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6部 入会?! レパッセ

「全員散って! 逃げろ!!」


 突然現れた男とはやり合わず、しっぽを巻いて逃げる。これが恐らくは最善手だろう。


 確かに想定外の会敵ではあった。分が悪かったのは事実だ。だが『分が悪い』なんて言葉では説明できないほどの実力の差があった。


 僕自身の魔法は、大なり小なり相手に影響を与えるものだ。そのように作り上げられた魔法であったし、今までどんな相手にもそこは揺るがなかった。


 二度だ、二度仕掛けたが全く手応えがなかった。完全に無効化されたのか、効果が薄すぎたのかすらもわからない。


 なんなんだあの人は......!


 煙幕を突き破り階段を目指す。午前中の空き時間で仕掛けた物があるため、籠城には持ってこいだ。


 今回の目標はあくまでも相手を見分けること、それなら籠城がよいだろう。


「あ」


 などと思案していると同期入学者の中で一番顔を合わせたくない、公爵家のご令嬢様が同じ方向に走っている。


「どうしてあなたが? 付きまとわないで貰えます?」


「いやレパッセさんの方こそ......」


 このまま階段を登っていくと仕掛けた罠が大量にある......。


 黙っておこう、面白そうだし。


「ハッ」


「鼻で笑いましたね!?」


 ああ笑ったとも、瞬きの後にくるあなたの吠え面を想像してね。


「足元注意ですよ?」


「え? あっ?」


 作動した罠により足元に陣が浮かび上がり、溢れる魔力の流れが空けた窓からお嬢様を放り出す。


「こんのぉぉおおっ!!」


「言葉使いが乱れていますよー!」


 日頃の微妙に溜まった鬱憤(うっぷん)を少しすっきりさせる。才能に対する嫉妬と言われるとその通りではあるのだが......。


 目的の最上階までたどり着いたことだし、これであとは大人しく籠城するだけ――





 ――――ドゴォォン......。




 重々しい音とともに目の前の廊下が爆ぜる。


 おかしいな、こんな過激な罠は仕掛けていないぞっ!


 破片が飛び散り、煙幕の向こうには人影が......。


「あぁんらぁ? かんわいぃボウヤじゃなぁぁい?」


 人影が......ない! 一瞬で背後を取られた?!


 女性らしい言葉使いの野太い声が耳元で響く、それと同時にたくましい腕を腰の辺りに巻き付けられた。


「ボウヤは根性、あるかしら?」


 足が地面から離れる、ろくな抵抗ができないまま開けられた穴に向かって......飛び降りた。


 はぁ?! ここ四階だとわかっていないのかコイツは?!


「根性ないと、死ぬわよ?」


 空中でそんな事言われても今更どうしようもない。というか根性があっても死んでしまうだろう!


 しっかりと捕縛されているせいで着地姿勢もとれない。このままでは頭蓋骨と地面の強度比べになる。どちらが硬いかは言うまでもない!



 ごべしゃ。



 高さ充分、打ちどころは最悪。


 言葉にするならそんな風な人体から鳴ってはならないような音が、後頭部から首にかけて、盛大に鳴り響いた。


 脳の中身こそ(こぼ)れていないが、完全に骨が逝った音。手足の感覚は損なわれ、代わりにそれを補って余りあるほどの痛みが走る。


「――――ぁッ」


 声が出るわけもない。普通の人間なら即死間違いなしだ。どうしてコイツは生きている?


