2部 メイドさんと賢者さん
「最後にお風呂掃除をしますので、リィお嬢様はお部屋にお戻りください」
そう言って、クロエさんは玄関のすぐ近くの部屋に入っていく。
風呂場が玄関の傍にあるのか、変わってんな......
今日で確認できた主な場所は8つ
1階
・食堂(というより、宴会場ぽい広さ)
・客間(多分、生前の俺の部屋よりでかい......)
・風呂(入ってはないけど多分でかい、玄関の傍)
・キッチン(ドラマで見るレベル)
・クロエさんの部屋(キッチンの隣)
2階
・自分の部屋
・お父様の部屋
その他には空き部屋とクローゼットや物置が沢山ある(らしい)。階段を見た感じだと少なくとも4階建てと思われる。
前世なら大豪邸レベル、固定資産税とか大変そう......
そう言えばここはどんな国なんだろ? ある程度自分の事が落ち着いたら、内政とかもクロエさんに聞いてみよう。
それにしても、よりによってなんで俺が生まれ変わったのかねぇ、異世界に来るぐらいならそのまま死なせてくれても良かったんだけどな。
それに、お嬢様ってのがなんともなぁ......
異世界なら後輩の成田の方が詳しいだろ、ことある事に、ここが異世界ならとか言ってたし
「そういえば、成田が飲みの時になんか言ってたような......」
回想はじまり――――
「日下部部長ぉ、異世界転生したら何するべきかわかります?」
「いや、そもそも夢物語だろそんなの」
「夢がないっすねえー! そんなんだからモテないんすよ部長は! いいっすか? 転生したらまず初めに美少女とフラグ作るんすよ!!」
「そして?」
「お! 乗り気っすね! そしたら自分の能力の確認っすよ!」
「身長とか、運動神経?」
「それもですけど、1番大事なのはチート能力っす!」
「はぁ......」
「異世界なんて基本チートっすから! タイトルと序盤で平凡装ってても、途中から絶対チートっすから!」
「まぁ......参考にしとくよ」
「あと、日記つけといてくださいね! こっちの世界で売って! 会社辞めて! 印税生活っす!!」
――――回想おしまい。
酔ってて曖昧だけどこんなもんか......
というか成田は絶対許さねぇ! 酒の勢いで『モテない』とか言ってんじゃねぇよ!!
でもまぁ、少しは参考になったかな?
それじゃ状況の整理でもしてみるか......
おろした金髪ロングに紺碧の瞳。さっき鏡で見た感じ、顔はかなりいいんじゃないか? クロエさんのあの対応も分からなくはない。
たしか、父親は「魔法適正診断」って言ってたな......
それならもうすぐで魔法の能力もわかりそうだ。
チートとかは今はわからんけど、魔法と一緒に判明するだろう。
コンコンとドアがノックされる。
「リィお嬢様、準備が終わりましたのでそろそろ出発を......」
『はっ......! お着替えしなくては!! はぁはぁ......リィお嬢様のお着替えを手伝わなければ!』
もしかしてもう一人いる?? さすがにそれはないか?
「......その前にお着替えですわね、賢者様の所へ行くのですから、それなりのお洋服を選びませんとね」
そう言って、クロエさんは部屋に入ってくる。服装は朝と同じメイド服。
クロエさんに着せられたのは、長袖ワイシャツに膝下まである黒いワンピース、襟には大きめのリボンを蝶々結びにしてもらった。
いかにも貴族みたいな超フリフリの服を着せられるのかと思ったが、意外に動きやすそうだな。
前世では特に女装癖は無かったし、さっきまでは少しフリフリの短いパンツの部屋着を来てたからな......
人生初スカート!! 凄いな、足がスースーする
「かわいく出来ましたわ、それでは出発しましょうか」
『かわぃぃ!! おでかけぇぇ!!』
......なんか俺よりもクロエさんの方が年齢低くない?
「クロエ、今日はどこに行くのですか?」
「近くの魔法院でも適性診断はできるのですが、領地の外れに知り合いの腕の立つ賢者がいますのでそちらへ行ってみませんか?」
賢者......賢者かぁ、なんか浪漫ある響きだよなぁ
「分かりました。クロエとのお出かけ楽しみですね!」
『ううぅわぁぁぁぁ!!!』
「そ、それでは行きましょう」
今の雄叫び......なに? クロエさんの声??
玄関を出て少ししてからの感想だけど、
この体での移動が思ったよりも辛い......
