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4部 授業と受容

「第1回初心者のための魔法講座を始めまーす」

「はーい!」


 40過ぎてまで勉強することになるとは思いもよらなかった。こっちでは9歳だから当たり前と言えば当たり前か。


「まずは基本の属性から!」


 属性からか、やっぱり魔法にはそういうのあるよな!


「基本となるのは火、風、土、水。これらが4すくみになっていて、火は風に強く、風は土に強いってな感じ」


 ベースは四大元素っと。ていうか実演してくれるのありがたいな。熱いし寒いし冷たいけど。


「それから雷や氷、空間系の派生魔法」


 へー、氷とかって水っぽいけど派生なんだな。


「派生って言っても空間系は特に使える人限られるから、ほぼ固有の超能力レベルだけどねー!」


「先生! 努力すれば時間とか止められますか?」


 時間止めるのはなんか夢だよな。敵のボスが時を止めた時の絶望感といったら......


「残念だけど、リリィちゃんには無理だねー!全然そっち方向の素質なかった」


「残念です」


 シンプルに残念です。期待するだけ無駄無駄ですか。


「ただし、リリィちゃんは基礎の4つの扱いに関してはかなりの才能があると思う」


 能力があるっていってもらえるのはいくつになっても嬉しいものだな。9歳だけど。


「先生、質問してもよろしいですか?」


「なんだね?」


「回復の魔法ってどの分類に入るのですか?」


 そういえばクロエさんが賢者さんに向かって『即死じゃなければ死なない』って言ってたってことは回復の魔法もあるってことだよな?


「いいところに気がついたね。回復や魔車(ましゃ)の扱いは属性に分類されないのさ」


「誰でも魔車を上手に扱えるということですか?」


「お箸と一緒だよ!」


 オハシトイッショ? 何かの合言葉か? 


 幼い、はにかむと可愛い、伸長低い、友達はまだいない、いったいどうしてこんなことになったのか、しょうがないものか。


 さすがに違うな......しかもセンスもなかった。


「うん、さすがにそれは違うね......お箸を使うには魔力なんて使わないけど、練習がいるでしょ?」


 なるほど。


「属性は必要ないけれど基礎的な魔力の扱いには練習がいる?」


「そーいうこと! 基本的な魔力の扱いはクロエちゃんが十分教えられるとおもうよー」


 魔力の練習ってどんなことするんだろ? 素振(すぶ)り? キャッチボール? ハウツー本でも売ってたりするのかな?


「発声練習と似た感じだね。まずはとりあえず魔法を使ってみて、魔力の感覚を掴む。それから、規模とか速さとか威力を調整していくのさ」


「とりあえず魔力を出してみればいいのですか?」


「魔力を出すんじゃなくて魔法を使うの。魔力を出しすぎたら最悪……ぼかん」


 ぼかんって。なんか威力は高そうだよね。


「身の回り全部ぼかんするから、自分の体含めて大惨事……大変なことになるから実践はやめた方がいいよねー」


 つまりはガスみたいな感じね、ガスが魔力で、そのガスで作った火が魔法。練習するのは火の出し方か。


「魔法ってどうやって使うんですか?」


 いきなり運転はちょっと怖いな。前世の車は日常的に乗り回してたけどね。そうは言ってもアクセルとブレーキじゃないから感覚も違うのか。


「そーだねー、家事のお手伝いでいいんじゃない?」


 これまた意外な答えが返ってきたな。家事で魔法つかっていいのか?


「クロエちゃんが使ってなかった? お皿飛ばしたり、いろんなもの高圧洗浄したり」


 あ、あれか。お皿がくるくる回ってたのと一瞬で皿洗い終わってたの。


「あれは細かい衝撃波を連続的にいろんな方向から当ててコントロールしてるんだよ。結構お皿運ぶの難易度高いんだけど、それを複数同時にやってるクロエちゃんはそこそこすごいってことになるね」


 それなら、魔法の扱いはクロエさんに頼って問題なさそうだな。




「じゃあ、こんな所で魔法講座おしまい! そろそろクロエちゃんを起こしてあげよう」


 うぅ......この感じは、怒られるのが確定事項で、先生とか上司に呼び出された時の緊張感......提出物出し忘れた時とか。


「どうなりますかね、中身が違うこと......」


 やっぱり、引け目を感じてるのだ。どれだけ可愛いメイドさんを見たところで、どれだけ現実離れした力が使えると分かったところで、俺は決してお嬢様なんかじゃないんだ。


 その事がずっと心に残っている。




「そのことなら心配いりませんわ。大丈夫ですわよ、お嬢様」


 しまった! もう起きてたのか......


