2部 お嬢様の出会い
「第2回初心者のための魔法講座(実践編)を始めまーす」
シロエさんは括弧の中まできちんと宣言した。場所は塔から少し離れた所で、シロエさんが寝泊まりする小屋の前だ。
塔もこの小屋も立地的には森の中だが、塔の周辺と違い気が切り倒されていて整地もしてあるので動き回るのに全く支障はない。それに木で作られた的もあり、魔法の練習もできそうだ。
「何をすればいいですか?」
「そうだねー、家で使ったことは?」
この数日でクロエさんのお手伝いとしてお皿を運んでいた。クロエさんの教え方もよかったためなんとかお皿1枚ならなんとか運ぶことができるようになった。
「クロエちゃんはなかなかスパルタ教育だねー。お皿を割るより前に運べるようになったんだねー!」
「それって異常なのですか?」
「普通は強い力で衝撃波を撃ってみる。そっから段々と威力調節するのが基本だね」
そう言えば、まだ全力で魔法を使ったことはなかったな。
「お嬢様なら細かい魔力操作もできると思ったまでです。実際すぐに出来ましたわ」
やり始めて2日目にはできるようになったけど......それから進展全くないけど、本当に大丈夫か?
『全く問題ないよー。皿運びは結構難しいからね、複数できるのが異常なの』
やっぱりクロエさんは万能メイドさんだったか......
「今日はもう時間も少ないし本格的には明日からするとして、まずは思いっきりぶちまけてみようか!」
皿を運ぶのもかなり全力だったんだけど!それ以上の威力出る気がしない!
『おねーさんがサポートしてあげるよ! あの的をしっかり見て』
シロエさんが背中を支えてくれるから、素直に従って手を前に突き出す。俺の初めて魔法攻撃体験だ!!
『しっかり深呼吸してー、全身の魔力を手に集中させる。しっかり集めたら......』
「手のひらからドカン!」
――――ズッドォォオン!!!
「あはははは! やっぱり見込み通りだね!」
体の下からシロエさんの声がする......?
どうやら打ち出した魔法の反動で後方に吹っ飛ばされた俺をとっさに庇ってれくたようだ。
「お嬢様! 大丈夫ですか?!」
すぐにクロエさんも駆けつける。
「なにがどうなって......?」
顔を上げると元々立っていた位置から前方に5mほど扇状地ができている。
「威力は抜群だね、国選魔術師にも引けを取らないだろう」
国選魔術師がなにかは分からないが、褒められたのは確かだろう。俺小さいのにすげぇ。
「コントロールが問題ですわね......」
うぐぐ......地面は最深部で2mほど削れているけど、これじゃ当たらなければどうということはないからなぁ......
「威力と制御の両立かー、それなら私の分野だね!」
そうか? イメージ的にはクロエさんがそっちでシロエさんはとにかく威力みたいなイメージだけど......
『ふっふっふ! おねーさんがコントロール下手なら今頃リリィちゃんは無傷じゃ済まなかったよ!』
確かに切り傷はひとつない。あと足元がとってもふかふか。ラッキーくらいの感覚しかなかったけど......
「ふかふかの砂を大量にぶちまける魔法でも使ったの?」
「それもできるけど、そんなガサツなことしないなー」
「お嬢様と同じ衝撃波と風の魔法の併用ですわね」
併用......すごそう
「すぐにできるようになるさ! おねーさんが教えたらね!」
「がんばります」
にしても疲労感が半端ないな、初魔法だからか?
『どっちがというとぶちまけたからだろーねー』
うげぇ、調整して使わないと行けないのか......
「まだ、全力が出しきれてないけどね」
これで全力じゃないとか、魔法と俺の可能性を感じるね。
『全力で魔法を使えばしばらく起き上がれないよ、そのための無意識なブレーキみたいなものだね』
ガス欠と感覚同じだな、意外と細かいところは常識的な設定がされている感じ。魔法も世知辛いな。
『それと極力こっちを使うよ。できれば完全に遮断できるようになって欲しい』
確かに、大勢で行動する時に全員の声が入ってくるのはちょっと問題だよな、その辺はシロエさんどうしてるんだろ?
『特訓』
まさかの特訓、脳死するやつ?
『そうだよ、と言っても私は大勢を1度に処理しようとして脳が死にかけたんだけどね』
そうか、逆もできるに越したことはないよな。魔法も心読も先は長いよな......
「では、すこし早いですが晩御飯の準備をしましょうか」
まだ体感だと4時くらいの感覚だな、確かに早いけど準備だったらこんなもんか?
「今日の晩御飯は豪華になりそうだね!」
「水だけで豪華な食事とは可哀想な人ですのね」
「クロエちゃんだって前みたいにパンしかなくて泣きついてきても分けてあげないよー」
究極のビュッフェスタイル? 食べたいものは自分で捕れってことか? いくらなんでもそれは無理がある。前世も今世も狩りなんてしたことないんだけど!
「大丈夫、リリィちゃんの分も取ってきてあげるよー」
「リィお嬢様、今晩は期待して頂いてもよろしいですわよ」
うわぁ、姉妹でバチバチしてる。というかそのまま2人とも森の奥にはいっていったよ。
あー、暇だから30年ぶりくらいに土遊びでもするか。魔力込めたらゴーレムとかできそうじゃね?
「......よし、できた」
制作時間およそ5分の土人形くんだ。両手で持って、さっきみたいに手のひらに魔力を集める。そこから今度は流し込むイメージで......
「お、行けそう!」
まだ入る、まだ行ける、まだ......ボンっ!
ちきしょー、5分とはいえ愛情込めて作ったのにそれのお返しが服と顔を泥まみれにすることか! この借りはいずれ完璧な土人形くんを作ることで返してやる!
そうこうしていると、後ろで茂みがガサガサ揺れた。まさかの野生動物と遭遇か? 正直大型の動物はちょっとしんどいな、いくら魔法が使えてもクマとか出たら勝てる気がしない。しかも野生動物が魔法を使えたらそれこそ勝ち目がない。
『誰かいるのか? ニンゲンか?』
なんだ? 心読で声が聞こえる。シロエさんいわくある程度の知能がないと心は読めないらしいから、それなりに賢いやつってことか。
『こちらから危害を加えるつもりは無いぞ、話ができるか?』
そう言って目の前に現れたのは、まんまるおめめに赤い鱗、長めのしっぽにでっかい翼。
「ドラゴン......?」
『いかにも、我は竜種の中でも純血の王竜種であるぞ』
「その辺はどうでもいいんだけどさ」
『ど、どうでもいい?! こんなに威厳たっぷりなのにぞ!』
実際は喋ってるわけではなく『グルグル』喉が鳴ってるだけなんだよなー。威厳がどうとか言われても......それに、
「それよりさー」
『それより?』
「かわいいねー」
なでなで、なでなでなでなで。
やっぱりちょっと硬めだけど撫で心地は充分。反応もいい!
『やめろ、やめ、ちょい! やめろっていってんだぞ!』
うわ、火吐いた!
「すごーい!」
なでなで、なでなでなでなで。
『ちょ! やめって!』
そう、この竜はとっても可愛い肩乗りサイズだった!
今回も読んでいただきありがとうございました!