というか、庭広すぎる......さすがに金持ちすぎるだろ。
これで自宅って、領地の外れとかどんだけだよ。
「クロエ、賢者様がいらっしゃる所までどのくらいかかるのですか?」
「1時間程ですね、ぶっ飛ばせば」
なに? ぶっ飛ばせば? 俺飛ばされるの?!
やっと庭の端についた、この体とはいえ5分くらい歩いたんじゃないだろうか?
「これは、驚きました......」
石造りの立派な門をくぐると、車があった。
そう呼ぶのに相応しいだろ、これ!
乗る部分はあるけど、馬も牛も見当たらない。
つまり、そういうこと。 牛車や馬車みたいな動物が前にいないから、車。
竜とかトカゲとかなら驚かない自信あったけど、さすがに何も無いとなるとなぁ......
「そう言えば、お嬢様とこれに乗るのは初めてですわね」
「先程、ぶっ飛ばすと言っていたのは......?」
「これは失礼しました。少々スピードを出すということです」
そういう事か......てっきりお皿たちと同じ目に合わされるのかと思ったよ。
にしても、見たところ木造で装飾こそあってもエンジンとかカラクリとかない気がするけどどうやって進むんだろうか?
「さぁ、お嬢様。乗ってくださいませ」
すこぶる謎なんだけど、乗るしかないよなー......
『リィお嬢様との、魔車デート!! ここで既成事実を作るという手も......うふふふふ!』
あ、これ魔車っていうのか......
ていうか! 既成事実ってなんだ!! クロエさんってあの顔で、というかメイド服着る感じの男の人なのか!?
この体の貞操は俺が守らなければ!!
戦慄を隠せない俺を気にすることなく、魔車は動き出した。
......とんでもない速度で。
「とっても速いのですね、この魔車は」
「この速度が出せるのはこの領内だと私と旦那様を除けば、数人しか居ないでしょうね。私はまだ出せますが」
体感速度はすでに高速道路くらい、100km/hは出てそうだな。
「お嬢様、まだ速度を上げても?」
「はい、大丈夫です」
とは言ったもののまだ速度が上がるのか
うがっ! 経験したことないけどレーサーの気分だ......
加速の瞬間少し圧力がかかって変な声が出そうになる。
『意外に大丈夫なのですね、はぁ......お嬢様が魔車の速度を怖がっているところで、一生守って差し上げますと、契約を交わす予定でしたのに......』
既成事実ってそういうことか......
ごめんなさい、中身はおっさんなんで速いだけじゃビビらないです。
道中、魔車に関する説明を受けた。
説明によると、この魔車は同乗者の魔力量と魔力に対する技量によって速度、安定度、操作性が変化するらしい。
ちなみに魔力量はほぼ遺伝だとか、
当然、魔力量が多ければ使う魔法の威力も回数も上昇する、そういうもんらしい。
およ? 速度が急に落ちてきたな......
「お嬢様、もうすぐ着きますわ」
あれ? 1時間くらいって言ってなかった? まだ15分くらいだけど
「随分と予定より早く着きましたね?」
『しまった!! 車内デートを楽しむ予定でしたのに! お嬢様を怖がらせたいがために、ぶっ飛ばしてしまいました』
もういいや、さっさと降りよ......
俺はクロエさんを置いて魔車から降りた。
降りたところは森の中、雰囲気の溢れる苔の生えた塔が1つ。
すぐにクロエさんも魔車を降りる。
「とても、古そうな塔ですね」
「ええ、中にいる人もですけれど」
なんか、ちょっと嫌そうだな......
人も古いってことは、老人ってことかな? 賢者というくらいだから、それも当然か。
『あいつにお嬢様を見せるのは凄く不本意ですけど、お嬢様の診断をどこぞの馬の骨に任せるよりかは......』
「中の人はクロエの知り合いなのですか?」
「ええ、腐れ縁というやつですわ、極力私の後ろに控えてくださいますか?」
古いってのは付き合いが長いって可能性もありそう......
危険な人なのかな?
「入りますわよ!!」
正面の扉に着くなり、クロエさんはノックもせずにドアを蹴りつけた!!
が、ドアはビクともせず中から声が聞こえた。
「そういう野蛮なとこ、おねーさんは嫌いだなー」
おねーさんきたぁぁあ!!
俺はロリコンじゃなくてお姉さん体質なんだよ!! クロエさんもいい線行ってるけど、まだ顔が若いからな! 声だけだとパーフェクトおねーさんだぞ!!