「大丈夫って?」


 立ってから軽く身だしなみを整えているクロエさんはそこまで深刻な問題にしていないようだ。


「安心してくださいませ。前のリィお嬢様は何も言わずに居なくなるような方ではございませんでした。とても、おてんばな方でしたけれどね」


「言っていたのですか? 転生することを......」


「ええ、それにいずれ挨拶しに来てくださるそうですよ」


 挨拶しにくるリリィちゃんは俺を見てどう思うだろうか? 感謝、嫉妬、激怒、軽蔑......わからない。


「軽蔑とか嫉妬はないだろう、リリィちゃんには何度か会ってるけどきっと彼女ならこう言うね......」


「「お友達になりましょう」」


 ダブルクロエさんは声を揃えてそう言った。


「こんな辺境の魔女にもそう言ってくれたんだ、元自分の体の相手にもきっとそれは変わらない」


「リィお嬢様はそういうお方でした、しばらく会えないと思うと残念ですわ」


 やっぱり俺なんかじゃ、変わりにはなれない。


「しかし、これからのリィお嬢様も負けず劣らず誇り高い人格者のように見えます。(わたくし)はそんなリィお嬢様にこれからもお仕えいたしますわ」


「そうさ、変わりなんかじゃない。自分の人生なんだから精一杯生きなさい。さっきも言っただろう?」


 なんでそこまで見ず知らずの人にそんな言葉をかけれるのか、


「俺は1度死んだんです。しかも、おっさんでした。お嬢様として生きていくにはかなり無理がありませんか?」


 幼い少女の口から俺の言葉が紡がれる。しかし、その言葉はクロエさんによって即座に否定された。


「あなたはリリィ・クラヴェリ。今世では公爵家のお嬢様です。前世がどうであれ、年齢や性別、職業で人の魂は決定されません、決定されるのは生き方によってですわ。クロエはそんな今のあなたの魂を信じたいと思いましたわ」


「俺なんかが生きてていいんですかね?」


 俺がどんな人格者であっても、これは他人(リリィちゃん)の体なのだ。俺の決定が、判断が、行動がこの子の人生を決めてしまう。


「君は人の話を聞くのが苦手かい?」


 賢者さんは笑いながら続ける。


「君がリリィなんだ。君の人生を決めるのは君自身だよ」


「そうですわ、あなたの人生はあなたが決めてくださいませ」


 あれ? おかしいな......安心したんだろうか? きっと本当のリリィちゃんとは似ても似つかないのに、自分を受け入れて信じてくれることに。


「やっぱり人が変わると始めは戸惑うものですわね。前のお嬢様なら泣くようなことはございませんでしたから」


 そう言いながら、クロエさんは俺を(なぐさ)めてくれている。


 だっせぇなぁ。管理職なんて地位にいたはずの大人が、成人もしてない少女に慰められて泣いてるなんて。



「落ち着きましたか?」


 どのくらいの時間が経っただろうか。かなりの時間泣いていた気がするよな、恥ずかしい......


「はい、ありがとうございます。おかげでなんか吹っ切れました。これからはリリィとして生きてきます」


 そう言っているのは声も形もリリィちゃん本人だから、(はた)から見れば凄くシュールだろうな。


『そんなことを考えられる余裕が出来てよかったよ』


 よかったです。本当に。


「それはそうと、きちんとした立ち振る舞いはお勉強しないと行けませんわね。前世が中年男性であっても、淑女(しゅくじょ)の振る舞いは覚えていただきますわよ?」


「わかりました」


 できるかどうか、全く自信はないけどできる限りやってみたいな。そう思えるようにはなった。


『そのとーり! その意気が大事なんだよ!』


 わざわざ能力で伝えなくても......


「そうだそうだ、最後に2人にはリリィちゃんの能力について説明しておくよ」


「私の能力?」


 他人の思ったことが分かるってやつか?


「この能力はこの子の能力だろうね。前のリリィちゃんはこの能力は持ってなかったはずだよ」


 そうなの? 俺しか使えないのか。


「あと、反応を見る感じだとリリィちゃんに余裕がない時は使えなくなってるね。私の能力は聞くだけなんだよ、実は」


「賢者さんが聞いていただけなら、今までの会話は賢者さんが送った訳ではなくて、私が聞いていたのですね」


「そういうこと! だけどきっとまだまだその能力は成長するはずだから、育て方は私の方で考えとくね」


 この能力が育てばいずれは時が止まる?


