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7部 覇道!! お嬢様!!

「ふふふ!」


『頼りにしてるみたいな顔はやめるぞ! アレはやらないぞ!!』


 僅かに先を飛ぶ小型の竜に笑みを向ける。やらないという否定がもはやフラグの様なものだが、それについては黙っておいてあげよう。


「あ」


 右側から同じように煙幕を抜ける気配を感じて目をやると、レパッセさんがいた。


「どうしてあなたが? 付きまとわないで貰えます?」


 明らかに嫌そうな顔をして悪態をつく。もっと他の言い方無いものかとも思ったが、そこまで嫌われているようでもないのでぼちぼちの距離感で接してあげよう。


「いやレパッセさんの方こそ......」


 同じように階段に差し掛かり、我先にと駆け上がる。なんとなくなのだがこの人には負けたくない。いや、ライバル視とかしてませんけどね。


「ハッ」


「鼻で笑いましたね!?」


 ほんっとに、一挙手一投足が鼻につく。しかも軽く心を読んだ感じ、得意気なのも余計に神経をなでなでしていく。


「足元注意ですよ?」


 ニヤケ面で足元を指さされる。視線をやると足元で魔法陣が輝いている。輝いているということはつまり、発動目前ということだ。


「え? あっ?」


 魔法陣から足を離すよりも早く、魔法が発動してしまう。凄まじい勢いで後方の窓から放り出される。


「こんのぉぉおおっ!!」


 ぜーったい許さない! こうなったら大人気ないとか関係ないもんね! 今日じゃなくてもいいけど、いつか絶対吠え面書かせてやるんだから!


「言葉使いが乱れていますよー!」


 吹っ飛ばされて見えなくなる直前、レパッセさんの顔に満面の笑みを見た……。


「ジーク!」


 一緒に空中に投げ出されたミニドラゴンのジークに手を伸ばす。辛うじて尻尾を掴むことが出来た。


 魔法のアシスト有りでジークに引っ張り上げてもらう。


『リリィ! 下は人がいっぱいぞ!』


 一階から逃げてきて時間はそんなに経っていないはずだが、かなり人がいる。建物内に入っていく人、通り過ぎて他の場所を探す人、その中の数人がこちらに気づいた。


『どうするぞ?!』


 気づかれてしまった以上は安全に着地できる所はなさそうだ。逃げて見極めろとは言われたけど、どこまで通用するかも知りたいし。


「やれるだけぶっ飛ばしましょう!」


『よしきたぞ!』


 今は上空二十メートルほど、前世ならまず間違いなく落下したら死ぬだろうが、そこは魔法の力だ。


「とうっ!」


 ジークの尻尾を離して降下を始める。どんどん近くなる地面にかなり恐怖を感じるがそこはそれ、元がおっさんだったんだ。度胸ならないこともない。


 地面とぶつかる少し前に風の魔法で落下速度を減少させる。おかげで傷一つなく着地することに成功。一呼吸置いてジークもすぐ側まで降りてきてホバリング中。


「皆様ごきげんよう」


 スカートを摘んでお辞儀をする。クロエさんに教えてもらった挨拶だ。


 突然上空から現れた少女に唖然とする人もいれば、すぐさま身構える人もいる。


「誠心誠意コテンパンにさせていただきます!」


 そして唐突に宣戦布告をかました。少し無謀な気がしないでもないが、クロエさん達に教えてもらったことをきちんと活かせばなんとかなるはず!


 構えをとっているのは三人。まずはノッポの男子から!


 軽く跳んで急接近、上からの攻撃をアピールする。わかりやすくアピールするのだから当然狙いは足元だ。


「おわっ!」


 相手の目前で着地し、足を払う。体制を崩したところを風を使い半回転させ、手刀でKO!


 ほい次! ぽっちゃり男子!


 風を(まと)って加速して、すぐさま背後へ。見た目通り反応は鈍いので膝の裏を引っ掛けて首を絞める。いくらこの体が小さくて軽いとはいえ全体重で締めているので手足をばたばた動かした程度では抜け出せない。


「おごごごご…………」


 目の前の少女のありえないほどの機敏な動きに全員が呆気(あっけ)に取られている間に二人目をオトす。


「たっ助けてくれぇぇ!」


 半泣きで助けを乞う声の方向を見ると、三人目含む十人くらいが火を噴くジークに追い回されている。あっという間に半数を制圧完了だ。


「私ってもしかして、ちょっと強い?」


 自分のことを過大評価するつもりも卑下(ひげ)するつもりもなく呟いたが周りの空気がずんずん冷えていくのがわかる。


 そりゃそうか、簡単な獲物だと思った幼い女の子(と飼いドラゴン)に一瞬で複数人がボコボコにされたのだ。やったのは自分だが少し同情する。


 この調子ならしばらくは捕まりそうにないと思った矢先、ぞろぞろと新手の人が現れ始める。さっきまでのは勢いに任せて飛び出てきた人達か……。


「ジーク! 戻ってきて!」


 人の数を増やしながらトコトン追い回しているジークを呼び戻す。後から来た人達は、なんというか体がゴツい。あと顔が怖い。


 増援だけでなく、更には校舎の方から喝を入れる声が響く。


「てめぇらッ! 俺の仕事は済んだ! 下手打ったらシバき回すからなッ!!」


「「「押忍ッ!」」」


 さっきジークの火球を殴り飛ばした人が顔を出して鼓舞する。抱えられているのはゴウさんか……!


