俺は食べるためにドラゴンくんを匿ったわけじゃない。


「違うの! このドラゴンは捨て子らしいから家で飼ってあげたいのです」


「ドラゴンを飼う? そうですわね、学園には使い魔なら同伴可能なのでその申請出しておきますわ」


 意外にあっさりだ......食べる事を絶対譲らないと思ってた。


「いいの......?」


「ええ、お嬢様がお世話しなくても多少は生き延びれると思いますし、それに後々お嬢様の戦力になりそうですしね」


 確かに、使い魔としてなら共闘もできるかもしれない。


『悪いけど、それは無理ぞ。我は全然使えないぞ』


「大丈夫! 一緒に特訓しましょう!」


 できないならできるまで努力する。割と当たり前のことだが、これができてない奴は意外に多い。


『お前は俺を食べないんぞ?』


「食べないですから、一緒に頑張りましょう」


 にしても、名乗ったにも関わらずお前お前って言いやがって。こっちが名前を呼んであげたらドラゴンくんも名前で呼んでくれるかな?


「ドラゴンくんはどんな名前がいいですか?」


『名前?』


「かっこいい名前をつけてあげます」


 そう言うとドラゴンくんはまた少し恥ずかしそうに、とても嬉しそうに丸くなった。流行りなのかな? というか服の中で動かれるのちょっと痛いだけど。


「シグルとかゲオルギとかかっこいい名前だと思いませんか?」


 前世の知識に頼ってちょっと意地悪なネーミングをつけてみた。この名前はどうかな?


『音はいいとは思うぞ。だけど、なんか背筋がゾクゾクっとしてあまりいい感覚ではないぞ......』


 おお! 世界を越えて影響があった! ドラゴンくんは体を震わせて縮こまっている。


「ならジークはどうですか?」


 今度はあまり縮こまってはおらず、少し嬉しそうだ。先の2人となにが違うのだろうか?


『この名前なら死んでからも頑張れそうな気がするぞ! 気に入ったぞ!』


 あー、それは死んでから活躍したというよりかはうまい具合に利用されただけなんじゃ? ただ本人(竜)が気に入ってくれたのならそこに水を差すような真似はしないでおこう。


『竜を捕まえたようだね。さすがはリリィちゃん!』


 やっとシロエさんが帰ってきた。


「出ておいで、回復魔法を使える人がきてくれたから」


『たぶん一度殺されかけた相手だぞ。我は殺されないよな?』


 そういえば、シロエさんもジークのことを食べようとしてたのか……大丈夫だよな?


『大丈夫だよー、ちゃんと聞いてたから』


 おそるおそるシロエさんにジークを預けるとすぐに回復魔法に取りかかってくれた。傷口にぼんやりとした赤みを帯びた光が当てられる。回復魔法ってちょっと赤いんだな……


『いやいや、回復魔法そのものの見えかたはぼんやりとしたただの光さ。おねーさんは回復魔法に「火」の属性を付与しているから赤くみえるんだよねー』


「火」の属性ってお灸みたいな感じになるのかな? ちょっと熱そう。


『属性で感じ方は変わらないよ。だけど、効き目が結構変わってくるんだよね』


 術者との属性があっていれば回復魔法の威力、治療される者との属性があっていれば回復魔法の効き目がよくなる。


 属性を付与しないままだと万人に等しく効き目が現れるらしい。


『これでよし』


 光が消えて回復魔法が終了し、ジークの傷は跡形もなくなくなっている。


「大丈夫ですか?」


 近付いて見るとジークの傷は塞がっているものの、ジークはこちらの呼び掛けに反応を示さない。


『大丈夫だよ、気を失っているだけさ。痛みがさっきまでの気付け薬になってたようだね、かなり低いところを飛んでいたし限界だったんだろう』


 かなり低いところ? 3000mで低いところ扱いされるのか。やっぱり魔法ありの世界だと規模が違うな。


『3000m? 本当にそんなところを飛んでいたなら大抵の魔法だと攻撃の射程外だよ。この竜は意識も怪しかったのか』


 ジークの過去のことは後々聞くとして、とりあえずは安心して眠れる場所にたどり着けてよかった。


 双子さんが晩御飯の調理をしている間、ジークはすーすーと腕のなかで寝息をたてていた。

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