 とりあえず、死んだフリでもしてやり過ごすか。()()、相手は応急処置をする気配すらなく帰ろうとする。


 幸い? いや、人が死にかけているというのにそのまま帰ろうとする奴は間違いなく頭のおかしい奴だ。そんな人間に殺されかけた僕は間違いなく不幸である。


「根性なしねぇ......期待して損しちゃったじゃなぁい、大したことないのねアナタ」


 このまま死んだフリしてやり過ごすことも出来るが煽られたら話は別だ。自分自身に魔法が効き始め、手足を操る感覚に慣れてくる。


五月蝿(うるさ)い」


 ふらつく頭を抑えてどうにか膝をつき、相手を見すえる。


「完全に死んだ音がしたんだけど、ボウヤってば意外と男前なのかしらぁ?」


 相手からしても、やはり死んだと思われていたようだ。頭の回転も戻り見覚えのある顔だということに気がついた。


「......(ちまた)の噂で知ってますよ」


 魔法も、打撃も、投げ、締め、暗器まで使う狂人という聞いた限りでは絶対に会いたくないと思わせる噂だが。


「どんな噂かしら?」


 私刑、殺害すらもいとわない、この人を一言で形容するならば......。


「暴力の化身、と」


「それは誤解よぉーぅ? アタシは美しいもの、格好よいものが好きなだけ。そんなあだ名は過大評価」


 あくまでも過大評価。完全否定はしないわけだ。


 体を起こした事に若干後悔しながらも、両足で大地を踏みしめる。


「こっちは既に満身創痍なので、命だけは取らないで欲しいですね」


「そんなおっかない事したことないわよぅ、敗れたらもれなくオトコになっても・ら・う・だ・け」


 最後は一文字ごとにウィンクしながら身をよじる。それに合わせて本来なら抑えられない鳥肌が立ったことだろう。


「既に僕を死に体にしておいてからのその発言は微塵信用出来ませんね」


 しかし今は首で神経がぷっつり切れている。魔法でつなぐまで本来なら指の一本も動かせないだろう。


「死に体とは思えないほどちゃんと立ってるじゃなぁい?」


 そこで魔法だ。例え右半身が粉々になったとしても、頭があるなら体の欠損していない部分で魔法が使える。神経を通ることもないので今みたいな場合でも魔法が使えるわけだ。


「固有の魔法を少々ね......」


 そして魔法は受け継がれる。それは才能だけでは無い。魔法の独自の使い方、他人が絶対に使えないような魔法を、天才の子は受け継ぐ。


 決して魔法の名門とは言えない家の出身であるし、僕自身にこれといって特別な才能がある訳でもない。曾祖母が天に恵まれていたらしいが。


「いいわぁー! 素晴らしい! でも、逃げないのぉ? 勝ち目の分からないボウヤかしらぁ?」


「生憎、持ち合わせているのは矜恃だけなので」


 挑発に乗ってしまった感じは(いな)めない、しかし勝ちの目が全くないなら逃げているさ。


「イクわよぉーっ......!」


 地面がひび割れるほどの踏み込みで、刹那の間に接近された。


「破ッ!」


 一撃で体が浮くほどの、感覚があればしばらく動けないだろう衝撃が鳩尾(みぞおち)から背中へ抜ける。間を置かずに追撃したいだろうが、好き勝手させるわけにはいかない。


 魔法の扱いに全感覚を集中させ、最大出力で相手の上半身を縛る。


「器用、ねッ!」


 上半身が使えないと気付けばすぐに足払い、流石に戦い慣れている。


「守りが硬いわけじゃないのよねぇ? ボ・ウ・ヤ?」


 すっ転びながらも、一歩二歩と距離を開ける。


 さっきの攻防で左足も固めた、降参してくれるのが一番いいがやり合うとしてもこちらの優勢で進められる。


「降参する気は?」


「んんー? ないわよぉ。戦いにくいけど、いいハンデだわ」


 相手との実力差を実感する。その辺の野生動物なら十匹まとめてでも止めていられるが、目の前の相手は多少の動きづらさこそ感じているもののこちらを殺すくらい造作もなさそうである。


「殴り合いならこちらが有利だと思いますが」


「殴り合い? 男らしいのねぇ......望むところよぉ!」


 威勢こそ全く変わらないが動きが鈍っている。これなら僕でも殴りかかるくらいの余裕がある。


 腕を大きく振り被らせて、


「す・き・だ・ら・け」


 わかっている。だから魔法を使った衝撃波で()()()。反撃を狙う姿勢が若干崩れ、相手の方に隙ができる。


「あらぁ?」


 作った隙は逃さないように、振りかぶった勢いを乗せて拳を放つ。


「しぃッ!」


 しかし、放った右手はすんでのところでガッチリとした腕に防がれる。


「まだ、まだっ!」


 ここからは同じことの繰り返しだ、反撃を貰わないように慎重に、飽きられるほどに執拗に。見切られないように衝撃、火球、水球と使い分ける。


「ネタ切れかしらぁ?」


 刷り込ませろ......『大振りの援護の魔法』だと、『肩を小突く程度の魔法』だと!


