5部 入会?? エン
「ほえぇ!」
突然の煙幕が広がり、視界が黒一色に染まる。
「全員散って! 逃げろ!!」
レパっセさんの声が煙の中から響く。
「はわわ......!」
と、とにかく逃げなくては! でも、どっちに行けばいいんだろう? 右も左もわかんないし!
「とりあえず、こっちかな?」
当てずっぽうでもじっとしているよりはいいだろう。せっかくリリィさんが稼いでくれた時間を無駄にはできない!
そう思って駆け出そうとした時だった。
「あてっ!」
盛大にずっこけた。盛大すぎて膝とか打つこともなくお腹で廊下を滑った。一体何に足を取られてしまったのか?
「に、逃がさないっスよー!」
振り返ったところにあったのは、瓶底メガネのかかった顔。転げてしまった私の顔と同じくらいの高さにあるぅ!!
「な、生首ぃ!!」
振り返るんじゃなかった! とっても後悔しながら回れ右して一目散に駆け出す。
「待つっスー!!」
おおお、追いかけてきてる! どうやって?!
「生首が高くなってるぅ!!!」
振り返るんじゃなかった! さっきので学ばなかったの私!? 見間違いではなかったら、立ち上がった普通の人くらいの位置には首があった!
「ぎゃぁぁぁ!!」
足首をなにかに掴まれたっ......! 冷たい金属質のものが足首にぃっー!
「美少女獲得っス! 何がなんでも絶対に離さないっスよー!」
「あっ......」
そう思った時には、空き教室に引きずり込まれていた。
「あいたたた......」
引きずり込まれてしまったのは多分空き部屋。足を持って引きずり込まれてしまったので体勢が横になって、下から除く形になっているが、部屋にあるのはいくつかの椅子と机のみだ。
机と椅子のみ......?
「あれ? 確かに人が......んぐっ!」
辺りを見回していると、急に縛られてしまった! 縄がひとりでに動いてるぅぅ!!
「ちょちょっとお話だけでもっス!」
私知ってる! こういうセリフ言う人って最終的には絶対タダで帰してくれないんだぁ......。だってお話だけなら縛る必要ないもん。ドジ踏んじゃったなぁ。
「お話だけなら......というかどこから?」
ここで断ればどんな目に合わされるか分からないのでとりあえず承諾しておく。というかもう拒否権とかないよぅ......。
「ああそうそう、ウチの自信作っス!」
言うと同時に再び生首が目の前に現れる。次いで肩、胸と次第に全身があらわになる。
黒髪で少しそばかすがあって、瓶底メガネの奥は見通せないが、自分なんかよりもよっぽど可愛らしい女の人だった。
「自信作ってことは、魔法具ですか?」
「そうっスそうっス!! 開発には血と汗と涙と大量の努力が詰まってるっス。しかも今だけ一点物!」
話題の振り方を間違えたかも、そう思った時には既に遅かった。
その他、試作品を他の研究会の人に壊されたこと、次の試作品は外し方がわからず三日三晩誰にも気付かれなかったこと、うんぬんかんぬん、くどくど、などなど。半ば信じられないような実体験とともに、溢れんばかりの愛を語り尽くしてくれた。
「なんだか、いいですね」
自分にはそこまで夢中になれる物がなかった。だから、ちょっと羨ましく思えてしまった。
っていけないいけない、これじゃ相手の思うツボだ。でも......。
「ふへへ、自分がいいと思えたら、きっと大丈夫っスよ」
とても楽しそうだし、ここに決めてもいいかも。
「と、とりあえず、見学って言うのは......ダメですかね?」
「お茶も出しますから、おしゃべりしながらでもどうっスか?」
とりあえず移動することにした。時折聞こえてくる爆発音とかオカマさんっぽい叫びがちょっと怖かったけど、それ以上の期待だった。
「どうっスか? どうっスか?」
特に他の人と出会うことはなく、研究棟の一番端。『魔導具研究会』と手書きで書かれた札の掛かっている部屋に案内された。
床に広がっていたのは、大量の道具と作りかけっぽいもの、奥には完成したであろうものの空間がある。
「ワクワクしないっスか?」
確かに、かっこいい道具が沢山ある。
「入りたくなったっスか?」
確かに、とても入りたくなった。
「その前に......」
「はい? なんっスか?」
この乱雑な置き方は許せない。収納とか整理整頓とか、そんな概念すら感じさせないこの部屋には怒りさえ感じてしまう。
「お片付け、です!」
「えっ......」
とてもじゃないが女の子の出入りしていた部屋とは思えないし、こんな部屋にはこれから出入りさせない。目の前の可愛らしい女の子は『お片付け』という単語にすぐに反応した。
「そういうのは部外者は......」
「じゃあ入ります!! はい!! お片付けしますよ!!」
「ええぇぇ」
逃げようとしたけどそうはさせない。
こういうのは部屋を綺麗にするのが目的じゃない。部屋を綺麗に保つ習慣を付けさせるのが一番大切なのだ。
「ひ、ヒトが違うっスー!!」
「まずは荷物を全部外に出してください!」
「ひぃーっ!」
手当り次第、道具を傷つけないように外に運び出していく。この人も文句を言いながらも魔法と自力で荷物を動かす。魔法を使っても体があまり動かず、効率は私と変わらない。
そう言えばまだ名前を聞いてもいないし、名乗ってもいなかった。後できちんと自己紹介しなくては。
あらかた片付け終わると、人が数人座ってくつろげるくらいの場所は確保できるようになった。床に引いてあった絨毯は
「やっとこの子の出番っス......」
そう言って取り出したのは大人の頭くらいの大きさの機械だった。手際よくお茶の葉とお水を入れていく。
「ちょーっと魔法をかけると......」
手をかざすとお湯が沸き、あっという間にお茶ができてしまった。手元を見ずに、できたお茶を注いでいく。
「すごいですね......」
「そうっスよね! 我ながら便利なものを作ったと思うっス!」
さっきの調子ですごい勢いで語りだしそうな雰囲気だったので一度制止してから喋り始める。
「さっきは勢いで言ってしまいましたけど、改めてここに入りたいと思います」
「ホントっスか?!」
やっぱり見てみて楽しそうだったのと......部屋をこのままにはしておけないっていうのが最終的に背中を押した。
「エンと言います! 不束者ですがよろしくお願いいします!」
「ふへへ、アリス・クードナっス!」
アリスさん......すっごい可愛い名前だ。
「他の人はいつ来ますかね?」
他の人にも挨拶しておかなきゃいけないと思ってあまり考えずに発言してしまったが......
「あ......っスー」
「え、あ、えーっと」
どうやら最後の最後で地雷を踏み抜いてしまったらしい。アリスさんが灰になっていくのがわかる。
必死に私を捕獲しようとしていたのとか、部屋が汚いのとか、もしかして一人しかいなかったからだったのぉ!?
「改めてよろしくっス!!」
「は、はい!」
即座に蓋をして固い握手を交わした!! 地雷があるなら先に言っておいてほしかった!
ふえぇ!!!
今回も読んでいただきありがとうございました! 次回も楽しみにしていただけるとありがたいです!
この調子でレパッセとリリィちゃんもやります! お楽しみに!