『どれだけ時間を止めたいのさ。その能力を極めても時は止められないよ。洗脳と脳内会話くらいは出来るようになるんじゃない?』


 地味だけど、戦場でならなんとか使えそうかな?


「リィお嬢様、お腹がすきましたね。貴女、何かもてなしのひとつくらいありませんの?」


「おっと、急に矛先がこっちにむいたね。そんなにおねーさんの手料理が食べたいのかい?」


 時間は昼過ぎ頃だろうな。確かに腹も減ってきた。

 それにしても、とっさの事なのによく上手に返せるな。上手な切り返し方は覚えといて損はないかもしれない。


「晩酌用の燻製シリーズがあるけど、リリィちゃんは燻製大丈夫?」

「はい! 大好物でした!」


 まさか、1度死んでまで燻製が食べれるとは! ビールかワインでもあれば最高なんだけど......


『あるよ、ビール。赤葡萄(あかぶどう)でよければワインもあるよ』


 賢者さんが片手に瓶を持ってニヤニヤしてこっちを見ている! 話のわかる人は大好きですよ!


「リィお嬢様? まさかとは思いますが、そのお身体で飲酒などをするつもりではございませんよね?」


 げ、バレた......まさか、心を読まれた?


「能力がなくても、貴女がニヤニヤしている時にろくな事考えていないのは長年の付き合いで把握済みです」


 そう言って、賢者さんにものすごい剣幕を向ける。


『あちゃー、今度は1人でおいでね!』


「今後、この塔には絶対に(わたくし)が同伴しますので!」


 本当に、心は読めてないの? 俺と賢者さんは2人で苦笑いを交わす。


「付き添いは公爵様でも、いいんじゃない?」


 賢者さんの必死の抵抗だが......


「いいえ、(わたくし)が付き添います」


 あえなくクロエさんに切り捨てられた。


「幼女と酒を交わすという私の夢は??」


「諦めてください」


 俺たちは渋々昼飲みを諦めた......。




「それでは今日はありがとうございました」


 賢者さん力作の燻製シリーズと目玉焼き、パンを平らげて一休みした後、賢者さんは魔車まで見送ってくれた。


『賢者さん』か、


「そういえば、まだお名前を伺っていませんでしたね」


「そうだったねー、私はシロエだよ。改めてよろしく、とってもユニークな名前だろう?」


 確かに、黒髪がシロエさんで白髪(はくはつ)がクロエさん。覚えにくいのか覚えやすいのか。


「それでは、またお会いしましょう」


 シロエさんに別れを告げて、魔車に乗り込む。


「困ったらいつでもおいで。出来ればひとりでね!」


 最後までシロエさんは冗談を言いながら、クロエさんは怖い顔をしながら俺たちはこの塔を後にした。



 魔車は行きの半分くらいの速度で(それでも十分速いが)帰路についていた。魔車の不規則な振動が心地よくてすぐに意識を手放してしまいそうになる。


「膝枕で寝ていても構いませんよ」


 クロエさんがそう言うので俺は安心して眠ることにした。行きは興奮していたのもあると思うが、やっぱりクロエさんに中身のことを理解してもらえているという面が大きく影響してるんだろうな。


「それでは、少し寝ますね」


 どうして、女性の太ももはこんなに寝心地がいいんだろうか。そんな馬鹿なことを考えながら、俺の思考はまどろみの中に落ちていった。










newプロフィール

名前:リリィ・クラヴェリ

魔法:基本の才能あり、風〇

能力:心読(ハートリーダー)


メイドさん(妹)

名前:クロエ

魔法:基本の扱い◎

年齢:19


塔の賢者さん(姉)

名前:シロエ

魔法:回復系◎

年齢:19

能力:心読(ハートリーダー)

 これで第1章は一応完結です。第1章まるまる、プロローグのような感じで、読んでいて退屈だった人もいるかもしれませんが、このあとがきを見ている人の中にはそんな第1章を耐え抜いて読んでくださったお方もいることでしょう。


 そんな強者の皆さんには感謝を! また、この部分で初めてこの作品を読んだという強者の方にも感謝を!!


 これからも精進していきたいと思っていますので、どうぞよろしくお願いいたします!

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