「さっさと開けてくださる? それに、このような言葉遣いになるのは貴女に対してだけですのでお気になさらず!」
仕方ないなーと呟きが聞こえ、ドアがガチャンと音を立てる。どうやら、鍵がかかっていたようだ。
クロエさんが勢いよくドアを突き飛ばす。
比喩抜きで......ドアは吹っ飛んだ。
「もー、おねーさんがケガしたらクロエちゃんはどう責任とってくれるのー?」
空中でドアが停止、その奥から大人びた声で質問が投げかけられた
「そもそも貴女はこの程度で怪我なんてしないでしょう、それに即死でなければ貴女はすぐに治してしまいわすわよね?」
クロエさんはさっきから少しトゲトゲしいな......
「まぁ、そうだけどね、この程度でケガなんてしたら賢者が聞いて呆れるよねー」
クロエさんと賢者さんの会話の間、あたりを見回したけど、どこも本ばっかりだな。壁はほとんど本棚だし足元にも床が沢山積まれている。これだけの本を見るだけでちょっと、となるのは勉強不足の現れかもしれないな
「おや? 今日はクロエちゃんだけじゃないのね」
あ、バレた。
「まさかの妹??」
『妹ならどんなによかったことか!! しかしながら、血縁関係ではないからこそ、結婚という可能性も!!』
その可能性は、おかしいだろ。
もしかして、この国ってこの歳での結婚が認められていたりするのか?
さらにもしかして、やっぱりクロエさんはそういう系の男性なのか?
「なんだ、妹じゃないのか......」
「まだ何も言っていませんよね!」
ドアの奥の賢者さんにも声が漏れてるのわかるよな?
やっぱり俺の気のせいじゃなくてクロエさんはとんでもないこと口走ってたよな?
「顔よ顔、クロエちゃんはいつも顔に出るんだから」
「今回は顔すら見ていませんよね!!」
いや、顔じゃなくて声に出てるんですけどね......
「妹じゃないなら、クロエちゃんの子供? 言ってくれたらお世話とかしたのにー」
「子供でもないです。旦那様のお嬢様です」
「あー、旦那様って言うとクロエちゃんの勤め先の公爵のことか、とっても愛らしい感じがするわー」
『お前なんぞに! リィお嬢様の魅力がわかってたまりますか!』
だんだんと賢者さんの呼び方が酷くなってない?
「あ、リリィです......よろしくお願いします」
「ふむ、行儀も正しい子だ、よろしくね。それでクロエちゃん、今日ここに来た理由はなんだい?」
「今日はお嬢様の魔法の適正を調べてもらいたいのですけれど、顔も見せずに挨拶とは随分と礼儀がわかっていないようですね? 引きこもり過ぎでは?」
クロエさんの目がバチバチしてる......
「クロエ、喧嘩しちゃダメですよ?」
『はぅぅ!! やっぱり天使!!』
「クロエちゃんは面白いね、しかし言うことには一理あるかな。ちょっと待ってねー」
そう言うとドアが本来の位置まで移動する、
「改めてこんにちは。この塔に住む賢者さんでーす」
「こんにちは、リリィです」
こちらが顔を確認する暇もなく、
「かーわいぃー! えー! なんでこんなに可愛い子をずっと紹介してくれなかったのー!! 生まれた時に教えてくれれば英才教育叩き込んだのにー!」
賢者さんがすっ飛んできて抱きつかれた。
この人、クロエさんと同じタイプか!
「だから貴女に会わせたくなかったんですよ!! 私のお嬢様から今すぐ離れてください!!」
いつからこの子は、クロエさんの物になったのか......
問いただす前に2人の手にもみくちゃにされる。
「「はぁはぁ......」」
やっと落ち着いた、
あれ? クロエさんが2人??
もみくちゃにされた混乱で正常な判断が出来なくなったわけではなく、同じ顔が2つある......
「変装するの止めて頂けます?」
「はぁ?! 変装しといてよくそんな事が言えますわね!」
幸いにもメイド服は1人だけなので、見分けは着くけど、これも魔法の力ということだろうか?
「仕方ないなー、じゃあ元に戻すよー」
そうして現れた相手に
「まだ変装を!!」
と言って、本物のクロエさんが襲いかかる。
しかし、直前で手を止めてこちらを向いた。
「と、言いたいところですけれど、リィお嬢様、これがこの塔の賢者の顔ですわ」
え、ほんとにこの顔なの?
きょとんとする俺に
「そうなのよー、この顔が本来の顔なのー」
と、賢者さんもクロエさんを肯定する。
なんと!
俺の前に、黒髪のクロエさんと白髪のクロエさんがあらわれた!!