 攻防の回数が片手を超える頃には完璧に防がれるようになった。そろそろ完全に捉えらさせる。


 そこが好機だ。


 ついに腕を大きく弾かれ、相手に反撃の隙を与えてしまう。


「ざぁんねん」


 狙われる場所にアタリはつけてある。ハズしたら負け、当てたとしても確実に勝ちとはならない、かなり危ない賭けだ。


 しかし、相手には疑問があるはずだ。


 四階から真っ逆さまに落ちてなぜ立つことができたのか。体の弱点とも言える鳩尾(みぞおち)を撃ち抜いたのになぜ一瞬で反撃に転じられたのか。


「破ッ!!!」


「どれだけ速くても、わかっていれば......」


 顔面やや下、恐らくアゴを狙った打撃が飛んでくる。ひとまず賭けには勝った。


 体を打っても効果がないなら顔を狙うよな? そうなるように受け答えしたよ。魔法なら思考させなければ打たれないから。


 飛んでくる高速の拳を見切り、もう一度大振りの構えをとる。


「その言葉、そのままお返しするわぁ」


 こっちは体だけ使ってても勝てないから、頭をしっかりと使わせてもらう。


 思考が白熱する一瞬の攻防で、何度もこの攻撃を凌いできましたよね? 『魔法で小突いて、大ぶりを狙う』と。


 隙とも言いきれない、ほんの少しの甘さ。今までの魔法なら簡単に防御できる程の、裏を返せばその威力の魔法に最適化された防御。


 だから鳩尾(みぞおち)に全力で。


「さっきの衝撃、お返しします!!」


「おぐっ」


 恐らく想定していなかったであろう威力の魔法で鳩尾には返した。初めて余裕が消え、片膝を着く。


「奥の手ってやつねェ......!」


 鳩尾には返した、ならば次は後頭部。こっちは骨も神経もぶち切られているのだ、それ相応の反撃はさせてもらう。


「はぁぁっ!!」


 隙だらけの後頭部に勢いの乗った回し蹴りを放つ。



「でもぉ、ア・タ・シ・も」



 しかし、まるで効いていないかのように振り向き足首を掴まれ回し蹴りの勢いのままに振り回され、世界が高速で回り出す。世界の回転が治まったのは地面に叩きつけられた後のことだった。


「......」


「本気、隠してたのよぉ」


 たった一撃、されど一撃、完全に脳が揺さぶられ意識さえも落ちかける。魔法も完全に解除してしまった。


「オトコにしてあげるわぁ、連れていくわねぇ」


「......」


 辛うじて意識は保っているが、喋ることすらできない。なされるがままに担いで持っていかれるだけだ。死なないとは思うが、どうされるのか......。








「「「お帰りなさいませ、姐さんッッ!!」」」


「はい、ただいまぁ」


 連れてこられたのは研究棟の一室、そう言えば新入生争奪戦だったことを思い出す。いきなり殺されかけたおかげですっかり忘れていた。


「これからよろしくねぇ、お名前はなんて言うのかしらぁ?」


「レパッセです、あなたは?」


 ここに来る途中でどうにか喋れるまでは回復した。簡単に名乗ってから相手の名前を聞く。


「姐さんと呼んでねぇ」


「は?」


「気を許した相手以外には名前を明かさないのよ、だから姐さんと呼んでねぇ」


 訳が分からないな。名前不詳で女口調、周りに姐さんと呼ばせる筋骨隆々男に殺されかけたという事実にげんなりする。


 命の保証はあるようなので、半ば気絶する形で眠りについた。再び目が覚めた時、同じ光景が広がっているようなら現実だと認めよう......。

余談ですが、この後医務室で丸一日集中治療を受けました。


今回も読んでいただきありがとうございました! 次回も楽しみにしていただけるとありがたいです!

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