「喧嘩軍団なんかに負けてられっかよ!」

「たかが幼女一人! 囲んで潰せぇッ!」

「勧誘すんのはウチらなんだよォッ!」


 その声に呼応し、また反発するようにじわじわと増えてくる人の輪から次々に鬨の声が上がる。危ない発言があったような気がする……。


 この数を相手にして肉弾戦は厳しい。ならば魔法戦だ!


 ということで、空中に魔力を集めて風の刃を形作る。イメージ通りの場所の空気が歪み、じわじわと可視化されていく。




「あっ、やばい……」




 可視化され、はっきりと刃の形をとった所で限界の壁にぶち当たる。


 魔力を集めて刃の形を形成するまではなんとかできた。しかし、問題はその次の工程にあった。


 撃てないのである。どうにかこうにか風の刃を作っても、相手に向けて発射することができない。例えるなら『一輪車で立ち漕ぎをしろ』と言われるような感じ。


 無理だ。やる前からできるビジョンが見えない。


 かくなる上は!


「逃げますっ! ジーク!!」


 呼ぶと同時に足に力と魔力を込めて全力で跳び上がる。魔法の発射は要練習である。


 ジークの足を空中で掴み、滑空で逃げる。


 しかし、ほんの少しだけ遅かった。地上から打ち出された複数の水の(つぶて)の一つがジークの右羽を掠める。大したダメージもないはずだが、今は俺がぶら下がっている状態だ。


『まずいぞッ!!』


 いくら子どもで、軽いと言っても自分より重たいヒトに掴まれた状態では安定せず、飛行中に一度崩れたバランスは簡単には立て直せない。


「ジークひだり!」


 幸運なことに近くの一室の窓が空いている。一旦姿を隠すにはもってこいだ。ジークに指示を出し空いた窓に突っ込んだ。







「いたた……」


『いてててぞ』


 床に体をぶつけてしまったが、どうにか逃げることができたようだ。


「お二方とも、大丈夫ですか?」


 頭の上からここ数日で聞き慣れた声が聞こえた。真面目で優しそうな顔をした副会長のルディさんが手を差し出してくれる。


「なんとか……」


 差し出された手を掴もうとして、今が新入生争奪戦だということを思い出す。


「僕は何もしないですよ」


 慌てて手を引くと、笑顔でもう一度手を差し出してくれた。そこでようやく手を取り起き上がる。


「ただ、すぐにここを出た方が……」


 ルディさんの顔が陰る。行くあてがあるわけではないが、ここでゆっくりする理由もないので出ていこうとした時だった。


「にゃーんで? ゆっくりしていってよー」


 背後から包み込むように、耳元で猫なで声がした。


「あ」


 ルディさんがまずいと言った顔をする。


「つっかまーえたー! はむ!」


 ぎゅっと後ろから抱きしめられる、そして耳を甘噛みされた。ついでにふわふわの甘い匂い……!


「ふぇっ!!」


「ねーねー」


 なんか! なんかえっちぃ!! 理性が、理性がぁ!!


「おはなし、聞いて?」


「は、はいぃ!」


 聞きます聞きます! なんでも聞いちゃいます!


 ルディさんが哀れんだ目を向けてくるけどそんなことは知ったことじゃない!


「(生徒会に)入って?」


 含みがあった気がした。それは間があったし、企みがあるのは心を読んでもわかった。二つ返事で承諾してはいけない事なんてわかりきっていた。




 それが、どうした? 夢を追うのに躊躇している場合じゃないだろう?




「(ナニがナニに?!)入ります!!」


「ほ・ん・と・にゃ?」


 即座に答えたのにも関わらず、まだ色っぽく囁く。


「本気です!」


 もう理性なんてものはなかった。


「はいコレ」


 渡されたのは一枚の紙。『入会希望書』と大きく書かれていた。


 理性なんてなかったのは数秒前までのこと。今では落胆を顔に出さないことで精一杯だ。


 渡された紙に名前を書き、すぐに会長さんに受け渡す。


「じゃ、これからもよろしくにゃ」


「……はい」


 わかっていたことだ、ラッキーなイベントなんて起こるわけがない。


 だって体の性別上は女子同士、この場には健全な男子のルディさんだっている。


 それでも、夢を見させてくれたって……よかったじゃないかっ!






「はぁ……」


 正直、それからの事はよく覚えていない。精神が落ち着いたのは、月が出てもう寝る前になった頃だ。


 ミヌさんはただ生徒会に勧誘しただけ、俺はその勧誘に乗っただけ。誰も悪いとこはしていない。


 ならばこの心の傷は、妙な虚しさには、どう理由をつければよいのか。


「……先に寝ます」


「リリィさんはお疲れですね、おやすみなさい」


 楽しそうに日記をつけているエンさんに一言断って、二段ベッドの上段で布団に潜る。


 残酷だった現実から目を背けるように瞳を閉じた。

今回も読んでいただきありがとうございました! 次回も楽しみにしていただけるとありがたいです!

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